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大学・研究所にある論文を検索できる 「木材の強度発現機構に関する微細構造学的研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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木材の強度発現機構に関する微細構造学的研究

李, 昶九 LEE, Changgoo 名古屋大学

2020.04.02

概要

近年, 建築分野における環境負荷の低減に対する社会的要請は強く, その指標であるLCA( Life-cycle assessment)の観点から, 建築物や構成材料の長寿命化とこれに対する科学的評価の確立は急務である. 材料の力学的耐久性を明らかにするためには,強度発現機構を解明し, 使用環境がこれに及ぼす影響を明らかにする必要がある. 木材は,コンクリートや鉄と並ぶ主要建築材料の一つである.しかし,ほかの2材料と比べて強度発現機構の解明は遅れている. その一因は, 木材が生物材料であることに起因する寸法効果の影響にある. 現在, 実際に建築物で利用される木材( 実大材) の力学性能に関する研究は, まだその性能を把握するための試験方法の確立とバラツキの評価にとどまっている. 一方で, 木材を構成する化学成分や木部の微細形態としての細胞壁の研究は知見が蓄積されている. すなわち, 構造材として使用される実大材の力学的耐久性を評価するためには, まず木材の強度発現機構をセミミクロオーダーで解明する必要がある.

以上の背景の下, 本研究では木材の力学性能に大きな影響を及ぼす年輪構造を有する構造レベルに着目し, 微細構造と木材Bulkの力学挙動の関係を明らかにするとともに, これに及ぼす経年使用の影響を実験的に把握することを目的とした. 木材の力学的負担は主に仮道管細胞壁2次壁のS2 層のセルロース鎖が担っていると考えられ,これに関するXRD( X-ray diffraction measurement) 研究が行われている. しかし, 先行研究ではセルロース鎖の力学挙動を明らかにすることが第一義であり, 試験片は最大数 mm厚の薄片のため年輪構造の影響は含まれていない.また,セルロース鎖の量の多い仮道管細胞壁2次壁のS2 層に知見が限定されている.複数の年輪構造を有した試験片を対象に内部の力学挙動や, セルロース鎖の量の少ないS1 層およびS3 層の力学挙動を明らかにするためにはより強力な光源を用いたXRD研究が必要である.

本研究では, 強力な光源を有するシンクロトロン光を用いて複数の年輪構造を有する木材試験片を対象にその力学挙動の XRD 測定を試みた.また,XRD 測定について, 2 種類の回折法( In-plane 法( 透過法) と Out-of-plane 法( 反射法) ) により仮道管細胞壁 2 次壁各層のセルロース鎖の力学挙動について測定を試みた.

まず, 複数年輪を含む新材および構造材として 250 年間使用された木材( 本論文では, これを古材とする) の試験片( 厚さ 5mm) を対象に, シンクロトロン光を用いた XRD 測定を行った.その際,透過法と反射法の 2 種類の回折法を用いて仮道管細胞壁 2 次壁各層のセルロース鎖を測定した. 得られた知見は以下の通りである.

1. 2D 回折図形は, XRD 回折法の違いにより大きく異なるパターンを示した. この回折図形を基に解析した方位角分布曲線および 2θ 回折強度曲線も回折法により異なるスペクトルを示した.

2. 方位角分布曲線からセルロース鎖の主配向方向( MFA) を求めた結果, 透過法により求めた MFA は約 9°で, 仮道管細胞壁 2 次壁の S2 層のセルロースミクロフィブリルの配向角( 5〜30°)と合致した.これに対して,反射法では約 75°で,仮道管細胞壁 2 次壁の S1 層や S3 層のセルロースミクロフィブリルの配向角( S1 層:60〜80°,S3 層: 60〜90°) と合致した.

3 .X 線回折強度曲線( 2θ 回折強度曲線)から半値幅 FWHM( Full-width at half maximum)と 2θ 累積強度を求めた結果, 反射法の FWHM は透過法の約 3.5 倍となり, セルロース( 004 面) の間隔のバラツキが大きいことがわかった. 一方, 透過法の 2θ 累積強度は反射法の約 13 倍となり,回折方法によって測定されたセルロースの量に大きな差異が認められた. さらに, 仮道管細胞壁 2 次壁各層内のセルロース鎖の結晶部の量を推定したところ, 透過法の推定量は反射法の約 7 倍となった. このようなセルロース結晶部の比率は,仮道管細胞壁 2 次壁内のセルロース分布を反映していると考えられた.

4. 以上の結果に関して, 新材と古材の違いは認められなかった.

