OX40シグナルおよびCD8陽性T細胞を介するIL-33-ILC2系の抗腫瘍機能の解明
概要
博士論文
OX40 シグナルおよび CD8 陽性 T 細胞を介する IL-33-ILC2 系の抗腫瘍機能の解明
東北大学大学院
医学系研究科
医科学専攻
病理病態学講座
免疫学分野
岡嶋
亮良
1
目次
I.
背景............................................................................................................................................. 4
I-1. がん免疫療法について ........................................................................................................... 4
I-2.IL-33 と 2 型自然リンパ球について ...................................................................................... 5
I-3.OX40 および OX40L について ............................................................................................... 6
II.
目的............................................................................................................................................. 8
III.
方法............................................................................................................................................. 9
III-1. マウス .................................................................................................................................... 9
III-2. 担癌マウスの作製と IL-33 および抗 OX40L 阻害抗体の投与 ........................................ 9
III-3. フローサイトメトリー解析 .............................................................................................. 10
III-4. ILC2 の単離と in vitro 培養 ............................................................................................... 11
III-5. 統計分析 .............................................................................................................................. 12
IV.
結果........................................................................................................................................... 13
IV-1. IL-33 は腫瘍増殖を阻害し、ILC2 および CD8+ T 細胞を悪性黒色腫瘍内に浸潤誘導
する。............................................................................................................................................... 13
IV-2. IL-33 投与による抗腫瘍作用は CD8+ T 細胞が重要である。 ...................................... 13
IV-3. IL-33 の抗腫瘍作用は OX40 シグナル伝達に依存する。 ............................................ 14
IV-4. ILC2 上の OX40L と CD8+ T 細胞上の OX40 は相互作用する。................................. 15
V.
考察........................................................................................................................................... 17
VI.
結論........................................................................................................................................... 20
VII.
略語一覧................................................................................................................................... 21
2
VIII.
参考文献................................................................................................................................... 22
IX.
図の説明................................................................................................................................... 28
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I. 背景
I-1.
がん免疫療法について
免疫システムには免疫応答を抑制する分子が存在し、これらは免疫チェックポイ
ント分子として知られている。がん細胞は免疫機構から逃避して生き延びるため、
