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書き出し

ランゲルハンス組織球症に対する治療標的候補分子SIRPα

岡本, 武士 神戸大学

2023.03.25

概要

Kobe University Repository : Kernel
PDF issue: 2024-05-02

Targeting of SIRPα as a potential therapy for
Langerhans cell histiocytosis

岡本, 武士
(Degree)
博士(医学)

(Date of Degree)
2023-03-25

(Resource Type)
doctoral thesis

(Report Number)
甲第8697号

(URL)
https://hdl.handle.net/20.500.14094/0100485881
※ 当コンテンツは神戸大学の学術成果です。無断複製・不正使用等を禁じます。著作権法で認められている範囲内で、適切にご利用ください。

(課程博士関係)
学位論文の内容要旨

Targeting of SIRPα as a potential therapy for
Langerhans cell histiocytosis

ランゲルハンス組織球症に対する治療標的候補分子 SIRPα

神戸大学大学院医学研究科医科学専攻
呼吸器外科学
(指導教員:眞庭 謙昌 教授)
岡本 武士

(背景、目的)
ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)は、未熟な樹状細胞(DC)の異常増殖を特
徴とする希少疾患である。特に脾臓、肺、肝臓などの重要臓器に病変が及ぶ症
例においては、有効な治療法が十分に確立されておらず、新規治療標的の特定
が求められている。
SIRPα は膜型分子であり、マクロファージ(MΦ)や DC などの骨髄由来細胞に
高度な発現を示す。これまでに MΦ上の SIRPα とがん細胞上に発現するそのリ
ガンド分子である膜型分子 CD47 との相互作用が、がん細胞に対する MΦの貪食
作用を抑制的に制御することが見いだされている。さらに、CD47-SIRPα 結合を
阻害する抗 SIRPα抗体が、がん抗原を認識する抗体医薬によるがん細胞に対す
る MΦの抗体依存性細胞貪食 (ADCP)を増強し、抗体医薬の抗腫瘍効果を増強す
ることが報告されている。また、腎癌や悪性黒色腫では SIRPα の発現が認めら
れ、これら SIRPα 発現がん細胞に対して抗 SIRPα 抗体が、がん細胞上の SIRPα
に結合することで MΦによるがん細胞の ADCP を直接誘導するとともに、
CD47-SIRPα 結合を阻害することでその ADCP を増強し、単独で抗腫瘍作用を発
揮することが示されている。
そこで本研究では、LCH の責任細胞が病的な DC(LCH 細胞)であることから、
これらの LCH 細胞においても SIRPα が発現しており、それを標的分子とする抗
SIRPα抗体が LCH に対して治療効果を発揮し得るのではないかと想定し、LCH 患
者の組織切片での SIRPαの発現と、LCH モデルマウスにおける抗 SIRPα抗体の
治療効果を検討した。
(方法、結果及び考察)
最初に、LCH の患者組織切片を用い、LCH 病変中の DC における SIRPαの発現
の有無について検討した。CD1a はヒト LCH の診断マーカーであり、免疫組織化
学染色にて CD1a と SIRPαの発現を隣接切片で比較した。39 症例中 37 症例の組
織切片において CD1a で染色される DC の分布は SIRPαの発現細胞の分布に内包
されるように一致していた。さらに蛍光 2 重免疫組織染色からも、CD1a の染色
部分に一致して SIRPαの強い発現が認められ、ヒト LCH の DC(LCH 細胞)にお
いて SIRPα の発現が確認された。
LCH 患者の 50%以上において BRAF 遺伝子に活性型 BRAF となる変異が認めら
れ、この変異が LCH の病態形成の一因であることが示されている。そこで、
Cre-Loxp システムを用いて、CD11c 陽性 DC に特異的にヒト BRAF の活性型変異
体(V600E)を発現する LCH のモデルマウス(BRAFV600ECD11c マウス)を既報に従
い作製し、CD11c 陽性かつ MHCⅡ陽性細胞を DC として、以下の解析を行った。
12 週齢 BRAFV600ECD11c マウスの末梢血中において、野生型マウスと比較して DC

