Persistent hepatocyte apoptosis promotes tumorigenesis from diethylnitrosamine-transformed hepatocytes through increased oxidative stress, independent of compensatory liver regeneration
概要
〔目 的(Purpose)〕
肝細胞癌は全世界で罹患率第6位の難治性癌で手術やラジオ波焼灼術などの根治的治療が適応となる症例は全症例の約4割にすぎず、近年分子標的治療薬が使用可能となり予後延長が報告されているが、より有用な治療法や予防法の開発が望まれている。
肝癌の原因となる慢性肝疾患では、背景肝疾患によらず肝細胞アポトーシスを認めることが多い。酸化ストレスや小胞体ストレスなどにより遺伝子変異した肝細胞はアポトーシスにより排除され、肝発癌を抑制すると考えられるが、一方で肝細胞アポトーシスが引き起こす代償的肝再生は肝発癌を促進させることも報告されており、肝細胞アポトーシスが遺伝子変異を有する肝細胞からの発癌に与える影響に関して統一された見解がないのが現状である。
本研究では、遺伝子変異を有する肝細胞からの肝発癌における肝細胞アポトーシスの影響を検討することとした。
〔方 法(Methods)〕
肝細胞特異的な持続的アポトーシス亢進マウスモデルとして、Cre/lox Pシステムを用いたアポトーシス抑制蛋白Mc1-1ノックアウト(KO)マウスを使用した。遺伝子変異による肝発癌を誘導する薬剤としてジエチルニトロサミン(DEN)を生後2週齢で野生型(WT)とKOマウスそれぞれに投与し、長期飼育時(18、28週の肝発癌および短期飼育時(2、4、6週)の表現型を解析した。酸化ストレス抑制のため、6週齢から抗酸化物質N-アセチル-L-システイン(NAC)を飲水中投与した。
〔成 績(Results)〕
DEN非投与群ではWT, KOマウスともに18週齢、28週齢でいずれも肝発癌を認めなかった。DEN投与群では18週齢でWT 0%(0/12), KO 89%(8/9)、28週齢ではWT 15%(2/13)、 KO 100%(8/8)の肝発癌を認め、KO群で有意に肝発癌が促進された。既報においてDEN誘発性肝癌ではB-rafV637E変異を有することが知られているが、DEN投与群のWT, KOマウスから採取した肝癌においてBrafV637変異をdirect sequence法で検討したところ、WT 100%(7/7), KO 89%(8/9)でBrafV637E変異が検出された。
2週齢でKOマウスではDEN非投与群、DEN投与群ともにMcl-1の蛋白発現が低下していたが、DEN非投与群、DEN投与群いずれにおいてもWTとKOで血清ALT値、caspase3/7活性、肝内cleaved caspase3発現に有意差は認めなかった。4週齢、6週齢ではEN非投与群、DEN投与群いずれにおいてもKOでWTと比して、有意な血清ALT値、caspase3/7活性、肝内cleaved caspase3発現高値を認めた。代償性肝細胞増殖マーカーとしてPCNA, Ki-67の蛋白発現をIHCで検討したところ、2週齢ではDEN非投与群、DEN投与群いずれにおいてもWTとΚOでPCNA, Ki-67陽性細胞率に有意差を認めなかったが、6週齢ではEN非投与群、DEN投与群いずれにおいてもΚOでWTと比して、有意に陽性細胞率が高かった。DNA損傷マーカーとしてγ-H2AΧの蛋白発現をIHCで検討したところ、2週齢でDEN投与群はDEN非投与群と比較して、WT, KOいずれも有意にγ-H2AΧ陽性細胞率が高値であったが、6週齢ではΚO群でWT群と比較してγ-H2AΧ陽性細胞率が高値であった。酸化ストレスマーカーとして4-ΗΝΕの蛋白発現をIHCで検討したところ、2週齢ではDEN非投与群、DEN投与群いずれにおいてもWTとΚOで4-ΗΝΕ陽性細胞率に有意差を認めなかったが、4週齢、6週齢ではΕΝ非投与群、DEWS与群いずれにおいてもKOでWTと比して、有意に4-HNE陽性細胞率が高かった。
6週齢からNAC投与し酸化ストレス抑制すると、NAC投与群ではvehicle投与群と比較して、18週齢において有意に肝発癌が抑制され、γ-H2AΧ陽性細胞率、4-HNE陽性細胞率が低下したが、血清ALT値やcaspase3/7活性、肝内のPCNA, Ki-67陽性細胞率に有意差は認めなかった。
〔総 括(Conelusion)〕
持続的肝細胞アポトーシスは代償性肝細胞増殖とは独立して酸化ストレスを介して、DNA損傷を有する肝細胞からの肝発癌を促進させる。