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大学・研究所にある論文を検索できる 「救急外来に意識障害で来院した小児に対する簡易脳波での非けいれん性発作の検出」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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救急外来に意識障害で来院した小児に対する簡易脳波での非けいれん性発作の検出

Yamaguchi, Hiroshi 神戸大学

2020.03.25

概要

はじめに:小児はしばしば意識障害を主訴に救急外来を受診する。その原因の一つであるてんかん重積状態は緊急の治療介入が必要であり、治療が奏功しない場合は死亡率が高いとされている。てんかん重積状態はけいれん性と非けいれん性の 2 種類がある。けいれん性てんかん重積状態は見た目で比較的簡単に診断できるが、非けいれん性てんかん重積状態は身体所見から判別が困難で脳波が必要である。小児の非けいれん性てんかん重積は珍しくないが、多くは入院後、特に集中治療室(ICU)で初めて診断される症例が多い。このため非けいれん性てんかん重積状態が発症する前に非けいれん性発作を検出する、より迅速で効率的な手段が必要である。兵庫県立こども病院ではより早く非てんかん性発作/重積状態を見つけるために、救急外来で簡易脳波モニタリングを採用している。救急外来での脳波の報告は非常に稀で、救急外来で脳波を行うことが臨床結果にどう影響するかは不明である。この研究の目的は救急外来で意識障害を呈した小児の非けいれん性発作の検出率を明らかにし、非けいれん性発作検出群と非検出群の臨床的特徴、治療、予後を比較することである。

方法:本研究は後ろ向きコホート研究で、兵庫県立こども病院の倫理委員会の承認を得て行われた。2016 年 5 月 1 日から 2018 年 4 月 30 日までに、兵庫県立こども病院の救急外来を受診した 18 歳未満の患者は 13,696 人だった。このうち 932 人が意識障害を呈した。初期評価後に非けいれん性発作が疑われる症例 246 人に対して、救急医により簡易脳波が施行された。脳波モニタリング中にけいれん性発作を認めた患者(n = 4)は除外し、残りの 242人の患者の非けいれん性発作の検出率を解析した。次に非けいれん性発作検出群と非検出群の比較のため、複数回受診した症例に関しては最初の来院データのみを解析することで、それぞれの患者の臨床的特徴、治療、および予後を比較した。本研究では、簡易脳波の装着と抗てんかん薬の投与は救急医の裁量に任された。簡易脳波モニタリングシステムはポータブルデジタル簡易脳波システム(EEG-9100、日本光電)を使用し、両側前頭部と後頭部のみの 4 点誘導を用いた。

結果:本研究で意識障害を呈した患者の年齢は中央値 43.9 か月で、性差は無かった。初期評価の Pediatric Cerebral Performance Category (PCPC)の中央値は 1 で、Glasgow Coma Scale (GCS)の中央値は 8 だった。救急外来到着前に患者の 84.3%でけいれん発作があり、最も多かったのは全身性強直間代性けいれん(86.3%)であった。けいれん発作の持続時間の中央値は 35.0 分であった。神経初発症状から救急医による初期評価までの時間は中央値で 87.0 分、初期評価から脳波モニタリングまでの中央値は 20.5 分であった。

本研究では 242 人中 41 人(16.9%)の患者で非けいれん発作が検出された(95%CI、12.2%-21.6%)。非けいれん性発作の脳波所見は非特異的であったが、律動的な evolution を伴うデルタ波が最も多く、28 人(68.3%)に検出された。41 人のうち 38 人の患者が実際に抗てんかん薬で治療介入され、発症から 30 日後の予後では 33 人が後遺症を発症しなかった。残りの 8 人は、3 人が神経学的後遺症を発症した(1 人が難治性筋緊張亢進、1 人はてんかん、1 人は不完全右上肢麻痺)。そして 2 人が死亡し 1 人はインフルエンザB 型による急性脳症、もう 1 人は低血糖症であった。3 人がフォローアップから逸脱した。

非けいれん性発作が検出された 41 人の患者のうち、5 人は神経内科医が救急外来で救急医とともに脳波の解析を行い抗けいれん薬が投与され、これらの患者のうち 2 人は神経学的合併症(てんかんと難治性筋緊張亢進)を発症した。残りの 36 人の患者は救急医のみで簡易脳波の解釈が行われ、非けいれん性発作のすべての症例を救急医のみで診断することが可能であった。3 人の患者は非けいれん発作が自然に消失したため抗てんかん薬が投与されなかったが、33 人の患者は救急医のみで実際に治療介入され、神経学的後遺症(不完全な右上肢麻痺)を 1 人が発症し、2 人が死亡した。しかしながら、評価された 242 人の患者のうち 13 人(5.3%)において、救急医は非けいれん性発作があると判断したが、後日神経内科医の最終診断は非けいれん性発作ではなかった。非けいれん性発作の誤診断は、律動的デルタ波を非けいれん性発作として誤って診断し介入れた(92.3%)。しかしながら 1 人を除く 12 人の患者(フォローアップから逸脱)は神経学的後遺症を発症しなかった。