が 増 加 し て い る こ と を フ ロ ー サ イ ト メ ー タ ー (FACS) で 確 認 し た 。 ま た
BRAFV600ECD11c マウスでは、著明な脾腫をきたした。FACS を用いて、脾臓の DC
において、SIRPαが発現していることを確認した。さらに蛍光 2 重染色法を用
いて、肝臓や肺においても同様であることを確認した。このことから
BRAFV600ECD11c マウスにおいて、LCH 様 DC(LCH-DC)は増加し、ヒト LCH 細胞と
同様に SIRPαを発現していることが明らかとなった。
これまでに抗マウス SIRPα抗体(MY-1、ラット抗体)が、がん細胞に対するマ
クロファージの貪食活性を高め、SIRPα 発現がんに対して単独で抗腫瘍効果を
発揮することが示されている。そこで、その貪食活性をより高めることのでき
る改変型 MY-1(MY-1-mIgG2a:MY-1 の Fc ドメインをラット IgG2a からマウス IgG2a
に改変)を BRAFV600ECD11c マウスに投与し、SIRPα を発現する LCH に対する抗体
の治療効果を検討した。
LCH を発症し始める 8 週齢 BRAFV600ECD11c マウスに週 2 回のコントロール抗体
または MY-1-mIgG2a の投与を行った。その結果、抗体投与開始 2、4 週間後の FACS
による末梢血中の DC の割合の計測において、MY-1-mIgG2a 投与群ではその割合
に有意な低下が認められ、さらに抗体投与 4 週間後の MY-1-mIgG2a 投与群では
脾臓の重量と脾臓における DC の総数に有意な低下が確認された。また肝臓にお
いても病変部の縮小が HE 染色により認められた。これらのことから、
MY-1-mIgG2a 投与は BRAFV600ECD11c マウスの LCH 症状を改善することが強く示唆
された。
LCH-DC の増加に加え、BRAFV600ECD11c マウスでは野生型マウスに比べ肝臓や肺
において T 細胞、B 細胞、MΦ等の免疫細胞数が増加することが報告されている。
同様に、脾臓において DC、MΦ、CD4 陽性 T 細胞の数と割合が増加することを確
認したが、B 細胞についてはその数、割合ともに低下が認められた。一方、
MY-1-mIgG2a を投与した BRAFV600ECD11c マウスの脾臓では、コントロール抗体投
与に比べ、脾細胞の総数と DC の有意な減少を認めたが、好中球を除く他の複数
の免疫細胞の存在比率については有意差な違いは認められなかった。すなわち、
MY-1-mIgG2a による脾臓での治療効果は LCH-DC を含む各種免疫細胞の脾臓への
異常蓄積の抑制と考えられた。
上記の BRAFV600ECD11c マウスでの解析に加え、抗体投与の副作用の評価として、
MY-1-mIgG2a の投与後の野生型マウスにおける血液生化学的解析を行った。その
結果、MY-1-mIgG2a 投与群において単球の減少と好中球の増加を認めたが、それ
以外の複数の血液・生化学的項目については PBS 投与群と比較して有意な差は
認められず、忍容性があると考えられた。
MY-1-mIgG2a 投与による治療効果が認められたことから、その作用機序につい
てさらに解析を進めた。SIRPα 発現がんに対する MY-1 の抗腫瘍効果には MY-1

