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大学・研究所にある論文を検索できる 「土星リング粒子を模擬した多孔質氷球の低速度衝突実験:反発係数に対する空隙率依存性及び非弾性衝突メカニズム」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

土星リング粒子を模擬した多孔質氷球の低速度衝突実験:反発係数に対する空隙率依存性及び非弾性衝突メカニズム

森谷, 優佳里 神戸大学

2023.03.25

概要

Kobe University Repository : Kernel
PDF issue: 2024-05-02

土星リング粒子を模擬した多孔質氷球の低速度衝突
実験:反発係数に対する空隙率依存性及び非弾性衝
突メカニズム

森谷, 優佳里
(Degree)
博士(理学)

(Date of Degree)
2023-03-25

(Date of Publication)
2024-03-01

(Resource Type)
doctoral thesis

(Report Number)
甲第8589号

(URL)
https://hdl.handle.net/20.500.14094/0100482337
※ 当コンテンツは神戸大学の学術成果です。無断複製・不正使用等を禁じます。著作権法で認められている範囲内で、適切にご利用ください。

(別紙様式 3
)

論文内容の要旨





森谷





惑星学

優佳里

論文題目(外国語の場合は,その和訳を併記すること。)

土星リング粒子を模擬した多孔質氷球の低速度衝突実験:反発係数
に対する空隙率依存性及び非弾性衝突メカニズム

指導教員

荒川

政彦

●`

森谷優佳里: NO. 1

要旨
土星リングシステムは太陽系に存在する特徴的な構造の 1つであり、土星中心から

2
8
2
,
0
0
0kmに渡って広がっているのに対して、厚さは約 10m程度という非常に薄い円
盤状の構造である。土星リングは探査機や地上望遠鏡の観測によって、 2つのグループ
に分けられている。 1つ目のグループはメインリングと呼ばれており、 A,B,Cリングが
含まれる。本研究では、メインリングに着目し、その動力学を理解するために重要な物
理学的過程であるリング粒子間の非弾性衝突に関する実験的研究を行う。メインリング
のリング粒子は数 cmから数 10mサイズであり、主に水氷から構成されていると先行
研究から言われてい る。更に、惑星探査 機 C
a
s
s
i
n
iによって行われた観測によって、動
力学的に安定な状態にあることがわかっている。定常状態におけるリング粒子の速度分
散は反発係数によって決定されるため、リングの観測結果と数値計算を比較し、リング
の動力学を理解するためには、リング粒子の非弾性衝突を特徴付ける反発係数を調べる
ことが非常に重要である。先行研究では、リング粒子の模擬物質として空隙のない水氷
が使用されていた。しかし、近年の観測によって、メインリングを構成するリング粒子
は空隙を含む多孔質氷である可能性が示唆されている。しかし、多孔質氷を用いた低速
度での反発係数の実測はほとんど行われておらず、特に多孔質氷の空隙率に着目した実
験は今までに行われていない。従って、本研究ではリングの動力学を理解するために重
要な物理量であるリング粒子の反発係数を明らかにするため、リング粒子の候補として
新たに提案されている多孔質氷を使用した低速度衝突実験及び反発係数の測定を行い、
反発係数と衝突速度の関係に対する空隙率依存性を調べた。更に、多孔質氷の非弾性衝
突におけるエネルギー散逸メカニズムを明らかにするため、衝突による多孔質氷の変形
量及び接触時間の測定を行い、塑性変形及び粘弾性変形を考慮したエネルギー散逸につ
いて議論する。最後に、得られた結果を用いてメインリングシステムの動力学に対する
多孔質氷の空隙率の影響を議論する。
試料作成及び実験は全てー 1
3
.
8°C の低温室内で行われた。多孔質氷球は細粒の氷粒
子(平均粒径 1
1
.
3土5
.
9 μm) を型に詰めて成形することで作成した。本研究では、平
均空隙率の異なる 3種類の多孔質氷球(直径 3cm) を作成した。本論文では、平均空隙
率4
9
.
6
%の多孔質氷球を L
S
(
L
o
w
p
o
r
o
s
i
t
yS
a
m
p
l
e
s
)
、5
3
.
8%の多孔質氷球を MS(
M
i
d
d
l
e
-

