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大学・研究所にある論文を検索できる 「ショウジョウバエ胚の上皮組織安定性を維持する上皮成長因子受容体シグナルの研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

ショウジョウバエ胚の上皮組織安定性を維持する上皮成長因子受容体シグナルの研究

吉田, 健太郎 神戸大学

2023.03.25

概要

Kobe University Repository : Kernel
PDF issue: 2024-05-02

ショウジョウバエ胚の上皮組織安定性を維持する上
皮成長因子受容体シグナルの研究

吉田, 健太郎
(Degree)
博士(理学)

(Date of Degree)
2023-03-25

(Date of Publication)
2024-03-01

(Resource Type)
doctoral thesis

(Report Number)
甲第8587号

(URL)
https://hdl.handle.net/20.500.14094/0100482335
※ 当コンテンツは神戸大学の学術成果です。無断複製・不正使用等を禁じます。著作権法で認められている範囲内で、適切にご利用ください。

(別紙様式 3
)

論文内容の要旨

氏 名

吉田健太郎

専 攻

生物学専攻

論文題目(外国語の場合は,その和訳を併記すること。)

ショウジョウバエ胚の上皮安定性を維持する
上皮成長因子受容体シグナルの研究

指導教員

林茂生

吉田健太郎: N
o
.1
動物の体表や器官の表面を覆う上皮組織は、外界からの有害な刺激や液体の侵
入から物理的なバリアとして働き、個体の内部を保護している。この上皮組織
のバリア機能は、細胞間接着によって上皮組織の完全性が錐持されることで担
保される。一方で、上皮組織の完全性は、細胞分裂や細胞死、形態形成のよう
な発生現象によって生じる機械的なストレスや細胞間接着の再構成によって、
不安定化する。これらの発生現象に対して、上皮組織の溝造が安定して保たれ
る仕組みはわかっていない。本研究では、上皮成長因子受容体 (EGFR)シグナ
ルの存在が、ショウジョウバエの胚表皮組織の安定性維持を保障ずる役割を検
証した。

EGFR は、進化的に保存された膜貫通型の受容休チロシンキナーゼである。
EGFRの活性化は、 Ras・Raf-MEKの古典的 MAPキナーゼ経路を介して、細胞
ERK)の活性化を導く。活性化した ERKは転写因子
外シグナル調節キナーゼ (
や細胞骨格と相互作用することで、多様な細胞応答を引き起こす。例えば、 EGFR
や ERKの活性化は細胞死抑制や創傷治癒を促進し、上皮組織の恒常性を維持ず
ることが知ら礼ている。ショウジョウバエの胚発生では、 EGFR依存的な ERK
の活性化は、 rhomboidの発現によって遺伝的に制御されている。 rhomboidが

p
i
t
zが分泌される。この遺伝的
発現した領域では、 EGFRのリガンドである S
に制御された EGFR依存的な ERK活性化は、胚表皮組織の紐胞分化や形態形
成に関与することが示唆されている。
本研究では、 ERK活性の FRETプロープを用いて、胚発生中の EGFR依存的
な ERK活性パターンのダイナミクスを明らかにした。さらに、蛍光デキスト
ランのインジェクションによって、 ERKの活性化は、形態形成によって胚表皮
組織とビテリン膜の機械的な接触が失われる領域で生じていることが明らかに
なった。このことから、 EGFR シグナル、形態形成、そしてビテリン膜が胚表
皮組織の安定性に影響している可能性を考えた。
そこで、 EGFRシグナルの存在が胚表皮組織の安定性に与える影響を検証する
ため、 EGFR機能欠損変異体が、胚発生の段階で頭部構造が欠失するという特
徴的な表現型に注目した。 EGFR機能欠損変異体では胚全体でアポトーシスが

吉田健太郎: N
o
.2
増加する。 EGFR機能欠損変異体で、アポトーシスを抑制した結果、頭部体節
の組織崩壊が生じなかった。このことから、 EGFR機能欠損変異体の頭部体節
で生じる組織崩壊には、アポトーシスが必要であることが明らかになった。
ショウジョウバエの上皮組織において、アポトーシス細胞は通常、上皮組織の
基底部側に脱落する。一方、崩壊開始後の EGFR機能欠損変異体の頭部体節で
は、大量のアポトーシス細胞を含んだ細胞クラスターが、形態形成によって陥
入した胚表皮組織の a
p
i
c
a
l側にも局在していることを観察した。 EGFR機能欠
損変異体の頭部体節において、細胞の a
p
i
c
a
le
x
t
r
u
s
i
o
nが生じる過程をライブイ
メージングで観察した。その結果、細胞の a
p
i
c
a
le
x
t
r
u
s
i
o
nが周辺の組織にも伝
播し、大規模な組織崩壊が生じることを観察した。このことは、 EGFR機能欠
損変異体で生じる細胞の a
p
i
c
a
le
x
t
r
u
s
i
o
nが組織崩壊を導いている可能性を示
唆した。

