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大学・研究所にある論文を検索できる 「CCL3-CCR5系はAktおよびERK経路を介して食道扁平上皮癌細胞の遊走能および浸潤能を亢進させ、その進展に寄与する」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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CCL3-CCR5系はAktおよびERK経路を介して食道扁平上皮癌細胞の遊走能および浸潤能を亢進させ、その進展に寄与する

Kodama, Takayuki 神戸大学

2021.03.25

概要

【背景および目的】
食道癌は 5 年全生存率 18%と予後不良な疾患で、日本を含むアジアでは扁平上皮癌 (ESCC)が約 90%を占める。新規治療の開発に際し ESCC の発癌、進展機構の解明が望まれる。

近年、腫瘍細胞と間質の非腫瘍細胞、細胞外基質から構成される腫瘍微小環境が注目され、 ESCC を含む種々の悪性腫瘍において腫瘍細胞と間質の相互作用が腫瘍の進展に寄与していると報告されている。

腫瘍微小環境中には腫瘍関連マクロファージ (TAM) とよばれるマクロファージが豊富に含まれている。TAM は IL-4、IL-10、IL-13、TGF-β の産生と、CD163、CD204、CD206 の発現をもって特徴づけられ、多くの悪性腫瘍でその進展や予後不良に関わるとされている。申請者の研究グループも過去に ESCC における CD204 陽性 TAM の浸潤が腫瘍の進展と予後不良に関与すると報告している。

ESCC における TAM の役割を解明するため、ヒト末梢血由来単球を分化させたマクロファージと、マクロファージに ESCC 細胞株の培養上清を作用させて作製した TAM 様マクロファージの間でcDNA マイクロアレイ解析を行い、TAM 様マクロファージにて発現上昇がみられた CC chemokine ligand 3 (CCL3) に着目した。CCL3 は CCR1 および CCR5 を受容体に持ち、これらの受容体を介して種々の悪性腫瘍の進展に寄与すると報告されている。しかしながら ESCC における CCL3 の役割は未だ未解明であり、本研究を行った。

【材料および方法】
TE-8(中分化型)、TE-9(低分化型)、TE-15(高分化型)の3種類の ESCC 細胞株と、対照として正常食道扁平上皮細胞Het-1Aを購入した。

インフォームドコンセントを得られた健常人の末梢血より磁気活性化細胞選別 (MACS)を用いてCD14+単球を分離し、これに M-CSF を 6 日間作用させマクロファージを作製した。さらにマクロファージに TE-8、TE-9、TE-15 の培養上清を 2 日間作用させ、TAM 様マクロファージ (TAM8、TAM9、TAM15) を作製した。

これらの ESCC 細胞株および TAM 様マクロファージを用いて各種 in vitro アッセイを行った。
また、神戸大学医学部附属病院において外科的に切除された ESCC 68 例のホルマリン固定パラフィン包埋標本を用いて CCL3 および CCR5 の免疫組織化学を施行し、その発現と臨床病理学的因子や予後との関連性を検討した。

【結果】
まず、半定量逆転写ポリメラーゼ連鎖反応 (qRT-PCR) およびウエスタンブロッティングを用いて TAM 様マクロファージにおける CCL3 高発現を確認した。また Enzyme Linked Immunosorbent Assay (ELISA) で TAM 様マクロファージからの CCL3 高分泌を確認した。蛍光免疫染色で CD204 陽性 TAM 様マクロファージにおける CCL3 発現を確認した。

逆転写ポリメラーゼ連鎖反応 (RT-PCR)では ESCC 細胞株に CCR1、CCR5、CCL3 発現を認めた。ウエスタンブロッティングでは ESCC 細胞株において CCR5 が Het-1A の 6.1~9.5倍と高発現を認めた。CCR1 も全細胞株で高発現していたが、Het-1A の 1.3~1.4 倍と CCR5と比べその程度は低かった。CCL3 も全細胞株で高発現を認めた。ELISA では ESCC 細胞株からの CCL3 分泌を確認した。蛍光免疫染色で ESCC 細胞株における CCR5、CCL3 発現を認めた。

ESCC 細胞株にrecombinant human (rh)CCL3 を作用させると、投与後 10 分後で Akt および ERK のリン酸化が起こったが、これらは small interfering RNA (siRNA) 導入による CCR5 ノックダウンによって抑制された。

腫瘍細胞の遊走・浸潤能に着目し、トランスウェルを用いて評価した。上段に TE-8、TE- 9 を播種した。下段に rhCCL3 を投与、あるいは TAM8、TAM9 との間接共培養を行うと ESCC 細胞株の遊走・浸潤能は有意に亢進し、Akt、ERK 経路の阻害、CCR5 アンタゴニスト、CCL3 中和抗体の投与、CCR5 ノックダウンによって抑制された。

