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大学・研究所にある論文を検索できる 「下部直腸癌における術前化学放射線療法の術後の排尿機能および肛門機能への影響」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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下部直腸癌における術前化学放射線療法の術後の排尿機能および肛門機能への影響

平田, 悠悟 東京大学 DOI:10.15083/0002005127

2022.06.22

概要

【研究の目的】
 現在、進行下部直腸癌に対する欧米の標準治療は、術前化学放射線療法(CRT))または術前放射線療法(RT)ののちに全直腸間膜切除(TME)手術を行うか、もしくは術前化学療法ののちに術前CRTを行い、TME手術を行うというものである。一方、本邦では進行下部直腸癌に対してTMEに加えて側方リンパ節の郭清を行うことが標準治療とされており、最新の大腸癌治療ガイドラインでは術前CRTについては「行うことを弱く推奨する」という記載にとどまっている。東京大学医学部附属病院大腸・肛門外科では早期から欧米で行われていた術前RTの有用性に着目し、1984年に腹膜翻転部以下にある進行下部直腸癌に対して術前RTを導入し、2003年からは術前CRTを施行してきた。TME術後の排尿機能障害は0%-40%、排便機能障害は30%-45%、性機能障害は10%-70%といわれている。一方で、下部直腸癌に対する術前CRTが術後の排尿機能、排便機能、性機能を低下させるかについては報告が少なく、欧米においても評価が定まっていない。以上のような背景を踏まえ、本論文の第1章では下部直腸癌に対する術前CRTの術後排尿機能への影響を、また第2章では下部直腸癌に対する術前CRTの術後排便機能への影響を検討した。

【背景】
第1章 下部直腸癌に対する術前化学放射線療法の術後排尿機能への影響に関する比較検討
 進行下部直腸癌においては、手術により残尿、頻尿、尿勢低下といった排尿機能障害が起こりうる。TME手術を行っている現在でも術後6%-14%に薬物治療だけでは改善しえない重度の排尿機能障害を認めており、大きな合併症の一つである。術前CRTは局所再発率を有意に下げるが、術後の排尿機能を低下させる可能性が示唆されている。本研究では、術前CRTが下部直腸癌における術後の排尿機能に与える影響を検討するため、手術単独群とCRT+手術群で比較を行い、既存の報告がない術後1ヶ月での測定を含めて解析した。

【対象と方法】
 2014年1月から2016年12月までに東京大学医学部附属病院大腸肛門外科で下部直腸癌と診断され、リンパ節郭清を伴う手術を施行した症例を対象とした。術前CRTは原則として腹膜翻転部以下にかかる進行下部直腸癌(cT3-T4、リンパ節転移の有無を問わない)に対して総照射量50.4Gyを28分割、週5回の照射で施行し、併用する化学療法としてテガフール・ウラシルならびにホリナートカルシウムを照射日に合わせて経口投与した。術式としては低位前方切除術(LAR)、括約筋間切除術(ISR)または腹会陰式直腸切断術(APR)を施行した。排尿機能はInternational Prostatic Syndrome Score (IPSS)および Quality of life index (QoL index)による質問紙票を用いて、術後1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月に評価を行った。IPSSとQoL indexを、実際のスコアのほか、術後の各スコアから治療前のスコアを減じた変化量を、手術単独群とCRT+手術群の間で比較した。また治療群別に、各項目のスコアの治療前と術後の推移を検討した。

【結果】
 研究期間中に下部直腸癌に対して手術(LAR,ISR,APR)を行った症例で、手術単独群34例とCRT+手術群29例を最終的に解析した。IPSSおよびQoL indexの項目におけるスコアの治療前からの変化量は、術後いずれの時点においても手術単独群とCRT+手術群の間で有意差を認めなかった。
 IPSSとQoL indexの各項目のスコアを治療前と術後6ヶ月で比較すると、手術単独群では“夜間頻尿”のスコアが有意に上昇し、CRT+手術群では“尿意圧迫感”と“尿勢低下”のスコアが有意に上昇した。また、術後6ヶ月の時点での排尿機能は、手術単独群、CRT+手術群術後ともに重度の排尿機能障害は認められなかった。

【考察】
 術前CRTは術後排尿機能に有意な影響を及ぼさないと考えられた。CRT+手術群において“尿意切迫感”と“尿勢低下”の項目のスコアは術後6ヶ月の時点で上昇したままであった。単施設で対象症例が少ないことが本研究の限界であり、また上記の項目がその後回復するのかについては、長期観察による検討が必要と考えられた。