免疫チェックポイント分子による免疫抑制機能を利用して生体内で増殖する。近年、
この免疫チェックポイント分子である CTLA-4 や PD-1 などの抑制性受容体に結合阻
害する免疫チェックポイント阻害剤が注目され、従来とは異なる強い薬理効果を悪
性黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がんなどで示している[1-3]。免疫チェックポイ
ント分子はリンパ球及び抗原提示細胞上に発現しているため、免疫チェックポイン
ト阻害剤は腫瘍微小環境内でリンパ球浸潤、特に抗腫瘍反応を強く誘導する CD8 陽
性(CD8+)T 細胞が多く存在する癌腫において薬理効果を発揮するが、この腫瘍内
浸潤リンパ球(TIL)が少ない癌腫では薬理効果を十分に示すことができない[4]。
このようながん腫を治療するためには、CD8+T 細胞を含めた腫瘍内浸潤リンパ球を
誘導、増殖させる必要がある(図1)。この腫瘍内浸潤リンパ球を誘導、増殖させ
るアプローチとして、免疫反応を増強させることが可能な IL-2、IL-12、IL-15 などを
代表とするサイトカイン療法が近年注目されている。サイトカインは腫瘍内浸潤リ
ンパ球を誘導し(図1)、さらには T 細胞を始めとする免疫細胞の活性化を増強す
るため、サイトカイン単剤療法だけでなく、免疫チェックポイント阻害剤との併用
療法も検討されており、単剤療法によるその機能を凌駕することが期待されている
[5]。
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I-2.IL-33 と 2 型自然リンパ球について
IL-33 は IL-1 ファミリーサイトカインに属するサイトカインであり、核内の
Alarmin や組織傷害時に産生され、ST2 と IL-1RAcP を受容体として介することでシ
グナルを伝える [6]。IL-33 は 2 型ヘルパーT(Th2)細胞、マクロファージ、肥満細
胞、好酸球、好塩基球など多くの細胞に作用し、2 型サイトカイン産生を強く誘導す
る。近年では、IL-33 がグループ 2 自然リンパ球(ILC2)を強く活性化し同リンパ球
を介して様々な免疫応答を惹起することが報告されている。ILC は抗原受容体を発
現せず自然免疫に関与する免疫細胞で、獲得免疫で機能する T 細胞や B 細胞とは異
なるリンパ球として発見された [7]。すなわち、ILC は抗原による活性化は受けず、
周囲のサイトカインにより活性化され、大量のサイトカイン放出をする[8]。ILC は 3
グループに分類されており、1 型型サイトカインを放出する ILC1、2 型サイトカイン
を放出する ILC2、3 型サイトカインを放出する ILC3 が存在する。中でも ILC2 は IL33 刺激を受けると活性化及び増殖を示し、活性化した ILC2 は IL-5、IL-9、IL-13 な
どの 2 型サイトカインを大量に産生する[9, 10]。ILC2 により産生された 2 型サイトカ
インは寄生虫の感染防御や喘息などのアレルギー疾患に関与することが報告されて
いる[8-11]。
一方、乳がん、胃がん、前立腺がん患者などでは、血漿中の IL-33 の発現レベ
ルが高く、腫瘍内における ILC2 の存在が確認されている[12-17]。ILC2 から産生さ
れた 2 型サイトカインは、腫瘍の増殖や転移、及び腫瘍における血管新生を誘導す
る。さらに、2 型サイトカインは腫瘍内へ免疫抑制性細胞である骨髄由来免疫抑制細
胞(MDSC)や、腫瘍関連マクロファージ(TAM)を誘導することも報告されてい
る[12, 13, 18](図 2)。2 型サイトカイン以外には、IL-33 の刺激によって ILC2 から
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アンフィレグリンも産生される。アンフィレグリンは抗腫瘍作用を抑制し、さらに
は腫瘍形成と転移を誘導する [19]。このように ILC2 が産生する 2 型サイトカインが
抗腫瘍免疫応答に対し抑制的に作用するとの報告が散見される。一方で、ILC2 によ
る免疫抑制性細胞の誘導やアンフィレグリン等の誘導による抗腫瘍免疫への抑制的
作用とは反対に、膵がん、大腸がん、悪性黒色腫では ILC2 が抗原提示細胞の誘導や
活性化 T 細胞の誘導、および種々の抗腫瘍サイトカイン誘導によって、抗腫瘍作用
に促進的に関与するとの報告がある(図 2)。腫瘍内に浸潤した ILC2 は PD-1 を細胞
表面に発現しているが、阻害性抗 PD-1 抗体投与により PD-1 抑制シグナルを解除す
ると ILC2 が活性化し抗腫瘍免疫応答が惹起される [15]。すなわち、活性化 ILC2 は
抗腫瘍免疫に促進的に作用する。また、腫瘍内で IL-33 刺激された ILC2 が産生する
IL-5 が好酸球をリクルートして、悪性黒色腫マウスモデルにて腫瘍増殖を抑制する
[20, 21]。実際に、好酸球マーカーである SIGLEC8 を高発現する悪性黒色腫患者にお
いては患者の生存率が高い[20]。さらに、IL-33 刺激された ILC2 から産生される GMCSF が強い抗腫瘍作用を発揮することが悪性黒色腫マウスモデルで示された[22]。こ
れらより、IL-33-ILC2 系による腫瘍に対する効果は、ILC2 と他の細胞との相互作用
及び ILC2 から産生されるサイトカインによって、腫瘍増殖の促進と抗腫瘍作用の両
作用が報告されており、癌腫や用いるマウスモデルによってその機能が異なる。
I-3.OX40 および OX40L について
OX40 は TNF 受容体スーパーファミリー分子の 1 つで、活性化 T 細胞に発現する
共刺激分子である [23, 24]。また、そのリガンドである OX40 リガンド(OX40L)は
樹状細胞や活性化 B 細胞などの抗原提示細胞上に発現し、活性化 T 細胞上に発現す
る OX40 に結合することで OX40 シグナルを T 細胞に供与し T 細胞の増殖やサイトカ
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イン産生を誘導する[23-25]。マウスモデルにおいて人為的に OX40 シグナルを供与
することで、T 細胞の強い活性化を誘導し抗腫瘍作用を惹起できることが示され[23]、
実際に、ヒト進行性悪性腫瘍において OX40 刺激性抗体投与が抗腫瘍効果を発揮す
ることが報告された [26, 27]。近年、CD4+T 細胞が OX40 を発現し、IL-33 刺激を受
けた ILC2 が OX40L を発現することで、RS ウイルスやアレルギーモデルで OX40 と
OX40L の相互作用を介した 2 型免疫反応が誘導されることが報告されている[28, 29]。
しかしながら、ILC2 に発現した OX40L と T 細胞上の OX40 の相互作用を介した抗腫
瘍免疫における関与は未だ不明である。
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II.
