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Membrane type 1 matrix metalloproteinase regulates anaplastic thyroid carcinoma cell growth and invasion into the collagen matrix

吉田 達也 横浜市立大学

2021.03.31

概要

1.序論
 甲状腺未分化癌は著しい増殖と浸潤傾向を特徴とし, 死因の約半数は頚部周囲臓器への浸潤による気道閉塞や血管破綻による出血などの局所の合併症によると報告されている.診断後生存期間の中央値は, 3~6カ月と全悪性腫瘍の中でも予後不良な癌腫である.未分化癌は乳頭癌や濾胞癌といった分化癌に認められるBRAF, NRAS変異に加え, TP53, TERT変異などの遺伝子変異が関与することで, 分化度が低下して未分化転化を引き起こすと考えられているが, 詳細なメカニズムは明らかになっていない.また, 分化癌では見られない, 著しい周囲組織への浸潤傾向の獲得に関しても不明な点が多い.
 Matrix metalloproteinase(MMP)は, 組織における細胞外マトリックス(extracellular matrix; ECM)を構成するコラーゲンやフィブロネクチンなどの分解酵素であり, 細胞外マトリックスの分解をはじめ, 細胞表面に発現するたんぱく質やサイトカイン, 増殖因子などの分泌タンパクを切断することにより, 各タンパクの機能を制御して, 発生, 創傷治癒, 炎症, 血管新生, 癌の浸潤・転移などに関与している.
 細胞膜に局在するMMPの1種であるmembrane type 1-MMP(MT1-MMP)は, ECMの主成分であるⅠ型コラーゲンの分解や, 細胞増殖に関わるMAPKの活性化などを介して癌細胞の浸潤・増殖能に関与しているとされ, 複数の悪性腫瘍での発現が報告されている.甲状腺未分化癌では細胞株でのMT1-MMP mRNA発現の報告はあるものの, 切除検体を用いたMT1-MMPタンパクの発現頻度や発現部位, MT1-MMPを介した増殖・浸潤の機序については検討されていない.
 そこで我々は, 甲状腺未分化癌切除検体におけるMT1-MMPのタンパク発現と, 甲状腺未分化癌細胞株を用いたMT1-MMPを介した腫瘍細胞の増殖・浸潤の機序について検討した.

2.実験材料と方法
 1990年から2009年に神奈川県立がんセンターで治療を受けた甲状腺未分化癌患者34例のパラフィン包埋切片からtissue microarrayを作成し, 同一症例における腫瘍組織と正常甲状腺組織, 間質組織のMT1-MMPの発現を免疫組織化学染色で評価した.
 次に, ヒト甲状腺未分化癌細胞株TTA-1(BRAFV600E wt)と8305C(BRAFV600E mut)に対し, small hairpin RNA(shRNA)を用いたRNA干渉によるMT1-MMPノックダウン甲状腺未分化癌細胞株を2種類ずつ作成するとともに(shMT1-1, shMT1-2), コントロールとしてMT1-MMPの代わりにβガラクトシダーゼをコードする遺伝子(LacZ)に対するshRNAを組み込んだ細胞株を作成した(shLacZ).これらの細胞株において, Western blotによるMT1-MMPタンパク発現の抑制を確認すると同時に, 細胞増殖に関与することが知られている古典的MAPキナーゼである extracellular signal-regulated kinase(ERK)の発現とリン酸化について観察した.
 続けてMT1-MMPの発現と浸潤能を評価するため, これら細胞株を用いて細胞浸潤活性の測定を行った.
 最後に, これら細胞株を用いて, 従来用いられる2次元(2D)細胞培養と, 生理学的環境下での動態に類似したI型コラーゲンゲル含有培地での3次元(3D)細胞培養で増殖能を比較した.