EGFR機能欠損変異体で、細胞の a
p
i
c
a
le
x
t
r
u
s
i
o
nや組織崩壊が生じる原因を
探るため、 a
p
i
c
a
le
x
t
r
u
s
i
o
nの初期段階を探索した。その結果、唾腺陥入によっ
てビテリン膜から離れた胚表皮組織で最初の a
p
i
c
a
le
x
t
r
u
s
i
o
nや組織崩壊が生
じることを観察した。さらに、 EGFR機能欠損変異体では陥入した上皮組織の
周辺の E
c
a
d
h
e
r
i
nの局在に、頻繁な破断が観察された。この結果は、 EGFR機
能欠損変異体では形態形成に対して、 E
c
a
d
h
e
r
i
nによる上皮組織の完全性が障
害されやすくなっている可能性を示唆している。
唾腺陥入点における細胞の a
p
i
c
a
le
x
t
r
u
s
i
o
nは胚表皮組織がビテリン膜から離
れ領域で生じた。胚表皮組織とビテリン膜の機械的な接触が上皮組織の安定性
に与える影響を探るため、ビテリン膜の外科的な除去を行った。その結果、ビ
テリン膜との機械的な接触を失った EGFR機能欠損変異体の組織片は、急速な
崩壊を生じた。さらに、 EGFR機能欠損変異体を創傷した結果、創傷の周辺の
胚表皮組織が異所的にビテリン膜との機械的な接触を失い、 a
p
i
c
a
le
x
t
r
u
s
i
o
nと
組織崩壊が生じた。これらの結果は、ビテリン膜と胚表皮組織の機械的な接触
が失われることが、 EGFR機能欠損変異体における細胞の a
p
i
c
a
le
x
t
r
u
s
i
o
nや
組織崩壊を促している可能性を示唆している。
以上のことから、胚表皮組織で生じる形態形成で EGFR依存的な ERK活性化

吉田健太郎: N
o
.3
は、形態形成によってビテリン膜と胚表皮組織の機械的な接触が失われた上皮
組織の安定性を高めることに関与している可能性が考えられる。本研究では、
解剖によって、ビテリン膜との機械的な接触を失った胚表皮組織ではアポトー
シスを誘導するカスパーゼを活性化した細胞が増加したことを観察した。この
ことは、ビテリン膜が細胞外マトリックスとして存在することが胚表皮組織に
生存シグナルを提供している可能性が考えられる。また胚組織片は湾曲した形
を示すことから、ビテリン膜の存在は胚表皮組織の形状を保つことにも寄与し
ている可能性が考えられる。
胚表皮組織で生じる ERKの活性化はミオシンを制御し、形態形成や創傷治癒
において組織に内向きの力を発揮させる。この ERKの活性化による細胞の収縮
力制御は、形態形成、細胞脱落、創傷治癒など上皮組織で生じる多くの現象で
共通して生じる。 EGFRの下流で生じる ERKの活性化がミオシンを制御するこ
とで、胚表皮組織に生じる不安定性を緩衝していると考察された。一方で、 EGFR
シグナルが存在しない胚表皮組織では、上皮組織の不安定性に対する抵抗性が
失われて、アポトーシスの増加、形態形成、創傷といった状況下で組織の完全
性を維持出来ない。これらの結果から、 EGFRシグナルは発生過程で生じる様々
機根的ストレスや異常から、上皮組織の安定性を維持ずる必須因子であると考
えられた。

(別紙 1)
氏名

論文審査の結果の要旨

I

吉田健太郎

論文
Iショウジョウバエ胚の上皮安定性を維持する上皮成長因 子受容体シグナルの研究
題目

職名

区分






主査

教授

林茂生

副査

教授

井上邦夫

副査

教授

森本充

副査

准教授

影山裕二




`


副査




動物の体表や器官の表面を覆う上皮組織は、外界からの 有害な刺激や液体の侵入から物理的なバリ
アとして働き、個体の内部を保護している。この上皮組 織のバリア機能は、細胞間接着によって上皮組
織の完全性が維持されることで担保される。一方で、上 皮組織の完全性は、細胞分裂や細胞死、形態形
成のような発生現象によって生じる機械的なストレスや 細胞間接着の再構成によって、不安定化する。
これらの発生現象に対して、上皮組織の構造が安定して 保たれる仕組みはわかっていない。本研究で
は、上皮成長因子受容体 (
EGFR)シグナルの存在が、ショウジョウバエの胚表皮組織の安 定性維持を
保障する役割を検証した。