p
o
r
o
s
i
t
yS
a
m
p
l
e
s
)
、6
0
.
8
%の多孔質氷球を H
S
(
H
i
g
h
p
o
r
o
s
i
t
yS
a
m
p
l
e
s
)と呼ぶ。作成した多
孔質氷球は 2
0
.
3°Cの冷凍庫で 6
9日焼結させており、先行研究から試料の強度は空隙
率のみに依存することが確かめられている。標的板は鏡面仕上げされた花岡岩板、表面



森谷優佳里: NO. 2

の霜を取り除いて滑らかな状態にした氷板、多孔質氷球と同様の方法で作成した多孔質
9
.
0
氷板(直径 3cm、高さ 2cm) の 3種類を準備した。多孔質氷板の空隙率範囲は 4
8%であり、多孔質氷球と同様の条件で焼結させた。低速度衝突実験は多孔質氷球を
.
0
6

標的板に自由落下によって衝突させることで行なった。レーザー変位計を用いて多孔質
氷球の高さ変化を計測することで、多孔質氷球の反発係数、衝突による変形量、接触時
間を計算した。レーザー変位計の高さ分解能は lμm、サンプリング周期は 50μsであ
jの関係を用いて計算
j/-vi,j=△tj+1/△t
,
r
V
j=
jは衝突の時間間隔から E
った。反発係数E

した。衝突による変形量及び接触時間は、時間微分して得られる球の速度の時間変化を
使用して、衝突した時間及びその時の球の高さ、反発した時間及びその時の球の高さか
ら求めた。多孔質氷球は多くの場合複数回反発するため、複数回衝突による反発係数、
変形量、接触時間も確認することができた。
低速度衝突実験の後、多孔質氷球と標的板の衝突点付近に凹みが形成されているの
が確認できた。凹みは衝突回数によらず 1つしか確認されなかったため、形成された凹
みは最も衝突速度の大きい 1回目の衝突によるものであると考えた。凹みの形態から、
"
e
p
y
衝突点に形成された凹みを 3種類に分類した。 1つ目の凹みタイプを ”Compressiont
e
l
p
m
i
S
とし、圧縮されたような平な凹みが特徴であった。 2 つ目の凹みタイプを “
” とし、多孔質氷球の剥離によって発生した標的板への質量輸送が特徴で
e
p
y
nt
o
i
t
a
l
l
a
p
s
” とし、多孔質氷球と標的板の両方の
e
p
y
nt
o
i
t
a
l
l
a
p
xs
e
l
p
m
o
C

あった。 3つ目のタイプを ‘

剥離によって発生した双方向的な質量輸送が特徴であった。これらの凹みタイプは主に
標的板のタイプに依存しており、花岡岩板または氷板 との衝突の場合は Compression
typeのみ、多孔質氷板との衝突の場合は全てのタイプの凹みが形成された。多孔質氷球

の衝突速度viと反発係数eの関係は限界速度Veを境に準弾性領域と非弾性領域に分けら
れることがわかった。準弾性領域(巧く Ve) では衝突速度によらず反発係数が一定値到e
となった。非弾性領域 (vi>Ve)では衝突速度の増加に伴って反発係数は減少し、その関
係は塑性変形によるエネルギー散逸を考慮した Andrews'model によって表すことがで
きた。本研究では、得られた結果を説明するために Andrews'modelに紐eを導入するこ
とで以下のように Andrews'modelを改良した。
E

