Tracing location by applying Emerald luciferase in an early phase of murine endometriotic lesion formation
概要
令和 4年 2月
HERMAWAN WIBISONO
主
学位論文審査要旨
査
岡
田
太
副主査
原
田
省
同
香
月
康
宏
主論文
Tracing location by applying Emerald luciferase in an early phase of murine
endometriotic lesion formation
(マウス子宮内膜症病変の形成初期におけるエメラルドルシフェラーゼを応用した動態追
跡)
(著者:Hermawan Wibisono、中村和臣、谷口文紀、妹尾美砂子、森本佳世子、吉村祐貴、
原田省)
令和3年
Experimental Animals
DOI: 10.1538/expanim.21-0146
参考論文
1. Animal models for research on endometriosis
(子宮内膜症研究のための動物モデル)
(著者:谷口文紀、Hermawan Wibisono、Khine Yin Mon、原田省)
令和3年
Frontiers in Bioscience (Elite edition)
13巻
37頁~53頁
2. A case report of an accessory and cavitated uterine mass treated with total
laparoscopic hysterectomy
(腹腔鏡下子宮摘出術で治療したaccessory and cavitated uterine massの1例)
(著者:東幸弘、谷口文紀、Hermawan Wibisono、池淵愛、森山真亜子、原田省)
令和3年
Yonago Acta Medica
64巻
207頁~209頁
学
位
論
文
要
旨
Tracing location by applying Emerald luciferase in an early phase of murine
endometriotic lesion formation
(マウス子宮内膜症病変の形成初期におけるエメラルドルシフェラーゼを応用した
動態追跡)
子宮内膜症は、子宮内膜組織が本来あるべき子宮内腔とは異なる部位(主に腹腔)に発
育する疾患であり、疼痛や不妊などが主な症状である。薬物療法としては、低用量 OC (oral
contraceptives)や黄体ホルモン剤等により、疼痛や子宮内膜症病変の発育を緩和すること
が主流である。子宮内膜症の発症機序は、いまだ明らかではないが、腹腔内に経卵管性に
逆流した月経血中の子宮内膜組織が、生着し増殖する子宮内膜移植説が広く支持されてい
る。動物実験においては、サルや齧歯類において子宮内膜症実験モデルが作成されている
が、病変形成初期に焦点を当てた報告は少ない。本研究では、本症の発症機序の解明を目
的として、生物発光技術を応用した新たな子宮内膜症マウスモデルを構築し、病変形成初
期の異所性子宮内膜組織の動態に焦点を当て、非侵襲的かつ経時的な病変形成の観察条件
を検討した。
方
法
CAGプロモーターによって Emerald luciferase (ELuc)がドライブされ、全身が強力に発
光するトランスジェニック(TG)マウスを樹立した。このTGマウスをドナーとして、その子
宮細切片(子宮内膜)をレシピエントマウスの腹腔に移植することにより、子宮内膜症マ
ウスモデルを作製した。本モデルにおいて、移植した子宮内膜組織の動態を発光によって
正確に追跡するための最適な条件(エストロゲン投与量)を検討した。さらに、子宮内膜
移植直後(病変形成初期)における移植組織の動態を、非侵襲的かつ経時的に観察可能で
あるかを検証した。
結
果
子宮内膜症様病変は、大部分が膵臓、移植手術に由来する縫合部位、および脂肪組織の3
箇所に形成された。さらに、これらの病変形成を発光によって追跡可能であったものの、
その正確性は、エストラジオール17β(E2)の投与量に依存しており、0.2 µg/マウスより
も0.5 µg/マウスが適していた。非侵襲・経時的観察では、病変形成の極めて初期(内膜移
植直後)の段階において、膵臓と縫合部位周辺に発光が観察された。
考
察
E2は血管形成に関与していることが報告されている。E2が低濃度(0.2 µg/マウス)では、
移植した内膜周辺の血管形成作用が不十分となり、移植内膜は十分な栄養が得られず、バ
イアビリティが低下して、結果的に発光量が低下したと考えられる。また、非侵襲・経時
的な発光観察の結果、病変形成の極めて初期の段階において、移植内膜は膵臓や縫合部位
に留まり易いということがわかった。縫合部位への接着は、移植手術に起因する炎症作用
が関与していることが予想されるが、膵臓への接着についての詳細な機序は不明である。
ただし、膵臓の膵星細胞は、Transforming growth factor(TGF)-βによって活性化され、
コラーゲンなどの細胞外基質を産生することが報告されている。これらの細胞外基質は、
異所性内膜の接着の足場となり得る。加えて、TGF-βは子宮内膜症病変形成に関与してい
ることが報告されており、子宮内膜の膵臓への異所性接着における重要な手掛かりになる
と考えられる。
結
論
本研究では、全身で強力な発光を呈するCAG-ELuc-TGマウスを樹立し、これを用いた新た
な子宮内膜症マウスモデルを構築した。本モデルでは、ELucの発光を追跡することによっ
て非侵襲的かつ経時的な病変形成の観察が可能であり、その結果、移植された子宮内膜組
織は、発症のごく初期の段階で膵臓や縫合部位に定着しやすいことが明らかとなった。