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書き出し

心臓手術における術中低血圧が生じる時期、閾値、期間と術後せん妄発生との関連

牛尾, 将洋 神戸大学

2023.03.25

概要

Kobe University Repository : Kernel
PDF issue: 2024-05-02

Timing, Threshold, and Duration of
Intraoperative Hypotension in Cardiac Surgery:
Their Associations With Postoperative Delirium

牛尾, 将洋
(Degree)
博士(医学)

(Date of Degree)
2023-03-25

(Resource Type)
doctoral thesis

(Report Number)
甲第8500号

(URL)
https://hdl.handle.net/20.500.14094/0100482248
※ 当コンテンツは神戸大学の学術成果です。無断複製・不正使用等を禁じます。著作権法で認められている範囲内で、適切にご利用ください。

(課程博士関係)
学位論文の内容の要旨

Timing, Threshold, and Duration of Intraoperative Hypotension in
Cardiac Surgery: Their Associations With Postoperative Delirium
心臓手術における術中低血圧が生じる時期、閾値、期間と術後せん妄発生との関連

神戸大学大学院医学研究科医科学専攻
麻酔科学
(指導教員:溝渕 知司 教授)
牛尾 将洋

【背景】
術後せん妄(postoperative delirium;以下 POD)は、心臓手術後に頻繁に
生じる合併症であり、入院期間の延長、医療費の増加、合併症や死亡率の増加と関連
することが知られている。
一方、術中低血圧(intraoperative hypotension;以下 IOH)は、組織低灌流
を引き起こすために、周術期の心筋障害や急性腎障害、死亡のリスクを増加させるこ
とが知られている。心臓手術における IOH と POD の発生との関連を検討した観察
研究は 7 編あり、5 編は IOH と POD の発生に関連を認めなかった。それらのうち 3
編では全手術期間中の IOH について検討しており、ほかの 2 編では人工心肺
(cardiopulmonary bypass;以下 CPB)中の IOH について検討していた。これら 5
編を除く 2 編の研究では IOH と POD の発生に関連を認めた。Li らの研究では冠動
脈バイパス術(coronary artery bypass graft;以下 CABG)中の IOH と POD の発
生との関連について検討されたが、off-pump CABG も術式に含まれていた。また、
Mailhot らの研究では、CPB 後の低血圧と POD の発生との関連について検討され
た。これらの研究結果から、CPB を用いる心臓手術患者で、POD が生じるリスクと
関連する IOH の生じる時期や閾値、期間について明らかになっていない。
我々は CPB を用いる心臓弁膜症手術患者において、IOH の生じる時期、閾
値、期間と POD の発生リスクとの関連を検討するために後ろ向き観察研究を行った。

【方法】
本研究の開始にあたり、神戸大学医学部附属病院倫理委員会による承認を得
た(B210287)。本研究は単施設後ろ向き観察研究であり、2015 年 1 月から 2021 年
7 月までに当院で CPB を用いた心臓弁膜症手術を行った成人患者を対象とした。当
院で施行される CABG は off-pump CABG か on-pump beating CABG がほとんど
であるため、CABG 患者は対象から除外した。また、心臓弁膜症手術と同時に大動脈
手術を行った患者や POD のデータがない患者も除外した。
麻酔は全身麻酔で行い、前投薬は投与しなかった。フェンタニル、レミフェ
ンタニル、プロポフォール、ミダゾラムを用いて麻酔導入し、ロクロニウムで筋弛緩
を得たのちに気管挿管した。麻酔はセボフルラン、プロポフォール、レミフェンタニ
ル、フェンタニル、ロクロニウムを用いて維持した。CPB 中、2.4 から 2.8 L/min/m2
で CPB 血流は維持した。
患者情報は、年齢、性別、体格指数(body mass index)、米国麻酔科学会術
前全身状態分類(American Society of Anesthesia-Physical Status;以下 ASA-PS)、
推算糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate;以下 eGFR)、additive
European System for Cardiac Operative Risk Evaluation(EuroSCORE)、高血圧、
糖尿病の有無、脳血管障害の既往、神経学的障害の有無、心臓手術の既往を収集した。

