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エライジン酸が高比重リポ蛋白のコレステロール取り込み能へ及ぼす影響の検討

飯野, 琢也 神戸大学

2023.03.25

概要

Kobe University Repository : Kernel
PDF issue: 2024-05-02

Effects of Elaidic Acid on HDL Cholesterol
Uptake Capacity

飯野, 琢也
(Degree)
博士(医学)

(Date of Degree)
2023-03-25

(Resource Type)
doctoral thesis

(Report Number)
甲第8502号

(URL)
https://hdl.handle.net/20.500.14094/0100482250
※ 当コンテンツは神戸大学の学術成果です。無断複製・不正使用等を禁じます。著作権法で認められている範囲内で、適切にご利用ください。

学位論文の内容要旨

Effects of Elaidic Acid on HDL Cholesterol Uptake Capacity
エライジン酸が高比重リポ蛋白のコレステロール取り込み能へ及
ぼす影響の検討

神戸大学大学院医学研究科医科学専攻
循環器内科学分野
(指導教員:平田健一教授)

飯野 琢也

背景)
高比重リポ蛋白コレステロール(HDL-C)の低下は心血管病のリスクである
ものの、高ければよいわけではなく、超高値ではむしろリスクが上昇すると
の報告もある。一方、HDL は末梢組織からコレステロールを回収し、肝臓に転
送して排泄するコレステロール逆転送に関わっているが、その最初のステッ
プを反映したコレステロール引き抜き能が HDL-C よりも心血管病のリスク層
別化に有用であるとの報告が相次いでいる。しかし、その評価には細胞やア
イソトープが必要であり、また手技が煩雑であることから、臨床応用は困難
である。そこで我々は HDL 機能の新たな評価系として in vitro で HDL に取り
込まれた標識コレステロールを検出することを原理とするコレステロール取
り込み能(Cholesterol uptake capacity; CUC)を提唱し、最近、自動ハイ
スループット無細胞アッセイ系を確立した。これまでに本指標が冠動脈疾患
の二次予防におけるリスク層別化に有用であることを明らかにしてきたが、
CUC の制御機構は依然として不明であった。先行研究では、アシル基に多価不
飽和脂肪酸を含むリン脂質(Phospholipid; PL)は HDL に組み込まれると HDL
表面の流動性を高め HDL のコレステロール引き抜き能力を向上させることが
報告されており、PL が含有するアシル基の種類が HDL 機能に影響を及ぼすこ
とが示唆されている。トランス脂肪酸(Trans fatty acids; TFA)はトラン
ス構造の不飽和二重結合を少なくとも 1 つ持つ不飽和脂肪酸で、摂取により
心血管疾患のリスクが上昇することが明らかにされている。先行研究におい
て、経口摂取されたエライジン酸などの TFA は血漿中の PL に取り込まれるこ
と、また TFA を含有する PL は脂質膜の流動性を低下させることが報告されて
いる。PL が HDL の主要な脂質成分であることを考慮すると、これらの結果は
TFA が HDL の PL(HDL-PL)に取り込まれるとその機能に影響を与える可能性を
示していると考えられる。しかしながら CUC と TFA の関係については未だ調
べられていない。
目的)
食品中の主たる TFA であるエライジン酸が CUC に与える影響を明らかにす
る。
方法)
2015 年 6 月から 2019 年 2 月の間に神戸大学医学部付属病院で経皮的冠動
脈形成術 (Percutaneous coronary intervention: PCI) もしくは冠動脈造
影検査 (Coronary Angiography: CAG)を施行した 264 名の患者から採血し、
血清を凍結保存した。血清をポリエチレングリコール溶液と混合し、遠心分

