日本庭園の特質認識と現代ランドスケープデザインへの影響に関する研究
概要
本研究は現代ランドスケープデザインにおける、国のアイデンティティの成立とその国の伝統的庭園のデザインボキャブラリーとの関係に問題意識を置いた。そのために、造園の伝統が⾧い、海外でアイデンティティがあると評価された日本の伝統庭園と現代ランドスケープデザインを対象として挙げた、①日本庭園の特質をデザインボキャブラリに整理する、②現代における日本庭園らしい空間の認識構造、③ランドスケープデザインから日本庭園のデザインボキャブラリを使った事例を集めて、そのデザインボキャブラリの活用方法を検討して試みた。この3つのステップを経て、最後に日本庭園の現代のランドスケープデザインに与える影響を考察する。
第一章には、研究の背景、問題意識、目的、既往研究のまとめ、そして研究の進み方と研究構造を示した。いままで日本庭園の特質に関する既往研究の蓄積が大きいけれども、その成果は「自然に学ぶ」「素材と会話する」という抽象的な概念が多く現代への応用しようとしても、どこから手を着けてよいかわからない。具体的の形態として「曲線」、手法について「奥行き」、「見え隠れ」、「非対称」、「借景」、「縮景」が取り上げたものの、お互いの関係についての記述は足りないと思われ、重複する記述は多いと考えられる。
そこで、第二章には、作庭書からデザインボキャブラリを抽出することを目的とした。江戸中期の『築山庭造伝 前編』と『築山庭造伝 後編』の二冊は、そのまでの庭園手法・技術をまとめて定式化された、あらゆる日本庭園の共通する特質を抽出するには相応しい資料と考えられる。庭園の構成は階層性の構成といえ、つまり単体からユニット、ユニットをまた一つの群とされ、ほかの群と大きいユニットを構成する…それを繰り返して、最後に庭全体を構成するということ。そういう階層を3つのレベルに簡易化して、各階層におけるデザイン内容を内部の「構成」「排列」と、外部との「境界部」「位置関係」「視線関係」に抽象化し、庭園における複雑で繁多な関係性を整理した。それからこの庭園モデルにそって、作庭書の文章を整理した。結果、単体に関しては3ヶ条、ユニットに関しては6ヶ条、庭全体に関しては7ヶ条のデザイン原則を抽出した。それをさらに「要素」「視線」「景観」「構造」という4つカテゴリーに分けて単語(=ボキャブラリー)を抽出し、最終的に40個のデザインボキャブラリに整理した。
第三章は、現代の日本人が日本庭園らしさに対するイメージ、認識に関する研究した。庭園知識が比較的に持っている一般人と、造園の専門家のイメージを調査し、比較する作業を通じて、日本人が日本庭園らしいと思われる景観の認識軸、着目点、及びイメージ像を明らかにした。日本人のもつ日本庭園らしさのイメージを把握するには、逆説的な手法を使った、日本人が海外の日本庭園に対する違和感を手掛かりにした。第二章の庭園構成モデルに、要素自身の特徴と景観特徴を分けて、さらに具体的な記述を加え、「違和感を感じた理由書」を作って、選択式のアンケート調査で違和感を理由を収集した。結果、一般人と専門か考えた違和感が感じる理由は、提供された45条の理由の内35条が同じぐらい回答して、両者がもつイメージが一致する部分が多くとわかった。その差異は、一般人が単体要素に注目しやすく、もの自身の素材・形に違和感の理由を帰するに対し、専門家は複雑の要素間の排列に関心が高く、ユニットレベルの観察眼が持っていると考えられる。日本庭園の認識に際しては、人工物や植栽、石材、流れと言った主要な要素が目につき易く、その形態の伝統性や奥行き、隣接要素との納まりが重要であるが考えられる。一方で、色彩やテクスチャーなどの景観要素の周辺とのコントラストも着目され易い。そして日本庭園らしい景観のイメージが、「人工的な環境(剪定された樹木、ほどよい密度)の中に、象徴的な日本庭園要素が置かれている」にまとめた。
第四章には、日本庭園のデザインボキャブラリーが現代ランドスケープデザインにおける応用を構成した。まず、第二章と第三章の成果を踏まえて、日本庭園のデザインボキャブラリーが日本庭園らしさの認識構造における位置づけて、現代に認識度が高いと思われるものとそうではないものを分けて、整理した。それから、造園作品選集から作品を紹介・評価する文章から、日本庭園のデザインボキャブラリーを作った事例と「伝統的」「日本的」と評価された事例を抽出した。結果、現代ランドスケープデザインに日本庭園と共通する特質を5カ条にまとめた。そのうち、「境界部を突破、存在を弱化する」と「自然素材:石と水の表情」は認識度が高いデザインボキャブラリに属する。古来の景観特徴であり、現代の見慣れた景観でもある。日本的な審美意識の景観表現と考えられる。そのほかは、「四季の変化を感じさせる植栽」「要素表面の素材感、素材感のコントラスト」「視線の移るを誘惑」、つまり要素の景観特徴と視線に関する特質である。
そして第五章は、以上の成果をまとめて、総合的な考察をする。日本庭園的な景観の鑑賞対象と観賞の特徴が、現代にも活用されていると考えられる。日本の現代ランドスケープデザインにおいて、作庭者が無意識のうちに伝統に影響された部分と考えられる。