また、手術情報として、術式(単弁手術か複数弁手術か、CABG も同時に行ったか)、
手術の緊急性、麻酔時間、手術時間、CPB 時間、大動脈遮断時間、皮膚切開から CPB
開始までの時間(pre CPB 時間)
、CPB 終了から皮膚縫合終了までの時間(post CPB
時間)、麻酔導入時のミダゾラム使用の有無、麻酔導入時のミダゾラムの使用量、術
中赤血球輸血量、集中治療室(intensive care unit;以下 ICU)滞在期間を収集した。
IOH は、平均動脈圧(mean arterial pressure;以下 MAP)を用いて検討を
行った。術中の MAP を麻酔記録システムから抽出した。IOH の閾値を網羅的に検
討するため、IOH の閾値を、MAP <50 mmHg、<55 mmHg、<60 mmHg、<65mmHg、
<70 mmHg、<75 mmHg、<80 mmHg、<85mmHg の 8 つ設定した。また、POD に
最も影響を与える手術の期間を検討するために、手術時間を①全手術中、②pre CPB、
③CPB 中、④post CPB の 4 つに分けた。4 つの期間ごとに 8 つの閾値未満となる
IOH 累積時間をそれぞれ計算した。
本研究の主要転帰は、術後 48 時間以内に発生したせん妄である。当院の ICU
では Intensive Care Delirium Screening Checklist(ICDSC)を 8 時間ごとに測定
しており、ICDSC でスコアが 4 以上をせん妄ありと定義した。また、同時に The
Richmond Agitation Sedation Scale(RASS)スコアも測定しており、ICDSC スコ
アが 4 以上かつ RASS スコアが1以上の場合、過活動型せん妄と定義し、ICDSC ス
コアが 4 以上かつ RASS スコアが-3 から 0 の場合を低活動型せん妄と定義した。術

後 48 時間以内に過活動型せん妄と低活動型せん妄の両方生じた場合を混合型せん妄
と定義した。
データは平均値(95%信頼区間(confidence interval;以下 CI))、n(%)、
あるいはオッズ比(odds ratio;以下 OR)
(95%CI)で表記した。患者をせん妄の発
生の有無で 2 群に分け、Student’s t-test あるいはカイ二乗検定で比較した。
IOH は前述のように、手術の 4 つの期間ごとに 8 つの閾値未満となる累積時
間をそれぞれ算出し、表記した。せん妄の発生の有無で分けた 2 群における各 IOH
を Student’s t-test で比較した。また、手術の 4 つの期間の 8 つの閾値ごとに IOH
と POD の発生について受信者動作特性曲線下面積(area under the receiver
operating characteristic curve;以下 AUROC)を計算し、IOH のカットオフ値、感
度、特異度を計算した。
上記で算出した IOH のカットオフ値を用いて、IOH と POD の発生との独
立した関連を検討するため、多変量ロジスティック解析を行った。せん妄の発生の有
無で有意差を認めた変数を POD の危険因子の独立変数として用い、調整 OR(95%
CI)を計算した。P<0.05 を統計学的に有意差ありとした。

【結果】
研究期間中に CPB を要する心臓弁膜症手術を行った患者は 786 名であった。

そのうち、200 名が弁膜症手術と大動脈手術を同時に行われており、83 名は POD の
データがなかったため研究から除外し、最終的に 503 名の患者を対象とした。503 名
のうち、95 名(18.9%)で術後 48 時間以内にせん妄を認めた。7 名(7.4%)が過活
動型せん妄、80 名(84.2%)が低活動型せん妄、8 名(8.4%)が混合型せん妄であっ
た。
503 名の背景因子を POD の発生の有無で比較した結果、POD ありの群の方
が高齢であり(P=0.001)、eGFR は低く(P=0.001)
、EuroSCORE は高く(P=0.001)、
糖尿病の合併が多かった(P=0.008)。また、脳血管障害の既往が多く(P=0.001)、
神経学的障害の合併が多く(P=0.03)、心臓手術の既往が多く(P<0.001)、緊急手術
の割合が多かった(P=0.03)。ほかに、post CPB 時間が長く(P=0.004)、導入時に
ミダゾラムを使用された割合 が多く(P=0.01)、術中赤血球輸血量が多かった
(P=0.001)。
全手術中の MAP の平均値は POD の発生の有無で有意差を認めなかった
(P=0.96)。同様に、pre CPB(P=0.96)、CPB 中(P=0.21)でも MAP の平均値に
有意差を認めなかった。一方、post CPB では POD ありの群の MAP の平均値は 62.9
(95% CI, 61.3-64.5)mmHg であり、POD なしの群の平均値 64.9(64.3-65.6)mmHg
より有意に低かった(P=0.02)。
4 つの期間の 8 つの閾値未満の IOH の累積時間について、POD の発生との