{和e[—證)2 + {苧(判—紐)『l1/2,vl >

=

Vc

~ Ve
E q e , V j

本研究では、多孔質氷球と花岡岩板との衝突の場合のみ準弾性領域がはっきりと確認で
きたが、氷板及び多孔質氷板との衝突の場合は非弾性領域しか確認できなかった。従っ





森谷優佳里: NO. 3

て、上記の改良した A
n
d
r
e
w
s
'
m
o
d
e
l及び得られた実験結果を組み合わせて、氷板及び多
孔質氷板との衝突に おける限界速度Veと準弾性領域における反発係数Eqeを推定した。
多孔質氷の反発係数は空隙率の増加に伴って低下することが分かった。これは、塑性変
形する体積が増加する効果と、準弾性領域でのエネルギー散逸の効率が空隙率の増加に
伴って増加する効果が影響していると考えられる。また、多孔質氷板の場合は他の板と
の衝突の場合よりも Eqeが小さいことが分かった。これは多孔質氷板との衝突の場合は
他の板とは異なり、多孔質氷球と多孔質氷板の両方が変形することでエネルギーを散逸
しているからであると考えられる。更に、複数回衝突によって得られた反発係数は 1回
目で得られた反発係数よりも散乱することが分かった。これは前回の衝突の影響がない
面に衝突する場合は 1回目の衝突による実験結果から推定した Andrews'modelに従う
が、前回の衝突の影響で氷粒子間の焼結による結合が切れて強度が下がった面に衝突す
る場合は塑性変形する体積が増加して反発係数が低くなっているためであると考えた。
本研究で計測した変形量(最大圧縮量Ahcomp、回復量Ahrec、塑性変形量Ahdef) は多孔
質氷の粘弾性的性質を考慮した“見かけのヤング率”によって説明できることが分かっ
た。しかし、接触時間に関しては“見かけのヤング率’'を導入しても説明することができ
なかったため、多孔質氷の接触時間を説明するには粘弾性による時間依存の現象を考慮
した新たなモデルが必要であると考えられる。
最後に、今回得られた実験結果を元に衝突速度と反発係数の関係に対する空隙率及
依存性について考察した。限界速度Veの空隙率依存性は、先行研究によって得られた空
隙のない氷同士の衝突における限界速度Vc,Oを導入し、実験結果のフィッティングを行
うことで導出することができた。準弾性領域の反発係数Eqeは D
i
l
l
e
yによって提案され
た粘性散逸モデルを適用すると、パラメ_夕{に支配されることが分かった (の空隙率
0

依存性は、先行研究 によって得られた空 隙のない氷同士の衝 突における Eqeから計算し
た{
oを導入し、実験結果のフィッティングを行うことで導出することができた。更に、
先行研究で得られているサイズ依存性も導入することで、多孔質氷球同士の衝突におけ
る反発係数の空隙率及びサイズ依存性を Ve及び{に関する以下の式で表せることがわか
った。


に)
(元サー

V
c
'=V
c
,
0

R1 ¥-0.SI

3/2

1

f

1/2 伍

1

(=(。(声)(戸) (


s
oは半径

ここでVc,O及 び

―〇.
2/

―0
.
1

f―q2-0.1

1
.
5cm の霜のない氷球と氷板の衝突で得られる Ve及び{、 8=



森谷優佳里: NO. 4

2は経験的に決定される定数である。最
1とq
外ま衝突する多孔質氷球のサイズ比、 q
R1IR

後に、半径 1.5cmの多孔質氷球と十分に大きい多孔質氷球との衝突を考慮して、空隙

smodelの破綻条件より 0<¢<
'
y
e
l
l
i
率依存性を外挿した。その結果、上記の関係式は D
75%の範囲(¢多孔質氷球の空隙率)においてのみ有効であることが明らかになった。
この空隙率範囲に関して衝突速度と反発係数の関係を外挿し、リングシステムが定常状
%以
o
7との比較を行なった。その結果、空隙率 s
2
6
.
t0
i
r
c
態になる条件の最小値である E
上の多孔質氷球同士の衝突 の場合は全ての衝突速度範 囲で条件を満たすことがで きた
%以下の場合は衝突速度巧> 20-100cms―1の場合のみ条件を満たすこと
0
が、空隙率 4
が分かった。

I

--- - -~ •―- -

-

(別紙 1)