【背景】
第2章 下部直腸癌に対する術前化学放射線療法の術後排便機能に関する比較検討
 進行下部直腸癌の患者においては、TMEによる手術後に約30%-45%の頻度で排便障害をきたすとされ、、low anterior resection syndrome(LARS)として認知されている。具体的には切迫性便失禁、漏出性便失禁、排便後1時間以内の再排便、頻便などの症状を訴えるものである。術前CRTが術後の排便機能をさらに悪化させるとする報告がある。これらの報告の多くは、Wexner score、St Mark’s score、European Organization for Research and Treatment of Cancer Quality of life questionnaire、LARS scoreなどの質問紙票を用いて術後の排便機能評価を行っているが、肛門機能検査を用いて評価したものは少ない。本研究では、術前CRTが下部直腸癌の術後の排便機能に与える影響について検討するため、手術単独群とCRT+手術群で肛門機能検査および質問紙票を用いて術前および術後の排便機能の比較を行うこととした。

【対象と方法】
 2013年1月から2016年12月までに東京大学医学部附属病院大腸肛門外科で下部直腸癌と診断され、リンパ節郭清を伴う手術を施行した症例を対象とした。術前CRTは第1章で前述した方法で施行した。術式としてはLARまたはISRを施行した。肛門機能検査は最大静止圧(MRP)と最大随意収縮圧(MSP)を治療前、術後6ヶ月、12ヶ月の3回で測定した。術後のMRP、MSPの値は治療前を1とした場合の相対値を計算した。質問紙票はWexner scoreを用いて、治療前と術後12ヶ月に評価した。Wexner scoreについては、術後のスコアから治療前のスコアを減じた値を、手術単独群とCRT+手術群の間で比較した。

【結果】
 LAR症例においては、手術単独群58例とCRT+手術群26例を最終的に解析した。相対的MRPは治療前と術後6ヶ月の比較において、手術単独群では21%低下し、CRT+手術群では22%低下した。両群間の比較では、相対的MRPは術後6ヶ月、術後12ヶ月でともに有意差を認めなかった。一方、相対的MSPは治療前と術後6ヶ月の比較において、手術単独群では12%低下し、CRT+手術群では21%低下した。両群間の比較では、相対的MSPは術後6ヶ月、術後12ヶ月においてCRT+手術群で低い傾向を認めたが、有意差を認めなかった。Wexner scoreは、手術単独群で+3.0点、CRT+手術群で+4.0点と術後に有意に上昇した。しかし、両群間でWexner score変化量に差はみられなかった。
 ISR症例においては、手術単独群14例とCRT+手術群15例を最終的に解析した。相対的MRPは治療前と術後6ヶ月の比較において、手術単独群では22%低下し、CRT+手術群では43%低下した。両群間の比較では、CRT+手術群の方が術後6ヶ月で相対的MRPが低い傾向を認めるも、術後12ヶ月で有意差を認めなかった。一方、相対的MSPは治療前と術後6ヶ月の比較において、手術単独群では11%低下し、CRT+手術群では33%低下した。両群間の比較では、CRT+手術群の方が術後6ヶ月で相対的MSPが有意に低かったが、術後12ヶ月では有意差を認めなかった。Wexner scoreは、手術単独群で+5.1点、CRT+手術群で+5.3点と術後に有意に上昇した。しかし、両群間でWexner scoreの変化量に差はみられなかった。
 最後にLARおよびISR施行症例計113例において、術後12ヶ月の相対的MRP、MSPに関連する因子を多変量解析で検討した。術後12ヶ月における相対的MRPの低下にはISR術式(回帰係数=-0.22)とBMI高値(回帰係数=-0.34)が相関した。術後12ヶ月における相対的MSPの低下にはISR術式(回帰係数=-0.16)と術後化学療法の施行(回帰係数=-0.083)が相関した。相対的MRPおよび相対的MSPに術前CRTは相関しなかった。

【考察】
 進行下部直腸癌の治療による術後排便機能では、術後12ヶ月までの肛門機能検査とWexner scoreで解析した結果、LARあるいはISRの施行自体が機能低下に関与しており、術前CRTの影響は小さいと考えられた。しかし、単施設のデータであり対象症例が少ないことや、観察期間が術後1年までであり、術前CRTが排便機能に及ぼす長期的な影響に関しては不明であり、さらなる観察が必要と考えられた。

【結論】
 術前CRTは、進行下部直腸癌におけるTME手術後の排尿機能および排便機能に大きな影響を及ぼさないと考えられた。

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