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大学・研究所にある論文を検索できる 「環境中の病原性細菌に対するウルトラファインバブルの作用機序に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

環境中の病原性細菌に対するウルトラファインバブルの作用機序に関する研究

山田, 博子 東北大学

2023.03.24

概要

やま



ひろ



氏名

山 田 博 子

学 位 の 種 類

博 士(医工学)

学位授与年月日

令和5年3月24日

研究科、専攻

東北大学大学院医工学研究科(博士課程)医工学専攻

学位論文題目

環境中の病原性細菌に対するウルトラファインバブルの作用機序に
関する研究

論文審査委員

(主査)東北大学准教授 水谷 正義
東北大学教 授 石川 拓司

東北大学教 授 太田 信

東北大学教 授 金高 恭弘

東北大学特任教授 厨川 常元

論 文 内 容 の 要 約
第1章 序論
土壌や水・空気などの環境には多種多様な細菌が生息しており,ヒトの生活と密接に関係している.
田畑,河川,沿岸海域などの自然環境だけでなく,病院内や水泳プール,公衆浴場,水処理場などの
人工環境からも,土や水などに生息する細菌が人体の組織中に持ち込まれることがある.多くの人工
環境においては,ヒトや動物の感染症の原因となる場合には,公衆衛生・労働衛生・食品衛生などの
観点から,病原性細菌の増殖制御が必要とされる.病原性細菌は,抗菌剤や消毒剤などで制御される
ことが多いが,医学的には特定の抗菌剤や消毒剤の多用による耐性菌の出現や,産業的には細菌バイ
オフィルム形成による薬剤抵抗性の獲得,殺菌剤の大量使用による環境影響などの問題がある.化学
物質を必要以上に使用することは殺菌剤の種類によってはアレルギー性皮膚炎を引き起こすこともあ
り,環境影響の危惧も含めリスク低減には,薬品によらない殺菌方法が必要とされている.
殺菌剤を用いずに細菌を制御する方策として,ウルトラファインバブル(Ultrafine Bubble; UFB)
に注目した.UFBは,産業横断的に環境改善や環境負荷低減への貢献が期待されている技術分野の一つ
である.その粒子径は直径1µm以下で,目視での確認が不可能であり,液中での長期安定性を持つ.ま
た様々なガスを内包することが可能である.長期間液中に留まることが可能であり,効果の持続性が
期待できることから,化学薬品によらない細菌制御に適した技術であると考えられる.洗浄効果や生
物活性効果,細菌の増殖抑制効果など様々な応用範囲があるが,その反応機序はほとんど解明されて
いない.そこで本研究では,環境中の病原性細菌に対するUFBの作用機序について検討・考察を行う.と
くにUFBに内包する気体として空気・酸素・窒素およびCO2ガスに注目し,UFBの内包ガスによるUFBの
特性と,特性を発揮する条件を検討する.また,UFBの溶媒である水の成分に起因するUFBの特性変化
とメカニズム解明を検討する.
さらにUFBの特性と病原性細菌および細菌バイオフィルムの性質に関す
る知見から,UFBと病原性細菌・細菌バイオフィルムとの作用機序を解明することを目的とする.

