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大学・研究所にある論文を検索できる 「進行がん患者におけるまれな症状の頻度とその関連因子を調査した多施設共同観察研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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進行がん患者におけるまれな症状の頻度とその関連因子を調査した多施設共同観察研究

Nishijima, Kaoru 神戸大学

2021.09.25

概要

進行がん患者は多彩な苦痛を抱えており、一般的に終末期になるにしたがって苦痛は増強する。しかしいくつかの症状は適切な治療およびケアによって緩和されることがわかっている。痛みや呼吸困難などの比較的頻度の高い症状は ESAS や IPOS といったアセスメントツールにも組み込まれ日常的に評価されるようになってきているが、まれに出現する症状はほとんど評価されていない。

この研究の目的は大規模観察研究をもって、ホスピス緩和ケア病棟入院中の進行がん患者におけるまれだが苦悩の原因となりうる症状のうち、ミオクローヌス、発汗、掻痒感、吃逆およびテネスムスの頻度を調査し、各症状の関連因子を探索することである。

研究は東アジア(日本・台湾・韓国)のホスピス緩和ケア病棟における終末期医療実態調査を目的としたEast-Asian collaborative Study to Elucidate the Dying process(EASED)の付帯研究として実施した。方法は多施設共同前向き観察研究で、2017 年 1 月から 12 月の間に日本全国 23 施設のホスピス緩和ケア病棟に入院した進行がん患者を連続して登録した。入院時および死亡前 3 日間におけるミオクローヌス、発汗、掻痒感、吃逆およびテネスムスの有無とその重症度について調査し、記述統計で要約した。各症状の関連因子は先行文献のレビュー及び著者間の討論で決定し、単変量解析を行った。

結果、計 1896 例の調査対象中、入院時の各症状はミオクローヌスを 25 名(1.3%; 95%CI 0.9-1.9%)、発汗を 35 名(1.8%; 95%CI 1.3-2.6%)、掻痒感を 66 名(3.5%; 95%CI 2.7-4.4%)、吃逆を 21 名(1.1%; 95%CI 0.7-1.7%)、テネスムスを 13 名(0.7%; 95%CI 0.4-1.2%)に認めた。死亡前 3 日間においてはミオクローヌスを 87 名(5.3%; 95%CI 4.3-6.5%)、発汗を 66 名(4.1%; 95%CI 3.1-5.1%)、掻痒感を 41 名(2.5%; 95%CI 1.8-3.4%)、吃逆を 30 名(1.8%; 95%CI1.2-2.6%)、テネスムスを 15 名(0.9%; 95%CI 0.5-1.5%)に認めた。ミオクローヌス、発汗、吃逆およびテネスムスの有病率は入院時より死亡直前期で増え、掻痒感は減っていた。また発汗、掻痒および吃逆は有症状患者のうち約半数で 1 日中症状が持続していた。各症状に統計学的に有意な関連因子はそれぞれ、ミオクローヌスは脳腫瘍、発汗はオピオイド使用と抗精神病薬使用、掻痒感は肝癌、胆管癌、胆嚢癌、胆汁うっ滞および重症糖尿病、吃逆は男性、消化管閉塞、重症糖尿病および腎不全、膀胱テネスムスは尿路の癌、抗精神病薬使用および抗コリン薬使用、直腸テネスムスは骨盤腔内の癌だった。

本研究はホスピス緩和ケア病棟に入院した進行がん患者のまれな症状の頻度を明らかにした、もっとも大規模な前向き研究のひとつである。本研究でのまれな症状の出現率 0.7%-5.3%は、概ね在宅緩和ケアに紹介された 362 名の進行がん患者における各症状の出現頻度 (0.3-5.0%)と同様だった。入院時と死亡直前期の有病率の変化については、掻痒感を除きすべての症状で入院時よりも死亡直前期での有病率が高かったが、これはまれな症状については治療法や対処法が確立されておらず、ホスピス緩和ケア病棟においても症状緩和に難渋していることに起因する可能性がある。一方掻痒感は入院時よりも死亡直前期で減っているが、これは緩和ケア病棟での治療やケアが奏功しているか、あるいは他の症状に比べより主観的な症状のために死亡直前期の意識レベル低下によって訴えが少なかった可能性もあると考える。症状の重症度はその症状が一時的なものか、あるいは持続的かどうかで判断したが、半数近い患者が 1 日中持続的な症状を呈しており苦痛が強いと推測された。

各症状の関連因子について、本研究では発汗とオピオイド使用、特にモルヒネ使用との関連を認めた。いくつかのケースレポートでオピオイド使用に因ると思われる発汗に抗コリン薬が効果的だったと報告があり更なる研究が望まれる。掻痒感と強く関連を認めたのは胆汁うっ滞だった。胆汁うっ滞の原因になり得る部位に腫瘍のある肝癌、胆管癌、胆嚢癌も掻痒感と関連した。一方、今回の研究ではオピオイド使用と掻痒感の関連は認めなかった。掻痒感はオピオイドの副作用の一つとして知られ、硬膜外腔やくも膜下腔への直接投与や高用量オピオイドの使用でよりリスクが高いことがわかっている。本研究ではオピオイドの硬膜外腔またはくも膜下腔への投与例はごくわずかであったことと投与量が比較的低用量だった(中央値で 1 日経口モルヒネ換算量 30mg)ために、関連性を明らかにできなかった可能性がある。吃逆は迷走神経、横隔神経、脳幹のいずれかの刺激やダメージで発生するため様々な病態が原因となりうる。難治性の吃逆の原因としてもっともよく知られるのが消化管病変、腹部臓器病変、縦隔病変および中枢神経病変であり、我々の結果では消化管閉塞病変、重症糖尿病の存在、男性、重症腎不全が関連因子として抽出された。重症糖尿病は掻痒感にも関連を認めた。進行がん患者が吃逆や掻痒を訴えた場合、その症状が合併疾患である糖尿病に起因している可能性があることにも注意する必要がある。

この研究の限界は、まず調査が患者本人の症状評価だけでなく医療者による症状評価を許容した点が挙げられる。医療者評価は多くの観察研究でよく使われている方法ではあるが、患者が話せない状態にある場合などでは、患者の症状を過小評価した可能性がある。2つ目として死亡前 3 日間の症状については患者死亡後に振り返って評価しているためリコールバイアスが存在する可能性がある。3つ目は生存退院した症例については追跡調査を行っていないこと、4つ目は想定よりも有病率が低く多変量解析のためには症例数が不十分だったこと、5つ目として吃逆のリスクファクターとして報告のあるコルチコステロイドの使用について調査を実施しなかったことが挙げられる。

結論として、この大規模観察研究の結果、進行がん患者において、稀ではあるが出現すると治療に難渋する症状の、実際の頻度とその関連因子が明らかになった。これらの症状は専門的緩和ケアを行っても十分な症状緩和に至っておらず、QoL を低下させている可能性がある。腫瘍の存在部位、合併疾患および使用薬剤から生じ得る各症状の病態生理を理解することが適切な症状緩和に結びつくと思われるが、各症状の原因や経験的に行われている治療の有効性を確認するためには更に大規模な研究が必要である。

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