次に, 仮道管細胞壁 2 次壁各層に存在するセルロース鎖の力学挙動を, 複数年輪を含む新材試験片( 厚さ 5mm)に単軸荷重( 引張,圧縮)を与えながら,XRD 測定した.得られた知見は以下の通りである.

1.試験片( 以降,木材 Bulk とする)の力学挙動と仮道管細胞壁 2 次壁内のセルロース鎖のそれとは必ずしも一致せず, 伸縮の動きにズレを生じていることがわかった.

2.剛性の発現を開始する荷重レベルについて,木材 Bulk は負荷当初から剛性を発現するが, 負荷モード( 引張・圧縮) や仮道管細胞壁 2 次壁の層によってはセルロース鎖の力学挙動に遅れを生じる場合があった.

3. 仮道管細胞壁 2 次壁の S2 層のセルロース鎖の剛性と S1 および S3 層のセルロース鎖の剛性を比較すると, S2 層の方が S1 および S3 層より引張と圧縮のいずれにおいても大きい. ただし, セルロース鎖の量を考慮すると大差がないことを明らかにした.

4. セルロース鎖の配向性や面間隔 d004 のばらつきに及ぼす単軸荷重の影響を調べたところ, 圧縮負荷は影響しないことがわかった. 圧縮負荷と比べれば引張負荷は明確に影響したが, その影響は, たとえば, 引張負荷により配向性が整うというような単純なものではなかった. このことは, 力学挙動の主は担い手は仮道管細胞壁 2 次壁のS2 層のセルロース鎖と考えられるが, その挙動にはセルロース鎖を取り巻くマトリクスやマトリクスとセルロース鎖の結合関係, さらにこれらに及ぼす力学負荷の影響が関与していることを示唆している.

最後に, 古材の仮道管細胞壁 2 次壁各層に存在するセルロース鎖の力学挙動を,複数年輪を含む試験片( 厚さ 5mm)に単軸荷重( 引張,圧縮)を与えながら,XRD 測定した. 得られた知見は以下の通りである.

1.古材においても,木材 Bulk の力学挙動と仮道管細胞壁 2 次壁内のセルロース鎖のそれとは同調しておらず, 伸縮の動きにズレを生じていることがわかった.

2. セルロース鎖が剛性の発現を開始する荷重レベルは, 引張負荷に対しては古材の方が新材に比べて高く, 負荷に対する力学的反応が鈍かった. 一方, 圧縮負荷に対しては古材の方が荷重レベルが低く, 負荷に対する剛性発現の反応は早かった. また,古材 S1 層および S3 層セルロース鎖の圧縮剛性が消失する荷重レベルは他と比べて小さく, 特徴的であった.

3. セルロース鎖の剛性をセルロース鎖の量で基準化した剛性 SKC は, 圧縮負荷下の S2 層では古材の方が新材より大きい. 木材 Bulk の比ヤング率 KB もこれを裏付ける結果となっており,セルロース鎖の基準化剛性 SKC は,木材 Bulk の剛性と密接な関係を持つパラメータである可能性が考えられる.

4. 古材セルロース鎖の配向性や面間隔 d004 のばらつきに及ぼす単軸負荷の影響を調べた. その結果, S2 層で負荷の影響が見られ, 引張荷重下では, 負荷の増大とともにこれらのばらつきが小さくなり, 配向性や面間隔 d004 が整う傾向を示した. これに対し, 圧縮負荷下では配向性のばらつきが大きくなる傾向を示した. また, S1 層および S3 層のセルロース鎖では, 負荷はあまり影響しなかった.

本研究より, 古材のセルロース鎖は新材ほどではないが引張負荷の増加とともに配向が揃い始めることが示唆された.これに対して,圧縮荷重下における古材 S2 層セルロース鎖の挙動は特異的であり, 圧縮負荷の増大とともにセルロース鎖の配向のばらつきが大きくなるか, あるいは配向の蛇行性がより強くなることが示唆された. このように圧縮荷重下において古材セルロース鎖に特徴的な挙動が見られたのは, 古材化によりセルロース鎖の動きを制御・拘束している何らかの因子が緩くなり, これにより座屈に似た蛇行現象が現れたのではないかと考えられる. 木材の力学挙動を主に担うのは S2 層のセルロース鎖であると考えられるが,本研究の結果によれば,その挙動にはセルロース鎖を取り巻くマトリクスやマトリクスとセルロース鎖の結合が関与していると考えられ, 古材化の過程においてこの結合関係が変質している可能性が示唆された.

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