3.結果
 患者組織でのMT1-MMP免疫組織化学染色では, 未分化癌の85.3%(29/34)で発現が観察され, 正常甲状腺(40.9%; 9/22)や間質(41.2%; 14/34)よりも有意に発現が高かった(p<0.001).間質組織では線維芽細胞での発現が観察されたが, 同一症例の組織検体において線維芽細胞よりも腫瘍細胞での発現が高かった.
 細胞株でのMT1-MMPのタンパク発現は, TTA1, 8305cともにコントロール株(shLacZ)では抑制されず, ノックダウン株(shMT1-1, shMT1-2)では抑制されていた.ERKの発現はすべての細胞株において不変であったが, ノックダウン株ではリン酸化が抑制されていた.
 I型コラーゲンゲル含有培地に隣接させたmicro-porous membraneの通過細胞数でみた浸潤能の評価では, 両細胞株ともにコントロール群に対してノックダウン群で有意に低下していた.
 増殖能の比較では, 2D培養ではノックダウン株の増殖は抑制されなかったが, 3D培養では有意に抑制された.また, コントロール株では浸潤能を反映する紡錘状間葉細胞様に細胞形態が変化していたが, ノックダウン株では形態変化がおきず円形を維持していた.

4.考察
 Hofmannらは, 甲状腺由来の線維芽細胞と甲状腺癌細胞株のMT1-MMPmRNA量を比較すると線維芽細胞で多く発現していたことから, 甲状腺癌の浸潤を促進するMMPは腫瘍細胞ではなく線維芽細胞から産生されると報告している(Hofmann et al., 1998).しかし, 今回の検討では, 同一症例の組織検体を用いて比較することで, 実際には線維芽細胞よりも腫瘍細胞でのMT1-MMPタンパク発現が有意に高いことが確認された.
 ERKは古典的MAPK経路(Ras/Raf/MEK/ERK経路)下流に位置し, 上流のシグナルに活性化によりリン酸化される.今回使用した細胞株のうち8305CはBRAFV600E変異陽性株であるが, BRAF変異のないTTA1と同様にBRAFの下流に位置するERKのリン酸化が抑制されていた.このことから, MT1-MMPを抑制するとBRAF変異の有無にかかわらずERKリン酸化が抑制されることが確認された.
 3D培養ではMT1-MMPノックダウンで有意に浸潤の低下が観察された.腫瘍細胞の浸潤には周囲間質に存在する線維芽細胞によるECM分解も関与するとされるが(Zhang et al., 2006)(Gaggioli et al., 2007), 今回の検討では線維芽細胞の存在に関わらず腫瘍細胞の浸潤抑制が観察された.先に述べた患者腫瘍組織でMT1-MMP強発現していること併せると, 腫瘍細胞でのMT1-MMPタンパクの機能抑制が著しい浸潤傾向を示す甲状腺未分化癌の浸潤の低下に寄与するものと考えられた.
 MT1-MMPをノックダウンしても2D培養での細胞増殖能は低下しないが, 3D培養では有意に低下すること, また2D培養では浸潤の際に見られる細胞突起の形成が観察されるが3D培養では形成できないことが観察された.これはノックダウン細胞株が細胞周囲のI型コラーゲンを分解できず, 増殖や細胞突起形成に必要な空間を形成することができないためと考えられた.これらのことを合わせて考慮すると, MT1-MMPはI型コラーゲンを分解することで, 増殖するための空間を作り, そこに細胞が進展することで細胞増殖することが考えられる.

 今回の検討より, 甲状腺未分化癌においてMT1-MMPの機能抑制により浸潤能の低下が観察された.また腫瘍細胞の増殖能自体は低下しないものの, 生体内を模した3D培養下での増殖低下に関与する可能性が示唆された.甲状腺未分化癌の治療においてMT1-MMPが新しい治療標的となる可能性が示唆される.

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参考文献

Gaggioli C, Hooper S, Hidalgo-Carcedo C, Grosse R, Marshall JF, Harrington K, Sahai, E. (2007), Fibroblast-led collective invasion of carcinoma cells with differing roles for RhoGTPases in leading and following cells. Nat Cell Biol, 9, 1392-400.

Hofmann A, Laue S, Rost AK, Scherbaum WA, Aust G. (1998), mRNA levels of membrane-type 1 matrix metalloproteinase (MT1-MMP), MMP-2, and MMP-9 and of their inhibitors TIMP-2 and TIMP-3 in normal thyrocytes and thyroid carcinoma cell lines. Thyroid, 8, 203-14.

Zhang W, Matrisian LM, Holmbeck K, Vick CC, Rosenthal EL. (2006), Fibroblast-derived MT1- MMP promotes tumor progression in vitro and in vivo. BMC Cancer. 6:52. doi: 10.1186/1471-2407- 6-52

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