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大学・研究所にある論文を検索できる 「熟成ニンニク抽出液の揮発成分に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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熟成ニンニク抽出液の揮発成分に関する研究

阿部 和希 東京農業大学

2022.09.01

概要

熟成ニンニク抽出液(AGE)は,ニンニクを10か月以上熟成して得られる素材で,日本においては60年以上前より医薬品素材として使用されている。ニンニクを熟成することで,薬理効果が向上するといわれており,AGEでは従来の研究によって高い抗酸化作用や抗癌作用のあることが明らかとなっている。活性寄与成分として注目されるのは不揮発成分であるが,一方でニンニク製品はその香気特性や揮発成分の機能性は無視することはできない。それにも関わらず,AGEの揮発成分を言及した研究はこれまで皆無である。そこで本論文は,AGE揮発成分の香りおよび生物活性の両視点から,その有用性に関して解析した。

 第1章では,官能評価と機器分析を組み合わせたセンソミクスアプローチによって生ニンニクとAGEの香気特性の解析をした。官能評価の結果から,AGEの香りは生ニンニクで感じられるの刺激臭が大きく減少し,“シーズニング”,“酸”,“メタリック”,および“キャラメル”といった香調が増加し,より複雑な香りへと変化していた。なお,この相違はヒトの脳血流変化においても観察され,生ニンニクの香りを嗅ぐことで,酸素化ヘモグロビンが増加(覚醒作用)するのに対し,AGEのそれは酸素化ヘモグロビンの増減に影響は及ぼさなかった。次に,AGEの香気成分を高真空蒸留法(SAFE法)により抽出し,aroma extraction dilution analysis(AEDA)によって重要香気成分をスクリーニングした。その後,定量分析,嗅覚検知閾値の測定を行うことでAGEの重要香気成分として,odor active value(OAV)≥1の25成分を特定した。スルフィド類のほか,生ニンニクにはほとんど含有されないフェノール類,エチルエステル類,および含窒素化合物などがAGEの重要香気成分として特定された。なお,AGEでは生ニンニクの主要な香気成分であるチオスルフィネート類は検出されなかった。以上の結果から,AGEでは熟成過程でチオスルフィネートの分解,エステル化反応,フェノール類の生成,メイラード反応などの化学反応によって,その複雑な香調が形成されていると示唆された。この研究結果をもとに,標準化合物を調合してAGE再構成香料を調製し,AGE香気との類似性を評価した。概ね香気は再現できたものの,AGE香気の特徴である”酸”の類似度が低かった。

 第2章では,AGEの”酸”の香調に寄与する成分の特定を試みた。香気成分を有機化学的に分画し,酸への寄与が示唆される6種類の不明成分を単離した。GC-MSおよびNMRによって構造解析を行い,その化学構造をcis/trans-2, 4-dimethyl-1, 3-dithiolane(1), cis/trans-2, 5-dimethyl-1, 4-dithiane(2),cis/trans-2, 6-dimethyl-1, 4-dithiane(3)と決定した。その絶対立体配置は,立体選択的に化学合成して得た標準化合物と,キラルカラムを用いたGC保持時間を比較することで決定し,AGEには(2S, 4R)-1,(2R, 4S)-1, (2S, 4S)-1, (2R, 4R)-1, (2S, 5S)-2,(2R, 5R)-2,trans-2,cis-3,(2S, 6S)-3,(2R, 6R)-3の立体異性体が含まれることが明らかとなった。これら10成分は,生ニンニクには存在しないことから,熟成により生成するAGE特有の成分であることが明らかとなった。新たに同定した成分の香気特性を評価した結果,立体配置によって香調・嗅覚検知閾値ともに大きく異なった。例えば,trans-2はマッシュルーム様の香りが感じられ,閾値が0.17g/Lと非常に強い香りを有するのに対し,類似構造を持つcis-3はゴム様の香りで閾値は9.9g/Lと約50倍高かった。そこで,これら10成分をAGE香気再構成香料に加え官能評価したところ,“酸”の強度はAGEのそれと同程度になった。以上,本章で新たに同定した香気成分はAGEの“酸”の香調に寄与する香気成分であることが確認された。

 第3章では,前章までに明らかにしたAGEの重要香気成分のうち,その骨格をなす最重要成分の特定を試みた。これには,分析結果をもとに再構成香料を調製し,構成成分より1成分を除外した際に感じられる香調変化を調べるオミッションテストを適用した。その結果,2-acetylthiazole,ethylbutanoate,2,(5or6)-dimethyl-1, 4-dithiane,diallyl trisulfide,5-methyl-2-thiophenecarboxaldehyde ,trimethyloxazole ,allyl methyl sulfide ,2,4-dimethyl-1,3-dithiolane,benzaldehydeがAGEの複合香気に影響を与えていることが確認された。なお,フェノール類は1種類の除外は香調に影響を及ぼさないものの,4種(eugenol, vanillin, 4-ethylphenol, 2-methoxyphenol)をまとめて除くと香調は大きく変化した。したがって,AGEの複合香気には必要な成分であることが確認された。一方で,ニンニクの特徴成分として知られている多くのスルフィド類は,AGEの香調に重要ではなかった。

 以上,本研究によりAGEの重要香気成分を特定することに成功した。

 第4章では,生ニンニクの熟成によって得られる新たな機能性を探るために新たな機能性を探るために,紫外線照射によって生じる皮膚線維芽細胞のダメージに対するAGEおよびその揮発成分の防御効果を解析した。20-100mJ/cm2のUV-B照射によって皮膚線維芽細胞数が約半数へ減少する。UV-B照射に加えて細胞培養液に生ニンニク抽出液を添加すると,生細胞数さらに減少した。一方,UV照射前に2時間,UV照射後に24時間AGEを添加した培養液で処理した細胞は,UV誘発細胞死が統計的有意(p<0.01)に抑制された。さらに,AGEを不揮発性画分と揮発性画分に分画し,それぞれのUV防御効果を評価したところ,不揮発成分の効果に加えて,揮発性画分の濃度依存的なUV防御効果が認められた。揮発成分は不揮発成分に比べるとその存在量は極僅かであるが,AGEのUV防御効果に寄与することが本研究により明らかとなった。次に,細胞傷害の指標として培養液へ放出されたLDHの活性を測定した。UV-B照射によって培養液中のLDH活性は増加したが,AGEまたはAGE揮発成分の処理により,LDH活性の増加が抑制された。AGEの揮発成分プロファイルをGC-MSで測定したところ,生ニンニクからは検出されないアルデヒド類,エステル類,含窒素化合物が多く検出された。このようなAGEの特徴成分がUV防御効果に寄与している可能性が考えられた。なお,AGE揮発成分のUV防御効果の一部は,MAPキナーゼの活性化制御による細胞のアポトーシス抑制と考えられた。

 本研究により,AGEの揮発成分は,生ニンニクとは大きく異なることが明らかとなった。香気特性として,生ニンニクの刺激臭および不快感が大きく減少しており,服用性の高い素材であることが示された。機能性の面からは,生ニンニクのような細胞毒性は認められず,UV照射に対する優れた防御効果が示された。熟成工程における様々な化学反応によって作り出されるAGEの揮発成分は,香りおよび機能性の両面から有用な素材であることが示唆された。

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