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大学・研究所にある論文を検索できる 「カナグリフロジンによる肥満糖尿病モデルマウスの肝脂肪沈着改善効果におけるプロスタグランジンE2の役割」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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カナグリフロジンによる肥満糖尿病モデルマウスの肝脂肪沈着改善効果におけるプロスタグランジンE2の役割

芳野, 啓 神戸大学

2022.03.25

概要

1. 背景・目的
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、先進国において最も頻度の高い慢性肝疾患であり、世界人口の約1/4が罹患している。NAFLD は、肥満やインスリン抵抗性に伴う肝臓への過剰な脂肪蓄積を特徴としている。その重症度は、単純な脂肪沈着から炎症を伴う脂肪沈着、肝細胞風船様変性、線維化を伴う非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)まで多岐にわたる。NASH は、肝硬変や肝細胞癌に進行する可能性がある予後不良な疾患であるが、現在、NAFLD-NASH に対する特異的な薬剤はない。SGLT2(ナトリウム-グルコース共輸送体 2)阻害薬は、腎臓の近位尿細管における SGLT2 の機能を抑制することにより、グルコースの再吸収を阻害し、高血糖を改善する薬剤である。本薬剤は、2 型糖尿病に対する有効性が確立されていることに加え、臨床試験や動物実験において、NAFLD/NASH への有効性が示されている。SGLT2 阻害薬による肝脂肪の減少には体重減少が関連しているが、肝脂肪への影響は体重の変化とは無関係であるとする報告もあり、SGLT2 阻害薬の作用には体重減少以外のメカニズムが寄与している可能性が示唆されている。最近の研究では、代謝の制御において脂質メディエーターが重要な役割を担うことが報告されている。アラキドン酸から生成される炎症惹起性脂質メディエーターロイコトリエン B4(LTB4)は、マウスやヒトの全身性インスリン抵抗性の発現に重要な役割を果たしている。一方、同じくアラキドン酸から生成される炎症収束性脂質メディエーターであるリポキシン A4 は、マウスにおいて肥満誘導性の脂肪肝や慢性腎臓病を改善すると報告されている。しかしながら、SGLT2 阻害薬の肝脂肪沈着に対する効果に脂質メディエーターが関与するかどうかは不明である。今回、SGLT2 阻害薬カナグリフロジンを投与した肥満糖尿病 KKAy マウスの肝臓組織を対象に、液体クロマトグラフとタンデム質量分析計(LC-MS/MS)を用いた脂質メディエーター解析を行い、本薬剤による肝脂肪沈着改善のメカニズムを検証した。

2. 方法
7 週齢の雄KKAy マウスを 1 週間馴化させた後、2 群に分け、対照食または 0.01%カナグリフロジン添加食(カナグリフロジン群)を与えた。血液・血漿サンプルは、カナグリフロジンを 3 週間投与後に採取し、グルコース、トリグリセリド、遊離脂肪酸(FFA)、コレステロール、およびインスリン測定をした。4 週間投与後、肝臓を単離し、液体クロマトグラフと質量分析とを組み合わせたLC-tandem MSにより脂質メディエーター解析を行った。肝組織学的評価は、ヘマトキシリン・エオジンおよびオイルレッド O 染色により行った。細胞実験は、C57BL/6J マウスから単離したした初代肝細胞を用いて行った。データは平均値±SEM で示し、両側 Student の t-test または Dunnett の多重比較検定で解析した。P 値が<0.05 の場合、統計的に有意とした。

3. 結果 KKAy マウスの血液パラメータ、体重、肝臓・脂肪重量に対するカナグリフロジンの効果
KKAy マウスへカナグリフロジン投与開始から 3 週間後の血糖値に関して、コントロール群 493.1±22.6mg/dl に対してカナグリフロジン群 218.9± 21.0mg/dl で有意に低下した。血漿インスリン濃度に有意差はなかった。コレステロールと FFA の血漿中濃度に有意差はなかったが、トリグリセリドの血漿中濃度はコントロール群 988.7±85.8mg/dl に対してカナグリフロジン群 484.1±56.9mg/dl で有意に低下した。体重および精巣周囲脂肪組織重量はカナグリフロジン投与開始後 4 週間までの観察期間中、有意差はなかった。肝臓重量はコントロール群に対してカナグリフロジン群で有意に低下した。このことか ら、肝臓の重量に対するカナグリフロジンの影響は、体重や脂肪重量に対する影響とは独立した効果であることが示唆された。

カナグリフロジンは KKAy マウスの肝脂肪を減少させる肝臓のヘマトキシリン・エオジンおよびオイルレッド O 染色において、コントロール群に対しカナグリフロジン群で脂肪沈着の顕著な改善が認められた。 KKAy マウスの肝臓の脂質メディエータープロファイルに対するカナグリフロジンの効果カナグリフロジンによる肝脂肪沈着改善メカニズムを解明するために、肝臓組織の LC-MS/MS を用いた脂質メディエーター解析を行った。KKAy マウスの肝臓では、コントロール群に対してカナグリフロジン群で PGE2 およびレゾルビン E3 が有意に増加し、PGD2 も増加傾向にあった。上記以外の脂質メディエーターやパスウェイマーカーには有意な差は認められなかった。

