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大学・研究所にある論文を検索できる 「Smad2/3シグナル伝達経路を介した、M2マクロファージを含む脂肪組織由来間質血管細胞群の軟骨細胞に対するパラクライン効果」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Smad2/3シグナル伝達経路を介した、M2マクロファージを含む脂肪組織由来間質血管細胞群の軟骨細胞に対するパラクライン効果

藤田, 雅広 神戸大学

2022.09.25

概要

【目的】
脂肪組織から得られる間質血管細胞群(SVF)やSVFを培養することで得られる脂肪組織由来幹細胞(ADSC)は、比較的容易に皮下脂肪組織から採取でき、高い組織修復能や分化能を示す事から、優れた再生医療の媒体として期待されている。ADSCは純粋な幹細胞であるが、従来の骨髄由来幹細胞(BMSC)よりも少ない侵襲で採取でき、同等の治療効果を示すことが報告されている。ただし、ADSCを得るためにはSVFを数週間かけて培養する必要がある。SVFはADSC、マクロファージ、線維芽細胞、内皮細胞などで構成される細胞群で、脂肪組織の機械的または酵素的消化によってone-stepで精製することが可能である。

臨床研究では、変形性関節症(OA)に対するSVFの優れた治療効果が報告されている。ただし、軟骨細胞に対するSVFの作用機序についての研究は十分ではない。近年の研究で、SVFおよびADSCの軟骨細胞に対する作用における、パラクライン効果の重要性が報告されている。しかし、SVFに含まれるADSCの比率は1~16%程度であり、SVFのパラクライン効果にはADSC以外の細胞群が関与している可能性が指摘されている。

マクロファージには、炎症性と抗炎症性の表現型が存在し、特に抗炎症性マクロファージはTGF-βやIL-10などの産生を介して、創傷治癒の促進などに作用することが報告されている。また、TGF-βは軟骨細胞でのCollagenⅡの産生を促進する他、軟骨細胞でのtissue inhibitors of metalloproteinases (TIMP)-3の産生促進を介してmatrix metalloproteinases (MMP)-13の産生を抑制し、軟骨の形成促進と変性抑制の両方に働くと報告されている。SVFを構成する細胞の約20%はマクロファージであり、その大部分は抗炎症性マクロファージであるとされており、抗炎症性マクロファージは軟骨細胞に対するSVFの治療効果においても重要な役割を持つことが期待される。しかし、軟骨細胞に対するSVFのパラクライン効果や、作用機序の詳細についての研究はいまだ不十分である。

そこで本研究の目的は、軟骨細胞に対するSVFのパラクライン効果と、その作用機序について検証を行うこととした。

【方法】
ヒト軟骨細胞・SVF・ADSC
軟骨細胞は人工膝関節全置換術を施行された膝OA患者の切除軟骨組織から、コラゲナーゼ処理によって分離した。SVFは脂肪吸引術を施行された患者の吸引脂肪組織から酵素処理によって精製し、SVFを培養した4継代目の細胞をADSCとして使用した。

増殖能・Reverse transcriptase–polymerase chain reaction (RT–PCR) ・ Enzyme-linked immunosorbent assay (ELISA)
Colony forming unit-fibroblast assayを行い、SVFに含まれるADSCは約10%であると定義した。軟骨細胞を12wellプレートに1×105cells播種し、インサートを隔ててSVF群では1×105cellsのSVFと、ADSC群では1×104cellsのADSCと共培養を行った。コントロール群では軟骨細胞のみを培養した。48時間の共培養後、コントロール群、ADSC群、SVF群で軟骨細胞の増殖能をWST-8cellcountingkitを用いて評価した(n=5/群)。軟骨細胞上のCollagenⅡ、TIMP-3、MMP-13のmRNA発現レベルをRT-PCR法で評価した(n=5/群)。培養液中のTGF-βとIL-10の濃度をELISA法で評価した(n=5/群)。

蛍光組織染色・Flow cytometry
SVFを構成する細胞群について蛍光組織染色でF4/80とCD86の二重染色またはF4/80とCD163の二重染色を行い、SVFに含まれるマクロファージの分極を評価した(n=5/群)。また、Flow cytometryを用いてF4/80陽性細胞の中でのCD86陽性細胞の比率とCD163陽性細胞の比率について評価した(n=4/群)。

Western blotting法
軟骨細胞とSVFの共培養にSmad2リン酸化阻害剤(SB203580)またはSmad3リン酸化阻害剤(SIS3)を加え、48時間培養後にSmad2およびSmad3のリン酸化をウエスタンブロッティング法で評価した(n=6/群)。

