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藻場に生息する葉上動物の群集構造と種多様性に関する研究

中本, 健太 東京大学 DOI:10.15083/0002004229

2022.06.22

概要

第1章 緒言
 藻場を構成する海藻や海草の藻・草体上には、葉上動物と呼ばれる端脚類や巻貝類などの小型無脊椎動物がしばしば高密度に生息する。葉上動物は、藻場生態系の主要な構成者であるとともに、藻場の食物網において、一次生産者である植物と水産有用種を含む高次捕食者をつなぐ重要な役割を担っている。
 藻場は主要な構成植物種によって海藻藻場と海草藻場に分かれる。海藻類と海草類では藻・草体の形状や無脊椎動物に対する餌料価値等が異なるため、葉上動物の群集構造も異なると考えられる。しかし、海藻類と海草類で葉上動物の群集構造を比較した研究例は少なく、葉上動物の群集構造が海藻類と海草類でどのように異なるのかよくわかっていない。
 また、藻場は熱帯域から極域にかけて広く形成されるため、葉上動物の群集構造も海域によって異なると考えられる。海域による生物群集の違いによって生じる最も有名な現象の一つとして、生物種多様度の緯度勾配が知られる。すなわち、生物の種多様度は低緯度域ほど高く、高緯度域ほど低いという現象である。葉上動物の種多様度に緯度勾配が存在するかどうかはわかっていないが、存在するとすれば、植物1種における葉上動物の種多様度(α多様度)に緯度勾配が存在するため、植物種により葉上動物の種組成が異なる度合(β多様度)が低緯度域ほど大きいため、あるいは群落を構成する植物の種数が低緯度域ほど多く、葉上動物の種数が植物種数と比例する場合など、植物群落の構造が海域間で異なるため、などのメカニズムが考えられる。しかし、そのいずれについてもこれまでほとんど研究例はない。
 そこで本研究では、藻場が形成される海域や藻場を構成する植物の種類によって、葉上動物の群集構造がどのように異なるのかについて、その要因とともに明らかにすることを目的として、亜寒帯に位置する北海道厚岸湾と三陸大槌湾および隣接する船越湾、温帯にある相模湾と瀬戸内海周防大島、さらに亜熱帯に位置する沖縄島金武湾と石垣島名蔵湾の計6地域(7地点)の藻場において、群落を構成する海藻・海草類とそれらの藻・草体上に生息する葉上動物を調査した。本章に続く第2章では、亜寒帯の大槌湾および亜熱帯に位置する名蔵湾の藻場において、藻場構成植物の季節的な消長とともに葉上動物の群集構造がどのように変化するのかを明らかにし、第3章において葉上動物の群集構造を海域間比較する時期や手法を決める根拠を得た。第3章では、最初に、亜寒帯の大槌湾と船越湾、温帯の相模湾、亜熱帯の金武湾および名蔵湾の藻場において、藻場を構成する植物群落の構造が地域によってどのように異なるかを明らかにした。次に、いずれの地域にも生育していたホンダワラ類(ホンダワラ科の褐藻類)および海草類の群落における葉上動物の群集構造を比較し、葉上動物のα多様度が地域によって異なるかどうか検討した。第4章では、金武湾を除いた5地域の藻場において、海藻類と海草類で葉上動物の群集構造がどのように異なるかを明らかにするとともに、葉上動物のβ多様度が地域によって異なるかどうか検討した。また、安定同位体分析を行い、海藻類と海草類で葉上動物群集の食物網構造が異なるかどうか明らかにした。加えて、複数の植物種が混生して群落を形成していた名蔵湾において、葉上動物の群集構造が異なる要因を明らかにした。

第2章 葉上動物群集の季節による違い
 大槌湾では、海藻類のエゾノネジモク、ウガノモク、ホソメコンブおよび海草類のアマモの各群落を対象として、植物とともに葉上動物を採集した。その結果、いずれの植物群落においても、葉上動物の総個体数密度、種数および多様度指数(H')は季節変化し、葉上動物の総個体数密度には植物の現存量との間に有意な正の相関が認められた(p<0.05, GLMM)。エゾノネジモク、ウガノモクおよびアマモ群落においては、葉上動物の種数およびH'についても植物の現存量と有意な正の相関が認められたが(p<0.05, GLMM)、ホソメコンブ群落では有意な相関は認めらなかった(p>0.05, GLMM)。石垣島では、海藻類のコバモク、タマキレバモクおよびマクリの各群落を対象としたが、いずれの植物群落においても、葉上動物の総個体数密度、種数およびH'には植物の現存量と有意な正の相関が認められた(p<0.001, GLMM)。以上の結果から、植物の季節的消長は、海域や植物種に関わらず、葉上動物の群集構造が変化する大きな要因であると考えられた。大槌湾のホソメコンブ群落では、ホソメコンブの現存量は枯死に伴って減少したが、形状が複雑になったため、葉上動物の種数およびH'とホソメコンブの現存量との間に有意な相関が認められなかったと考えられた。

