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大学・研究所にある論文を検索できる 「軟骨細胞におけるメカノセンサー候補分子TRPV2の機能解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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軟骨細胞におけるメカノセンサー候補分子TRPV2の機能解析

中元, 秀樹 東京大学 DOI:10.15083/0002005124

2022.06.22

概要

変形性関節症は多因子疾患であるが、中でも過度の体重増加もしくは過度の運動などが高いリスクであることから、過剰な力学的負荷は変形性関節症の最大の誘因と考えられている。反対に適度な力学的負荷が関節軟骨の健康な状態の維持に必要不可欠であることも実臨床より周知の事実であるが、その分子メカニズムはごく断片的にしか研究されてこなかった。関節軟骨には様々な種類のメカニカルストレスがかかることが知られており、浅層ではひずみ・摩擦による伸展刺激やせん断応力、また深層では逆に全周性の圧迫に伴う静水圧が主に生じるとされている。このような力学的刺激を、関節軟骨細胞が受容し応答することは知られており、軟骨細胞がshear stressに応答し、CREBを介した様々なシグナルパスウェイによって、関節軟骨の潤滑性に重要である分泌プロテオグリカンであるルブリシンを誘導し関節軟骨を保護することが知られている。しかしながら、様々な特性の力学的刺激を感知し細胞内シグナルに変換するメカニズムについては多くが解明されていない。近年、細胞外の刺激を感知するセンサーとして、細胞膜に存在するイオンチャネルが注目されている。Transient receptor potential(TRP)channelのメンバーの多くは6回膜貫通型の非選択的陽イオンチャネルであり、細胞における温度刺激、化学的刺激、力学的刺激などの感知に関与することが知られてきている。TRP polycystic familyに属するTRPP1(PKD1)は骨組織においてshear stressに応答し、TRP canonical familyに属するTRPC3とTRPC6については、心筋細胞において伸展刺激に応答し、TRP vanilloid familyに属するTRPV1は神経組織において痛み刺激や熱刺激(>43℃)に応答するイオンチャネルであり、TRPV4は軟骨細胞において低浸透圧刺激に応答することが知られている。また、それぞれの遺伝子変異は、TRPP1では常染色体優性多発性嚢胞腎(Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease:ADPKD)、TRPC3は特発性肺高血圧等、TRPV4は神経筋疾患(Charcot-Marie-Tooth病2C型等)や骨異形成症(変容性異形成症等)を生じることが知られている。このように、mechanosensitive ion channelは力学的刺激の感知、応答を介して生体の分化、発達、恒常性維持等に重要な役割を果たしていることが明らかになっている。

 今回我々は適度な力学的負荷と軟骨保護作用の機能解明に挑むべく、メカノセンサー候補分子として細胞膜に存在するイオンチャネルであるTRPファミリーに着目した。関節軟骨の表層に生じる力学的特性、つまり伸展刺激・shear stressに関与するとされるTRPチャネルの中から、成体マウス膝軟骨組織において比較的発現し、かつ軟骨での機能が知られていない新規のメカノセンサー候補分子としてTrpv2に着目した。Trpv2は心筋細胞,神経細胞,において伸展刺激を介して組織恒常性を維持することが知られている。また肝細胞癌、膀胱癌、前立腺癌などでのTRPV2の発現が増加し、特に低分化癌や転移巣などでその傾向が顕著である。さらに脂肪細胞前駆細胞の分化の制御、破骨細胞分化の制御に関与することが知られており、細胞の分化・多能性維持への関与が示唆されている。このようなTrpv2の背景、及び関節軟骨の表層に負荷される力学的特性からTrpv2は軟骨細胞のmechanosensitive ion channelの新規候補として有望と考えた。関節においては薬剤誘導性炎症性滑膜でTrpv2の発現が増加し、滑膜の浸潤性や血管増生を抑制することが報告されているが、Trpv2の軟骨に対する分子生物学的な知見は我々が渉猟しえた限りではほとんど存在しない。

 野生型マウス膝関節軟骨においてTrpv2は関節軟骨の表層及び肥大軟骨層、また、靭帯・軟部組織の付着する関節軟骨周辺部に強く発現していた。また、軟骨変性に伴って軟骨表層におけるTrpv2発現は経時的に減少することが確認されたが、骨棘形成に伴う軟骨内骨化の領域では発現が亢進していた。ヒトの膝関節軟骨においても同様の発現パターンがみられた。以上より、Trpv2は軟骨表層に発現し、軟骨細胞のmechanotransductionに関与し軟骨保護に働く、また関節軟骨深層や、軟骨周辺部では軟骨の肥大分化や、軟骨内骨化を抑制し軟骨変性に伴う骨棘形成を抑制するという仮説を立てた。

 Col2a1-Cre; Trpv2fl/flマウスを用いた評価ではTrpv2のノックアウトは、骨格形成へ影響しなかった。さらにTrpv2の変形性関節症における機能解析を行った。タモキシフェン誘導性に軟骨特異的にTrpv2をノックアウトするCol2a1-CreERT2;Trpv2fl/flマウスでは2種類の手術OAモデル及び、加齢によるOAモデルにおいて軟骨変性が進行し、異所性骨化が亢進した。さらにCol2a1-CreERT2; Trpv2fl/flマウスでは膝関節軟骨において軟骨表層マーカーであるPrg4の発現低下がみられた。

 カルシウムイメージングを用いた解析によりTrpv2は培養関節軟骨細胞において低浸透圧負荷、伸展刺激負荷、shear stress負荷の異なる力学的負荷に応答して細胞内カルシウム流入を惹起し、それらはTrpv2の阻害剤やTrpv2のノックアウトにより減弱することが分かった。また、Trpv2をノックアウトした軟骨細胞ではin vivoと同様にPrg4発現が減少することが示された。さらに、shear stress依存性のPrg4発現増加は、Trpv2のノックアウトにより抑制された。以上より、Trpv2が軟骨細胞においてshear stressを感知し細胞内カルシウムシグナリングを伝達し、Prg4発現を誘導していることが示唆された。

 Trpv2依存性カルシウムシグナルの下流シグナル経路を探索すべく行った網羅的なluciferase assayにてTrpv2agonist2APB投与によりCREB経路が活性化されることがわかった。CREBはlubricinの有力な転写因子とされているが、軟骨系セルラインのATDC5細胞において2APBを投与するとPrg4発現の増加、及びCREBのリン酸化亢進が確認され、これらの効果はCREB阻害剤666-15、カルモジュリン阻害剤KN-93を用いるといずれも抑制された。以上よりTrpv2の軟骨細胞におけるlubricinの誘導は、calmodurin/CREB経路を介していることが判明した。一方、軟骨細胞の肥大分化を誘導する系においてTrpv2のノックアウトにより軟骨肥大分化が亢進した。

 以上の結果よりTrpv2は軟骨表層において発現し、shear stressなどの力学的刺激に応答し細胞内カルシウムシグナリングを惹起し、calmodurin/CREB経路を介してlubricinを誘導し軟骨保護に作用することが示された。またTrpv2は関節軟骨周辺部において、軟骨肥大分化を抑制し、変形性関節症進行における骨棘形成を抑制している可能性が示唆された。

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