Low Incidence of High-Grade Pancreatic Intraepithelial Neoplasia Lesions in a Crmp4 Gene–Deficient Mouse Model of Pancreatic Cancer
概要
【背景】膵上皮内腫瘍性病変(Pancreatic intraepithelial neoplasia; PanIN)は膵癌の前癌病変とされている.しかし PanIN 進行の分子メカニズムに関しては,明らかにされていない.これまでに切除標本の膵癌組織中に発現する collapsin response mediator protein 4 (CRMP4)が静脈浸潤,肝転移と予後増悪に深く関与していることが報告されている (Hiroshima et al, 2013).CRMPs は神経軸索ガイダンス分子であるsemaphorin-3A の下流分子であり.CRMPs はリン酸化修飾を受けることで細胞骨格を制御するすることが知られている.さらに CRMP4 はCD3 陽性細胞と共局在しており,浸潤性T リンパ球に発現していることも明らかにされている(Sato et al, 2016).しかし,CRMP4 と PanIN の関係は未だ解明されていない.
【目的】膵癌モデルマウスを用いて,PanIN の発生,進行におけるCRMP4 の存在意義を明らかにすることを目的とした.
【方法】LSL-KRASG12D ;Pdx1-Cre ( 以下 KC-Crmp4 野生型 WT ) マウスと LSL- KRASG12D ;Pdx1-Cre; Crmp4-/- (以下 KC-Crmp4 ノックアウト KO)マウスに caerulein (50 µg/kg)を腹腔内投与して,急性膵炎を発症させ,PanIN 病変を誘導した.PanIN 病変の grade 評価,CRMP4 の免疫組織化学(IHC)的検討を行った.また PanIN 間質領域における CRMP4 の局在を T リンパ球マーカーである CD3,活性型膵星細胞マーカーである αSMA を用いて行い,共焦点レーザー顕微鏡を用いて共局在の評価を行った.さらに CRMP4 の発現強度とPanIN grade の関係を検討した.
【結果】KC-Crmp4 KO(n=11)と比較して KC-Crmp4 WT(n=19)では,high-grade PanIN病変(PanIN-2 および-3)がより頻繁に観察された(χ2 検定; P = 0.044). CRMP4 野生型マウスの正常膵では,導管および腺房細胞の一部で CRMP4 の弱い発現が検出された. CRMP4 の発現は,PanIN 病変の上皮細胞および PanIN 病変を囲む間質でも検出された.定量的共局在解析を行ったところ,CRMP4 と αSMA またはCRMP4 と CD3 の共局在の割合は,それぞれ 39.0±1.95%,13.7±0.98%であった(n = 3,P = 0.003).PanIN-2 病変の免疫蛍光二重染色では,PanIN 病変を取り巻く間質領域の細胞に,CRMP4 およびαSMAが共局在していた.間質領域のCRMP4 の発現強度とPanIN grade の相関を調べたところ, CRMP4 陰性群よりも CRMP4 陽性群の方が high-grade PanIN がより頻繁に観察された(P = 0.023).
【結語】CRMP4 は炎症の促進や細胞骨格の再構築を促すことで PanIN の進行に関与している可能性が示唆された.CRMP4 の関与するシグナルを阻害することがPanIN の発生と膵癌を予防する治療戦略となる可能性がある.