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大学・研究所にある論文を検索できる 「抑制性シナプスにおけるプロテアーゼを介したシナプス接着分子Neuroligin 2切断の機能解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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抑制性シナプスにおけるプロテアーゼを介したシナプス接着分子Neuroligin 2切断の機能解析

木村, 美咲 東京大学 DOI:10.15083/0002005162

2022.06.22

概要

【序論】
 脳の神経細胞同士の接合部に局在するシナプス接着分子は、シナプス間の繋がりを精密に調整し神経回路の正しい形成や成熟に不可欠な分子である。様々なシナプス接着分子および関連分子をコードする遺伝子において、精神疾患に連鎖もしくは相関する変異が多数報告されていることから、疾患発症との関連が注目されている。シナプス接着分子を含むⅠ型膜タンパク質の多くは、プロテアーゼによるタンパク質切断を受け、その機能を調節することが知られている。特にこれまで、興奮性シナプスに局在する接着分子およびプロテアーゼにおいて、様々な研究がなされてきたが、抑制性シナプスに関連するプロテアーゼは報告されていない。加えて、抑制性シナプスの形成・維持・分解などの可塑性に関係する分子機構はほとんど明らかでない。
 本研究では、抑制性シナプスに特異的に局在するシナプス接着分子Neuroligin 2(NL2)に着目した。NL2は、統合失調症患や自閉症患者から複数の遺伝子変異が同定されていることから、精神疾患発症への関与が示唆されている。これまで当研究室において、NL2はプロテアーゼによる代謝制御を受けることを明らかにしてきた。そこで本研究では、プロテアーゼを介したNL2の代謝と抑制性シナプスとの機能連関解明を目的とし、研究を遂行した。

【方法・結果】
1. NL2切断酵素としてMT3-MMPを同定した
 これまでの検討から、NL2のタンパク質切断にメタロプロテアーゼが関与していることが見出され、その候補分子として膜結合型マトリックスメタロプロテアーゼ(MT-MMP)の一種であるMT3-MMPが関与していることが示唆されていた(当教室名尾洋亮博士論文)。
 そこで私は、NL2切断におけるMT3-MMPの関与を検証するため、初代培養神経細胞を用いてMT3-MMPをコードするMmp16mRNAに対するshRNAによるノックダウン(KD)を行った。その結果、Mmp16KDにより、培養上清中のsoluble NL2(sNL2)の有意な減少及び全長NL2の増加が認められた。さらに、in vivoにおけるMT3-MMPの関与を明らかにするため、Mmp16ノックアウト(KO)マウスを用いて生化学的解析を行った。その結果、Mmp16 KOマウス脳において、可溶画分中のsNL2の有意な減少及び不溶画分中のNL2の増加が認められ、Mmp16 KOマウス脳ではNL2切断が抑制されていることが明らかとなった(Fig.1)。以上より、MT3-MMPは脳内においてNL2を基質とすると考えられた。

2. MT3-MMPは抑制性シナプスの形成・維持に関与する
 NL2はポストシナプスに局在し、抑制性足場タンパク質Gephyrinと結合しGABAA受容体等とクラスタリングしており、抑制性シナプス形成に重要な分子であると考えられている。そこで、MT3-MMPが抑制性シナプスに与える影響を明らかにするため、Mmp16 KOマウス大脳組織を用いた生化学的解析により検討した。その結果、Mmp16 KOマウスにおいてGephyrinや抑制性プレシナプスマーカー分子VGATの発現量が有意に増加していた(Fig. 2A、B)。また、Mmp16 KD培養神経細胞においても抑制性シナプス密度の増加が認められた(Fig.2C、D)。以上の結果から、MT3-MMPを介したNL2切断は、抑制性シナプスの形成・維持に関与することが示唆された。

3. GABAA受容体刺激によりMT3-MMPによるNL2切断が増加し抑制性シナプスが減少する
 これまで、興奮性シナプスに局在する接着分子NL1の切断が、NMDA受容体刺激により亢進し、スパインを不安定化することが知られている。一方、GABAA受容体アゴニストを添加すると、GABAA受容体やGephyrin分子が減少することが報告されていたが、そのメカニズムについては不明であった。上記の結果から、抑制性刺激に応じてMT3-MMPによるNL2切断が変化し、抑制性シナプス数を調節している可能性を考えた。
 そこで、初代培養神経細胞に、GABAA受容体アゴニストmuscimolを処理したところ、NL2切断が有意に増加し、広範なMMP阻害剤であるGM6001との同時処理により、NL2切断に対するmuscimolの効果が抑制された(Fig. 3A、B)。さらにこのとき、抑制性シナプス密度が減少すること、この影響はGM6001の共投与により抑制されることが認められた(Fig. 3C、D)。さらにこの現象にMT3-MMPが関与しているかを検証するため、Mmp16をKDした初代培養神経細胞に対してmuscimol刺激を行い検証した。その結果、Mmp16KD培養神経細胞では、NL2切断に変化は見られず、抑制性シナプス密度に変化も認められなかった。以上より、GABAA受容体刺激によってMT3-MMPを介するNL2切断が調節されること、ひいては抑制性シナプスの形成・維持・分解が制御されている可能性が考えられた。

4. Mmp16ノックアウトマウスはPTZ誘発性けいれん発作に対し抑制効果を示す
 上述の実験から、Mmp16発現抑制により、抑制性シナプス分子及び密度の増加が認められた。そこでこの抑制性シナプスの増加が個体レベルでどのような変化を及ぼすかについて検討を行った。具体的には、Mmp16 KOマウスに対してGABAA受容体アンタゴニストであり大脳皮質神経細胞の過剰発火によるけいれん発作誘発剤であるpentylanetetrazol(PTZ)を投与し、投与後10分間観察し、けいれん発作に与える影響を検証した(Fig.4)。その結果、Mmp16 KOマウスにおいては、合計発作スコアの有意な減少、ならびに発作スコア4が生じるまでの潜時の延長が認められた。以上の結果から、Mmp16 KOによる抑制性シナプスの増加は、PTZ誘発けいれん発作に対し抑制効果を有していることが明らかとなった。このことから、MT3-MMPによるNL2切断はけいれん発作の重篤化に関与すること、即ち抑制性シナプスの機能異常に起因する神経精神疾患の発症に関与する可能性が考えられた。

【総括】
 MT3-MMPはがん細胞などにおいて細胞外マトリクスの分解、そして浸潤や悪性化に関わる膜結合型マトリックスメタロプロテアーゼファミリーの一つとして同定された分子である。しかし脳神経系におけるMT3-MMPの局在や機能については、ほとんど不明であった。本研究より、MT3-MMPがGABAA受容体刺激に応じてNL2を切断し、抑制性シナプス密度を低下させる因子であること、そして生体において抑制性シナプス応答に影響する分子であることを明らかにした。またこれまでに抑制性シナプスに関連するプロテアーゼは一切報告がなく、抑制性シナプスを制御しうる新たな分子としてMT3-MMPを見出した点で有意義なものである。
 加えてヒトMMP16遺伝子はGWASにより統合失調症の遺伝学的リスクファクターとして同定されていることから、MT3-MMP及びNL2の機能異常による抑制性シナプスの変容が精神疾患を引き起こす可能性が考えられる。また抑制性シナプス機能に対するプロテアーゼ活性による制御という観点から、精神疾患の新たな創薬標的になり得ると考えている。

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