リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「管内公営住宅における多頭飼育崩壊事例について」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

管内公営住宅における多頭飼育崩壊事例について

細江, 昭史 西垣, 明子 信州大学

2023.08.22

概要

Shinshu Journal of Public Health Vol. 18 No. 1, August 2023

   管内公営住宅における多頭飼育崩壊事例について
04-5
細江昭史、西垣明子(長野県木曽保健福祉事務所)
キーワード: 多頭飼育、独居老人

要旨:木曽保健所管内の公営住宅の住民から隣家の悪臭苦情を受け、現地調査を行ったところ、室内
に猫が 30 頭以上いることが判明した。最終的な頭数は成猫と仔猫あわせて 51 頭であった。飼い主は
単身の高齢者で体調を崩しており、飼育の継続は困難と考えられたため、猫の所有権を放棄してもら
った上で、役場・ボランティア・県関係機関に協力を要請し、猫の譲渡を行った。多頭飼育崩壊につ
いては、関係団体等と協力して取り組むことが重要であり、地域で対応を考えていく必要性を認識し
た。

A.情報の探知

改善は難しく、猫の頭数からも保健所単独での

 令和4年8月に木曽保健所管内公営住宅の住

対応は困難なことが予想されたため、役場、動

民から隣家の悪臭苦情を受け、役場担当者とと

物愛護ボランティア、県関係機関に協力を要請

もに保健所職員が現地確認を実施した。その際、

した。

飼い主の了解が得られず、室内を確認すること

 飼い主が猫の所有権を放棄することに同意し

ができなかったため、適正飼養、繁殖制限につ

たため、飼い主宅から猫を引き上げて、譲渡す

いて指導のみを行った。

る方針で進めることにし、関係機関に具体的な

 9月に同じ住民から再度悪臭苦情があり、保

協力について相談したところ、役場からは、取

健所と役場とで協議した結果、当該住宅に大人

り壊し予定の公営住宅を猫の一時保管場所とし

数で出向くことはせず、役場担当者のみで訪問

て提供可能で、猫の飼養も役場職員で協力可能、

し調査指導を行うこととした。

また、動物愛護ボランティアからは、猫の譲渡

 11 月に役場担当者が現地確認を行った際、飼

先探し、エサの寄付、不妊去勢手術の実施につ

い主の了解を得て室内を確認したところ、猫が

いて協力可能との回答があった。

30 頭以上いることが判明し、保健所に情報提供

 飼養されていた猫 51 頭のうち、健康状態不良

があったため、再度現地確認を行った。

だった 3 頭は不妊去勢手術前に、9 頭は術後譲渡

B.現場の状況

前に死亡したため、39 頭の譲渡先を探すことと

 2DK の室内のうち、6 畳と廊下で猫が飼養さ

なった。

れており、成猫 38 頭、仔猫 13 頭で計 51 頭を確

 当所の対応として、譲渡会を 2 回開催し 5 頭

認した。多くの猫は抱き上げ可能であり、人慣

を譲渡した。譲渡会の周知にあたっては、ボラ

れはしていたものの、その多くに皮膚疾患があ

ンティアと協力の上、管内の営業施設及び公的

る等、健康状態は良好とは言い難い状況であり、

施設にポスターを掲示するほか、役場公式 LINE

妊娠末期と思われる猫も複数確認された。猫用

に譲渡会情報の紹介を依頼するなどの周知を行

トイレは 3 か所確認できたが、糞が室内に落ち

った。加えて、他保健所の譲渡会にも参加し4

ていた。

頭を譲渡した。

 飼い主は一人暮らしの高齢者で、基礎疾患が

 県他機関からは、県内 5 保健所から収容及び

あり、経済的に困窮している状況であった。

譲渡協力の連絡があり、各所の状況を加味して

C.保健所等の対応

3保健所に 13 頭を依頼した。また、動物愛護セ

 現地確認の結果から、飼い自身による状況の

ンターに 9 頭を引き継いだ。
66

信州公衆衛生雑誌 Vol. 18 No. 1, August 2023

Shinshu Journal of Public Health Vol. 18 No. 1, August 2023

 さらに、ボランティアを通じて 8 頭の引き取

ア間の連携による周知(口コミ)が与えた影響

り協力があり、健康状態が比較的良好だった 39

は大きかった。

頭すべてを譲渡することができた。

 県関係機関との連携という観点では、当所犬

D.考察

舎での収容能力には限界があり、また管内人口

 本事例は、周囲との交流がない一人暮らしの

が少ないことから、譲渡会を開催しても多くの

高齢者が、猫についての知識がないまま飼い始

住民の参加が見込めないと判断し、他保健所と

めたことによって発生した事例であった。

動物愛護センターに収容と譲渡について協力を

 ペットについては、法律上「物品」として扱

依頼したところ、結果として、県内全体での協

われるため、飼い主が所有権を放棄しない場合、

力体制が得られ、多くの譲渡に繋がった。

動物愛護法では適正飼養の指導が限界である。今

 猫は年2回繁殖可能で、しかも交尾排卵のた

回は飼い主が所有権放棄に同意したことにより、

め不妊去勢手術を行わずに雌雄を一緒に飼育す

次の対応に繋がった。

ると簡単に増えてしまう。こういった猫の特性

 公営住宅はペットの飼養が禁止されていたが、

や、飼育問題をきっかけとして、高齢者の課題

飼い主が室内で飼育していたため、住宅を管理

が顕在化することについて、公営住宅を管理す

している役場の担当部局も苦情を受けてから探

る管内町村に対する周知を今後も行っていく必

知した状況であり、住民からの悪臭苦情の通報

要があると考える。

がなければ、発見がさらに遅れていた可能性が

 また、木曽管内は県内でも高齢化率が高い地

高い。飼育頭数が増えるほど対応は困難となる

域であり、このような事例への対応が今後も求

ため、町村やボランティア等からの情報に対し、

められると考えられることから、今後、多頭飼

迅速な対応が重要である。

育崩壊事例が発生した場合の対応等について地

 多頭飼育崩壊事例については、保健所単独で

域で検討し、常日頃からの協力体制を構築して

の対応は非常に困難と考えられる。情報を探知

いく必要性を認識した事例であった。

した段階で、町村やボランティア、福祉部局等

E.まとめ

にも協力を要請するとともに、動物愛護センタ

 木曽郡内において、単身高齢者の多頭飼育崩

ー等の県関係機関にも協力を要請し、状況の改

壊事例を経験したが、多くの関係団体の協力に

善を図る必要がある。

より、対応することが出来た。多頭飼育崩壊へ

 今回の事例では、猫の日々の世話、譲渡会の

の対応については、関係団体と協力して取り組

広報及び当日の運営などについて、役場の公営

むことが必要であることから、常日頃からの協

住宅部局中心に役場の積極的な協力が得られた。

力体制の構築が重要である。

特に、一時的な飼養場所の提供があったことで、

F.利益相反 

猫にとっての飼養環境の改善に加え、飼い主の

 利益相反なし。

住環境の改善にも繋がったと考えられた。一方

(謝辞)

で、今後の生活状況の改善等について福祉部局

 本事例解決のためにご協力いただいた役場職

への相談を勧めたが、本人は相談することを拒

員、動物愛護ボランティア、県他機関の職員の

否したため、役場内での情報共有と現担当者に

皆様に感謝申し上げます。

よる現況確認でフォローすることとなった。
 また、ボランティアの協力により、不妊去勢
手術やエサの確保等、行政だけでは対応が難し
い問題が解決され、譲渡についてもボランティ
67

信州公衆衛生雑誌 Vol. 18 No. ...

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る