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大学・研究所にある論文を検索できる 「悪性固形腫瘍関連静脈血栓塞栓症の合併率に関する後ろ向き研究:2735人の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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悪性固形腫瘍関連静脈血栓塞栓症の合併率に関する後ろ向き研究:2735人の検討

Nose, Taku 神戸大学

2021.09.25

概要

【背景】
担がん患者は、非担がん患者と比較して血栓塞栓症の発症頻度が高く、担がん患者の死因の第 2 位と報告されている。悪性腫瘍関連静脈血栓症(cancer-associated venous thromboembolism: CA-VTE)の発症は死亡率の増加と相関しており、リスクファクターとしてはがん腫、化学療法、病期の進行などが挙げられる。一般的にアジア人の悪性固形腫瘍患者における CA-VTE の発症率は、欧米と比較して低いと報告されている。しかし、小さな前向き試験ではあるが、欧米と比較して本邦の担がん患者でも同等程度の血栓症のリスクがあることも報告されており、本邦における CA-VTE の発症率はまだ十分には調査をされていない。そのため、当施設の悪性固形腫瘍患者における CA-VTE の発症頻度を症候性、無症候性を含めて後ろ向きに調査を行った。

【方法】
2011 年 11 月から 2018 年 3 月までの期間中に当科を初診として受診した悪性固形腫瘍患者の臨床データを後ろ向きに解析を行った。CA-VTE の定義は、悪性固形腫瘍患者において発症した静脈血栓症(深部静脈血栓症又は肺塞栓症)とし、悪性腫瘍と診断される 3 か月前までに発症した場合、もしくは治癒を目的とした治療から 2 年以内に発症した場合を含めた。
上記期間の該当患者の中から CA-VTE 患者を選びだすために、1)下肢静脈超音波検査を受けた患者、2)期間中に 新たに抗凝固薬を開始された患者、3)ICD-10 で I26 肺塞栓症、I80 静脈炎および血栓(性)静脈炎、I82 その他 の静脈の塞栓症及び血栓症が病名としてコードされた患者を選び出し、それらの患者の診療情報をレビュー行い、初診日から 2018 年 3 月までの CA-VTE の発症の有無を調査した。

主要評価項目は CA-VTE の発生率とし、積算発症率と 1000 人年当たりの発症頻度の両方を算出した。副次評価項目を肺塞栓症、深部静脈血栓症の別、無症候性、症候性の別、D ダイマー、Khorana スコア、化学療法開始から CA-VTE 発症までの期間とした。

【結果】
期間中に 2735 人の固形腫瘍患者が当科を新規に受診した。年齢中央値は 66 歳で、男性が 56.9%、CV ポート造設が 8.7%の患者で行われており、下肢静脈超音波検査を 14.8%、造影 CT は 74.5%の患者で施行されていた。最も多いがん腫は頭頸部癌(16.5%)、次いで結腸直腸癌(14.6%)、膵癌(12.3%)、乳癌(8.7%)であった。

観察期間中央値は 187 日であり、調査期間中に、91 人(3.3%)が CA-VTE と診断され、罹患率は 40.7/1000 人年であった。CA-VTE 発症が確認された 91 人の年齢中央値は 71 歳、男性は 43 人(47.3)%、悪性腫瘍の診断から 6 ヶ月以内に CA-VTE を発症した患者は 63 人(62.6%)、CV ポートは 15 人(16.5%)、D ダイマー上昇(1.0 µg/ml)は 86 人(94.5%)、Khorana スコアが 2 以上の患者は 33 人(36.3%)であった。

5 人の患者(肺塞栓症 2 人、深部動脈血栓症 3 人)では D ダイマーが正常値であり、血栓症に伴う症状は 3 人(1人-肺梗塞に伴う呼吸困難、2 人-深部静脈血栓症に伴う浮腫)に認められた。残りの 2 人は無症候性であり、造影 CT 検査で偶発的に診断された。1 人は肺塞栓症と深部静脈血栓症、1 人は肝静脈血栓症と診断された。

CV ポート造設されていた 15 人の患者の中でカテーテル関連静脈血栓症と診断されたのは 8 人であった。46人(51%)の患者が悪性固形腫瘍と診断された前後 3 ヶ月以内に CA-VTE と診断された。化学療法を行った 60 人では化学療法開始から CA-VTE の診断までの期間中央値は 105 日であった。化学療法の開始 3 か月以内に 26人、3 か月から 6 ヶ月までに 10 人が CA-VTE と診断された。