による MΦの SIRPα 発現がん細胞に対する ADCP の誘導とその増強という二重の
作用が関与することから、LCH-DC に対して MY-1-mIgG2a が同様の作用を介して
殺細胞作用を示し治療効果を発揮した可能性が考えられた。そこで、CFSE 標識
を行なった BRAFV600ECD11c マウス骨髄由来 CD11c 陽性 DC(BRAFV600ECD11cBMDC)と
PHK26 標識 MΦの共培養下に MY-1-mIgG2a を加え、in vitro での貪食実験を行っ
たところ、コントロール抗体に比べ MΦによる有意な BMDC の貪食が確認された。
一方、Fc 領域を欠損した MY-1-mIgG2a では非欠損の MY-1-mIgG2a に比べ貪食の
低下が認められた。すなわち、MY-1-mIgG2a は MΦによる LCH-DC に対する ADCP
を誘導すること明らかとなった。
一方、DC 上の SIRPαは DC の生存と細胞運動の制御に関与することが示され
ており、また、BRAFV600E 変異持つ LCH での病態形成には LCH 細胞の病変部での
生存の延長と CCR7 依存性の細胞運動の抑制が重要であることが報告されている。
そこで、MY-1-mIgG2a の BRAFV600ECD11cBMDC の生存や運動能に対する作用につい
ての検討を試みた。その結果、DC の増殖因子である GM-CSF 存在下もしくは非存
在下で、MY-1-mIgG2a またはコントロール抗体で BRAFV600ECD11cBMDC を 24、48
時間処理した際には、MY-1-mIgG2a 抗体処理において細胞の生存率の上昇または
上昇する傾向が認められたが、抑制する作用は観察されなかった。さらに、CCR7
のリガンドである CCL19 による BRAFV600ECD11cBMDC の遊走能に対する
MY-1-mIgG2a の作用を Boyden chamber を用い評価を行なったが、コントロール
抗体と MY-1-mIgG2a 処理間で違いは認められず、CCR7 の mRNA の発現量において
も差は確認できなかった。これらのことから、MY-1-mIgG2a は BRAFV600ECD11cBMDC
の生存や CCR7 依存性の細胞遊走能に対して実質的に影響を与えないものと考え
られた。また、LCH-DC から産生される CCL5、CCL20、CXCL11、CXCL12 などのケ
モカインが CD4 陽性 T 細胞の蓄積を伴う炎症性肉芽腫の形成に関与すると考え
られていることから、MY-1-mIgG2a もしくはコントロール抗体存在下での
BRAFV600ECD11c マウスの BMDC における CCL5、CCL20、CXCL11、CXCL12 の mRNA 発
現量を Q-PCR にて定量的に評価したが、両抗体処理間でこれらの mRNA の発現量
には違いは認められなかった。
(結論)
本研究により、SIRPαがヒト LCH 細胞および LCH モデルマウスの LCH-DC に発
現していることが明らかとなった。さらに、抗マウス SIRPα 抗体である
MY-1-mIgG2a 投与を行なった LCH モデルマウスでは、血中における LCH-DC の増
加抑制、脾臓での LCH-DC 数の減少、肝臓での病変部の減少が認められ、
MY-1-mIgG2a が LCH の症状を緩和することが明らかとなった。また、MY-1-mIgG2a
は ADCP を介した MΦの LCH-DC に対する殺細胞効果を増強した。以上の結果か

ら、SIRPα は LCH における新規の治療標的候補分子であり、それを標的とする
抗 SIRPα 抗体が LCH の治療薬として利用できる可能性が示された。

神戸大学大学院医学(
系)
研究科(博士課程)


受付番号

論文題目

文 審 査 の 結果

甲第3
299号

の 要 旨

氏 名

岡本武士

ランゲルハンス組織球症に対する治療標的候補分子 SIRPc
x

Ti
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l
eo
f
g
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ngo
fSIRPaa
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Di
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主 査
審査委員

Exami
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Ch
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r
副 査

秒卜衣ち知

沖‘怜心叫

Vi
c
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n
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r
副 査

Vi
c
ee
xami
ne
r

詞と『危月

(要旨は 1
, 000字∼ 2, 000字程度)

【背景、目的】
ランゲルハンス細胞組織球症 (
LCH) は、末熟な樹状細胞 (
D
C
)の異常増殖を特徴とする
希少疾患である。特に牌臓、肺、肝臓などの重要臓器に病変が及ぶ症例には、有効な治療
法が十分に確立されておらず、新規治療標的の特定が求められている。

SIRPaは膜型分子であり、マクロファージ (Mc
p
)
やDCなどに高発現している。これまでに
Mcp上の SIRPaとがん細胞上に発現する膜型分子 CD47との相互作用が、がん細胞に対す
るMcpの貪食作用を抑制的に制御しており、この結合を阻害する抗 SIRPa抗体が、がん抗
原を認識する抗体医薬によるがん細胞に対する Mcpの抗体依存性細胞貪食 (
ADCP)を増強
し、抗腫瘍効果を増強することが報告されている。また腎癌や悪性黒色腫では SIRPaの発
現が認められ、抗 SIRPa抗体が、これらがん細胞上の SIRPaに結合することでMcpによ
るADCPを直接誘導するとともに、 CD47・SIRPa結合を阻害することでそのADCPを増強
し、単独で抗腫瘍作用を発揮することが示されている。
そこで本研究では、 LCHの責任細胞が病的な DC (LCH細胞)であることから、これ
らの LCH細胞においても SIRPaが発現しており、それを標的分子とする抗 SIRPa抗体
が LCHに対して治療効果を発揮し得ると想定し、 LCH患者の組織切片での SIRPaの発
現と、 LCHモデルマウスにおける抗 SIRPa抗体の治療効果を検討した。
【方法、結果及び考察】
最初に LCH患者の組織切片を用い、 LCH細胞における SIRPaの発現の有無について
検討した。 CDlaはヒト LCHの診断マーカーであり、免疫組織化学染色と蛍光 2重免疫組
織染色を用いたところ、 CDlaの染色部分に一致して SIRPaは染色され、ヒト LCH細胞
において SIRPa発現が確認された。

