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大学・研究所にある論文を検索できる 「安定同位体標識ペプチドを利用したタンパク質絶対定量による全身性アミロイドーシスの病型分類」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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安定同位体標識ペプチドを利用したタンパク質絶対定量による全身性アミロイドーシスの病型分類

小川, 真喜子 東京大学 DOI:10.15083/0002002333

2021.10.13

概要

アミロイドーシスとは、タンパク質が天然の立体構造を変化させながら重合し、不溶性のアミロイド線維を形成し、諸臓器の細胞外間質に沈着することにより臓器障害を引き起こす疾患群の総称である。アミロイドーシスは、現在30種類以上の病型に分類される。長らく有効な治療法がなく、全身臓器の重篤な障害を引き起こすことから、不治の病と考えられてきた。しかし、21世紀以降アミロイド研究は飛躍的に進歩し、病型ごとに新たな治療法が開発されつつある。よって、今後アミロイドーシス診療においては、更なる早期の病型診断、早期治療介入が重要である。

 本研究の目的は、アミロイドーシス病型のより正確な診断法の確立であり、近年飛躍的に進歩している全身性アミロイドーシスの治療に結び付けることである。そこで、第一に、アミロイドーシス病型診断のための免疫組織化学染色の染色条件検討を行い、次に、アミロイド前駆タンパク質の正確な同定や、同一症例における複数のアミロイド前駆タンパク質の存在の有無を検証することを目的に、内部標準を用いたタンパク質の絶対定量を行い、全身性アミロイドーシス症例の解析を試みた。

 アミロイドーシスの病型診断には、免疫組織化学染色が必須である。しかしこの方法は、使用している抗体のメーカーや種類、染色方法が施設間で様々であり、統一されていない。本研究では、アミロイド前駆タンパク質に対する一次抗体による免疫組織化学染色の精度を向上させることを目的に、アミロイドーシス診断に有用との報告がある一次抗体を選出し、個々の抗体について染色法の条件検討を行った。serum amyloid A(SAA)、transthyretin(ATTR)、immunoglobulin kappa(IGK)、immunoglobulin lambda(IGL)、beta-2-microglobulin(B2M)、Apolipoprotein A1(Apo A1)、Apolipoprotein A2(Apo A2)、Apolipoprotein A4(Apo A4)、Apolipoprotein E(Apo E)、Gelsolin、 Fibrinogen alpha chain(FGA)、Lysozyme、leukocyte cell-derived chemotaxin 2(LECT2)の計13種類のアミロイド前駆タンパク質に対する一次抗体の条件検討を行ったが、ApoA2を除く12種類の抗体の有用な染色方法を見出した。

 また、頻度の高いアミロイドーシス病型の前駆タンパク質であるSAA、ATTR、IGK、IGL、B2Mに対する一次抗体を用いた免疫組織化学染色による、アミロイドーシス病型診断を行った。材料は、東京大学医学部附属病院において、1999年から2016年の間に病理解剖を行った、全身性アミロイドーシス症例30例のホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)サンプルを用いた。30例に関しては、病理解剖時に免疫組織化学染色、あるいは免疫血清学的検査により、20例は病型が診断されていた。うち6例はAA症例、7例はATTR症例、5例はAL(kappa)症例、2例はAL(lambda)症例であった。本研究における免疫組織化学染色による病型確定の基準は、1症例につき2臓器(2検体)を染色評価し、強陽性となる抗体が1種類、かつ、他の抗体は弱陽性から陰性を示すこととした。結果、病理解剖の時点で病型が確定していなかった10例のうち8例は、本研究の免疫組織化学的検討によって病型確定に至った。しかし、2例は同時に複数の抗体が弱陽性を示し、病型確定は困難であった。また、ATTR症例1例に関しては、本研究では複数の抗体が陽性を示し、かつ1臓器のみの検討であったため、病型確定に至らなかった。

 全身性アミロイドーシス症例において、免疫組織化学染色では病型確定が困難な場合、質量分析は有効な手法である。その中でも、安定同位体標識ペプチドを内部標準としてサンプルに添加し測定する絶対定量法は、複数のタンパク質を同時に定量できるため、それぞれのタンパク質発現量の比較定量が可能となる。

