典型元素を活用した有機合成法の創出

概要

令和４年度

京都大学化学研究所 スーパーコンピュータシステム 利用報告書
典型元素を活用した有機合成法の創出

Development of Molecular Transformation by means of Typical Elements
京都大学大学院理学研究科化学専攻有機化学研究室

下川 淳

研究成果概要
本研究では、京都大学化学研究所スーパーコンピュータシステムを利用し、典型元素のなか
でもとくにケイ素を活用した新しい反応の開発とその理解を目的とした研究を行った。
有機ケイ素化合物は合成中間体や機能性材料として広く用いられており、現代の有機化学
に不可欠な分子群である。しかしその合成法は、過酷な反応条件や不安定な反応剤を必要と
する場合が多く、有機ケイ素化学のさらなる発展を促す上で大きな制約となっている。令和３
年度の成果において新たに報告したナトリウムシリルシラノラートはシラノラート構造とジシラン
構造を併せ持つ構造をもっており、遷移金属ケイ素錯体の優れた前駆体として期待できること
がわかっている。今回銅触媒を用いた場合にもシリルシラノラートが使用できることを確認し、
アルキンの３重結合上にシリル銅をシス付加できることを確認した。
この際に銅シリルシラノラートからシリル銅へと変換される段階について DFT 計算を行ったと
ころ、ケイ素―ケイ素結合が銅に対して酸化的付加するという、これまでに報告のない反応経
路が導かれた。通常考えられている銅アルコキシドとジシランとのσ結合メタセシスのような形
では遷移状態が全く発見されなかった。計算化学的手法によってケイ素―ケイ素結合の酸化
的付加に関する興味深い性質を見いだすことができたと考えている。

Si Si
N

Si
O
O

Na

Na
Cu O
Si
N

Si
Si O
O Na
Si
Cu Na O
Si
N
N

Si
O
Si
Si
O Na
Cu
Na
N
O Si
N

via oxidative addition of the Si–Si bond to the copper center

Si
Cu
NN
Na
O
O
Me3Si
Na
Si
O
Me3Si

発表論文（謝辞なし）
“Sodium silylsilanolate as a precursor of silylcopper species.” Hiroki Yamagishi, Kenshiro Hitoshio,
Jun Shimokawa, Hideki Yorimitsu, Chem. Sci. 2022, 13, 4334–4340. ...