リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「マンガンを含む四元系磁性酸化物の探索」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

マンガンを含む四元系磁性酸化物の探索

野川 拓己 中央大学

2022.09.22

概要

1 序論
磁性体の結晶中ではスピン間に交換相互作用がはたらく。その結果、多くの場合に自明な磁気秩序がつくられる。しかし、ある条件の下では相互作用が競合するフラストレーションが生じる。特にスピンが三角格子やカゴメ格子などを組む反強磁性体では、幾何学的理由でフラストレーションが生じる。

四面体は各頂点に三回対称軸がある。この対称性ゆえに、三回対称性を基本とするフラストレート格子を組む Ba2Cu3V2O8(OH)2や KCr3(OH)6(SO4)2 などにおいては、VO4や SO4 などの四面体構造が含まれている。 [1][2] そのため本研究では、磁性を持つ Mnと、GeO4 という四面体構造を形成しやすい Ge を含む酸化物の探索を行った。その結果、四元系磁性酸化物 Sm2.8Mn2.6Ge2.6O12 と (In2/3Mn1/3)(Ge1/3Mn2/3)2O4 を発見した。

2 実験方法
合成には高温高圧下の水溶液中で反応を促進させる水熱合成法を用いた。組成分析にはSEM- EDS あるいはEPMA を用いた。構造解析にはデスクトップ単結晶X 線解析装置を、磁化測定には SQUID 磁束計を使用した。

3 結果及び考察
3.1 合成結果、組成、構造の概要
水熱合成法により、黄色の多面体結晶(物質A,図 1(a)) と褐色板状結晶 (物質 B, 図 1(b)) を得た。物質A はGeO2, Sm2SO4x 8H2O, MnO, KOH溶液を銀チューブに封入し、温度 650 ◦C、圧力150 MPa で 6 日間反応させることによって得られた。物質B はIn2O3xH2O, GeO2, MnO, KBrO3, BaO2, V2O3, KOH 溶液を銀チューブに封入し、温度 650 ◦C、圧力 150 MPa で 7 日間反応させることにより得られた。

単結晶 X 線構造解析により、物質 A は空間群 Ia3d, 格子定数 a= 12.6138 ˚A と判明し、ガーネット構造を持つことがわかった。EPMA の結果も考慮すると、組成式はSm2.8Mn2.6Ge2.6O12 と推定された。これはガーネットA3B2C3O12 において、A サイトを 14 : 1 の比でSm とMn が占め、 B サイトのすべてをMn が、Cサイトを 13 : 2 の比でGe とMn が占めていると考えればよい。

物質 B は空間群 R3m, 格子定数 a= 3.3477˚A, c= 26.916 ˚A であると判明し、LuFe2O4型構造を持つことがわかった。[3]SEM-EDS による組成分析の結果も踏まえて、組成式は (In2/3Mn1/3)(Ge1/3Mn2/3)2O4 と推定された。つまり、LuFe2O4 型構造のLu サイトを 2 : 1 の比でIn とMn がランダムに占め、Fe サイトを 1 : 2 の比でGe とMn がランダムに占めているのが本物質である。この組成だとMn が 2 価、In が 3価、Ge が 4 価と考えられる。この物質の構造の詳細については 3.3 で述べる。

3.2 Sm2.8Mn2.6Ge2.6O12 の磁性
SQUID 磁束計を用いて Sm2.8 Mn2.6 Ge2.6 O12の磁化率の温度依存性を測定した。質量0.77 mg、大きさ 1 mm3 ほどの1粒の結晶をストローの内壁にグリースで取り付けて測定を行った。図 2に示すように、磁化率は温度の低下とともに増加していくが、挿入図に示すように、5 K 付近から磁化率が急激に立ち上がった後、2.5 K 以下で再び緩やかな増加となる。測定温度範囲に相転移は見当たらなかった。

次に、磁場をかけずに 2 K まで冷却してから磁場を印加して 5 K まで昇温過程を測定するゼロ磁場冷却(ZFC) 条件と、5 K で磁場をかけてそのまま 2 K まで降温過程を測定する磁場中冷却(FC)条件でSm2.8Mn2.6Ge2.6O12 の磁化率の温度依存性を測定した。結果を図 3 に示す。

ZFC 条件の磁化率でははっきりした折れ曲がりが、FC 条件の磁化率では緩やかな折れ曲がりがそれぞれ観測された。FC 条件とZFC 条件を比べると、2500 Oe を除くそれぞれの印加磁場において、ある温度 Tirr 以下で食い違い(不可逆性) が起きていることがわかる。また、印加磁場が大きくなるにつれて不可逆性温度 Tirr が低くなっていることがわかる。

次に、以下の手順で実験を行った。まず、ゼロ磁場のまま Tirr 以上の温度から冷却し、ある温度 Tw (但し、Tw < Tirr とする) で時間 tw 保持した後(エイジングとよぶ)、再び最低温度まで冷却する。その後、磁場を印加し、昇温過程で磁化率の温度依存性を記録した。本実験においては Tw= 2.2, 2.5 K、tw= 60 min とした。冷却した後に 2 K で磁場 100 Oe を印加し、5 K までの昇温過程の磁化率を測定した結果を図 4 に示す。

tw= 60 min の場合には、温度 Tw 付近でエイジングを経験させていない、tw= 0 min 測定よりも磁化率の値が小さくなるエイジングメモリー効果がはっきり観測された。tw= 60 min のデータから tw=0 min のデータを差し引いて規格化したグラフが図 4 の挿入図である。これより、Tw= 2.2, 2.5 K のどちらの場合も Tw 付近に明確なくぼみを示すことがわかる。

