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大学・研究所にある論文を検索できる 「フレイルの多面的機序の解明に基づく市民主体型の健康増進・フレイル予防活動の開発と実践」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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フレイルの多面的機序の解明に基づく市民主体型の健康増進・フレイル予防活動の開発と実践

田中, 友規 東京大学 DOI:10.15083/0002004246

2022.06.22

概要

【背景】
 世界規模での人口高齢化が進むにつれて、健康寿命の延伸に向けた具体的な取り組みの開発と実践はより緊急性を増している。その背景にあって、フレイルが健康寿命の延伸に向けて取り組むべき老年医学的アウトカムとして着目されている。フレイルとは加齢に伴う予備能力の低下のため、様々なストレスに対する抵抗力・回復力が低下した状態であるが、不可逆的な生活機能障害に至る前段階である。フレイルの段階では身体的脆弱性、精神・心理的脆弱性、社会的脆弱性などの多面的な問題がフレイルへの悪循環(フレイルサイクル)を加速させ、急性かつ慢性的なストレスに対する抵抗力が低下し、生活機能障害や死亡などの負のアウトカムを招きやすいハイリスク状態とされる。よって、フレイル予防は、より高齢者個人へのアプローチを念頭においた介護予防の新たな手法であり、これまでの介護予防が主として対象として焦点をあててきた高齢者像よりも、さらに若年または健常な高齢者も含んでいる。フレイル予防を推進することで、高齢者個人がより早い時期から多面的な脆弱性に対する予防意識を高め、然るべき保健行動をとれるようになる可能性が期待できる。一方で、より脆弱性が亢進したハイリスク者への対策も包含している。したがって、フレイル予防はポピュレーションとハイリスク者への両側面のアプローチによる介護予防の手法として重要であり、具体的な方法の開発が待たれる。
 しかしながら、フレイルサイクルを加速させる多面的なフレイルの要素をいかに定義づけ、地域事業から臨床現場に至るまで一体的にどう対応検討は不十分である。特に、地域での実践を考慮すると、フレイルが重症化する以前からの然るべき介入・支援による可逆性あるいはリスクの軽減が見込める加速因子の同定が必要である。特に、身体面のフレイル(フィジカルフレイル)を呈する高齢者に対しては、いかに地域住民の中からスクリーニングし、より専門的な評価や医療・介護的な介入や見守りにつなげるか、その簡便な手法の開発が不可欠である。

【目的】
 本稿では先述した地域での多面的なフレイル対策を講じる上での課題解決を試みる。具体的には次の2つの研究課題を検証する。

【研究1】フレイルサイクルの可逆的または支援可能な加速因子の同定:フレイルの多面的機序(オーラルフレイル・ソーシャルフレイル)の解明
(1-1) 歯科・口腔機能から、フレイル表現型モデルの顕在化や、サルコペニアの発症・要介護認定の予測因子を同定、それらの重複をオーラルフレイルとした場合の介護リスク・予後を検証する
(1-2) 社会的機能低下や社会的に脆弱な状況から、要介護認定の予測因子を同定、それらの重複をソーシャルフレイルとした場合の介護リスク・予後を検証する

【研究2】骨格筋量減少・サルコペニアの簡易スクリーニング法の開発:地域でのフィジカルフレイル対策の効率化
(2-1) 自己スクリーニング法「指輪っかテスト」がサルコペニアの有病率や新規発症ならびに要介護認定や予後の予測因子になり得るかを検証する
(2-2) 安価で市販されている家庭用体組成計を用いて、高額な業務用体組成計の代替指標となり得るかを検証する

 本研究の成果により、地域市民が主体的となって実施可能な健康増進・フレイル予防活動を開発し、地域市民が主体となりながらも行政等の公的機関の下支えや医療のセーフティネットとの一体的な実践につなげることを目指した。

【方法】
 研究課題の達成に向けては、千葉県柏市在住高齢者(調査開始時に要介護認定者を除く)に対する前向きコホート研究(柏スタディ)のデータを用いて検証した。対象は2012年に無作為抽出された65歳以上地域在住高齢者の内、同年実施のベースライン調査に参加した2,044名(男女比1:1)の内、各研究の組み入れ基準を満たした者である。現時点で2017年までの最大5年間追跡した。