CDllc陽性 DCに特異的にヒト BRAFの活性型変異体 (
V
6
0
0
E
) を発現する LCHのモ
デルマウス (BRAFV600ECD11cマウス)を既報に従い作製し、 CDllc陽性かつ MHCII
陽性細胞を LCH-DCとして、以下の解析を行った。 1
2週齢 BRAFV600ECDl
l
cマウスで
は、牌臓、肝臓、肺の HE染色では多発炎症性結節を認めた。また牌臓の LCH-DCにおい
て、 SIRPaが 発 現 し て い る こ と を 確 認 し た 。 LCH を 発 症 し 始 め る 8 週 齢
BRAFV600ECD11cマウスに週 2回のコントロール抗体または M
Y
・1
・mi
gG2a(
抗 SIRPa
抗体)の投与を行った。末梢血中の LCH-DCの割合は、抗 SIRPa抗体投与群で有意な低下
が認められた。さらに抗体投与 4週間後の牌臓重量と牌臓における LCH-DCの総数に有意
な低下が確認され、肝臓の病変部の減少を確認した。またヒト LCH患者と同様に、この
モデルマウスも貧血を呈したが、抗 SIRPa抗体投与群では貧血は有意に改善した。

抗 SIRPa抗体投与による治療効果における作用機序について、i
nvi
t
r
oで解析を進めた。
BRAFV600ECDl
l
cマウス骨髄由来 DC(BMDC)と Mの共培養下に抗 SIRPa抗体を加
え、貪食実験を行ったところ、 Mによる有意な BMDCの貪食が確認された。一方、エ
フェクター候補細胞である骨髄由来好中球との共培養では、抗 SIRPa抗体は好中球の

LCH・DCへの抗体依存性細胞傷害活性を誘導しなかった。さらに LCHの病態形成には
LCH細胞の生存の延長と CCR7依存性の細胞運動の抑制が重要であることから、抗 SIRP
a抗体の BRAFV600ECDllcBMDCの生存や運動能に対する作用についての検討を試み
lcBMDCの生存率は抑制されなかった。さら
た。抗 SIRPa抗体処理で BRAFV600ECD1
に CCL19による BRAFV600ECDllcBMDCの遊走能とそのリガンドである CCR7の
mRNA発現量にもコントロール抗体との差は認めなかった。また LCH細胞から産生され
る CCL5、CCL20、CXCLll、CXCL12などのケモカインが炎症性肉芽腫の形成に関与す
lcBMDCにおけるそれらの mRNA発現量を評価したが、
ることから、 BRAFV600ECD1
これらに差は認めなかった。
【結論】

SIRPaがヒト LCH細胞および LCHモデルマウスの LCH・DCに発現が確認された。さ
らに抗 SIRPa抗体投与を行なった LCHモデルマウスでは、血中 LCH・DCの増加抑制、
牌臓での LCH・DC数の減少、肝臓での病変部の減少が認められ、症状が緩和された。また
I
>
の LCH・DCに対する殺細胞効果を増強した。以上
抗 SIRPa抗体は ADCP を介した M <
の結果から、 SIRPaは LCHにおける新規の治療標的侯補分子であり、それを標的とする
抗 SIRPa抗体が LCHの治療薬となり得る可能性が示された。
以上、本研究は、ランゲルハンス細胞組織球症の責任細胞である未熟な樹状細胞におけ
るSIRPaの発現を確認し、治療標的となりうることを明らかにした。有効な治療法が十分
に確立されていないランゲルハンス細胞組織球症の新規治療につながる可能性があり、本
研究者は博士(医学)の学位を得る資格があると認める。

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