次に救急外来で非けいれん発作が検出された患者とされなかった患者の初回来院時のみの特徴の比較では(非けいれん性発作患者 33 人、非けいれん性発作のない患者 173 人)、救急医による初期評価から簡易脳波モニタリングの開始までの時間は、非けいれん性発作検出群が非検出群よりも有意に短かった(中央値:15.0 分対 22.0 分(非けいれん性発作検出群 対 非検出群)。また ICU に入室した患者の割合は、非けいれん性発作検出群で有意に高かったが(30.3% 対 15.0%)、入院率または入院期間の合計は、グループ間で統計的に有意な差はなかった(それぞれ 87.9% 対 82.7%および 3.0 日 対 2.0 日)。また 30 日での神経学的後遺症および死亡率は、2 つのグループ間で有意差はなかった(それぞれ 9.7% 対 5.7%および 3.2% 対 0%)。

考察:本研究では、意識障害を呈した小児患者が救急外来で簡易脳波を介して検出された非けいれん性発作は 16.9%であり、意識障害を呈したすべての患者の 4.4%を占めていた。簡易脳波モニタリングにより、非けいれん性発作の患者 10 人中 1 人から 2 人が治療介入できる可能性があることを示した。その値は予想以上に高く、救急外来での脳波モニタリングの重要性を示していると考えられる。

救急外来の脳波の報告は稀だが、Alehan らは小児患者のうちけいれん発作のないてんかん患者の 23.8%(21 人中 5 人)が、救急外来の脳波で非けいれん性発作が検出されたと報告した。我々の結果と同様にこれらの研究も意識障害を呈した非けいれん発作/非けいれん性てんかん重積患者の比較的高い割合を報告している。したがって、救急外来での脳波は、非けいれん性発作の迅速な検出と治療介入に貢献すると考えられた。それにもかかわらず、救急外来での脳波の使用は限られている。その原因として、1)救急外来で 20 以上の電極を装着するには訓練を受けた技術者または神経科医が必要になること、2)救急外来で通常脳波を付ける際はかなりの時間を要すること、3)ほとんどの病院で救急外来に脳波がないなどが挙げられる。本研究では、両側前頭部と後頭部の 4 つの電極で構成される簡易脳波を救急外来で 10 年以上前から導入している。この簡易脳波により、救急医は非けいれん発作/非けいれん性てんかん重積を簡便かつ迅速に検出することができる。

非けいれん性てんかん重積状態は、重症患者の死亡率と予後不良に関係している。 Topjian らは、非けいれん性てんかん重積と死亡リスクの増加(オッズ比 5.1)および PCPCの悪化(オッズ比 17.3)との関連を報告した。したがって救急外来で非けいれん性発作を検出するための脳波は合理的である。本研究ではさらに、非けいれん発作検出群と非検出群の予後を比較し、神経学的後遺症の発生率または 30 日後の死亡率には差がなかった。このことは救急外来での非けいれん性発作の早期治療が、患者の予後改善に寄与する可能性があることを示唆する。

本研究では、救急医により簡易脳波を施行し非けいれん性発作を認めたすべての患者に抗てんかん薬の治療が行われていたが、患者の 5.4%は非けいれん性発作でなかった場合も治療介入がされていた。これらの介入された患者は多くの場合、徐波の持続を非けいれん発作があると誤解されていた(92.3%)。しかしながら介入された患者は全員後遺症を認めなかったことから、このような早期の介入は許容されると考えられる。その理由は救急医が非てんかん性発作か違うかを判断できない場合、神経内科医に相談して介入する場合は時間をロスしてしまう可能性があるからでる。

本研究はいくつかの制限がある。最も重要な制限は、簡易脳波の装着に明確なプロトコールが存在せず、救急医の裁量であったことである。したがって選択バイアスが存在する可能性があり、本研究の結果が本研究以外の小児にそのまま当てはめることができるかどうかは不明である。次に本研究の簡易脳波は 4 点誘導なので、両側前頭部または後頭部以外の部分的な非けいれん性発作を見逃している可能性がある。そして救急外来で行われた簡易脳波モニタリング時間が十分であったかも不明である。最後に本研究の予後は 30 日でしか評価されておらず、より長期的な予後は不明である。

結論:本研究は救急外来で意識障害を呈する小児患者では非けいれん性発作が比較的高く検出されることを報告した。そして救急外来で非てんかん性発作を検出し介入することが、神経学的予後や死亡率を改善した可能性がある。簡易脳波モニタリングは神経内科医が不在な場合でも救急医が簡単に装着と評価ができ、非けいれん発作の治療に寄与すると考えられる。

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