目的
IL-33 による抗腫瘍作用を確認し、その抗腫瘍作用機序を解明する。IL-33 によって
活性化された ILC2 と CD8 陽性(CD8+)T 細胞との相互作用およびその両細胞を介
する OX40-OX40L 相互作用の関与について明らかにする。
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III. 方法
III-1.
マウス
C57BL/6 マウス、Rag2-/-(Rag2-KO)マウスを用いた。7-12 週齢の C57BL/6 マウスを
日本 SLC 社より購入し、Rag2-KO マウスは東北大大学院医学系研究科内のストック
より繁殖した。両マウス共に東北大大学院医学系研究科附属動物実験施設にて SPF
下で飼育した。また、本研究は東北大学動物実験安全委員会の承認を得て実験を実
施した(2019 医動-127-03)。
III-2.
担癌マウスの作製と IL-33 および抗 OX40L 阻害抗体の投与
悪性黒色腫細胞株である B16F10 細胞および悪性リンパ腫細胞株である EL4 細胞を
そ れ ぞ れ 10%
FCS DMEM 培 地 ( Thermo Fischer Scientific ) お よ び 10% FCS
RPMI1640 培地(Thermo Fischer Scientific)で細胞継代し、B16F10 細胞を 1-5 x 105
cell/mouse、EL4 細胞を 5 x 105 cell/mouse マウス皮下に移植した。移植後腫瘍形成お
よび増殖を確認し、100 mm3 に到達する 7 日目にリコンビナントタンパク質である
IL-33(BioLegend)1 μg/mouse を腹腔内に隔日で投与した。なお、腫瘍径は次の式で
計算した。腫瘍径 = 長径(mm)x
短径(mm)x
短径(mm)x 1/2。
Depletion 抗体による細胞除去は、CD4+ T 細胞に対して抗 CD4 抗体(GK1.5, 200
μg)、CD8+T 細胞に対して抗 CD8 抗体(Ly2, 300 µg)、NK 細胞に対して抗 NK1.1
抗体(PK136, 300μg)を担癌 1 日前に腹腔内へ投与した。OX40-OX40L 相互作用の阻
害では、担癌後 7 日目に腫瘍が生着していることを確認し、抗 OX40L 阻害抗体
(MGP34)200μg 腹腔内へ 3 日おきに 5 回投与した [30]。また、コントロールとして
ラット IgG(Sigma-Aldrich)を使用した。CD8+T 細胞を移入した Rag2-KO マウスの
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試験では、CD3+CD8+T 細胞を C57BL/6 野生型マウスより単離し、担癌後 3 日目に尾
静脈から 1 x 106 cell/mouse で移入した。
III-3.
フローサイトメトリー解析
担癌マウスより腫瘍を一塊として抽出し、腫瘍重量を計測後、メーカーのプロト
コルに従って Tumor dissociation kit および gentle MACS Dissociator (Miltenyi Biotec)
を使用して腫瘍内浸潤リンパ球を単離した。単離後の細胞懸濁液を 70 µm の PreSeparation Filters ( Miltenyi Biotec ) に 通 し 、 回 収 し た 細 胞 を Cell Staining Buffer
(BioLegend)で洗浄した。単離した細胞の表面抗原を抗体で染色するため、染色抗
体の Ig 部が細胞表面上の Fc 受容体へ非特異的に結合することを防ぐために、抗
CD16/CD32(2.4G2; 本研究室で調製)で前処理した。各細胞群の抗体染色は、 ILC2
は、Lineage マーカー陰性 (Lin ; CD3ε、CD4、CD8α、CD19、CD11c、CD11b、γδTCR、
FcεR1α、Gr-1、Ter119、CD49b) かつ ST2+ (Lin - ST2 + )細胞 または Lin- CD127+
KLRG1+細胞として同定した。 OX40L の検出は、抗 OX40L (RM134L, BioLegend) を
使用した。好酸球は、抗 Siglec-F (ES22-10D8, Miltenyi Biotech) と CD11b (M1/70, R&D
systems) を使用して、Siglec-F+ CD11b+ で同定した。 T 細胞解析には、抗 CD3 (1452C11, BioLegend)、抗 CD4 (RM4-5, BioLegend)、抗 CD8 (53-6.7, BioLegend)、抗 CD44
(IM7, BioLegend)、抗 CD45 (30-F11, BioLegend)、抗 OX40 (OX-86, BioLegend)、抗
CD69 (H1.2F3, eBioscience) を使用した。 さらに、IFNγ 産生 を確認するため、
GolgiPlug (BD Biosciences) 存在下で細胞を 50 ng/ml PMA (phorbol 12-myristate 13acetate) (SIGMA) と 1 µg/ml Ionomycin (FUJIFILM WAKO chemicals) で 4 時間刺激し
た。細胞内の IFNγ、Granzyme B、Ki-67 を染色するため、細胞を Cytofix/Cytoperm お
よ び Perm/Wash buffer (BD Biosciences) を 用 い て 固 定 お よ び 透 過 処 理 後 、
10
FoxP3/Transcription Factor staining buffer set (Thermo Fischer Scientific) で 抗 IFNγ
(XMG1.2、BioLedend)、抗 Granzyme B (NGZB、Thermo Fischer Scientific)、抗 Ki-67
(SolA15、Thermo Fischer Scientific)抗体で使用した。フローサイトメトリーは LSR
Fortessa を使用し、データは FlowJo ソフトウェア(BD Biosciences)で解析した。
III-4.
