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大学・研究所にある論文を検索できる 「Transcriptome-wide Analysis of Intracranial Artery in Patients with Moyamoya Disease Showing Up-regulation of Immune Response, and Down-regulation of Oxidative Phosphorylation and DNA Repair」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Transcriptome-wide Analysis of Intracranial Artery in Patients with Moyamoya Disease Showing Up-regulation of Immune Response, and Down-regulation of Oxidative Phosphorylation and DNA Repair

金森, 史哲 名古屋大学

2022.01.27

概要

【緒言】
 もやもや病は、内頸動脈終末部の進行性狭窄と脳底部の異常側副血行路を特徴とするまれな脳血管疾患である。頭蓋内動脈の狭窄は、脳血流を減少させ脳虚血発作を惹起し、また側副血行路の血行力学的ストレスは、頭蓋内出血を引き起こす。浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術を含む外科的血行再建術は、脳卒中や再出血のリスクを軽減する効果的な方法として知られている。RNF213のc.14576G>A variantは、東アジアに背景を持つもやもや病患者の感受性遺伝子として同定されたが、病因と病態生理学についてはほとんど知られていない。もやもや病の主な組織病理学的特徴は、内頚動脈終末部における内膜の線維性肥厚と中膜の菲薄化である。これらの病理学的特徴は、中大脳動脈の皮質枝でも確認される。手術中に取得できる中大脳動脈のマイクロサンプルから十分なタンパク質またはRNAを抽出することが困難であったため、その分子特性を調べた研究はほとんどない。しかし、技術進歩により、マイクロサンプルからのtotal RNAの増幅、および網羅的遺伝子発現解析が可能となった。本研究は、もやもや病の頭蓋内動脈に固有の遺伝子発現プロファイルの特定を目的とした。もやもや病患者と対照患者から中大脳動脈のマイクロサンプルを収集し、マイクロアレイ技術を使用してトランスクリプトーム全体の分析を行った。

【方法】
 本研究は、単一施設で前向きにサンプリングした後ろ向きコホート研究であり、名古屋大学大学院医学系研究科機関審査委員会(No.2011-1202)により承認を受けた。

患者の特徴
 名古屋大学病院で外科的治療を受けた合計20人の日本人患者を対象とした。11人のもやもや病患者から中大脳動脈のマイクロサンプルを取得し、9人の対照患者からも取得した。もやもや病患者は、浅側頭動脈―中大脳動脈吻合術を含む外科的血行再建術を受けた。対照群では、6人の内頸動脈瘤患者が動脈瘤治療の一環として浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術を受け、3人の難治性てんかん患者が焦点切除を受けた。各サンプルはRNAlater(Qiagen)に収集し、-80°Cで保存した。

RNA抽出とマイクロアレイ
 RNeasy Micro Kit(Qiagen)を使用して、total RNAを抽出た。精製したtotal RNAを、Ovation PicoSL WTA System V2キット(NuGEN Technologies)を用いてcDNAに増幅し、SureTag DNAラベリングキット(Agilent Technologies)で標識した。Cy3増幅cDNAサンプル(2µg)を、アレイスライド(Human Whole Genome、SurePrint G3 Human GEv28×60Kマイクロアレイ; Agilent)にハイブリダイゼーションし、AgilentモデルG2505ADNAマイクロアレイスキャナーでスキャンした。

マイクロアレイデータ分析
 Feature Extraction Software version 11.0.1.1(Agilent Technologies)を使用して、バックグラウンド補正した信号強度を定量化した。75パーセンタイルシフトで正規化を行った。中大脳動脈におけるdifferentially expressed geneを検出するため、もやもや病群と対照患者群のマイクロアレイデータを比較した。統計分析は、RefSeqアクセッションにNM_を冠する18,596個の遺伝子を対象とした。Differentially expressed geneは(1)マンホイットニーU検定でP値0.001未満(2)2倍以上のFold changeを示す物とした。さらに、特定の遺伝子セットがもやもや病患者の中大脳動脈の遺伝子発現に関連しているかどうかを調査するため、GSEAソフトウェアプログラムv4.0.3(Broad Institute)を使用して遺伝子セット濃縮分析(GSEA)を行った。正規化された全ての値を用い、カットオフはFDR<0.25とした。