第3章 葉上動物群集の海域による違い
 第3章ではまず、大槌湾と相模湾の岩礁域、大槌湾、船越湾、金武湾および名蔵湾の砂泥域に形成された藻場において、第2章の結果に基づき藻場構成植物の被度が最大となる季節に各植物種の被度を調べ、藻場構成植物の種類が地域によってどのように異なるかを明らかにした。大槌湾と相模湾の岩礁域では、海藻類による藻場が形成され、海草類は確認されなかった。船越湾と大槌湾の砂泥域では、海草類を主体とした藻場が形成され、被度の99%以上を海草類が占めた。一方、金武湾と名蔵湾の砂泥域では、海草類と海藻類が混生した藻場が形成されていた。両地点において海藻類は、砂泥底に散在するサンゴ礫を主要な付着基質としており、サンゴ礫の存在によって砂泥底に海草海藻混生藻場が形成されたと考えられた。
 葉上動物群集の海域による違いを植物群落の違いと区別して明らかにするためには、異なる海域の同じ植物群落において葉上動物群集を比較する必要がある。しかし、本研究を実施した6地域全てにおいて群落を形成した植物種は存在しなかった。そこで、種としては異なるが形状等が類似したホンダワラ類および海草類において、葉上動物の群集構造を地域間で比較した。ただし、葉上動物の種多様度は植物の消長に影響されたため(第2章)、各地点で植物の消長度合いが同じ時期に葉上動物を採集した。その結果、ホンダワラ類群落における葉上動物の種数には地点による有意な差は認められず(p>0.05, GLMM)、葉上動物のH'については、相模湾より大槌湾で有意に高かったが(p<0.05, Tukey-Kramer)、緯度勾配は認められなかった。海草類群落における葉上動物の種数およびH'は地点により有意に異なったが(p<0.05, GLM)、地点による海草類の現存量の違いを補正した場合には有意差は認められなかった(p>0.05, GLM)。以上の結果から、植物1種における葉上動物の種多様度、すなわちα多様度には緯度勾配は存在しないと考えられた。

第4章 葉上動物群集の藻場構成植物種による違い
 金武湾を除いた5地域において、それぞれ数種の海藻類と海草類を採集し、葉上動物の群集構造を比較した。その結果、葉上動物の総個体数密度、種数およびH'は、多くの地点において海藻類と海草類で大きく異なった。また、海藻種間でも大きく異なったが、海草種間では比較的類似した。その要因を明らかにするため、葉上動物の総個体数密度、種数およびH'と、植物の現存量、および主枝や側枝などの植物の器官の種類数との関係を調べたところ、葉上動物の総個体数密度には植物の現存量および器官の種類数と有意な正の相関が認められ(p<0.05, GLMM)、葉上動物の種数およびH'には植物の器官の種類数と有意な正の相関が認められた(p<0.05, GLMM)。また、葉上動物の種組成は、植物種間の系統的距離が離れるほど大きく異なったが、β多様度には調査地域による有意な差は認められなかった(p<0.05, ANOVA)。さらに、各植物種と葉上動物種の安定同位体比を調べたところ、海藻類と海草類で葉上動物群集の食物網構造が異なることがわかり、海藻類と海草類で無脊椎動物に対する餌料価値が異なることも、葉上動物の群集構造が異なる一因と考えられた。
 以上は、単一植物種からなる純群落において葉上動物の群集構造が植物種により異なる要因を調べた結果である。一方、名蔵湾では複数の植物種が混生して群落を形成していたため、葉上動物の群集構造と混生群落を構成する植物群落の特徴との関係を調べた。その結果、葉上動物の総個体数密度、種数およびH'には、混生群落を構成する植物の現存量および系統的な多様度(デルタ)と有意な正の相関が認められ(p<0.05, 総個体数密度および種数: GLMM, H': GLM)、混生群落では構成植物の系統的な多様度が葉上動物の群集構造に大きく影響することが明らかとなった。

第5章 総合考察
 本研究の結果、多くの地点において、海藻類と海草類では葉上動物の総個体数密度、種数およびH'が大きく異なることが明らかとなった。海藻類と海草類を含んだ全ての植物種において、葉上動物の総個体数密度、種数およびH'は、主に植物の形状および現存量と関係し、葉上動物のα多様度は海域により大きくは異ならなかった。また、海藻類と海草類では、葉上動物の種組成も大きく異なった。植物種による葉上動物の種組成の違い、すなわち葉上動物のβ多様度は、主に植物種間の系統的な距離と関連し、海域により大きくは異ならなかった。
 以上の結果から、葉上動物の種多様度には緯度勾配は存在しないと考えられた。一方で、藻場を構成する植物群落の構造は温帯以北と亜熱帯で異なり、温帯以北では海藻藻場と海草藻場がそれぞれ離れた岩礁域と砂泥域に形成されていたが、亜熱帯では砂泥域にサンゴ礫が存在することにより、海草と海藻が混生した藻場が形成されていた。藻場における葉上動物の種多様度は藻場構成植物の系統的な多様度と相関しており、サンゴ礁池内の砂泥底に海草と海藻が混生して藻場を構成する亜熱帯では、海藻藻場と海草藻場が別の場所に形成される温帯以北に比べて、藻場全体における葉上動物の種多様度は高くなるものと考えられた。

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