論文審査の結果 の要旨


:
I
題目

:リ門:子を模擬した多孔質氷球の低速度衝突実験:反発係数に対する空隙率依存性及
び非弾性衝突メカニズム

:

I




教授職名

1

荒川政彦

副査

教授

大槻圭史

副査

講師

保井みなみ

副査

講師

樫村博基

副査









本論文は、土星 リング粒子を模 擬した多孔質氷 球の低速度衝突 実験を実施し、 その反発係数の 空隙率依存
性について新し い実験的知見を 得たものである 。
本論文は、 5章からなる。第 1章は本論文の研 究背景や目的が まとめられてい る。土星リング システム
は太陽系に存在 する特徴的な構 造の 1つであり、探査機や地上望遠鏡の観測結果から、 A、B、C リングを
含むメインリン グと希薄な塵の リングに分けら れている。この メインリングは 差し渡し 2
82,000kmに渡
って広がってい るが、厚さは約 10m程度という非常 に薄い円盤構造 を持つ。本研究 では、メインリ ング
に着目し、その 薄いリングを維 持するメカニズ ムを解明するた め、リング粒子 間の衝突反発に 関する実験
的研究を行って いる。メインリ ングのリング粒 子は、粒径が数 cmから数 1
0m であり、主に水 氷から構
成されている。更に、 C
a
s
s
i
n
i探査機による観 測結果から、リ ングは動力学的 に安定な状態に あることが
わかっている。 また、リングの 観測結果とその 動力学に関する 数値計算との比 較から、定常状 態における
リング粒子の速 度分散は、反発 係数によって決 定されることが 分かっている。 従って、リング の安定性を
研究する上でリ ング粒子の非弾 性衝突を特徴付 ける反発係数を 調べることは非 常に重要である 。先行研究
では、リング粒 子の模擬物質と して空隙のない 水氷が使用され ていた。しかし 、近年の観測結 果から、メ
インリングを構 成するリング粒 子は空隙を含む 多孔質氷である 可能性が示唆さ れている。しか し、多孔質
氷を用いた低速 度での反発係数 の実測はほとん どなく、特に多 孔質氷の空隙率 に着目した実験 は今まで行
われていない。 そこで、本研究 ではリングの安 定性を研究する 上で重要な物理 量であるリング 粒子の反発
係数を調べるた め、リング粒子 の候補として新 たに提案された 多孔質氷の反発 係数の測定を行 い、反発係
数と衝突速度の 関係とその空隙 率依存性を明ら かにすることを 研究目的として いる。更に、衝 突時の多孔
質氷の非弾性衝 突におけるエネ ルギー散逸メカ ニズムを明らか にするため、衝 突時の多孔質氷 の変形量及
び接触時間の測 定を行い、粘弾 性変形を考慮し たエネルギー散 逸について考察 し、多孔質氷の 非弾性衝突
におけるエネル ギー散逸メカニ ズムやメインリ ングシステムの 安定性に対する 多孔質氷の空隙 率の影響
を考察することも研究目的としている。
第 2章では、試料の 準備方法と低速 度衝突実験の方 法、そして、取 得データの解析 方法について述 べら
れている。試料 作成及び実験は 全てー 1
3
.
8°Cの低温室内で行 われた。多孔質 氷球は細粒の氷 粒子(平均粒
径 1
1
.
3士5
.
9 μm) を型に詰めて成 形することで作 成した。本研究 では、平均空隙 率が 49.6%、53.8%、
6
0
.
8%の異なる 3種類の直径 3cmの多孔質氷球を 作成した。作成 した多孔質氷球 は一2
0
.
3°Cの冷凍庫で
6-9日間焼結させた 。なお、焼結さ せた試料の強度 は空隙率のみに 依存することは 先行研究によっ て確か
められている。 標的板は鏡面仕 上げされた花岡 岩板、表面の霜 を取り除いて滑 らかにした氷板 、多孔質氷
球と同じ方法で 作成した多孔質 氷板(直径 3cm
、高さ 2cm) の 3種類である。多 孔質氷板の空隙 率範囲
は 4
0
.
9
6
0
.
8%であり、多孔 質氷球と同じ条 件で焼結させた 。低速度衝突実 験は、多孔質氷 球を標的板に
自由落下させる ことで行なった 。レーザー変位 計を用いて多孔 質氷球の高さ変 化を計測するこ とで、多孔
質氷球の反発係 数、衝突による 変形量、接触時 間を求めた。レ ーザー変位計の 高さ分解能は lμm
、サン
プリング周期は 50μsであった。反発 係数Eは衝突の時間間 隔から計算した 。また、衝突時 の変形量及び
接触時間は、球 の高さの時間変 化を解析して求 めた。多孔質氷 球は多くの場合 複数回反発する ため、複数
回衝突による反 発係数、変形量 、接触時間も計 算した。
第 3章では、実験で 取得された多孔 質氷球の反発係 数、衝突時の変 形量と接触時間 、そして、それ らに
関する考察が述 べられている。 衝突実験の後、 回収した多孔質 氷球と標的板の 衝突点付近には 凹みが確認
できた。凹みは 衝突回数によら ず 1つしか確認され なかった。その ため、凹みは最 も衝突速度の大 きい 1

