高周期典型元素を含む高反応性化学種の合成と性質

概要

令和 4 年度

京都大学化学研究所 スーパーコンピュータシステム 利用報告書
高周期典型元素を含む高反応性化学種の合成と性質
Synthesis and Characterization of Highly Reactive Species
Containing Heavier Main Group Elements

京都大学化学研究所 物質創製化学研究系有機元素化学領域

行本 万里子

研究成果概要
本研究では、京都大学化学研究所スーパーコンピュータシステムを利用した量子化学計算
によりジアリール置換2,2-ジヒドロシレンの構造最適化を行った。
ケイ素−炭素間二重結合化学種であるシレンは、分極した構造のため高反応性であること合
成ルートに制約があることから、かさ高い置換基を導入することによる速度論的安定化を用い
た報告例は限られている。特に、炭素上の二つの置換基がいずれも水素である2,2-ジヒドロシ
レン(R2Si=CH2)は、非常に高反応性で単離が難しいことから、その報告例は、熱力学的安定
化と速度論的安定化の両方を用いた系でのNMRにおける観測にとどまっていた。本研究で
は、かさ高い芳香族置換基をケイ素上に導入した2,2-ジヒドロシレンの合成に成功した。予備
的な測定結果ではあるが単結晶X線結晶構造解析から、その構造を確定した。また、
Gaussian16 [B3PW91/6-311G(d)]にて行った構造最適化計算により得られた構造パラメータ
は、実測値と良い一致を示した。重ベンゼン中における1H NMRスペクトルでは、炭素上の2つ
のジェミナルプロトンが2つのダブレットとして4.55、4.76 ppmに観測された(2JC-H = 9.4 Hz)。
Si=C結合の炭素は13C NMRスペクトルにおいて95.4 ppmにシグナルが確認でき、HSQCスペ
クトルでは、先述のSi=CH2の2つのプロトンとの相関があることを確認した。Si=C結合のケイ素
は29Si NMRスペクトルにおいて低配位ケイ素化学種の領域内である90.5 ppmに観測された。
これらのNMR測定結果は、[B3PW91/6-311G(2d,p)]レベルで行ったGIAO計算においても
サポートされた。
発表論文(謝辞あり)
J. A. Garcia, Y. Yasui, M. Yukimoto, Y. Mizuhata, N. Tokitoh, Chem. Lett. 2022, 51, 898-901. ...