離して apolipoprotein B(ApoB)含有リポタンパクを沈殿させ、上清を回収し
て ApoB 含有リポタンパク除去血清(ApoB 除去血清)とした。
CUC は研究用全自動イムノアッセイシステムである HI-1000TM システム
(Sysmex) を 用 い て 測 定 し た 。 希 釈 し た ApoB 除 去 血 清 に Biotin-PEG7cholesterol を加えてコレステロール取込み反応を行った。磁性粒子にコー
トした抗 apolipoprotein A1(ApoA1)マウスモノクローナル抗体を用いて HDL
を捕捉し、アルカリホスファターゼ結合ストレプトアビジンを加えた。化学
発光基質である CDP-Star を加え、化学発光を測定した。
HDL-PL 中のエライジン酸は、内部標準物質として 1,2-dinonadecanoyl-snglycero-3-phosphocholine を ApoB 除去血清に添加した後にリン脂質画分を
抽出し、ガスクロマトグラフィー質量分析計 (gas chromatography-mass
spectrometry: GC-MS)により測定した。
再構成 HDL は 1-palmitoyl-2-oleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(POPC)、
1,2-dioleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(DOPC) あ る い は 1,2dielaidoyl-sn-glycero-3-phosphocholine (Elaidic acid-PC)をコレステロ
ールおよび ApoA1 と 30:2:1 のモル比で混合して調製した。
Lecithin-Cholesterol-Acyltransferase (LCAT)依存的なコレステロー
ルのエステル化は、BODIPY 標識コレステロールを含む再構成 HDL を調製し、
リコンビナント LCAT と 37 ℃で 10–90 分反応させた後に脂質画分を抽出し
て薄層クロマトグラフィーでエステル化された BODIPY 標識コレステロール
を蛍光検出することで評価した。
結果)
血清を用いて CUC の評価および HDL-PL の測定を行い両者の相関性を検討し
た結果、CUC は HDL-PL 量と正の相関を示すことが明らかとなった。また HDL
の主要な構成タンパク質である ApoA1 量も CUC と正の相関を示すものの、相
関係数は HDL-PL の方が高いことから HDL-PL が CUC の重要な規定因子である
ことが示唆された。一方で HDL-PL 中のエライジン酸の含有率は CUC と負の相
関を示したことから、エライジン酸は HDL-PL に組み込まれると CUC に対して
抑制的な効果がある可能性が示された。
上記のメカニズムの解明のために、ApoA1、コレステロール、およびシス構
造の脂肪酸であるオレイン酸をアシル基に有する POPC、DOPC あるいはトラン
ス構造のエライジン酸をアシル基に有する Elaidic acid-PC で構成された再
構成 HDL を調製し、各リン脂質が CUC に及ぼす影響を評価した。その結果、
HDL 中のコレステロールをエステル化して HDL の成熟に関わる酵素である
LCAT 存在下においてはいずれの再構成 HDL も CUC の亢進が認められたものの、

Elaidic acid-PC を含有する再構成 HDL ではその亢進効果が POPC、DOPC を含
有する再構成 HDL と比べると有意に低下することが明らかとなった。
次に、LCAT 依存的なコレステロールのエステル化に及ぼすエライジン酸の
影響を評価するために、ApoA1、BODIPY 標識コレステロール、および POPC、
あるいは Elaidic acid-PC で構成された再構成 HDL を調製し、リコンビナン
ト LCAT の添加に伴う BODIPY 標識コレステロールのエステル化を評価した結
果、いずれの再構成 HDL においてもリコンビナント LCAT 存在下においてイン
キュベーション時間依存的にコレステロールのエステル化が進行するものの、
Elaidic acid-PC を含有する再構成 HDL では POPC を含有する再構成 HDL と比
べると有意にエステル化効率が低下することが明らかとなった。上記結果よ
りエライジン酸は HDL-PL に組み込まれると LCAT 依存的な CUC の亢進および
コレステロールのエステル化を抑制することが示された。
考察)
本研究は HDL 機能の新規指標である CUC の制御における HDL-PL に含有され
るエライジン酸の影響の解明を目的としたものであり、HDL-PL のエライジン
酸含有率が CUC と逆相関の関係になることを明らかにした。先行研究におい
て、直鎖上の構造をしたエライジン酸がリン脂質に組み込まれると脂質膜の
流動性が低下することが示されている。そのためエライジン酸は HDL 表面の
流動性を低下させることでコレステロールの HDL への取込み効率に直接的に
影響を及ぼした可能性が考えられる。
さらに再構成 HDL を用いた検討において、エライジン酸が LCAT 依存的な
CUC の亢進を抑制すること、およびエライジン酸が LCAT 依存的なコレステロ
ールのエステル化効率を低下させることを見出した。コレステロールエステ
ルは疎水性が高いため HDL 表面から中心に移動し、その過程で HDL がコレス
テロールを取り込む能力を亢進させるとともに HDL を成熟させる。本研究結
果より、エライジン酸は HDL 表面の流動性の低下に加え、コレステロールの
エステル化を抑制することで HDL の成熟過程に伴うコレステロールの取込み
を阻害することが示唆された。一方、エライジン酸がエステル化効率を低下
させる機序については不明だが、コレステロールのエステル化反応において
は基質である HDL-PL が LCAT の活性中心に移動する必要があることを考慮す
ると、エライジン酸は HDL 表面の流動性を低下させ、LCAT にリン脂質を供給
する効率を低下させる可能性がある。
近年、動脈硬化の予防・管理戦略の新たな標的として HDL の機能制御に注
目が集まっている。先行研究において我々は多価不飽和脂肪酸であるエイコ
サペンタエン酸が HDL に組み込まれると HDL の細胞からコレステロールを引

