CRMP4 Up-regulates M2 Macrophages and Myeloid-derived Suppressor Cells to Promote Pancreatic Cancer in Mice
概要
1.背景・目的
膵臓の前癌病変である膵上皮内腫瘍(Pancreatic intraepithelial neoplasia; PanIN)は,組織学的に明確に定義された浸潤性膵管腺癌(pancreatic ductal adenocarcinoma; PDAC)の前駆体である.ただし,PanIN の進行の根底にある分子メカニズムは完全に解明されていない.第 1 報目 の研究でHiroshima et al.(2013)は,ヒトPDAC における collapsin response mediator protein(CRMP)4 の発現が予後不良と関連していたことを示した.第 2 報目の研究でSato et al.
(2016)は,CRMP4 の発現は膵炎モデルマウスでも増強されることを示した.第 3 報目の研究で Yazawa et al.(2020)は,LSL-KRASG12D/+;Pdx1Cre/+(KC-Crmp4wild)マウスの高グレード PanIN の発生率は,KC マウスに Crmp4 をノックアウトした LSL-KRASG12D/+;Pdx1Cre/+;Crmp4-/-(KC-Crmp4-/-)マウスの発生率よりも高いこと,膵間質領域の CRMP4 はKC マウスのPanIN グレードと相関してることを示し,CRMP4 の発現が PanIN の発生または進行の根底にある可能性があることを示した.今回の研究では,PanIN 部における遊走免疫細胞の発現を KC-Crmp4wild マウスとKC-Crmp4-/-マウスで比較した.さらに,マウス膵癌細胞である Pan02 を皮下注して作製した皮下腫瘍を Crmp4wild マウスと Crmp4-/-マウスで比較した.
2.対象及び方法
マウス実験の承認はプロトコール F-A-18-052「膵癌腫瘍免疫における CRMP4 の役割」を申請し,横浜市立大学医学部の施設内動物管理使用委員会から取得した.
KC-Crmp4wild マウスおよび KC-Crmp4-/-マウスにコレシストキニンアナログであるセルレインの腹腔内注射を行い,PanIN 病変を作製した.マウスの膵組織切片を hematoxylin and eosin(H-E)染色 し,PanIN グレードを評価した.ヘルパーT 細胞のマーカーである CD4,細胞障害性T細胞(cytotoxic T lymphocyte; CTL)のマーカーである CD8,B 細胞のマーカーである CD20,ナチュラルキラー細胞のマーカーである神経細胞接着分子(neural cell adhesion molecule; NCAM)1,制御性 T細胞(regulatory T cell; Treg)のマーカーである FOXP3,M1 マクロファージのマーカーである CD68,M2 マクロファージのマーカーである CD163,骨髄由来性抑制細胞(myeloid derived suppressor cell; MDSC)のマーカーである CD11b に対する抗体を使用して免疫組織化学検査を行った.続いて,Crmp4wild マウスと Crmp4-/-マウスにマウス膵癌細胞である Pan02 を皮下注移植して皮下腫瘍を作製し,腫瘍径を 7 日毎に 63 日目まで計測した.さらに,その腫瘍に対し抗 Ki67 抗体と抗 CD163 抗体と抗 CD11b 抗体による免疫組織化学検査を行った.
3.結果
高グレード PanIN に多い傾向は,全体では CD163 高発現(P = 0.031),CD11b 高発現(P = 0.027)で有意差がみられた.KC-Crmp4wild マウスのみでは, CD11b 高発現(P = 0.007)で高グレード PanIN が多い傾向がみられた.KC-Crmp4-/-マウスのみでは,有意差がみられなかった.
Crmp4wild マウスと Crmp4-/-マウスに Pan02 を皮下注移植して作製した皮下腫瘍の腫瘍径を 7 日毎に 63 日目まで比較した実験では,Crmp4wild マウスの方が Crmp4-/-マウスより腫瘍径が大きい傾向がみられ,皮下注移植後 7,14,21,28 日目で P < 0.01,皮下注移植後 35,49 日目で P < 0.05 の有意差がみられた.抗 Ki67 抗体による免疫組織化学検査で核陽性率を比較したところ,Crmp4wildマウス(6.412±5.25)が Crmp4-/-マウス(4.997±2.96)より高かったが,有意差はみられなかった
(P = 0.490).高グレードPanIN で有意に高発現していた抗 CD163 抗体と抗 CD11b 抗体による免疫組織化学検査で陽性細胞率を比較したところ,抗 CD163 抗体は Crmp4wild マウス(4.058± 1.135)が Crmp4-/-マウス(1.790±1.170)より高く有意差がみられ(P ≦ 0.001),抗 CD11b抗体でも Crmp4wild マウス(0.615±0.346)が Crmp4-/-マウス(0.344±0.241)より高く有意差がみられた(P ≦ 0.001).
4.考察
全体的に高グレードPanIN に多い傾向として CD163 高発現とCD11b 高発現で有意差がみられ た.KC-Crmp4wild マウスのみでは,高グレード PanIN に多い傾向として CD11b 高発現で有意差がみられた.しかし,KC-Crmp4-/-マウスは高グレード PanIN でも CD11b の高発現はみられなかった.これより,CRMP4 がMDSC をup regulation してPanIN 進行を促進していることが考えられた.膵癌細胞皮下注移植の実験では,Crmp4wild マウスの方が皮下腫瘍の成長が早い傾向がみられ,Crmp4wildマウスの腫瘍にCD163 とCD11b が有意に高発現していた.これより,CRMP4 がM2 マクロファージと MDSC をup regulation して膵癌細胞増殖を促進していることが考えられた.