森林科学科総合実習報告書(令和2年度)
概要
森林科学科総合実習報告書(令和2年度)
雑誌名
号
ページ
発行年
URL
宇都宮大学農学部演習林報告
57
75-78
2021-03-30
http://hdl.handle.net/10241/00012648
75 ∼ 78
宇
大
演
報
Bull. Utsunomiya Univ. For.
No. 57 (2021) Research material
第 57 号 (2021) 資 料
森林科学科総合実習報告書(令和2年度)
Report of integrated practicum in forest science program (2020)
宇都宮大学農学部森林科学科
Department of Forest Science, School of Agriculture, Utsunomiya University
〒 321-8505 宇都宮市峰町 350
350 Mine-machi, Utsunomiya 321-8505, Japan
1. 実習概要
森林科学科では,学科 4 年生を対象とした「森林科
学総合実習」を開講している.この実習では,4 年次
までの講義・演習・実習・実験などで得た知識や技術
を活用して実践的な課題に対して,グループ単位で実
践的学習(Project-Based Learning, PBL)に取り組むと
ともに,課題解決を通したデザイン能力,企画・調整
能力,報告書作成能力,プレゼンテーション能力の育
成を目指している.
2019 年度現在,船生演習林では,第 8 次経営計画の
策定が進められている.その中で,塩谷町の定める市
町村森林整備計画の開始年が 6 年後(2026 年)である
ことから,演習林の経営計画も 6 年後を開始年に定め
ることとなった.ゆえに接続期間としての 6 年間で伐
採計画を立てることとなり,その実施のためには伐採
対象地において一連の計画策定が必要であった.そこ
で,令和 2 年度森林科学総合実習では,伐採対象林分
において,2020 年度以後 6 年間で実施する実現性の高
い伐採計画および伐採後の再造林計画を,資源量調査
の結果と演習林の置かれている実情を踏まえて策定す
ることとした.
実習は 6 班構成で実施し,課題提起後,3 回の現地
調査,2 回の全体発表,4 回の打合せ・内業を経て,
最終発表,報告書の提出をすることとした.実習への
参加状況,各発表等での質疑応答,報告書などを基に,
各班・学生を評価した.実習は以下の日程で実施した.
2019 年 10 月 1 日(火)
実習説明(班分け,担当林班,スケジュールの説明)
2019 年 10 月 8 日(火)
現地調査に向けての事前説明
2019 年 10 月 15 日(火)
現地調査のための打ち合わせ
2019 年 11 月 5 日(火)
船生演習林調査
2019 年 11 月 11 日(月)
船生演習林調査
2019 年 11 月 21 日(木)
船生演習林調査(午後 現地にて中間成果報告会)
2019 年 12 月 3 日(火)
9 ∼ 10 限 内業
2019 年 12 月 10 日(火)
9 ∼ 10 限 内業
2019 年 12 月 17 日(火)
9 ∼ 10 限 最終成果発表会
2020 年 1 月 16 日(木)
報告書提出
また,各班は以下の林班を担当した.
1,2,3 班:6 林班り小班(3 分割)
4 班:5 林班り小班
5 班:5 林班つ小班
6 班:5 林班な小班
2. 報告書の要旨
1 班(6 林班り小班上部担当)
Ⅰ.調査地の概要と実施内容
周りを広葉樹に囲まれた谷地形であり,2009 年船
生演習林森林簿によると,2019 年時点で林齢 66 年,
100% スギ人工林が占めている.周囲測量・毎木調査・
土壌調査・作業路の策定を行った.
Ⅱ.結果および考察
周囲測量の結果,対象地の林地面積は 0.43 ha であっ
た(閉合比は 1/707).毎木調査の結果,対象地の蓄積
量 は 284 m3(659 m3/ha) で あ り, 同 じ 6 林 班 り 小 班
を担当している 2,3 班の蓄積量に比べて少なかった.