氏名

l
森谷優佳里

回目の衝突によるも のだと考えられる。 凹みは、その形態か ら 3種類に分類される。 1つ 目 を ’
'
C
o
m
p
r
e
s
s
i
o
n
t
y
p
e
" と呼ぶ。これは圧縮された平らな凹みが特徴である。 2つ目を ‘

S
i
m
p
l
es
p
a
l
l
a
t
i
o
nt
y
p
e
" と呼ぶ。こ
れは多孔質氷球の剥 離によって発生した 標的板への質量輸送 が特徴である。 3つ目を ‘
‘Complexs
p
a
l
l
a
t
i
o
n
t
y
p
e
" と呼ぶ。これは多孔 質氷球と標的板の両 方の剥離による双方 向的な質量輸送が特 徴である。これらの
凹みタイプは標的板 の種類と相関があり 、花岡岩板や氷板に は Compressiont
y
p
eのみが現れるが、多 孔質
氷板では全てのタイ プの凹みが現れた。 多孔質氷球と花髄岩 板との衝突実験の結 果、多孔質氷球の衝 突速度
v
iと反発係数Eの関係は、限界速度V
eを境に準弾性領域と 非弾性領域に分けら れることがわかった 。準弾性領

域(乃く叫では衝 突速度によらず反 発係数が一定値E
q
eとなった。非弾性領域(巧> V
e
)では衝突速度の増加
に伴って反発係数は 減少した。非弾性領 域における衝突速度 と反発係数の関係は 塑性変形によるエネ ルギー
散逸を考慮した Andrews'modelで説明することがで きた。本研究では、 準弾性領域も含めて 得られた結果
を説明するために Andrews'modelにE
q
eを導入し改良した。 実験では、多孔質氷 球と花醐岩板との衝 突での
み準弾性領域がはっ きり確認できたが、 氷板及び多孔質氷板 との衝突では非弾性 領域しか確認できな かっ
た。そこで、氷板及 び多孔質氷板との衝 突における限界速度 V
eと準弾性領域におけ る反発係数E
q
eは、上記の
改良した Andrews'modelを用いて推定した。また、多孔質氷の空隙率が大きいほど反発係数は小さかった。
これは、空隙率が大 きいほど塑性変形す る体積が増加するこ と及び準弾性領域で のエネルギー散逸の 効率が
増加することが原因 だと考えられる。ま た、多孔質氷板の場 合は他の板との衝突 の場合よりも E
q
eが小さかっ
た。これは多孔質氷 板との衝突の場合、 多孔質氷球と多孔質 氷板の両方が変形す ることでエネルギー を散逸
しているからだと考えられる。更に、複数回衝突によって得られた反発係数は、 2つのグループに分かれた。
一方は、 1回目の衝突から推定 した Andrews'modelに従うグループであ る。これは、反発時 に多孔質氷球が
回転し、前回の衝突 面を避けて次の衝突 が起こった場合だと 考えられる。他方は 、 1回目の衝突を基にし た