関連を検討した結果、全手術中、pre CPB、CPB 中の 3 つの期間ではいずれの IOH
の閾値においても POD の発生の有無で IOH の累積時間に有意な差は認めなかった。
しかし、post CPB では、IOH の累積時間は、8 つすべての閾値において POD あり
の群の方が POD なしの群より有意に長かった。この post CPB の期間で、AUROC
はすべて 0.63 以下であった。
せん妄の発生の有無で比較して有意差を認めた背景因子を独立変数として、
IOH と POD の発生に独立した関連があるかを調査するため多変量ロジスティック
解析を行ったところ、post CPB で、4 つの IOH の閾値において POD の発生リスク
の増加と独立した関連を認めた:<60 mmHg(調整 OR
(95% CI)= 1.84(1.10-3.10))、
<65 mmHg(調整 OR=1.72(1.01-2.92))、<70 mmHg(調整 OR=1.83(1.03-3.26))、
<75 mmHg(調整 OR=1.94(1.02-3.69))。

【考察】
本研究において、心臓弁膜症手術術後 48 時間以内にせん妄を発症した患者
は 18.9%であり、全手術中、pre CPB、CPB 中のいずれの閾値の IOH も POD の発
生と関連を認めなかった。しかし、post CPB では、IOH の累積時間はいずれの閾値
においても POD を生じた群で有意に長かった。さらに多変量ロジスティック解析で
は post CPB において IOH の閾値が<60 mmHg から<75mmHg の際に、閾値未満の

累積時間が長いほど独立して POD の発生リスクが増加することが分かった。
心臓手術における IOH と POD 発生との関連を検討した観察研究は前述の如
くに 7 編あった。IOH と POD の発生に関連を認めなかった 5 編の研究のうち 3 編
では全手術期間中の IOH について検討しており、ほかの 2 編では CPB 中の IOH に
ついて検討していた。
Li らは、CABG 中に MAP<60 mmHg の期間が長ければ POD の発生リスク
が増加すると報告している(P=0.001)。この研究では、off-pump CABG が全体の
71.1%を占めていた。本研究では全手術中の IOH と POD の発生に関連を認めなか
ったが、Li らの研究では、特に off-pump CABG の症例が多かったことが、本研究と
の結果の相違に影響を与えている可能性がある。
Mailhot らは、CPB を用いる心臓手術患者で、CPB 後の期間の平均の MAP
が高ければ独立して POD の発生リスクを減少させると報告した。ただし、この研究
では IOH の閾値については言及していない。
これらの過去の観察研究と比較して、本研究は心臓手術における 4 つの期間
において様々な IOH の閾値を用いて IOH と POD の発生との独立した関連を検討し
た初めての研究であり、post CPB で、MAP<60 mmHg から<75 mmHg の累積時間
が長いほど POD の発生リスクが増大することを示した。このことは、これまでの知
見に新規性を加えるものであると考える。