また,クマ剥ぎの被害を受けて収穫できない推定蓄積
量は 127 m3(295 m3/ha)であり,蓄積量におけるク
マ剥ぎの被害割合は 30.9% であった.太い立木がこと
ごとくクマ剥ぎの被害を受けているためといえる(図
–1).また,図 –2 より対象地において形状比が 70% よ
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宇都宮大学演習林報告第 57 号 2021 年3月
り小さい立木はクマ剥ぎ被害木を入れても全体本数の
5.8% しかなく,密度管理が不十分だったといえる.
土壌断面調査から,対象地の土壌の特徴は大きく 2
つあり,1 つ目は 70 cm 地面を掘っても B 層が現れな
いほど A 層が厚いこと,2 つ目は土色が黒褐色であり,
腐植に富んでいることがわかった.以上の特徴から,
対象地の土壌は谷地形を象徴する BE 型(弱湿性褐色
森林土)と考えられた.対象地内で斜面上と斜面下の
2 か所で土壌調査を行ったが,斜面位置による大きな
違いは見られなかった.
Ⅲ . 作業計画案
土壌調査の結果と適地適木の原則,そして林地保全
を重視して,ヒノキよりも木材価格が低く主伐支出を
差し引くとほとんど利益が残らないと想定されるが
(平均成長量 3.409 m3/ 年として,収入見込みは約 270
∼ 280 万円),対象地にはスギの植栽を提言する.
現在,林齢 66 年にしては 10 ∼ 20 cm のような細い
立木が 100 本近く残っており(図 –1),これらが上層
木の肥大成長を妨げていたと考えられる.ゆえに,次
のサイクルではより植栽本数を減らし,より成長バラ
ンスの取れた森林の形成を目指す.ゆえに,植栽本数
として 2000 本 /ha(2.2 m 間隔)を提案する.スギ林
である以上,今回のサイクル同様,間伐回数は 1 回が
限界であり,これ以上間伐の手間をかけられない.栃
木県ではスギがすべてコンテナ苗に取ってかわった結
果,苗木代が倍以上に高くなった背景もあり,この機
会に疎植に挑戦するべきと考える.
キーワード:船生,クマ剥ぎ,疎植,スギ,谷
2 班(6 林班り小班中央部分担当)
Ⅰ . 調査地の概要と実施内容
担当箇所は,地位級スギ 1 等で主に林齢 66 年のスギ
で構成され,林齢 38 年時に間伐が実施されている.作
業路の策定および伐採後の再造林計画について検討し
た.小班内は倒木が多く,
沢が縦断していた.調査では,
周囲測量,毎木調査および作業路の策定を行った.
Ⅱ . 調査手法と測定内容
周囲測量はコンパスを使用し,トラバース測量を行っ
た.毎木調査は,
胸高直径は輪尺を使用して全木調査し,
樹高はレーザー測高器を使用して直径階ごとに標本木
を選木して測定した.また,作業路の策定は,ハンド
レベルで求めた勾配と現地踏査を踏まえて検討した.
図 -3 胸高直径階分布
図 –1 胸高直径階分布
図 -4 作業路計画
図 –2 形状比の分布
黄色点はタワーヤーダー設置計画地点,ピンク線は計画作業路を示す.
森林科学科総合実習報告書(令和2年度)
Ⅲ . 結果および考察
周囲測量については,面積 0.64 ha,周囲長 418.95 m,
閉合比は 1/754 であった.毎木調査結果を図 –3 に示す.
全木数は 690 本で,その内の 45 本が枯死木,19 本が
クマ剥ぎの被害を受けていた.また,樹高データとと
もに解析した結果,立木材積は 935.2 m3/ha,実材積は
598.5 m3 であった.造材歩留まりを 0.8 とすると,素
材材積は 478.8 m3 であった.立木密度は 967.9 本 /ha,
形状比 97.8,相対幹距 10% と密度はかなり高い状態と
いえる.
IV.作業計画案
1.作業路計画
調査地は平均傾斜 10%,過去に使用していた馬車道
の跡が残っていたが,小班内を沢が縦断していたため
に馬車道は使わず沢の通過を最低限にした路線を検討
した(図 –4).図 –4 の青線は沢筋で赤線が作業路,黄
点にタワーヤーダーを設置することとし,沢は岩を積
み上げて通過することとした.
