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大学・研究所にある論文を検索できる 「次世代シークエンサーを用いたトゥレット障害感受性遺伝子の探索」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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次世代シークエンサーを用いたトゥレット障害感受性遺伝子の探索

稲井, 彩 東京大学 DOI:10.15083/0002001411

2021.09.08

概要

トゥレット障害(Tourette’s disorder)はチック障害のうち多彩な運動チックと 1 つ以上の音声チックの両方が長期にわたって続くものと分類されている。トゥレット障害の原因については遺伝要因と環境要因の両方の関与が想定されているが、現在でも不明である。遺伝要因については、双生児研究や家族研究の結果からその関与が示唆されてきた。このような知見をもとに、連鎖研究(linkage study)や関連研究(association study)などの手法によるトゥレット障害の原因遺伝子の探索が行われてきた。分離比解析(segeregation analysis)から常染色体優性遺伝形式が想定され、これに基づいてパラメトリック法による複数の連鎖解析が行われてきたが、結果は一致しておらず、候補遺伝子の同定にまで至った研究も限られている。関連研究の対象となってきた候補遺伝子には、モノアミン系の受容体や代謝に関わるものや、染色体異常を示す特殊なケースを発端として同定されたものが多い。モノアミン関連では、ドーパミン受容体(dopamine D1 receptor :DRD1、D2 receptor: DRD2、D4 receptor: DRD4、D5 receptor: DRD5)やノルアドレナリン受容体(alpha-2A adrenergic receptor: ADRA2a、alpha-2C adrenergic receptor: ADRA2C)、セロトニントランスポーター( serotonin transporter: 5HTT )、モノアミン酸化酵素(monoamine oxidase A: MAO-A)などが候補遺伝子として検討されてきたが、再現性のある結果は得られておらず関連は否定的である。染色体異常を示すケースから同定された遺伝子には、Inner mitochondrial membrane peptidase, subunit 2 ( IMMP2L ) や contactin-associated protein-like 2 (CNTNAP2)、Slit and Trk-like 1 (SLITRK1)、 neuroligin-4, X-linked (NLGN4X)などがあるが、一貫した結果とはなっていない。近年、 The Tourette Syndrome Association International Consortium for Genetics によって行われたゲノムワイド関連研究(genome-wide association study: GWAS)では強い関連を示す SNP は認めず、ありふれた変異(common variant)の中には高い影響を持つものはない可能性が示唆されている。

頻度は稀ではあっても、罹病性への寄与の大きな変異(rare variant)であれば、手掛かりとなる特殊な家系が見出されれば同定につながる可能性があり、近年の次世代シークエンサーなどに見られる技術的な進歩とも相まって、より多くの注目を集めるようになっている。また、別の遺伝学上の問題点として、これまでの研究のほとんどが白人集団を対象として行われたものであることがあげられる。遺伝子変異の頻度は集団間によって大きく異なっているため、これまで欧米で検討されてきた候補遺伝子についても、集団が異なれば疾患の発症メカニズムにおける役割や影響も変わってくる可能性が考えられる。特に、日本人集団においてトゥレット障害の感受性遺伝子を検討した研究はこれまでになく、日本人集団を対象として既存の候補遺伝子についての追試や、新規候補遺伝子の探索を行うことはトゥレット障害の病態解明という点でも極めて重要である。以上を踏まえ、今回、多数サンプルをシークエンスできる次世代シークエンサーを利用して日本人のトゥレット障害患者を用いた感受性遺伝子の探索を試みた。

研究 1:日本人集団における SLITRK1 のトゥレット障害感受性遺伝子としての役割の検討 Abelson ら(2005)は、ADHD を併存するトゥレット障害患者 1 名が染色体異常inv(13) (q31.1;q33.1)を有することを見出し、その近傍に SLITRK1 が存在することに注目した。白人を中心とするトゥレット障害患者 174 名について SLITRK1 上に新たな変異がないかどうかについてさらに調べたところ、そのうちの 1 名で翻訳領域 にフレームシフト変異である c.1264delc を同定し(varCDf と呼ばれる変異)、また別の 2 名では 3'-非翻訳領域(3'-untranslated region:3’-UTR)に存在する micro RNA hsa-miR-189 の結合部位において変異c.2977 + 2067G > A を同定した(var321 と呼ばれる変異)。SLITRK1 はトゥレット障害の有力な候補遺伝子の 1 つとして注目されてきたが、研究が進むにつれてトゥレット障害の病態に果たす役割は曖昧になっている。また、これまでの報告は欧米が中心であり、日本人を含むアジア人集団を対象とした研究はない。研究1では、まず日本人トゥレット障害患者を対象として、次世代シークエンサーを用いたターゲットリシークエンスを行い、var321・varCDf を含む SLITRK1 の rare variant を探索し、次いでSNP を利用した関連研究によって SLITRK1 とトゥレット障害の関連について検討した。

