Newly invented micellized vitamin K2 recovered prolonged prothrombin time under obstructive jaundice in rats with bile duct ligation
概要
令和4年1月
星野由樹
主
学位論文審査要旨
査
藤
原
義 之
副主査
植
木
賢
同
磯
本
一
主論文
Newly invented micellized vitamin K2 recovered prolonged prothrombin time under
obstructive jaundice in rats with bile duct ligation
(新規開発のミセル化ビタミンK2は、胆管結紮ラットにおける閉塞性黄疸の状況下でも
プロトロンビン時間延長を回復させる)
(著者:星野由樹、杉原誉明、池田傑、樽本亮平、松木由佳子、神田努、井山拓治、
高田知朗、的野智光、永原天和、岡野淳一、植木賢、孝田雅彦、尾崎充彦、
岡田太、磯本一)
令和3年
Journal of Nutritional Science and Vitaminology
67巻
399頁~405頁
参考論文
1. A vein-viewing application enabled detecting abdominal wall varices related to
the presence of non-treated
gastroesophageal varices: a cross-sectional study
(静脈強調アプリケーションは未治療胃食道静脈瘤と関連する腹壁静脈瘤の検出を可能
にする)
(著者:星野由樹、杉原誉明、池田傑、松木由佳子、永原天和、岡野淳一、磯本一)
令和3年 BMC medical imaging
21巻
120
学
位
論
文
要
旨
Newly invented micellized vitamin K2 recovered prolonged prothrombin time under
obstructive jaundice in rats with bile duct ligation.
(新規開発のミセル化ビタミンK2は、胆管結紮ラットにおける閉塞性黄疸の状況下でも
プロトロンビン時間延長を回復させる)
胆汁うっ滞性肝疾患では、ミセルを形成する胆汁(胆汁酸)の分泌が低下する事により
脂溶性ビタミンであるビタミンKの吸収障害をきたし、凝固機能異常が引き起こされる事が
知られている。これに対し、ビタミンKの静脈注射が凝固機能異常に有効と報告がある。し
かし、これまで胆汁分泌低下時に吸収が可能な経口ビタミンK製剤は無い。miVital AG 社
(St. Gallen、 スイス)
が開発した新規開発のミセルは従来のミセルと比較して非常に安
定性に優れ(24か月安定)、臨界ミセル濃度が無い事で特許を有している(Patent
CH2007000455) 。このミセル化技術を用いたミセル化ビタミンK2(m-vitK2)を閉塞性黄疸
モデルラットである胆管結紮(bile duct ligation:BDL)ラットに投与し、その凝固機能
異常に対する有効性を検討した。
方
法
実験には体重約250gのWister系雄性ラット(日本チャールスリバー株式会社、横浜)を
用いた。食餌はビタミンK3(生体内でビタミンK2に変換される)含有のペレットと水を与
えた。胆管結紮・切離を行ったBDLラットと、対照群として開腹・閉創のみのSham-opeラッ
トを作成した。実験1:BDLラットを、①m-vitK2を投与しない群(control群)、②
m-vitK2(0.3mg/kg)投与群、③m-vitK2(0.3mg/kg)+タウロコール酸(TA)(10mg/body)投
与群、の3群(各群6匹)にランダムに分けた。②③群は、胆管結紮4日目(凝固因子Ⅱの半
減期から設定)から1日1回、7日間毎日経口投与を行った。実験2:m-vitK2の吸収実験と
して、m-vitK2(0.3mg/kg)±TA(10mg/kg)を胆管結紮4日目のBDLラットに投与し、非投与
のBDLラットと比較した(各群2匹)。ビタミンK2の投与量は、臨床でのヒトへの投与量(1
日20mg)から、体重60kgとして換算した。胆汁酸の構成成分であるタウロコール酸(TA)
はFUJIFILM社のものを使用し、投与量はヒトの上部空腸での胆汁酸濃度に基づき算出した。
m-vitK2およびm-vitK2+TAは、生理食塩水に混和し1ml/匹として、ゾンデを用いて胃内に直
接投与を行った。また、後述するミセルのサイズ測定は、NanoSight NS300(Malvern
Panalytical)を用いた。
結
果
実験1では、m-vitK2単独投与群はcontrol群と比較しプロトロンビン(PT)時間延長の
有意な回復を認めた(control 群42.7±5.7 sec vs. m-vitK2群 24.0 ± 9.3 sec、 p <0.05)。
更に、m-vitK2+TA投与群では、PT時間の正常化を得ることができた(control 42.7 ± 5.7
sec vs. m-vitK2+TA 14.9 ± 1.2 sec、 p <0.01)。
実験2の吸収実験では、m-vitK2+TA群の方がm-vitK2単独投与群より血中ビタミンK2濃度
が高かった(m-vitK2 0.13 ± 0.07 ng/ml vs. m-vitk2+TA 0.35 ± 0.15 ng/ml)。
ミセルサイズを測定したところ、m-vitK2(86 ± 5.6nm)とTA(88.9 ± 12.3nm)でサイ
ズには有意な差は無かったが、m-vitK2とTAの混合により、m-vitK2のミセルサイズが有意
に縮小していた(m-vitK2 86.3 ± 5.6 nm vs. m-vitK2+TA 71.9 ± 4.7 nm、 p <0.05)。
考
察
本研究では、閉塞性黄疸下であっても、m-vitK2の経口投与により、凝固機能異常を回復
し得た。これは、人工的なミセルでPT時間の回復を得た初の報告である。
本研究では、ミセル化したビタミンKが胆汁酸を介さずに吸収されたが、TAとの混合実験
の結果からは、ミセル化以外の胆汁酸の役割が示唆される。ミセル化ビタミンK単独投与と
比較し、胆汁酸との併用でBDLラットでもビタミンK吸収が回復したという既報もあり、胆
汁にはトランスポーターを介した脂溶性ビタミン吸収のシャトルの役割を果たしている可
能性がある。
更にミセルサイズの検討からは、m-vitK2はTAとの混合によりミセルサイズが縮小する事
が判明した。よりミセルサイズの小さい方が細胞に取り込まれやすいという既報から、TA
と混合される事で、更に吸収効率が上昇したと考えられた。
結
論
m-vitK2の単独経口投与は、閉塞性黄疸下のラットでも凝固機能を回復させることが可能
であった。更にTAは、m-vitK2のミセルサイズを縮小させ、その吸収を向上させた。m-vitK2
は肝不全患者の経口栄養剤中でも長期間ミセル化を維持できることが期待でき、更にTAの
同時投与は、胆汁うっ滞性肝疾患でのビタミンK吸収を向上させる可能性が示唆された。