Smad2/3リン酸化阻害剤による影響の評価
軟骨細胞とSVFまたはADSCとの共培養に、Smad2およびSmad3のリン酸化阻害剤を加えた状態で、軟骨細胞上のCollagenII、TIMP-3、MMP-13のmRNA発現をRT-PCR法で評価した(n=8/群)。また、1×105cellsの軟骨細胞を15mlチューブ内で遠心して作成したペレットを、Smad2およびSmad3のリン酸化阻害剤を加えてSVFと共培養した(n=5/群)。3週間培養後、ペレットの大きさを評価し、ペレット断面をトルイジンブルー染色した。

統計解析
蛍光組織染色とFlow cytometryについてはWilcoxon signed-rank testで、その他各群の比較についてはTukey’s post hoc testで統計学的に解析した。p<0.05を有意水準とした。

【結果】
SVFパラクライン効果による軟骨細胞への影響
SVF群ではコントロール群およびADSC群と比較して、軟骨細胞の増殖能が有意に上昇していた。SVF群ではコントロール群およびADSC群と比較して、軟骨細胞上のCollagenII、TIMP-3のmRNA発現が有意に高く、MMP-13のmRNA発現は有意に低かった。また、ELISA法では、SVF群の培養液でコントロール群およびADSC群と比較して、TGF-βとIL-10の濃度が優位に高かった。

SVFに含有されるマクロファージの分極
蛍光組織染色法では、SVFにはF4/80陽性細胞が認められ、特に抗炎症性マクロファージのマーカーであるCD163陽性細胞が、炎症性マクロファージのマーカーであるCD86陽性細胞よりも多く認められた。Flow cytometryでは、F4/80陽性細胞の中で、CD163陽性細胞の比率はCD86陽性細胞の比率よりも高かった。

SVFパラクライン効果による軟骨細胞のSmad2/3シグナル伝達経路のリン酸化
ウエスタンブロッティング法では、SVF群でSmad2およびSmad3のリン酸化が認められた。さらに、Smad2リン酸化阻害剤およびSmad3リン酸化阻害剤を加えることにより、Smad2およびSmad3のリン酸化の抑制が認められた。

Smad2/3リン酸化阻害剤によるSVFパラクライン効果の抑制
リン酸化阻害剤を加えたRT-PCR法では、SVF群で認められた軟骨細胞上のCollagenII、TIMP-3のmRNA発現上昇と、MMP-13のmRNA発現低下が、Smad2リン酸化阻害剤およびSmad3リン酸化阻害剤によって有意に抑制された。リン酸化阻害剤によるCollagenII、TIMP3、MMP-13のmRNA発現への影響は、ADSC群についても同様の傾向が認められた。また、軟骨細胞のペレットでは、SVF群で有意に大きなペレットの形成が認められ、Smad2リン酸化阻害剤およびSmad3リン酸化阻害剤によってペレットの大きさは抑制された。各群のペレットは、トルイジンブルー染色でいずれも良好に染色された。

【考察】
本研究の結果より、ADSCおよび抗炎症性マクロファージを含むSVFを構成する細胞群は、TGF-βの産生と、Smad2/3シグナル伝達経路のリン酸化を介して、軟骨細胞の再生促進と変性抑制に作用する可能性が示唆された。

臨床研究では膝OAに対するSVF関節内注射によって、臨床成績の改善と質的MRI評価における軟骨変性の抑制が報告されている。しかし、SVFを構成する細胞群の内、ADSC以外の細胞の働きに注目した研究は少ない。本研究ではADSC群と比較してSVF群で優れた作用を認めたことから、軟骨細胞に対してADSC以外の構成細胞による作用が存在する可能性が示唆された。

SVFに含まれるマクロファージの約70%は、TGF-βやIL-10を分泌する抗炎症性マクロファージであると報告されている。本研究でも抗炎症性マクロファージのマーカーであるCD163陽性細胞が多く認められた。また、SVF群の培養液中にTGF-βやIL-10の濃度が高く認められたことからも、抗炎症性マクロファージはSVFのパラクライン効果に関与している可能性が示唆された。

TGF-βはSmad2/3シグナル伝達経路のリン酸化を介して、軟骨細胞のCollagenII産生およびTIMP-3産生を促進することは既に報告されている。本研究では、SVF群でSmad2/3のリン酸化が認められ、軟骨細胞ではCollagenIIの産生促進、TIMP-3の産生促進、MMP-13の産生抑制が認められた。さらに、Smad2およびSmad3のリン酸化阻害剤の添加によって、SVF刺激による軟骨細胞への作用の抑制が認められた。これらの結果から、SVFはTGF-βによるSmad2/3リン酸化を介して、軟骨細胞の再生促進と変性抑制に作用すると考えられた。

【結語】
SVFを構成するADSCおよび抗炎症性マクロファージを含む細胞群は、TGF-βを産生し、Smad2/3シグナル伝達経路のリン酸化を介して、軟骨細胞の再生促進と変性抑制に作用する可能性が示唆された。

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