き抜く能力が亢進することを見出した。また本研究ではエライジン酸が HDLPL に組み込まれると CUC に悪影響を及ぼすことを見出した。これらの結果よ
り HDL のリン脂質のアシル基を変化させることが HDL の機能改善に有効であ
ることが示唆される。また、リコンビナント LCAT および LCAT 活性化剤が動
脈硬化の抑制に有用であるとの報告もあるが、これらの薬剤も HDL 機能の改
善に有用である可能性がある。
結語)
TFA であるエライジン酸は HDL-PL に組み込まれると LCAT 依存的なコレス
テロールのエステル化効率を低下させ、HDL のコレステロール取り込み能を
減弱させる。

神戸 大 学 大 学 院 医 学 (系)研究科(博士課程)

論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨


受付番号

甲第 3
246号



飯野琢也

エライジン酸が高比重リポ蛋白のコレステロール取り込み能へ及ぼ
論文題目

す影密の検討

T
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主 査
審査委員

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副 査



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副 査

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1ce-exammer

丁暑淑汀こ

(要旨は 1
, 000字 ∼ 2, 000字程度)

HDLのコレステロール引き抜き能が心血管病 の リスク 層別化に有用であると の報告が相次いで
nv
i
t
r
oで HDLに取り込まれた標識コレステロ
いる。申請者らは HDL機能の新たな評価系として i

ールを検出することを原理とするコレステロール取り込み能 (
C
h
o
l
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s
t
e
r
ol
u
p
t
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k
ec
a
p
a
c
i
t
y
;CUC) を
開発している。今回、申請者はこの系を用いて食品中の主たる TFAであるエライジン酸が CUCに
与える影懇を検討した。
経皮的冠動脈形成術もしくは冠動脈造影検査を施行した 264名の患者から採血し、血清を凍結保
i
p
o
p
r
o
t
e
i
nB(ApoB)
含有リ
存した。血清をポリエチレングリコール溶液と混合し、遠心分離して apol

ポタンパクを沈殿させ、上清を回収して ApoB含有リポタンパク除去血清(ApoB除去血清)とした。
CUC は研究用全自動イムノアッセイシステムである HI-1000™ システムを用いて測定した 。希釈

した ApoB除去血清に Biotin-PEG7-ch
o
l
e
st
e
r
o
lを加えてコレステロール取込み反応 を行った。
血清を用いて CUCの評価お よび HDL-PLの測定を行い両者の相関性を検討した結果、 CUCは
HDL-PL塁と正の相関 を示すことが明らかとなった。また HDLの主要な構成タンパク質である
ApoAl量も CUCと正の相関を示すものの 、
相 関係数は HDL-PLの方が高いことから HDL-PLが CUC

の重要な規定 因子であることが示唆された。 一方で HDL-PL中のエライジン酸の含有率は CUCと
負の相関を示したことから 、エライ ジン酸は HDL-PLに組み込まれると CUCに対して抑制的な効
果がある可能性が示された。
このメ カニズムの解明のために、 ApoAl、コレステロール、およびシス構造の脂肪酸であるオレ
イン酸をアシル基に有する POPC、DOPCあるいはトランス構造のエライジン酸をアシル基に有す
る El
a
i
d
ica
c
i
d
PCで構成された再構成 HDLを調製し 、
各 リン脂質が CUCに及ぼす影評を評価し た

その結果、HDL中のコレステロールをエステル化 して HDLの成熟に関わる酵素である LCAT存在
下においてはいずれの再構成 HDLも CUCの冗進が認められたものの、 El
a
i
d
i
ca
c
i
d
P
Cを含有する
再構成 HDLではその冗進効果が POPC、DOPCを含有する再構成 HDLと比べると有意に低下す る
ことが明らかとなった。
次に、 LCAT依存的なコレステロールのエステル化に及ぼすエライジン酸の影器を評価するため
に、ApoAl、BODIPY標識コレステロール、および POPC、あるいは E
l
a
i
d
i
ca
ci
d-PCで構成された
再構成 HDLを調製し、リコンビナン トLCATの添加に伴う BODIPY標識コ レステロールのエステ
ル化 を評価した結果、いずれの再構成 HDLにおいてもリコンビナン トLCAT存在下においてイン
キュベーション時間依存的に コレステロールのエステル化が進行するものの、 E
l
a
i
d
i
ca
c
i
d
P
Cを含
有する再構成 HDLでは POPCを含有する再構成 HDLと比べると有意に エス テル化効率が低下する
ことが明らかとなった。上記結果よりエライジン酸は HDL-PLに組み込まれると LCAT依存的な
CUCの冗進およびコレステロールのエステル化を抑制することが示された 。

本研究は従来ほとんど検討が行われていなかった HDL機能の新規指標である CUCの制御 におけ
る HDL-PLに含有される エ ライジン酸の影響の解明を目的とし、 HDL
PLのエラ イ ジン酸含有率が
CUCと逆相関の関係になることを明らかにしたものとして、価値ある業績であると認める。よって

本研究者は、博土(
医学)
の学位を得る資格があるものと認められる。

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