2.再造林計画
再造林計画では樹種はスギで 1500 本 /ha の疎植を行
うことを提案する.対象地は谷地形であり,小班内を
沢が縦断していることからスギを植えるのが最適だと
考えた.また,現在の林内は高密度であり倒木や枯死
木が多い状態である.そのため疎植を行うことにより,
密度管理を簡易化し,風害の防止に期待したい.
キーワード:第 8 次経営計画,作業路,再造林計画,疎植,
スギ林
3 班(6 林班り小班下部分担当)
Ⅰ . 調査地の概要と実施内容
対象は,6 林班り小班を 3 つに区分したうちの下部
である.2019 年現在,林齢は 66 年で構成樹種はスギ
である.
Ⅱ . 調査手法と測定内容
周囲測量および毎木調査による資源量調査を実施し
た.毎木調査では調査地のクマ剥ぎによる被害状況も
調査した.また,クマ剥ぎ被害の地形分布を調べるた
めに谷側と山側に分けて記録した.また追加調査とし
て,土壌調査と作業路策定のための勾配調査を行った.
土壌調査は造林樹種を決定するためで,やはり谷側と
山側に分けて実施した.
Ⅲ . 結果および考察
第 7 次森林簿と比較して平均樹高,平均胸高直径が
順調に増加し,それに比べて立木密度・胸高断面積は
減少しており,風倒木が多かった影響とみられた.ま
た形状比 70 以上の立木が多く,これまでに適切な密
度管理がなされなかったことが示唆された.クマ剥ぎ
に関しては,全域で被害がみられ,胸高直径 24 cm 以上,
形状比 90 以下の成長が良い木で被害が多かった.ま
た,非被害木の枯死率が 6.4% であるのに対し,被害
木の枯死率は 11.1% となっていた.土壌調査では,谷
側・山側いずれも A0 層は発達しておらず,A 層は腐植
に富み暗褐色であった.団粒状構造が見られ石礫も多
かったが BD 型と判断した.管理不十分にもかかわらず,
地位は高く,収穫量は高いと想定された.また勾配調
査の結果,平均勾配は 7.4% であった.
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IV.作業計画案
調査地では風倒木が多く,施業も適切に行われない
場合にも対応できるように,植栽本数を 3000 本 /ha の
疎植とした.調査対象地は比較的林内が暗く,疎植に
よる下層植生の増加とそれに伴う下刈りの増加も少な
いと判断された.作業路は,川を跨がない形とし,調
査地の北東側の最短から予定作業路の距離がおよそ
1000 m 前後のためタワーヤーダーを用いた集材方式を
採用する.地位が高いことから木材生産に適しており,
適地適木から再造林樹種はスギを選択することとした.
キーワード:船生,クマ剥ぎ,密度管理,風倒,疎植
4 班(5 林班り小班)
Ⅰ . 調査地の概要と実施内容
大部分をヒノキが占める林齢 66 年の人工林で,小
班界に沢があり,林道が通っている.林道から沢沿い
にかけては主にスギが植栽されている.伐採計画と再
造林計画を策定した.
Ⅱ . 調査手法と測定内容
周囲測量と毎木調査を実施し,林分状況を調査した.
毎木調査において,クマ剥ぎの被害を受けている立木の
胸高直径と樹高を測定し,被害の傾向と特徴を調べた.
Ⅲ . 結果および考察
周囲測量では,第 7 次森林簿に記載の小班面積より
0.4 ha 大きい 1.01 ha という結果になった.毎木調査では,
ヒノキが 1708 本,スギは 50 本生育しており,ヘクター
ル当たりの立木本数は 1700 以上という結果になった.
また,形状比が 100 近い値を示したことから,間伐の手
入れがあまりされていない林分であると考えられる.ク
マ剥ぎ調査の結果,被害は林班の斜面上部に集中してお
り,胸高直径 20 cm 以上の太い立木に見られた(図 –5)
.