本研究において IOH と POD の発生リスクに関連を認めたことについて考察
が必要である。まず、post CPB における IOH の累積時間と POD の発生との関連
は、全手術中、pre CPB、CPB 中の IOH 累積時間と POD の発生との関連よりも強
いことが分かった。CPB 中では、酸素化と CPB からの拍出量は一定になるように管
理されており、脳への酸素供給は一定となる。さらに酸素需要は軽度低体温のため減
少し、脳の酸素消費量も減少するため、酸素の需給バランスは保たれており、臨床的
に許容できる低血圧は予後に影響を与えない可能性がある。一方、CPB 後には体温
は復温されるため酸素需要は増大し、CPB 中と比べて低血圧による低灌流の影響が
生じやすくなる可能性がある。さらに、CPB 後の低血圧は、心拍出量低下、出血、
体血管抵抗の低下など様々な要因で生じ、術後まで持続する可能性もある。そのため、
CPB 後の低血圧への暴露時間は CPB 中より長くなる可能性があり、CPB 後の低血
圧が結果として POD の発生のより強いリスクとなる可能性があると考えられる。
また、本研究は手術を 4 つの期間に分けてそれぞれの期間における様々な閾
値の IOH を算出し、POD の発生との関連を評価した最初の研究であり、post CPB
の MAP<60 mmHg から<75 mmHg の累積時間が長いほど独立して POD の発生リ
スクが増大することを示した。ただし、それぞれの閾値での IOH と POD の発生に
ついての AUROC はすべて 0.7 未満であった。この点から、今回の知見は IOH の閾
値を単一に決めにくいことを示唆している可能性がある。Brown らは、脳のオート

レギュレーションの下限値が MAP で 35.0mmHg から 97.5mmHg の間にあること
を報告しており、IOH の閾値は、脳のオートレギュレーションの下限値など、個々
の患者に合わせて決定することが望ましいのかもしれない。
本研究にはいくつかの限界がある。はじめに、本研究は単施設研究であり、
結果を一般化するには限界がある。2 つ目に、本研究は後ろ向き観察研究であり、因
果関係を示すものではない。3 つ目に、本研究では 83 名の POD のデータがない患
者を除外しており、結果に影響を与えた可能性がある。4 つ目に本研究では CABG
患者を除外したため、CABG 患者では結果が違ってくる可能性がある。最後に、手術
中の経頭蓋脳酸素飽和度のデータを示すことができておらず、脳のオートレギュレ
ーションと関連した MAP の測定ができなかった。

【結論】
本研究では、CPB 後の IOH の累積時間が長ければ有意に POD の発生リス
クが増加することが示された。特に IOH の閾値が 60mmHg から 75mmHg 未満の
累積時間が長ければ、独立して POD の発生リスクが増大することが示された。

神 戸 大 学 大 学 院 医 学(
系)研究科(博士課程)

論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨

論文題目

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甲第

3244号





受付番号

牛尾将洋

Timing
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Delirium
心臓手術における術中低血圧が生じる時期、閾値、期間と術後せん
妄発生との関連

主 査

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副 査

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副 査

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国田定ぇ
和店霞忍

\灯と遠

(要旨は 1
, 0 0 0字 ∼ 2, 0 0 0字程度)


背景 】
術後せん妄 (
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m;以下 POD) は、心臓手術後に頻繁に生じる
合併症であり、入院期間の延長、医療費の増加、合併症や死亡率の増加と関連する。一方、

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n;以下 IOH)は、組織低灌流を生じるために、
術中低血圧 (
周術期の心筋障害や急性腎障害、死亡リスクを増加させる 。IOHは脳の低灌流も生じ、 POD
の原因となる可能性もある 。心臓手術での IOHと POD発生との関連を検討した観察研究
は過去に 7編あり、 5編は IOHと POD発生に関連を認めなかった。 これらは全手術中か

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ybypass;以下 CPB) 中の IOHについて検討していた。 IOH
人工心肺 (
と POD発生に関連を認めたのは 2編であり 、L
iらは冠動脈バイパス術中の IOHと POD
の発生との関連について検討したが、 CPBを使用しないものも含んでいた。M
ailhotらは、

CPB前後の血圧と POD発生との関連について検討した。 これらの研究を踏まえて、我々
は CPBを用いる心臓弁膜症手術患者において、 IOHの生じる時期、閾値、期間と POD発
生との関連を検討するために後ろ向き観察研究を行った。