以上の測定結果より、この物質では 5 K 以下で強磁性的なクラスターが発達し、それらが相互作用しながらランダムに凍結するクラスターグラスが発達していると推測される。その起源は明らかではないが、B サイトに存在する Mn に加えて、 A サイトやC サイトにランダムに配置されるMnが重要な役割を担っている可能性がある。

3.3 (In2/3Mn1/3)(Ge1/3Mn2/3)2O4 の結晶構造の詳細
(In2/3Mn1/3)(Ge1/3Mn2/3)2O4 の結晶構造を図 5 に示す。赤色の球はO を表す。八面体が稜を共有して形成される層と、四面体が頂点を共有して形成される層が重なって構成されていることがわかる。但し、八面体の層1つに対して四面体の層は 2 つある。

八面体の中心、四面体の中心はそれぞれ三角格子を組んでいる。四面体は、ずれて重なっていくことがわかる。図 6 において、八面体中心のうち 2/3 はIn、1/3 はMn であり、四面体中心のうち 1/3 はGe、2/3 はMn である。

仮に八面体サイトのうち 1/3、四面体サイトのうちの 2/3 を占めているMn が、それぞれ規則的に配置されているとした場合にはどのような配置がありうるのかを考える。四面体層について、三角格子のうち 2/3 をMn 原子が占めている最も簡単なモデルは、Mn がハニカム格子を形成しているモデルである。一方、八面体層では三角格子のうちの 1/3 をMn 原子が占めているので、Mn が希釈された三角格子を組むモデルが考えられる。

このような規則性の兆候がみられるのかを、逆格子空間において回折強度をマッピングした画像で調べてみる。図 6 は、様々な結晶で実際に測定したその画像である。

どの画像においても強い回折点が三角格子を形成している。これらは LuFe2O4 型構造の逆格子である。それ以外の場所にも余分な弱い回折が現れているが、その様子は結晶ごとに異なる。例えば、図 6(c), (d) において、逆格子の回折点がつくる三角形の重心の位置に弱い回折点があるように見えるが、これはMn が上述のようなハニカム格子や希釈された三角格子を形成した場合に期待される回折に相当している。したがって、結晶によってはMn はある程度規則的に配置されている可能性がある。

3.4 (In2/3Mn1/3)(Ge1/3Mn2/3)2O4 の磁性
(In2/3Mn1/3)(Ge1/3Mn2/3)2O4 の磁化率の温度依存性を、図 1(b) のような結晶 2 つから成る試料(合計 0.5 mg)について測定した。図 7 に磁化率の逆数の温度依存性を示す。低温まで相転移は見当たらなかった。110 K 以上ではCurie-Weiss 則に従い直線的な挙動であるが、110 K 以下では下方へずれる。300∼110 K の直線部でCurie-Weissフィッティングを行うと、Weiss 温度がΘ= −370K と求まった。このことから、強い反強磁性相互作用がはたらいていることがわかる。また、Curie定数は C= 4.5 emu·K/mol Mn と求まった。これは Mn2+ に期待される値 4.4 emu·K/mol Mn2+とほぼ一致する。

(In2/3Mn1/3)(Ge1/3Mn2/3)2O4 において、低温まで相転移が現れない理由として、Mn が乱れた配置をしているために長距離秩序が妨げられていることや、幾何学的フラストレーションなどが考えられる。逆磁化率において直線的な挙動から下方にずれるのは、低温で実効的なスピン数が減少していることを意味する。その原因としては、例えばLiZn2Mo3O8 でみられるように、[4]Mn 原子が均一に分布せずに複数集まってクラスターを組み、低温ではそれを単位として 1 つのスピンのようにふるまっている可能性があげられる。別の解釈として、例えば Rb2Mn3(VO4)2CO3 でみられるように、[5] 高温部では全ての Mn が磁性に寄与しているが、低温ではハニカム格子を組むMnのみが非磁性状態となり、それらの寄与が消えてしまうことが考えられる。

4 結論
新規ガーネット型酸化物Sm2.8 Mn2.6 Ge2.6 O12は 低 温でクラスターグラスのような磁性を示し、構造との関連が興味深い。(In2/3 Mn1/3)(Ge1/3 Mn2/3)2O4は乱れたLuFe2O4 型構造をとり、低温で実効的なスピン数が減少するような磁性の挙動を示す。その原因は現在のところ明らかではないが、ランダムネスやフラストレーションに起因するものであるなら非常に興味深い。

以上のように、本研究において新規酸化物磁性体を複数発見し、フラストレーションに由来する興味深い磁性を見出すことができた。

参考文献

[1] Y. Okamoto, H. Yoshida, and Z. Hiroi, J. Phys. Soc. Jpn. 78, 033701 (2009).

[2] T. Inami, et al., Phys. Rev. B 64, 054421 (2001).

[3] Y. Matsuo, K. Yoshii, N. Ikeda and S. Mori, J. Cryst. Soc. Jpn. 50, 150 (2008).

[4] J. P. Sheckelton, J. R. Neilson, D. G. Soltan and T. M. McQueen, Nat. Mater. 11, 493 (2012).

[5] T. M. S. Pellizzeri, et al., Dalton Trans. 49, 4323 (2020).

参考文献をもっと見る

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る