IV.作業計画案
伐出計画では,担当小班はすでに林道が通っており,
林道より沢沿いは平坦である.山側は上部に多少傾斜
がきつい部分はあるが集材は可能と考え,木寄せはグ
ラップルにより行う.再造林計画では,現在小班内の
大半をヒノキが占めているものの,林齢 66 年にして
は成長が芳しくない.また,過去の調査記録により,
沢沿いであるためヒノキの漏脂病が多く発生してもい
た.加えて隣接している小班にはスギが植栽されてい
ることなどを考慮し,伐採後の植栽樹種はスギが適し
ていると判断された.沢沿いは自然更新に任せる渓畔
林とし,植栽を行わないこととした.
キーワード:ヒノキ,船生,クマ剥ぎ,沢沿い
図 -5 クマ剥ぎ被害木の位置
赤点はクマ剥ぎ被害木,
赤線の囲いは周囲測量範囲,
紫線は小班界を示す.
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5 班(5 林班つ小班)
Ⅰ . 調査地の概要と実施内容
担当箇所は,林齢 66 年でヒノキとスギが混在して
おり,伐採計画および再造林計画について策定した.
Ⅱ . 調査手法と測定内容
周囲測量,毎木調査,土壌調査を行った.
Ⅲ . 結果および考察
周囲測量ではコンパスを用い,小班面積は 1.11 ha,
このうち小班東側の作業道で小班面積に含まれるもの
は平均幅員 2.89 m,全長 82.40 m であり,除地面積は 0.02
ha であった.測量精度は 1/476 であった.
毎 木 調 査 の 結 果, ヒ ノ キ の 本 数 は 1044 本, ス ギ
の本数は 377 本であった.材積はヒノキの材積計は
488.975 m3,スギの材積計は 238.284 m3 であった.形
状比の平均はヒノキで 92,スギは 86 となった.また,
相対幹距比は 12.1% となった.相対幹距比が 14% 以下
であるので,今回の対象林分の密度は過密であると考
えられた.
対象地はスギとヒノキが混在しているが,比較的樹
種の混じりが少なくスギが多く生育していた北西部,
ヒノキが多く生育していた北東部の 2 地点で土壌調査
を行った.両地点とも A0 層はあまり発達せず,A 層は
厚かった.また,A 層と B 層の境界が比較的明瞭であっ
たため,土壌型は BD と判断した.水湿状態においては,
A 地点では湿り気を感じ,B 地点ではやや湿っている
が A 地点よりは乾いていた.
調査結果から小班全体としては林分が過密であり,
適切な密度管理がなされていなかったと考えられる.
樹種別では樹高曲線および形状比からスギはヒノキよ
りも成長が良いことが分かった.一方で現地では尾根
を挟んで東側のヒノキ林で成長が良いことが確認でき
た.また土壌調査の結果からも尾根を挟んで西側と東
側で水分状態に違いがみられたことから,西側がスギ
の適地,東側がヒノキの適地であると考えられる.
IV.作業計画案
再造林計画については,2000 本 /ha 植栽で,尾根か
ら西側にスギ,東側にヒノキを植栽することを提案す
る.また小班界について,小班内に作業道が入り込み
一部作業道をまたぐような形で小班が設定されている
ため,作業道より東側の部分を隣の小班に移すことを
提案する.
キーワード:船生,形状比,混在,森林計画,適地
6 班(5 林班な小班)
Ⅰ . 調査地の概要と実施内容
面積は 0.45 ha,林齢 66 年のヒノキ人工林で林齢 25
年時に,切り捨て間伐が行われている.該当小班の北
側から東側にかけては,作業道が隣接していて地利は
高く,もう一方の北側から西側にかけては,沢が隣接
するため潜在的に浸食や運搬の影響を受けやすい.調
査は,周囲測量,毎木調査,土壌調査を行った.
Ⅱ . 調査手法と測定内容
周囲測量はコンパス,ポール,メジャーを用い,毎
木調査では小班内の林木の胸高直径(以下 DBH)を測
定し記録した.ヒノキについては,各直径階分布の本
数に応じてサンプリングを行い,樹高を計測した.サ
ンプル数は,108 本で全体の約 22% にあたる.土壌調
査では,小班中央付近と沢沿いの小班界付近の 2 箇所
で幅 1.0 m,深さ 1.0 m の土壌断面を作成した.
Ⅲ . ...