定量的ポリメラーゼ連鎖反応によるマイクロアレイ分析の検証
 遺伝子発現レベルを測定するために、QuantiFast SYBR PCRキット(Qiagen)を使用して、AriaMXリアルタイムPCRシステム(Agilent)でqPCRを実施した。遺伝子発現は比較Ct法によって定量され、GAPDHでノーマライズした。

統計分析
 人口統計は、マンホイットニーU検定またはフィッシャーの確率検定を使用してグループ間で比較した。有意差値は、P値<0.05に設定した。マイクロアレイ分析では、グループ間の遺伝子発現を比較するためにマンホイットニーU検定を適用した。P値<0.001およびFold change>2の遺伝子を、differentially expressed geneとした。GSEAのカットオフ基準はFDR<0.25とした。qPCRでは、マンホイットニーU検定でP値<0.05を有意とした。統計分析は、R4.0.2(R Foundation for Statistics Computing; https://www.r-project.org/)で行った。

【結果】
参加者の人口統計
 参加者の特徴を表1に示す。両グループ間で、年齢、性別、基礎疾患に有意差はなかった。RNF213のc.14576G>A variantは全てヘテロ接合であり、その割合は対照群よりももやもや病群で有意に高かった(P=0.010)。

マイクロアレイ分析
 中大脳動脈トランスクリプトームを用いた主成分分析は、グループ間で比較的異なるクラスターを示した(図2)。もやもや病患者の中大脳動脈トランスクリプトームを対照患者の物と比較し、62個のアップレギュレートされた遺伝子と26個のダウンレギュレートされたdifferentially expressed geneを同定した(表2および3)。ボルケーノプロットでdifferentially expressed geneを視覚的に示し、そのヒートマップは良好なクラスタリングを示した(図3)。GSEAは、サイトカイン経路、樹状細胞(DC)経路、IL-12経路、および抗原のプロセシングと提示に関与する遺伝子セットが、もやもや病患者の中大脳動脈の遺伝子発現と正の相関を示すことを明らかにした。また、酸化的リン酸化とDNA修復に関与する遺伝子が、負の相関を示した事も明らかにした(図4)。

qPCR検証
 TSPAN2、RHOQ、HUWE1、HIPK2、RASAL3に対してqPCRを行った。これらの
転写産物のマイクロアレイとqPCRの結果を示す(図5)。両グループ間でこれらの転写産物の発現を比較すると、qPCRとマイクロアレイは同様の遺伝子発現分布を示した。さらに、もやもや病患者の中大脳動脈におけるTSPAN2およびRHOQの遺伝子発現低下を確認した(TSPAN2:P=0.0074; RHOQ:P=0.0097)。

【考察】
 免疫応答に関連する経路が、もやもや病患者の頭蓋内動脈でアップレギュレートされていた(抗原プロセシングと提示、DC経路、サイトカイン経路、およびIL-12経路)。DCは免疫応答の開始と調節を行う抗原提示細胞であり、IL-12は炎症性骨髄細胞によって産生される炎症誘発性サイトカインであり、ヘルパーT細胞の発達と関与する。本結果は幾つかの報告と一致する。もやもや病患者の血液サンプルを使用したマイクロアレイ研究では、その発現ネットワークは、炎症反応、toll like signal伝達経路、およびサイトカイン-サイトカイン受容体相互作用と関連していた。また病理学において、肥厚した内膜における増殖した平滑筋細胞とマクロファージやT細胞等の炎症細胞の共局在が報告されている。
 もやもや病患者の中大脳動脈における酸化的リン酸化に関与する遺伝子のダウンレギュレーションは、もう1つの重要な発見と考えられる。酸化的リン酸化システムは、アデノシン三リン酸を生成する生化学経路であり、ミトコンドリア内膜の脂質二重層に埋め込まれている。もやもや病患者の内皮コロニー形成細胞を用いた報告では、ミトコンドリアはより短く、円形の形態を示し、酸素消費率の低下を示しおり、酸化的リン酸化の機能異常を示唆していた。本研究の結果と民族性および性別の有病率の違いは、もやもや病の病因とミトコンドリアの関連の可能性を裏付けている。

【結語】
 本網羅的遺伝子発現解析は、もやもや病患者の頭蓋内動脈における酸化的リン酸化とDNA修復に関与する遺伝子セットのダウンレギュレーションと、免疫応答に関連する遺伝子のアップレギュレーションを示した。本研究の成果はもやもや病の病態生理を明らかにする重要な手がかりとなる可能性がある。

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