対象は日本人のトゥレット障害患者 94 名(男性 69 名、女性 25 名:年齢 22.4 ± 9.83 歳(平均値±標準偏差))と性別の割合を一致させた健常対照者 362 名(男性 268 名、女性 94 名:年齢 39.5 ± 9.84 歳、平均値±標準偏差))である。Yale チック重症度尺度(Yale Global Tic Severity Scale: YGTSS)得点が 0 点であり、評価時にチックを認めない 2 名を除いた 92 名を解析対象とした。患者末梢血から DNA を抽出し、MiSeq(Illumina 社製)を用いたシーケンシングに推奨されるプロトコールに従って各サンプル毎の SLITRK1 の変異情報を得た。各サンプルの各アンプリコン毎にどれだけリードを重ねたかがカバレッジの数としてデータが得られており、カバレッジ>20 の領域について変異をリストアップした。さらにこれらの変異のうち、NCBI dbSNP Build 138 に挙げられている SNP を既知の変異として除き、非同義置換の変異を探した。var321 については、別途サンガー法によって変異の有無を確認した。関連研究は rs9546538、rs9531520、rs9593835 の 3 SNP を用いて行い、TaqMan® SNP Genotyping Assays およびABI PRISM 7900HT Sequence Detection System(いずれも Applied Biosystems 社製)を用いて遺伝子タイピングした。アレル頻度および遺伝子型分布はカイ二乗検定を用いて比較し、ハプロタイプ頻度の比較はSNPAlyze 5.1 Standard(DYNACOM 社製)を用いてpermutation 法により行った。

本研究では、 日本人トゥレット障害患者において varCDfs も var321 も新規の非同義置換もなかった。既報の var321 に関する再現研究では、トゥレット障害だけでなく健常者にも var321 をもつ者が見つかっており、また var321 が特定の民族に多い多型である可能性が示唆されている。トゥレット障害の主要な病因が varCDfs または var321 ではないことが示唆される。一方、患者群と健常対照群との間で rs9546538、rs9531520、rs9593835 から成るハプロタイプの分布に有意差が見られたことから、トゥレット障害の病因における SLITRK1 の感受性遺伝子としての役割を示唆する先行研究と矛盾しなかった。従って、トゥレット障害の病因には SLITRK1 が関連する可能性が部分的に支持されたと考えられる。

研究 2:日本人集団におけるトゥレット障害感受性遺伝子の探索
トゥレット障害の主要な病因として SLITRK1 が有力とされてきたにもかかわらず明らかな原因とするまでの結果が得られなかったことから、疾患関連遺伝子の同定を試み、日本人トゥレット障害患者を対象に全エクソーム解析を行った。

対象は日本人のトゥレット障害患者 67 名(男性 53 名、女性 14 名:年齢 21.9 ±9.383 歳(平均値±標準偏差))である。このコントロールデータとして、Integrative Japanese Genome Variation Database (Aug. 29, 2014) (iJGVD)から得た常染色体上の既知の SNV で頻度が 5%を超えるもののリストを使用した。確認実験の対象は、研究 1 における対象も合わせたトゥレット障害患者の総数 94 名(男性 69 名、女性 25 名:年齢 22.4 歳±9.83 歳(平均値±標準偏差))から本研究の解析対象とした前述の 67 名を除いた 27 名(男性 16 名、女性 11 名:年齢 23.7 ± 10.8 歳(平均値±標準偏差))、さらに性別の割合を一致させた健常対照者 361 名(男性 267 名、女性 94 名:年齢 39.5 ± 9.84 歳(平均値±標準偏差))である。

患者末梢血から DNA を抽出し、Hiseq2000(Illumina 社)を用いたシーケンシングに推奨されるプロトコールに従って得られた各サンプルの全エクソン配列情報を Q20 未満の塩基がリード中に 20%をこえる場合を除外条件に設定してアライメントし、一塩基置換
(SNV)、挿入欠失(INDEL)をコールした。クオリティスコアが 50(INDEL)、30(SNV)であり、全サンプルが 20 回以上カバーされている領域の変異のみを抽出して患者サンプルの変異リストを作成した。

この変異リストから、機能変化を伴う非同義置換またはフレームシフトまたは停止コドンとなる SNV および INDEL を抽出し、文節的重複(segmental duplication)を除いたリストを作成し、このリストとコントロールデータである IJGVD とで position が一致する SNV のみを抽出してリストをマージした。さらに 95%以上のサンプルでリードが得られている SNV を抽出した。各々の SNV に対してトゥレット障害患者サンプルデータと iJGVDデータのアレル数を χ 二乗検定して、ボンフェローニ補正を行いゲノムワイドに有意差がある SNV を抽出した。確認実験として新規にリクルートしたトゥレット障害患者サンプル 27 名をサンガー法で塩基を決定し、健常対照者サンプル 362 名についてはTaqMan® 法とサンガー法で決定した。これにより得られたトゥレット障害患者群および健常対象群のアレル数をχ 二乗検定した。

さらに、トゥレット障害は heterogeneous な疾患であると想定されているので、患者群を併存疾患の種別で層別化した解析を行った。1 つは PDD が併存するトゥレット障害 10 名を除いて PDD が併存しないトゥレット障害患者 57 名に対象を限定した解析であり、もう一つはADHD、OCD、PDD の 3 つの併存疾患が存在しないトゥレット障害患者 30 名に対象を限定した解析である。

これらの課程によりトゥレット障害患者 67 名のデータから得られた SNV は rs10790978のみであった。併存疾患の種別で層別化した解析ではゲノムワイドに有意差がある SNV はなかった。しかし、新規に集められる限りのトゥレット障害患者 27 名と健常対照者 362 名での確認実験ではこの結果を再現できなかった。独立サンプルでの検証を行うにはサンプルサイズが小さく、今後さらなるリクルートによりサンプル数を増やして確認実験を行う必要があると考える。

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