CA-VTE が発症した 91 人の患者では、深部動脈血栓症を 75 人、肺塞栓症を 6 名、肺塞栓症と深部静脈血栓症の合併は 10 人で認められた。47 人(52%)は無症候性であり、31 人(34%)は D ダイマー上昇がきっかけで下肢静脈超音波検査行い CA-VTE と診断され、残りの 16 人はフォローアップの造影 CT で偶発的に診断された。症候性CA-VTE の 44 人では、症状として浮腫(36 人が最も多く認められ、次いで疼痛(11 人)、呼吸困難(3 人)、発熱(2 人)が認められた。深部静脈血栓症の約半数は下肢末梢の静脈血栓症であり、上肢の深部静脈血栓症は左側(2 人)と比較して右側(10 人)で多く認められた。CV ポートが右側に多く作られることもあり、右上肢の深部静脈血栓症と診断された 10 人の中で 7 人はカテーテル関連深部静脈血栓症であったため右上肢で深部静脈血栓症が多くなっていたと考えられた。CV ポートを造設した患者において、そうではない患者と比較して有意に CA- VTE の発症リスクの上昇を認めた[odds ratio 2.13 (95% CI 1.21–3.77)]。最も悪性腫瘍関連静脈血栓症の合併率が高かったのは非小細胞肺癌(10.8%)、次いで原発不明癌(5.8%)、甲状腺癌(5.1%)、肉腫(4.2%)、膵癌(3.9%)であった。食道癌(1.9%)、悪性黒色腫(1.8%)、頭頸部癌(0.9%)では比較的 CA-VTE の発症率は低かった。

【考察】
この研究は、本邦における様々な悪性固形腫瘍患者における CA-VTE の発症率を調査した研究である。本研究において、積算発症率は 3.3%であり、罹患率は 40.7/1000 人年であり、欧米からの報告では CA-VTE 発症率が 2-8%、罹患率は 43/1000 人年と同等の結果であった。

アジア人の CA-VTE 発症リスクは低いと言われており、台湾からの報告では積算発症率は 1.07%、罹患率は1.85/1000 人年であった。アジアと比較して欧米で CA-VTE の発症が多い要因として、凝固第Ⅴ因子ライデン変異が白人では 4%程度認められること、肥満が多いことなどが考えられた。一方、本邦でも静脈血栓症のリスクと考えられるプロテイン S 欠損症が 2%程度認められている。本邦において 97 人の担がん患者の化学療法開始から 3 か月後に CA-VTE の有無を調査した報告では、罹患率が 47/1000 人年と報告もされており、本研究の結果と合わせて考えると、欧米と比較して同等の CA-VTE の発症リスクがあると考えられた。

当研究では、CV ポートがある患者ではない患者と比較して有意に CA-VTE の発症率が多いことが示された (6.3% vs 3.0%)。フランスからの報告では担がん患者の 13.8%が CV ポート造設から 1 年以内に CA-VTE を発症していた。本研究と違い、静脈血栓症の既往のある患者が含まれていたため、CA-VTE 発症率が高くなっていると考えられるが、CV ポート造設患者においてカテーテル関連静脈血栓症の発症率は本研究で 3.3%(8/239)、フランスの研究では 3.8%であり、これに関しては同等の結果となっている。

この研究では、2 つの臨床的に意味のある示唆を含んでいる。1 つは、CA-VTE 発症患者の約半分が無症候性であり、その中で約 1/3 は偶発的に画像検査にて診断されたことである。そのため、腫瘍の治療効果判定を行うための画像検査においても静脈血栓症がある可能性を考慮して確認を行う必要がある。

2 つ目に、D ダイマーが正常(≤ 1.0 μg/ml)な患者でも CA-VTE を発症しうるということである。担がん患者において D ダイマーのみで CA-VTE のスクリーニングを行うことは偽陽性の可能性が高くなり、推奨されていない。また D ダイマーとWells’ クライテリアを併用しても担がん患者の CA-VTE を除外するには不十分であるとメタアナリシスでも報告されている。この研究では、約 6%の症候性 CA-VTE を含む患者において D ダイマーの偽陰性を認めており、CA-VTE の除外は D ダイマーのみではするべきではないと考えられた。

この研究には 2 つのリミテーションがあり、1 つは後ろ向き研究であり、無症候性 CA-VTE は発症率を過小評価している可能性があることである。また、2 つ目としては本試験に含まれる患者では、頭頸部癌が最も多いがん腫であり、肺癌の患者数も少なく、一般的ながん腫の存在割合とずれが生じていることがある。しかしながら、本邦において多くの担がん患者と幅広いがん腫を対象として CA-VTE の発症率を調査した点は当研究の強みである。

【結論】
本研究では、本邦の悪性腫瘍関連静脈血栓の発症率は欧米と比較して同等であった。約半分の悪性腫瘍関連静脈血栓は無症候性であり、約 6%の患者では D ダイマーが正常であった。CA-VTE の診断においてさらなる注意が必要であることが示唆された。