Repeated transarterial chemoembolization with epirubicin‑loaded superabsorbent polymer microspheres vs. conventional transarterial chemoembolization for hepatocellular carcinoma
概要
1. 序論
切除不能肝細胞癌に対する治療として,肝動脈化学塞栓療法(Transcatheter Arterial Chemoembolization; TACE)が標準治療の一つとして現在位置付けられている.TACEに使用する塞栓剤についてはさまざまな議論があり,標準的治療が確立していない.本邦ではリピオドールとゼラチンスポンジを用いたConventional TACE(C-TACE)が主流であるが,欧米では樹脂を素材とした球状塞栓物質(マイクロスフィア)が使用されるようになり,マイクロスフィアの中でもディーシービーズを使用したDEB-TACE,もしくは,へパスフィア(superabsorbent polymer microsphere; SAP)を使用したSAP-TACEが標準的治療となっている.本邦で以前から行われているC-TACEと,DEB-TACE,もしくはSAP-TACEの使い分けは確立していない.DEB-TACEとC-TACEのランダム化比較試験は行われており,同等の成績が得られている(Golfieri,2014;Lammeretal,2010).しかしながら,SAP-TACEとC-TACEの比較試験は少なく,どちらを選択して治療を行うか臨床的疑問の一つとされている.TACE治療が困難となり,肝臓癌が進行期に進展すると,治療の選択肢は全身化学療法へ移行するが,全身化学療法開始時の肝機能は予後を反映することが知られている.Hiraoka et al.(2017)およびArizumi et al.(2017)は,C-TACEを繰り返し行うことにより肝機能が徐々に悪化することを報告したが,SAP-TACEを繰り返すことによる肝機能の推移はこれまで報告されていない.
本研究においては,C-TACEとSAP-TACEの治療成績の比較を行うともに,両治療の肝機能の推移を比較することを目的として検討を行った.
2. 実験材料と方法
2011年1月から2016年8月の間に神奈川県立がんセンターで切除不能肝細胞癌に対して初回のTACEを行った症例を対象とした.本研究のプロトコールは神奈川県立がんセンターの研究倫理審査委員会で承認された(承認番号:2020疫-50).2011年1月から2014年4月にかけてはC-TACEを実施し、以降はSAP-TACEを行っており、治療経過中に塞栓材の変更は行わず治療を継続した.両群の全生存期間(overall survival; OS),無増悪生存期間(progression-free survival; PFS),生存に寄与する因子の検討,後治療の実施率,肝機能の推移の比較を行った.肝機能の推移については治療開始前,3サイクル,5サイクルのTACE実施後のChild-Pughscore,ALBI scoreを評価した.
3. 結果
本研究には155例の症例が登録された.C-TACE群は71例,SAP-TACE群は84例であった.患者背景の比較を行うと,前治療の有無に有意差を認めたものの,他の項目では両群間で有意差を認めなかった.OSの中央値はC-TACE群,SAP-TACE群でそれぞれ26か月,28か月であり,統計学的に有意差を認めなかった(P=0.289),1年,2年,3年生存率はC-TACE群で74%,50%,35%であり,SAP-TACE群で75%,60%,39%であった.生存期間に寄与する因子として多変量解析では,年齢70歳未満,Child-Pugh A,AFP400ng/ml未満,DCP1000mAU/ml未満が抽出された.塞栓材の選択は抽出されなかった.SAP-TACE群ではTACE終了後,全身化学療法を行った割合が,C-TACE群より有意に多かった(P=0.04).肝機能の推移は,C-TACE群では治療前と3サイクル後,治療前と5サイクル後を比較すると有意に増悪を認めたのに対して,SAP-TACE群では治療前と3サイクル後,治療前と5サイクル後において,いずれも有意な増悪を認めなかった.
4. 考察
我々は以前にC-TACEとSAP-TACEとの短期治療効果を比較しており,有意差は認めないものの,C-TACEの奏効率はやや良好な結果であった(Morimoto, 2017).C-TACEの奏効率が高いのは本邦特有の技術によるものと推測されるが,今回の研究ではOS,PFSに差を認めなかった.肝機能の推移については,C-TACE群で増悪を認めたのに対して,SAP-TACE群では増悪を認めなかった.TACE後の治療としては,全身化学療法もしくは,肝動注療法が適応となるが,いずれも治療開始時の肝機能が重要な予後規定因子となる.ここ数年で全身化学療法の選択肢が飛躍的に増えた現状では,肝機能を温存してTACE治療を終える意義が極めて重要視されている.TACE中止後の治療がOSに影響を与えた可能性はあるが,SAP-TACEは良好な治療効果を得る一方で,肝機能を保ちながら治療継続することが可能であり,有効な治療選択肢と考える.