1

第2章 内包ガスに起因する UFB の特性
UFB による殺菌,あるいはバイオフィルム剥離効果の発現機序解明の第 1 段階として,UFB の特性
に大きく関与するパラメータである内包ガスに起因する UFB の特性変化について検討した.UFB の特
徴の 1 つである長期安定性を評価の主軸として,各種産業で汎用されるガスである N2,O2,CO2 および
Air を内包した UFB の特性についてナノトラッキング粒子径測定装置で UFB 密度・粒径の経時変化を
分析した.作製後に 23℃で 24±6 時間静置した各 UFB 水の UFB 密度を測定した結果,CO2-UFB は他の
UFB と比較して UFB 密度が顕著に低くなる傾向がみられた.作製直後の UFB 密度に対する作製 30 分後
の UFB 密度の割合は,Air-UFB 水は約 71%,N2-UFB 水は約 44%,O2-UFB 水は約 81%であったが,CO2-UFB
水は約 10%と大幅に減少していた.次に,作製直後および 30 分後における各 UFB 液中の UFB の粒径お
よび密度分布を測定した結果,Air-UFB は作製直後の平均粒径が 104.0nm,作製 30 分後の平均粒径が
111.6nm,N2-UFB は作製直後の平均粒径が 102.5nm,作製 30 分後の平均粒径が 102.8nm,O2-UFB は作
製直後の平均粒径が 99.0nm,作製 30 分後の平均粒径が 89.9nm であり,いずれの UFB も平均粒径は 30
分後も大きく変化せず 100nm 程度であった.これに対し,CO2-UFB は作製直後の平均粒径が 160.2nm,
作製 30 分後の平均粒径が 243.6nm であった.この結果から,CO2-UFB は他の UFB と比較して時間経過
により UFB の粒径が顕著に増大しやすいと言える.
さらに各 UFB の長期安定性を評価するため,コロイド粒子等の分散安定性の指標に用いられるゼー
タ電位の測定を行った.一般的にコロイド粒子はゼータ電位の絶対値が 0 に近づくほど粒子間での反
発力が低下し,凝集しやすいことが知られている.測定の結果,Air-UFB, N2-UFB および O2-UFB のゼ
ータ電位が-30mV 程度を示した一方で,CO2-UFB のゼータ電位は-1.3mV と 0 に近い値を示した.この
ことは,CO2-UFB は特性として凝集しやすい気泡であることを示す.前項において,CO2-UFB は他の UFB
と比較して粒径が増大しやすいことを確認しており,本項ではゼータ電位で CO2-UFB の凝集しやすさ
を確認できた.このことからも,CO2-UFB は,特性として凝集による粒径増大が起こりやすく,それ
に伴う圧壊により殺菌・消毒効果を持つ可能性が示唆される.また Air-UFB, N2-UFB, O2-UFB につい
ても,ゼータ電位が 0 に近づくことは粒径増大に伴う圧壊を引き起こす条件の一つと考えられる.

第3章 水中の各種金属陽イオンによる UFB の特性変化
UFB の構成要素は, 内包ガスと水などの液体である.
UFB は水以外の液体中でも作製可能であるが,
水道水や井戸水などを原水として用いる場合は,
その水質による影響を受ける可能性があることから,
水の成分に起因する特性変化について分析を行った.初めに一般的な水道水や井戸水の水質に関わる
成分として硬度に注目し,金属陽イオンであるカルシウムイオン(Ca2+)による特性変化を評価した.
まず,Ca2+添加前の Air-UFB 水のゼータ電位を測定した結果,-30.42mV であった.これに対し,塩化
カルシウム溶液を終濃度 0.01%(硬度 249mg/L に相当)となるように調整した Air-UFB 水のゼータ電
位は-0.74mV であった.この結果から,もともとマイナスに帯電している Air-UFB に陽イオンである
Ca2+が引き寄せられることによって電荷が中和され,ゼータ電位が 0 付近に変化したものと考えられ
る.ゼータ電位が 0 付近に変化するという現象は,UFB の分散安定性が変化し,凝集しやすくなるこ
とを示すことから,UFB の粒径変化にも影響を及ぼすと考えられる.そこで Ca2+添加前後の Air-UFB
の粒径分布および密度をナノトラッキング粒子径測定装置で測定した.その結果,Ca2+を添加するこ
とにより UFB の密度は 1/10 以下に減少することが明らかになった.また,Ca2+を添加することで
Air-UFB の平均粒径が約 2 倍に増大していることも確認されたことから,Ca2+の存在により電荷が中和
された UFB 同士が凝集して粒径が増大し,これに伴う圧壊により密度が低下したと考えられる.

2

さらに配管などの環境に由来する各種金属陽イオンの添加による Air-UFB の粒径変化を確認した結
果,いずれの金属陽イオン添加においても平均粒径が顕著に増大しており,また 10µm 以上の粒径の気
泡も確認された.一般的に 1µm 以上の MB については圧壊しやすいことが知られている.したがって
Ca2+の場合と同様,金属陽イオンでも UFB の電荷が中和されて凝集して粒径が増大した結果,圧壊に
至ると考えられる.これらの結果から,マイナスに帯電し,お互いに反発し合うことで分散安定性を
有していた UFB が,Ca2+などの陽イオンの存在により電荷が中和され,UFB 同士が凝集・圧壊し,細菌
に対する効果を発揮することが示唆された.

