TACEによる変形性関節症の病態制御機構
概要
[課程-2]
審査の結果の要旨
氏名 金子 泰三
本研究では、シェディングを介して、様々な炎症発生や骨格形成に関与するシグナルの
制御に関与する蛋白質分解酵素である TACE の機能解析を、マウス初代軟骨細胞、軟骨特
異的 Tace ノックアウトマウスなどを用いて in vivo および in vitro の両面から行ったもの
であり、下記の結果を得ている。
1. 正常マウス膝関節において Tace はユビキタスに発現しており、変形性関節症の進行と
ともに関節軟骨において発現が増加した。また Medial モデル、DMM モデル、Aging
モデルの 3 つの異なる変形性関節症モデルにおいて軟骨特異的 Tace のノックアウトに
より、関節症の進行が抑制され、軟骨細胞のアポトーシスが抑制されていた。
2. マウス初代軟骨細胞、マウス大腿骨頭において、Tace のシェディング活性をあげる
と、異化因子である Mmp13 の増加と、同化因子である Col2a1、Acan の減少が見ら
れた。またマウス大腿骨頭においては大腿骨頭からの Aggrecan 放出が増加した。こ
れらの軟骨細胞に対する Tace の異化作用は、軟骨特異的 Tace ノックアウトにより抑
制された。
3. 変形性関節症との関連が深いシグナルかつ Tace がその活性化に関与するシグナルとし
て、TNF シグナル、EGFR シグナル、IL-6 シグナル、Notch シグナルがあるが、
ELISA、Western blot およびリコンビナント蛋白質投与実験の結果から、Tace の軟骨
細胞に対する異化作用は TNF シグナルと EGFR シグナルが関与していることが示唆
された。
4. Medial モデルを実施した野生型マウスに Tace 阻害薬の膝関節内投与を週 3 回、術後
1 週から術後 8 週まで継続投与した結果、Tace 阻害薬の投与群において、Vehicle 群
よりも変形性関節症の進行が抑制され、軟骨細胞のアポトーシスも抑制されていた。
またマウス大腿骨頭を用いた系において、Tace のシェディング活性を上げることで惹
起された異化作用は Tace 阻害薬の投与により抑制された。
以上、本論文は Tace が TNF シグナルや EGFR シグナルを介して、軟骨基質分解酵素
である Mmp13 の誘導ならびに軟骨細胞のアポトーシスの誘導により、変形性関節症を促
進的に制御していることを明らかとした。本研究はこれまで軟骨領域において不明な点が
多かった Tace の関節軟骨に及ぼす作用の解明に重要な貢献をなすと考えられる。
よって本論文は博士( 医 学 )の学位請求論文として合格と認められる。