方 法】
本研究は単施設後ろ向き観察研究であり、 2
015年 1月から 2021年 7月までに心
臓弁膜症手術を行った患者を対象とした。血圧は、平均動脈圧 (
meana
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以下 MAP) を使用した。 血圧の閾値を、 5
0mmHgから 85mmHgまで 5mmHgごとに 8
段階設定した。血圧測定期間は全手術中 、CPB前
、 CPB中
、 CPB後の 4つに分け、各期
間の各閾値未満となる累積時間をそれぞれ計算した。本研究の主要転帰は、術後 48時間以
内に発生したせん妄である。せん妄の評価は I
n
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tで 8時間ごとに行い、 4点以上でせん妄と診断した。血圧データは、手術の各期
tudent
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s
tで比較した。
間の各閾値未満となる累積時間を POD発生の有無で分けて S
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また、それぞれ受信者動作特性曲線下面積 (
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i
s
t
i
cc
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e;以下 AUROC)、IOHのカットオフ値、感度、特異度を計算した。
この IOHのカットオフ値を用いて多変量ロジスティック解析を行い、 POD発生と独立し
OHの閾値について検討した。
て関連する I

結果】

86名であり、最終的に 503名を対
研究期間中に心臓弁膜症手術を行った患者は 7
03名のうち、 95名 (
1
8
.
9
%)で術後 48時間以内にせん妄を認めた。503名の
象とした。5
背景因子を POD発生の有無で比較した結果、 POD発生群の方が高齢であり、腎機能は悪

、 予測死亡率は高く、糖尿病の合併が多く、脳血管障害の既往が多く、神経学的障害の
合併が多く、心臓手術の既往が多く、緊急手術の割合が多かった。

また、 p
o
s
tCPB時間 が長く、導入時のミダゾラム使用者の割合が多く 、術中赤血球輸血量
、 CPB中では
が多かった。手術の各期間での MAPの平均値について、全手術中、 CPB前

POD発生の有無で有意差を認めず、 CPB後のみ POD発生群の方が POD非発生群より有
意に低かった。手術の各期間の各閾値未満の IOH累積時間について POD発生との関連を
、 CPB中の 3つの期間ではいずれの IOHの閾値でも有
検討した結果、全手術中、 CPB前
意差は認めなかった。 CPB後のみ、 IOH累積時間は全ての閾値において POD発生群の方
.
7未満であ
が POD非発生群より有意に長かった。 いずれの閾値でも AUROCはすべて 0
った。多変量ロジスティック解析では、独立して POD発生のリスクとなったのは 60mmHg
から 75mmHgの間の 4つの IOHの閾値であった。

考察 】
本研究において、心臓弁膜症手術術後 48 時間以内にせん妄を発症した患者は

1
8
.
9%であり 、POD発生に有意に関連を認めた IOH累積時間は CPB後の期間のみであっ
0
た。多変量ロジスティック解析では独立して PODの発生リスクとなる IOHの閾値は 6
mmHgから 75mmHgの間の 4つであった。
本研究で、 CPB後の IOHのみが POD発生に関連を認めたことについて考察が必
要である 。 まず、 CPB中では、酸素化と CPBからの拍出量は一定になる よ うに管理され
ており 、脳への酸素供給は一定となる 。 また軽度低体温のため、脳の酸素消費量は減少す
るため 、酸素の需給バランスは保たれると考えられる。 一方、CPB後には体温は復温され
るため酸素需要は増大する。さらに、 CPB後の脳灌流は自己心臓により規定され、心拍出
量低下、出血、体血管抵抗の低下など様々な要因で血圧低下による脳の低灌流を生じやす
いため、脳への酸素供給が低下しやすく、脳の酸素需給バランスが破綻しやすい状態と考
えられる 。 そのため、 CPB後の低血圧が POD発生により寄与する可能性があると考えら
れる。
本研究では PODの発生リスクとなる MAPの閾値は 60mmHgから 75mmHgの

.
7未満であった。Brownらは、
間にあることが示されたが 、いずれの閾値でも AUROCは 0
7.5mmHgの間にある
脳のオートレギュレーションの下限値が MAPで 35.0mmHgから 9
ことを報告しており、脳のオートレギュレーションの下限値以上に血圧を保つなど、血圧
の閾値についてさらなる検討が必要であると考える 。

結論 】
本研究では、 CPB後の IOHの累積時間が長ければ有意に POD発生が増加するこ
とが示された。特に IOHの閾値が 6
0mmHgから 75mmHgの際に、閾値未満累積時間が
長ければ、独立して POD発生のリスク因子となることが示された。
これらは従来の研究とは異なる重要な知見を得たものとして価値ある集積であると認める。よっ
て本研者は、博士(医学)の学位を得る資格があると認める。

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