第4章 CO2-UFB による殺菌効果とその作用機序
第 2 章で得られた知見から,CO2-UFB は他の UFB と比較して殺菌・消毒効果が得られやすい可能性
が示されたことから,CO2-UFB を用いた殺菌効果確認試験を行った.殺菌対象は人工環境水の一例と
して機械加工液(研削液および切削液)とし,それに UFB を混合することにより細菌の発生と増殖が
どの程度抑制されるのかについて検討,考察を行った.
まず,長期間使用した機械加工液について生菌数を測定した結果,研削液および,比較対象である
切削液のいずれの加工液にも 1mL あたり 103 CFU/mL 以上の細菌が存在することが明らかになった.次
に,殺菌する菌種を選定するために研削液および切削液中の菌叢解析(16SrDNA メタゲノム解析)を
行った.その結果,研削液中ではシュードモナス属菌の Pseudomonas diminuta が細菌叢の 16.23%を
占めることが明らかとなった.また,切削液中にはシュードモナス属菌の Pseudomonas mendocina が
細菌叢の 39.69%を占め,それ以外にも Pseudomonas xanthomarina や Pseudomonas panipatensis など
の多種のシュードモナス属菌が検出された.
機械加工液に発生する菌叢中にシュードモナス属菌が多くの割合を占めたことから,殺菌する菌種
としてシュードモナス属菌の一種である緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)を用いた.CO2-UFB また
は Air-UFB を含む滅菌精製水を希釈水とした研削液を作製し,緑膿菌を 106 CFU/mL となるよう接種
した.各液に浸漬直後および 2 時間後の菌数から殺菌率を確認した結果,CO2-UFB を用いた試験群で
は殺菌率が 100%であった.比較対照として黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)についても同
様の試験を行った結果,殺菌率は 0%であった.さらに CO2-UFB 浸漬後の細菌について蛍光顕微鏡観察
を行った結果,緑膿菌の死因は細胞壁損傷によるものであることが分かった.したがって,CO2-UFB
は緑膿菌を殺菌する効果があり,この UFB の殺菌メカニズムには UFB の粒径拡大に伴う圧壊による細
菌の細胞壁損傷が関与すると考えられる.

第5章 金属陽イオンによる各種 UFB のバイオフィルム剥離効果と作用機序
第 3 章で得られた知見を元に,金属陽イオンを添加した Air-UFB,N2-UFB および O2-UFB による細菌
バイオフィルムの剥離効果を検証した.はじめにバイオフィルム中に存在する細菌の種類と菌叢に占
める割合を確認し,バイオフィルム形成菌種としてシュードモナス属菌の一種である緑膿菌を選定し
た.緑膿菌のバイオフィルムの主成分である緑膿菌の細胞壁と,緑膿菌が形成する細胞外ポリマーで
あるアルギン酸塩(アルギン酸ナトリウム)のゼータ電位を測定した結果,いずれの成分も負に帯電
していることが判明した.さらにアルギン酸ナトリウムに Ca2+を添加し,ゼータ電位を測定した結果,
ゼータ電位が 0 に近づいた.第 3 章で得られた知見と合わせて総合的に考察した結果,Ca2+等の陽イ
オン存在下の Air-UFB とバイオフィルムとはお互い電荷が中和され,反発せず van der Waals 力で引
き合うと考えられる.これらの現象を検証するために,バイオフィルム量の評価法として汎用されて

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いるクリスタルバイオレット(CV)法を用い,バイオフィルム剥離効果を検証した.その結果,UFB
水を単独で加えた場合,滅菌精製水(UFB 無し)と比較し,43%以上のバイオフィルム剥離効果が得ら
れ,気体種の相違はほとんど見られなかった.UFB 水に Ca2+を添加することによりバイオフィルム剥
離効果はさらに増大し,77%以上のバイオフィルムが剥離し,バイオフィルム剥離効果は UFB 水単体の
1.5 倍以上に向上した.以上の結果から,共に負に帯電している UFB とバイオフィルムは,Ca2+存在下
では共に電荷が中和し合うことで,同極性による斥力を失い,バイオフィルムの近くで圧壊しやすく
なると考えられる.すなわち,金属陽イオンを添加することで UFB を圧壊させた場合,UFB 単独の場
合よりも高いバイオフィルム剥離効果が得られることを明らかにした.

第6章 結論
本研究では,UFB の凝集と粒径増大に伴う圧壊に着目し,CO2-UFB による緑膿菌の殺菌効果および負
に帯電した UFB の電荷の中和によるバイオフィルム剥離効果を発見するとともに,殺菌効果やバイオ
フィルム除去効果を発揮する条件を明確化した.このような基礎的知見は,UFB の特性を生かした細
菌制御条件の選定および作用機序の考察において重要な役割を果たす.また,本研究で発見した粒径
拡大と圧壊を促す条件については,環境中の金属イオンを利用できるものであり,安全に利用するこ
とが可能である.本研究の成果は,水などの液体を使用する幅広い業種で需要が期待でき,労働安全
性を含む衛生管理の観点から,医工学的意義は高いと言える.

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