計算化学を活用した天然物の合成研究

概要

令和 4 年度

京都大学化学研究所 スーパーコンピュータシステム 利用報告書
計算化学を活用した天然物の合成研究
Natural products synthesis utilizing computational chemistry
富山県立大学 工学部生物工学科 生物有機化学講座

占部 大介

研究成果概要
近年、NMR や ECD スペクトル予測を利用した新規天然物の構造解析が盛んに報告されて
いる。特に、DFT に基づく高精度なスペクトル計算は、従来の分光学的手法のみでは判別で
きない類似した構造を区別する強力な手段となりつつある。一方で、実際に天然物のスペクト
ル計算を試みる際は、その配座異性体の存在がしばしば計算処理を大規模化・煩雑化させる
ため、実験化学者が手軽に利用できる手段とは言い難い。一般に、量子化学計算によるスペ
クトル予測は、分子のとり得る立体配座について網羅的に計算した後、それらのエネルギー分
布に従って各々の計算値を加重平均して得られる。このため、天然物のような複雑な分子に
おいては、極めて多くの配座異性体を計算処理する必要が生じる。本研究ではまず、このよう
な天然物の配座多様性に由来する大規模な計算処理を効率化するために、プログラム群
ACCeL(https://accel.kfchem.dev/)を独自に開発した。
ACCeL は、配座異性体の一括処理を前提とし、Gaussian などの計算化学ソフトウェアの大
量の入出力データを迅速かつ正確に処理できる python ライブラリである。ACCeL は、①低い
学習コスト、②高い汎用性、③高度な計算自動化能力の 3 つの特徴を有している。例えば、
ACCeL では対応する計算処理を.（ピリオド）で連結することで、多段階の計算処理を実行でき
る。このため、プログラミング未経験者でも容易に処理工程を記述・理解できる。下図には低精
度な計算で得られた立体配座群を選別して、高精度な計算の入力ファイルを作成する際の多
段階処理を例示した。

次に、希少放線菌から単離された 3 種の新規天然物群について、ACCeL を用いて迅速な
構造解析を 行っ た。具体的には、Nomimicin 類のテトロン酸部位にお ける互変異性、
Catellatolactam 類の立体化学、kumemicinone 類の構造を解析することで、これら天然物の構
造を推定するに至った。天然物化学に計算化学を積極的に活用することで、従来の手法のみ
では得難い多角的な情報がもたらされ、迅速かつ正確な構造解析をすることができた。
本研究成果は第 64 回天然有機化合物討論会にてポスター発表した。

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O
O
O

nomimicin A

(E)

OH
H

H

OH

OH

O

HO

O
HN

R
O

catellatolactam B

HO

O

(S)

12

(S) 6a

OH O

(S)

4a

OH

OH

kumemicinone C

発表論文（謝辞なし）
1) Liu, C.; Zhang, Z.; Fukaya, K.; Urabe, D.; Harunari, E.; Oku, N.; Igarashi, Y.
"Catellatolactams A-C, Plant Growth-Promoting Ansamacrolactams from a Rare
Actinomycete of the Genus Catellatospora" J. Nat. Prod., 2022, 85, 1993-1999.
2) Karim, Md. R. U.; Fukaya, K.; In, Y.; Sharma, A. R.; Harunari, E.; Oku, N.; Urabe, D.;
Trianto, A.; Igarashi, Y. "Marinoquinolones and Marinobactoic Acid: Antimicrobial and
Cytotoxic ortho-Dialkylbenzene-Class Metabolites Produced by a Marine Obligate
Gammaproteobacterium of the Genus Marinobacterium" J. Nat. Prod., 2022, 85,
1763-1770.
3) Zhang, Z.; In, Y.; Fukaya, K.; Yang, T.; Harunari, E.; Urabe, D.; Imada, C.; Oku, N.;
Igarashi, Y. "Kumemicinones A-G, Cytotoxic Angucyclinones from a Deep Sea-Derived
Actinomycete of the Genus Actinomadura" J. Nat. Prod., 2022, 85, 1098-1108.
4) Zhang, Z.; Zhou, T.; Yang, T.; Fukaya, K.; Harunari, E.; Saito, S.; Yamada, K.; Imada, C.;
Urabe, D.; Igarashi Y. "Nomimicins B-D, new tetronate-class polyketides from a
marine-derived actinomycete of the genus Actinomadura," Beilstein J. Org. Chem., 2021, 17,
2194-2202. ...

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