自閉症患者で新たに見い出された電位依存性Ca2+チャネル変異の電気生理学的解析
概要
自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorders)の発症機序は当初、心理的要因が重視されたが、現在では遺伝的素因に環境的影響が加わり脳の機能異常が生じると考えられている。自閉症スペクトラム障害の患者から見い出された電位依存性L型カルシウムチャネル遺伝子(CACNA1C)の変異の電気生理学的特性を調べ、Ca2+動態への影響を検討している。
実験では新たな変異をヒトCACNA1Cに導入し、電位依存性Ca2+チャネルの副サブユニット(α2、β1b)を恒常的に発現させたbaby hamster kidney(BHK)細胞に、この変異チャネルを一過性に発現させた。これらの細胞にパッチクランプ法を適用し、チャネル機能を電気生理学的に詳細に解析することを目的にした。
野生型は遺伝子導入3日目でチャネル活性が最大に達するのに対し、変異型では4日目、5日目の方が活性が高かったことから、変異型チャネルではトラフィッキング異常の可能性が示唆された。しかし、Ba2+電流の電流-電圧関係、活性化・不活性化スピード、不活性化曲線において野生型と変異型チャネル間に有意差はなかった。これらのデータは変異がCav1.2のゲーティング及びイオン透過性を変化させないことを示唆している。しかし、変異型チャネルでCa2+依存性不活性化過程の遅延が認められ、Ca2+流入量が野生型よりも増えることが判明した。細胞内にCa2+が過剰に流入することは脳虚血時の神経細胞死の様に、細胞にとって好ましくない。Ca2+依存性不活性化はその防御機構として細胞を保護していると考えられる。変異型チャネルでは不活性化過程が減弱することにより、細胞内に流入するCa2+量は増加する。従って、神経細胞にとってGain-of-Functionの変異であり、神経細胞機能に変調をもたらすことが示唆される。変異はN末の細胞内領域にあり、近傍にはカルモジュリン結合領域がある。カルシウム―カルモジュリン複合体による不活性化に本変異が影響を及ぼしていることが示唆される。