【結果】
研究1
(1-1)対象者2,011名を対象に多様な歯科・口腔機能16項目の内、縦断観察研究にて、多面的かつ包括的な歯科・口腔機能からフレイルサイクルの加速し得る6項目を同定した。歯科・口腔機能は形態学的な残存歯数や咀嚼機能のみならず、栄養状態や嚥下機能も反映する舌圧、コミュニケーション能力や経口摂取にも重要である口腔巧緻性など歯科・口腔の包括的機能であった。さらに、主観的な咀嚼機能の低下やむせといった些細な嚥下機能の低下など、主観的な評価も重要であった。これら6項目中3項目以上の重複をオーラルフレイルと定義した場合の該当者16%は、2年後のフレイルの顕在化や、サルコペニアの新規発症の調整ハザード比が統計学的有意に約2倍高く、45か月後の要介護新規認定、死亡の調整ハザード比も2倍を超えていた。
(1-2)フレイルの表現型モデルが顕在化していない高齢者1,797名を対象に、自立度の高い早期段階からのソーシャルフレイルを改めて問い直し、包括的に評価された社会的機能・状況16項目の内、7項目が特にフレイルではない高齢者においても独立した要介護新規認定の予測因子の傾向があることがわかった。本研究で選択されたソーシャルフレイルの7項目は「生活空間の狭まり・閉じこもり傾向」や「社会的サポートの受容の低さ」、「社会的孤立傾向」、そして社会的資源へのアクセスが困難な環境、経済的困窮といった「社会的脆弱な状況」から成り、可逆的あるいは支援可能な要素であるため具体的な対策を講じやすい。これら、7項目中3項目以上の重複をソーシャルフレイルと定義した場合の該当者9.8%は、5年後の要介護新規認定や死亡に対する調整ハザード比が有意に約2倍を超えていた。

研究2
(2-1)サルコペニアの簡便なスクリーニング法「指輪っかテスト」は両手の親指と人差し指で作った指輪っかと、自身の下腿周囲径を比較する手法であり、対象者1,904名では指輪っかで下腿周囲径を「囲めない」者と比べて、「ちょうど囲める」者ではサルコペニアの有症率や新規発症率が有意に高く、「隙間ができる」者ではサルコペニアの有症率や新規発症率に加えて、45か月後の要介護新規認定や死亡に対する調整ハザード比がそれぞれ1.96(P=.005)、3.16(P<.001)と高かった。
(2-2)柏スタディ2016年度調査の参加者935名を対象に、安価で市販されている家庭用体組成計を用いた場合に、骨格筋量の減少状態の高齢者が過少申告されることがわかった(家庭用体組成計31名(3.3%)に対し、業務用体組成計333名(36%))。本研究では新たに体組成計間の換算式を開発し、その差を軽減・骨格筋量の減少状態をスクリーニングし得ることを可能とした(換算式適応後家庭用体組成計286名(31%)に対し、業務用体組成計333名(36%)、Kappa係数=0.721;P<.001)。特に、四肢骨格筋量の減少状態である者でより一致性が高い傾向がみられた。

【結論】
 地域におけるフレイル対策を講じる上での課題を解決するため、研究1、研究2を実施した。結論として、フレイル対策ではオーラルフレイルやソーシャルフレイルを含めた多面的なフレイルに対するアプローチが重要であり、本研究で得られた要素は、フレイルサイクルの加速因子となり得ることから、然るべき介入や支援を施すことでフレイル予防・改善に寄与することが期待できる。さらに日常生活の中では気が付きにくい骨格筋量の減少やサルコペニアに対して「指輪っかテスト」や「家庭用体組成計」を用いることで人や場所を選ばずに簡易スクリーニングや定期的なチェックを可能とした。少子高齢化社会によりケアが必要な高齢者の絶対数の増加と医療・介護を担う人的資源が枯渇していく中で、社会性も含めた多面的なフレイルへの対策にいかに実現可能性をもたせるかが重要である。よって、本研究で明らかにした多面的なフレイル対策を、当事者である地域市民がいかに主体性をもって、産業、大学、行政等と連携しながら共に講じることができるかが重要である。そこで、本稿で得られた新たな知見・手法を盛り込んだ形で、市民が主体的に実践可能なフレイル予防プログラムの構築を目指し、市民主体型のフレイルチェックを開発した(東京大学高齢社会総合研究機構による)。フレイルチェックは、行政主体の養成研修を受けた市民がフレイルサポーターとなり、参加者の多面的なフレイルの危険性を口腔機能や社会参加状況も含めた多面的な視点からチェックし、良好な項目(青信号)や、特に注意が必要な項目(赤信号)を確認できるプログラムである。フレイルチェックでは高齢者の集いの場を含めた地域全体での多様な場にて実施可能であり、市民フレイルサポーターという人的資源の拡充と地域全体へのエンパワメント効果も期待できることから、地域全体への介入を包含している。以上より、本稿を「フレイルの多面的機序の解明に基づく市民主体型の健康増進・フレイル予防活動の開発と実践」とした。

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