ILC2 の単離と in vitro 培養
ILC2 は、以前の報告のように野生型マウスの肺から取得した [31]。簡便に説明す
る と 、 取 得 し た 肺 を gentle MACS Dissociator お よ び Multi-tissue Dissociation Kit
(Miltenyi Biotec) を使用して、メーカーのプロトコルに従って細胞懸濁液を作製した。
細胞懸濁液は Percoll(30%または 70%)下で 700 g 、20 分間の密度勾配遠心を実施
し、肺内の単核細胞を分離した。取得した単核細胞より ILC2 細胞は MidiMACS
separator (Miltenyi Biotech) 、または Lin-CD25+ Sca-1+ KLRG1+で染色後に FACS Aria II
セルソーター (BD Bioscience)で単離した。実験に必要な細胞数を確保するため、単
離した ILC2 は 10,000 cell/well で 96 ウェル培養プレートに播種し、10 ng/ml の IL-2 と
IL-7 存在下で 10% FCS を含む RPMI1640 培地にて常法どおり増殖させた。 ILC2 が増
えた 2 週間後、 IL-2 と IL-7 を 培養液中から完全に除去するためにサイトカイン非存
在下で 4 時間培養した後、ILC2 を使用した。OX40L 発現の誘導においては、調製し
た ILC2 (10,000 cell/well)培養下に IL-2 (10 ng/ml)、IL-7 (10 ng/ml)、TSLP (10 ng/ml)、
IL-25 (10 ng/ml)、および IL-33 (10 ng/ml) などのそれぞれの条件下で 48 時間培養した。
IL-2 と IL-7 存在下で培養した C57BL/6 野生型マウス由来の ILC2 は、休止期 ILC2
(OX40L は発現していない)として用い、IL-33 刺激された ILC2 は活性化 ILC2
(OX40L が発現している)として使用した。ILC2 と T 細胞との共培養系では、
C57BL/6 野生型マウスの脾臓から取得した CD3+CD8+T 細胞を用い、ILC2 を 10,000
11
cells/well、T 細胞を 40,000 cells/well で抗 CD3 抗体(1 µg/ml)を固相化した 96 ウェル
培養プレートに播種して 72 時間培養した。CD8+T 細胞では、活性化マーカーとして
CD44 発現を確認し、増殖マーカーとして Ki-67 を確認した。
III-5.
統計分析
T 細胞培養では、スチューデントの t 検定を実施し、統計的有意差を示した。他の
検討では、対応のない t 検定を使用した。 p 値 < 0.05 を統計的に有意であると示し
た。
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IV. 結果
IV-1.
IL-33 は腫瘍増殖を阻害し、ILC2 および CD8+T 細胞を悪性黒色腫瘍内に浸
潤誘導する。
IL-33 が抗腫瘍免疫応答に in vivo で関与するか検証するため、B16F10 悪性黒色腫
細胞を C57BL/6 マウスに皮下移植し、同系腫瘍マウスモデルを作製した。担癌した
腫瘍が増殖し、 腫瘍径が 100 mm3 に到達したことを確認後、リコンビナント IL-33
タンパク質 を 1,000 ng/head で腹腔内に隔日で投与した。 ...