Andrews'modelによる推定より低い グループである。こ れは、前回の衝突で 氷粒子間の焼結ネッ クが切れて
強度が下がった面に 衝突し、塑性変形体 積が増えてエネルギ ー散逸が大きくなっ た場合だと考えられ る。
第 4章では、衝突時の変 形量や接触時間の計 測データから多孔質 氷球の粘弾性的性質 が検討されている。
さらに、反発係数の 空隙率依存性とサイ ズ依存性、土星リン グ粒子同士の衝突へ の応用が検討されて いる。
本研究で計測した弾 性及び塑性変形量は 、多孔質氷の粘弾性 的性質を考慮した“ 見かけのヤング率’ 'を導入
することで説明できることが分かった。しかし、接触時間に関しては‘‘見かけのヤング率’'を導入しても説
明できなかった。次 に、本実験の結果を 元に衝突速度と反発 係数の関係に対する 空隙率の影響を考察 した。
限界速度V
eは空隙率の減少と伴 に徐々に増加し、空 隙を含まない氷で最 大値となる。また、 準弾性領域の反
発 係 数E
q
eは、先行研究で提案 された粘弾性 V
o
i
g
tモデルを応用するこ とで、振動の減衰率 を決めるパラメー

r

タ で表すことができた。引ま空隙率の減少と伴に減少し、 V
eとは反対に空隙を含 まない氷同士の衝突 で最小
値となる。更に、先 行研究のサイズ依存 性も導入することで 、多孔質氷球同士の 反発係数の空隙率及 びサイ
ズ依存性を V
e並びに g渭 1
いた式で表せること ができた。最後に多 孔質氷球が半無限多 孔質氷体に衝突した
時の反発係数cの空隙率依存性を計 算した。粘弾性 V
o
i
g
tモデルが破綻しない 0:
s
;<
P<75%の範囲(¢多孔質
氷球の空隙率)で衝 突速度と反発係数の 関係を外挿し、士星 リングシステムが定 常状態になる Eの最小値で
ある Ecrit=0
.
6
2
7との比較を行なった 。その結果、空隙率 50%以上の多孔質氷球 の衝突では、全ての 衝突速
度範囲で条件を満た すことができたが、 空隙率 40
%以下の場合は衝突 速度vi>20-100cms―1の場合でのみ
条件を満たすことが分かった。
第 5章は論文のまとめである。
本研究は、士星リン グシステムの動力学 に重要なリング構成 粒子同士の衝突反発 係数について実験的 に調
べた研究であり、特 にリングの構成粒子 として可能性の高い 多孔質氷球の反発係 数の衝突速度及び空 隙率依
存性を次のように整 理されることを明ら かにした。 (
1
) 反発係数Eは限界速度 V
e以下の衝突速度では 、ほぼ一
定の反発係数E
q
eを持ち準弾性的に振 る舞う。そして、そ の cは粘弾性 V
o
i
g
tモデルで再現できる。 (
2
)V
e以上
では、衝突点近傍の 塑性変形により運動 エネルギーが散逸し 、衝突速度と伴に反 発係数が徐々に減少 する。
この非弾性的な振る 舞いは Andrew'smodelという弾塑性モデル に E
q
eを組み込むことで再現できる。 (
3
)衝
突時に起こる粘弾性変形量は'’見かけのヤング率”により Andrew'smodelで定量的に再現する ことができ

。 (
4
) ~よ紐e の空隙率依存性は実験結果から構築することが可能で、その経験式を利用することで多孔質
氷球の反発係数を空 隙率 75
%以下の場合に求め ることができる。そ の結果、本研究は多 孔質氷リング粒子の
反発係数が土星リ ングシステムの動 力学に及ぼす影響 について重要な知 見を得たものとし て価値ある集積
であると認める。よって、学位申請者の森谷優佳里は、博士(理学)の学位を得る資格があると認める。

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