CCL3-CCR5 系が Akt、ERK 経路の活性化を介して ESCC 細胞株の遊走・浸潤能を亢進させることが示されたため、細胞外基質分解により腫瘍浸潤に関わる MMP-2、MMP-9 に着目した。同時に血管新生の代用マーカーとして VEGF-A にも着目した。ESCC 細胞株にrhCCL3を 48 時間作用させ各因子の発現を qRT-PCR で検討した。MMP2 は全細胞株、MMP9 は TE- 15 のみ、VEGFA は TE-9、TE-15 で rhCCL3 の投与による発現上昇がみられた。MMP2 および VEGFA の発現上昇は Akt、ERK 経路の阻害によって有意に抑制された。

ヒト ESCC 組織を用いた免疫組織化学では腫瘍胞巣に CCL3 および CCR5 の発現がみられ、その染色強度により低発現群と高発現群に二分した。蛍光免疫染色では腫瘍細胞及び CD204 陽性 TAM に CCL3 が発現していた。CCL3 高発現は疾患特異的生存率 (CSS) に、 CCR5 高発現は CSS、無病生存率 (DFS)、壁深達度、静脈侵襲、病期、CD204 陽性 TAM の浸潤、および微小血管密度に正の相関を示した。また CCL3 および CCR5 両方の高発現は CSS、DFS、全生存率および微小血管密度に正の相関を示した。

【考察および結論】
CCL3 は種々の腫瘍の進展に関わると報告されているが、その多くは腫瘍細胞の産生する CCL3 に着目しており、炎症細胞の産生する CCL3 に着目した報告は少ない。本研究では CCL3 は TAM および腫瘍細胞の両者から産生されているものの、主な産生源としては TAMが考えられた。

Akt、ERK 経路は CCL3-CCR5 系の下流で活性化することはよく知られており、また細胞の生存、増殖、遊走、浸潤を介して腫瘍の進展に寄与している。また CCL3-CCR5 系は口腔癌や軟骨肉腫において腫瘍の遊走・浸潤能亢進に関与している。CCL3-CCR5 系が Akt、ERK経路を介して腫瘍の遊走・浸潤能を亢進させるという今回の実験結果は過去の報告に合致していた。

MMP-2、MMP-9 は細胞外基質分解による腫瘍細胞の浸潤を、VEGF-A は血管新生の亢進を介して ESCC を含む種々の悪性腫瘍の進展に寄与している。本研究では複数細胞株において rhCCL3 投与が Akt、ERK 経路の活性化を介して MMP2 および VEGFA mRNA の発現を上昇させた。CCL3-CCR5 系による Akt、ERK 経路を介した腫瘍の浸潤能亢進に MMP2 が関与している可能性、また VEGF-A 産生を介し血管新生を引き起こす可能性が示唆された。蛍光免疫染色では CCL3 が ESCC 細胞と TAM の両者に発現していたが、免疫組織化学で は CCL3 は腫瘍胞巣全体に均一な陽性を示し、腫瘍細胞と TAM における発現を個々に評価できなかった。ELISA では TAM の CCL3 分泌が腫瘍細胞より多く、免疫組織化学は CCL3分泌量を正確に評価できていない可能性が考えられる。

免疫組織化学的検討では CCL3 より CCR5 が臨床病理学的因子および予後に密接に関連していることが示されたが、この原因としては、①CCR5 は CCL3 以外にも種々のケモカインのレセプターであり、ESCC の進展により寄与している可能性、もしくは②CCL3 免疫組織化学が分泌量を正確に反映していない可能性が考えられる。また CCR5 高発現は壁深達度や微小血管密度に正の相関を示したが、これは CCL3-CCR5 系の下流での MMP2 や VEGFA の発現上昇による浸潤や血管新生を支持する結果となった。

CCL3 および CCR5 両者の高発現は予後に密接に関連しており、CCL3-CCR5 系は ESCCの進展に重要な役割を果たしているとみなされた。本研究では CCR5 アンタゴニストであるマラビロクが CCL3-CCR5 系に依存した腫瘍の遊走・浸潤を抑制させたが、マラビロクは既に抗 HIV 薬として実臨床で用いられており、マウスでは腫瘍を抑制したとの報告もある。

TAM および ESCC 細胞から分泌された CCL3 は腫瘍細胞に発現する CCR5 を介し Akt および ERK 経路の活性化により MMP-2 および VEGF-A の発現を亢進させ、腫瘍細胞の遊走能、浸潤能亢進および血管新生を介して ESCC の進展に寄与していると考えられた。抗 HIV薬として用いられている CCR5 アンタゴニストは ESCC の新規治療薬となる可能性がある。

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