PGE2 はマウス初代肝細胞においてパルミチン酸による脂肪滴の蓄積を抑制するPGE2 の合成酵素である mPGES-1 を欠損するマウスにおいて、食事誘発性 NASH が悪化するという最近の研究結果から、PGE2 は NASH の病態を改善させる可能性が推測される。カナグリフロジンによる肝脂肪沈着の抑制に PGE2が関与する可能性を検討するため、マウス初代肝細胞において、パルミチン酸誘導性脂肪滴蓄積に対する PGE2 の効果を調べた。オイルレッド O 染色およびトリグリセリド含有量の測定において、PGE2 は濃度依存的に肝細胞内脂肪滴の蓄積を抑制することが明らかになった。これらの結果から、PGE2 はカナグリフロジンによる肝脂肪沈着の改善に重要な役割を果たしていると考えられた。

4. 考察
KKAy マウスへのカナグリフロジン投与により、高血糖および高トリグリセリド血症が顕著に改善することが示された。従来の臨床試験や動物実験の結果と同様に、カナグリフロジンは肝臓への脂肪沈着を抑制した。SGLT2 阻害薬による体重または脂肪重量の減少は、肝脂肪量の減少と関連していると考えられているが、本研究においてカナグリフロジン投与による肝脂肪沈着の顕著な改善は、体重あるいは脂肪重量の減少を伴わなかった。このことから、SGLT2阻害薬による肝脂肪蓄積の減少は、体重および脂肪重量とは無関係である可能性が示唆された。

SGLT2 阻害薬による肝脂肪量改善のメカニズムを解明するために、KKAy マウスの肝臓組織の脂質メディエーター解析を行い、PGE2 が、カナグリフロジンの投与によって変化することが明らかになった。さらに、マウスの初代肝細胞を用いた解析において、PGE2 が脂肪滴の蓄積を抑制することが示された。以上の結果から、カナグリフロジンは PGE2 を介して肝脂肪沈着を改善する可能性が示唆された。PGE2 は、シクロオキシゲナーゼと PGE シンターゼが触媒する反応により、アラキドン酸から生成される。しかし、KKAy マウスの肝臓において、シクロオキシゲナーゼや PGE シンターゼの酵素発現はカナグリフロジン投与により変化が見られなかった。したがって、カナグリフロジンによって誘導される PGE2 の肝内濃度の増加は、PGE2 の生合成に関連する酵素の発現増加に起因するものではないと考えられる。カナグリフロジンがこれらの酵素の活性や PGE2 の分解に関わる酵素の発現・活性に影響を与えるかどうかについては、さらなる研究が必要である。また、カナグリフロジンの投与により蓄積される PGE2 の供給源が肝臓のどの細胞であるのかも不明である。SGLT2 は腎臓の近位尿細管にのみ発現し、肝臓ではあまり発現しないと考えられているが、今回観察された PGE2 の増加は、カナグリフロジンが肝細胞や肝臓の他の細胞に直接作用したものなのか、それともグルコース、インスリン、グルカゴンの循環濃度に影響を及ぼすような代謝変化に起因する二次的な作用なのかを調べることが重要である。

PGE2 の受容体としては、EP1、EP2、EP3、EP4 の 4 つの G タンパク質共役型受容体が同定されており、各々異なる細胞内セカンドメッセンジャーを標的とすることがわかっている。EP1 が活性化されると細胞内の Ca2+濃度が上昇し、 EP2 と EP4 は Gs に連結して細胞内の cAMP 濃度を上昇させ、EP3 は Gi に連結して細胞内の cAMP 濃度を低下させる。それぞれの受容体に対するアゴニストやアンタゴニストを用いた研究により、PGE2 が肝細胞の脂質沈着を抑制する効果をどの受容体が担っているのかが明らかになると考えられる。

SGLT2 阻害薬は、NAFLD-NASH に対して治療効果があることが示唆されているが、その効果が単に肝脂肪沈着の改善によるものなのか、あるいは SGLT2 阻害薬が炎症や線維化に対して効果を持つのかは不明である。PGE 合成酵素である mPGES-1 を欠損したマウスでは、食事誘発性 NASH モデルにおいて肝臓の炎症が悪化するという最近の知見は、PGE2 が NASH の炎症を予防する効果があることを示唆している。SGLT2 阻害薬によって制御される脂質メディエーターの疾患病態との関連性を解明し、その作用機序を明らかにすることは、NAFLD-NASH に対する新たな治療薬の開発の基盤となる可能性がある。

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