農村地域におけるインバウンド観光の推進と観光関連主体の意識に関する研究

概要

博士論文要約
張

明軍

テーマ：農村地域におけるインバウンド観光の推進と観光関連主体の意識に関する研究

第 1 章 研究背景
この章では，インバウンド観光の現状を概観し，三大都市圏と農村地域における課題及び
政策についてまとめた。三大都市圏におけるインバウンド観光需要が急速に拡大している
と同時に，地域社会にもたらすインパクト（オーバーツーリズム）も注目されている。農村
地域について，訪日外国人観光客（以下，訪日客）のニーズ対応，地域振興の促進などの意
義から，農村地域における訪日客の受入への期待が寄せられていると同時に，地域内におい
て訪日客受入の体制づくりや受入ノウハウの蓄積などの課題が顕著化し，地域住民の意識
（期待，不安，満足度等）に対する継続的なアプローチが必要である。
第 2 章 既往研究
この章において，インバウンド観光（三大都市圏と農村地域）に関する既往研究の成果と
方向性を整理し，受入体制と住民意識や政策に関する既往研究の不足点を明確にした。これ
までインバウンド観光に関する研究（意義やインバウンドマーケティング等）では訪日客の
満足につながる地域住民の異文化理解に関する知見がまだ少なく，今後インバウンド観光
政策に関する研究を住民意識に基づく視点で，より深め，広げる必要がある。
第３章 研究対象
第３章においては，研究対象地として石川県能登町春蘭の里（滞在型受入を中心とする農
村地域），京都府伊根町（通過型受入を中心とする農村地域）の概要，これまでの訪日客の
受入の実態を示した。２つの対象地は，数年間亘り，積極的に訪日客の誘致・受入を実施し，
実績を上げている。この２地域を対象地とすることで，農村地域おけるインバウンド観光の
定着について，地域住民の意識に基づく受入体制の構築に資する知見を得られると期待す
る。
第 ４ 章 訪日客の持続的受入における事業者の体制と受入意識
この章において，滞在型受入を中心とする農村地域において訪日客の集団的受入を実施
する農家民宿群を取上げ，その仕組み，地域内外における役割，持続的な受入に向けた課題，
組織構成員である個人農家民宿の経営者の受入意識を明らかにし，渉外コーディネート組
織と各農家民宿で構成される農家民宿群が訪日客の持続的な受入に有効であると示した。
第 ５ 章 訪日客に対する地域住民意識に関する研究
第 5 章では，通過型受入を中心とする農村地域において，地域の一般住民に視点を置き，
訪日客に対する地域住民の意識の現状とその規定要因を把握するとともに，住民意識の側
面においてインバウンド観光の誘致による潜在的な影響を明らかにした。結果として，地域
住民の異文化受容意識が高ければ高いほど，訪日客への歓迎意識が強くなる。海外旅行など

の異文化接触経験や外国文化の学習により形成された地域住民の異文化受容意識が訪日客
への歓迎意識の形成を左右すると考えられる。
第 6 章 農村地域住民意識に関する施策の動向と課題
第 6 章は住民意識をめぐる農村地域自治体の施策の策定に視点を移し，インバウンド観
光施策と多文化共生施策を分析し，両分野の施策を網羅する計量的なアプローチ（テキスト
マイニング）を通じて，地域住民意識に関する施策の実態と課題を明らかにした。インバウ
ンド観光施策の中，地域住民の意識方面（特に，異文化受容意識）に関するアプローチが欠
けているため，地域住民の異文化受容意識などに関する施策の策定や関連施策との連携が
今後のインバウンド観光施策の課題として浮上している。
第 7 章 結 論
第 7 章において，第 4～6 章で得られた研究成果を基づいて「農村地域におけるインバウ
ンド観光の定着モデル」を構築した。このモデルを踏まえて，今後，農村地域におけるイン
バウンド観光の定着を目指して，観光関連事業者，地域住民，国や自治体に向けて提言を試
み，取り残された課題を整理した。 ...