 本研究では、アミロイド前駆タンパク質の正確な同定や、同一症例において複数のアミロイド前駆タンパク質が共に存在するか否かを検証することを目的に、内部標準を用いたタンパク質の絶対定量を行い、全身性アミロイドーシス症例の解析を試みた。材料は、免疫組織化学的検討で用いた、当院における全身性アミロイドーシス剖検例30例のFFPEサンプルを用いた。質量分析における内部標準として、上田らが構築した無細胞系PUREシステムを利用し、標的とするアミロイド前駆タンパク質の同位体標識ペプチド(MS-QBiCペプチド)を作成して頂いた。測定には三連四重極質量分析計(TSQ Quantiva triple quadrupole mass spectrometer(Thermo scientific)を用いた。データ解析では、添加したMS-QBiCペプチドとサンプル由来のターゲットペプチドをそれぞれ検出し、MS-QBiCペプチド由来のプロダクトイオンとサンプル由来のプロダクトイオンの強度比と保持時間の一致を指標として、ペプチドを同定した。同定したペプチドに関しては、添加した既知濃度のMS-QBiCペプチドのエリア値との比率によって、その定量値を求めた。結果、全サンプルからSAA、ATTR、B2M、IGK、IGL、Apo A1、Apo A2、Apo A4、Apo E、Gelsolin、FGA、Lysozymeの、計12種類のアミロイド前駆タンパク質の正確な定量値を得ることができた。

 SAA、ATTR、B2Mに関しては、AA症例、ATTR症例、透析アミロイドーシス症例のサンプルからはそれぞれ多量に検出され、それ以外のサンプルからはほとんど検出されなかった。また、IGK、IGLにおいては、非ALアミロイドーシス症例サンプルからのIGK、IGL検出量は、ALアミロイドーシス症例サンプルからのIGK、IGL検出量のおおよそ1-3割程度であった。免疫組織化学染色により診断が困難であった2症例に関しては、非ALアミロイドーシス症例と比較してIGKが有意に多く検出され、その他のタンパク質の検出量は非AL(kappa)症例と同程度であった。従って病型不明の2症例は、本実験で測定した13種類のアミロイド前駆タンパク質が原因となる全身性アミロイドーシス病型の中では、AL(kappa)アミロイドーシスの可能性が最も高いと考えられた。結果、アミロイドーシス剖検例30例全ての病型を診断することができた。

 免疫グロブリンは可変領域を持ち、更に定常領域にもアミノ酸変異が多いことが知られている。そのため、アミノ酸配列に特異的な質量(m/z)によりペプチドを同定する質量分析法では、検出することが困難なタンパク質の一つである。さらに、ALあるいは重鎖(AH)アミロイドーシスにおいては、免疫グロブリンの可変領域、定常領域いずれも組織へ沈着するとの報告がある。本研究においては、IGK、IGLの定常領域のうち、アミロイドーシス症例においてLC-MS/MSで検出された、あるいは有用と報告されている免疫組織化学染色の抗体の標識部位にあたるペプチド配列を用いて定量したが、AL(lambda)アミロイドーシス症例において、IGLの検出量が少ない検体が存在した。その原因としては、測定したペプチド配列以外の領域が沈着していたため、本実験においては検出不可能であった可能性が考えられる。ALアミロイドーシスは、全身性アミロイドーシスのうち最も頻度の高い病型であるため、病型診断に質量分析法を活用するにあたり、免疫グロブリンの検出方法を検討する必要がある。本研究においては、免疫グロブリンの検出率を向上させるため、ターゲットペプチドの選択を入念に行うことにより、他の検出タンパク質と比較し、有意差を持って軽鎖を検出・定量することができた。

 本研究において、病因となる主要なアミロイド前駆タンパク質と共に、Apolipoprotein、Lysozymeが全てのサンプルから多く検出された。特にApo A4の検出量は、病因となるアミロイド前駆タンパク質の検出量と正の相関関係があることを示した。そこで、正常組織とアミロイド沈着組織を用いたApolipoprotein、Lysozymeの比較定量を行ったところ、Apo A1、Apo A4、Apo Eは、正常組織と比較し、アミロイド沈着組織中に特異的に多く存在することが判明した。Lysozymeにおいても、アミロイド沈着組織中に多い傾向がみられた。この点からも、Apolipoprotein、Lysozymeは、病因となる主要なアミロイド前駆タンパク質と共存し、アミロイド線維伸長、沈着過程において何らかの役割を担っている可能性が示唆された。

 本研究によって、アミロイドーシス病型診断のための免疫組織化学染色の精度を向上させることができた。また、質量分析による絶対定量法を用いることにより、より確実なアミロイドーシス病型診断が可能となった。さらに、アミロイド線維沈着、臓器障害の過程に、ApolipoproteinやLysozymeなどの複数のアミロイド前駆タンパク質が関与している可能性が示唆された。

 以上の結果は、アミロイドーシスの病態の更なる解明において足掛かりとなることが期待される。

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