EGFR は、進化的に保存された膜貫通型の受容体チロシンキナーゼである。 EGFRの活性化は、 R
a
s
Raf-MEKの古典的 M紐キナーゼ経路を介しそ、細胞外シグナル調節キナー ゼ (ERK)の活性化を導
く。活性化した ERKは転写因子や細胞骨格と相互作用することで、多様な細 胞応答を引き起こす。例
えば、 EGFRや ERKの活性化は細胞死抑制や創傷治癒を促進し、上皮組織の 恒常性を維持すること
が知られている。ショウジョウバエの胚発生では、 EGFR依存的な ERKの活性化は、 r
homboidの発
現によって制御されている。 r
homboidが発現した領域では、 EGFRのリガンドである S
p
i
t
zが分泌さ
れる。この EGFR依存的な ERK活性化は、胚表皮組織の細胞分化や形態形成に関与する ことが示さ
れている。
本論文ではまず ERK活性の FRETプローブを用いて、胚発生中の EGFR依存的な ERK活性パター
ンのダイナミクスを明らかにした。さらに、蛍光デキス トランのインジェクションによって、 ERKの
活性化は、形態形成によって胚表皮組織とビテリン膜の 機械的な接触が失われる領域で生じているこ
とが明らかになった。このことから、 EGFRシグナル、形態形成、そしてビテリン膜が胚表皮組織の
安定性に影響している可能性が考えられた。
次に EGFRシグナルの存在が胚表皮組織の安定性に与える影響を検証するため、 EGFR機能欠損変
異体が、胚発生の段階で頭部構造が欠失するという特徴 的な表現型に注目した。 EGFR機能欠損変異
体では胚全体でアポトーシスが増加する。 EGFR機能欠損変異体で、アポトーシスを抑制した結果、
頭部体節の組織崩壊が生じなかった。このことから、 EGFR機能欠損変異体の頭部体節で生じる組織
崩壊には、アポトーシスが必要であることが明らかにな った。
ショウジョウバエの上皮組織において、アポトーシス細 胞は通常、上皮組織の基底部側に脱落する。
一方、崩壊開始後の EGFR機能欠損変異体の頭部体節では、大量のアポトーシス細 胞を含んだ細胞ク
ラスターが、形態形成によって陥入した胚表皮組織の a
p
i
c
a
l側にも局在していることを観察した。

EGFR機能欠損変異体の頭部体節において、細胞の a
p
i
c
a
le
x
t
r
u
s
i
o
nが生じる過程をライブイメージ
ングで観察した。その結果、細胞の a
p
i
c
a
le
x
t
r
u
s
i
o
nが周辺の組織にも伝播し、大規模な組織崩壊が生
じることを観察した。このことは、 EGFR機能欠損変異体で生じる細胞の a
p
i
c
a
le
x
t
r
u
s
i
o
nが組織崩
壊を導いている可能性を示唆した。

氏名

l

吉田健太郎

EGFR機能欠損変異体で、細胞の a
p
i
c
a
le
x
t
r
u
s
i
o
nや組織崩壊が生じる原因を探るため、 a
p
i
c
a
l
e
x
t
r
u
s
i
o
nの初期段階を探索した。その結果、唾腺陥入によってビテリン膜から離れた胚表皮組織で最初
の a
p
i
c
a
le
x
t
r
u
s
i
o
nや組織崩壊が生じることを観察した。さらに、 EGFR機能欠損変異体では陥入した
上皮組織の周辺で、 E

c
a
d
h
e
r
i
nの局在に頻繁な破断が観察された。この結果は、 EGFR機能欠損変異体
では形態形成に対して、 E

c
a
d
h
e
r
i
nによる上皮組織の完全性が障害されやすくなっている可能性を示唆
している。
唾腺陥入点における細胞の a
p
i
c
a
le
x
t
r
u
s
i
o
nは胚表皮組織がビテリン膜から離れた領域で生じた。胚
表皮組織とビテリン膜の機械的な接触が上皮組織の安定性に与える影響を探るため、ビテリン膜の外科
的な除去を行った。その結果、ビテリン膜との機械的な接触を失った EGFR機能欠損変異体の組織片は、
急速な崩壊を生じた。さらに、 EGFR機能欠損変異体を創傷した結果、創傷の周辺の胚表皮組織が異所
的にビテリン膜との機械的な接触を失い、 a
p
i
c
a
le
x
t
r
u
s
i
o
nと組織崩壊が生じた。これらの結果は、ビテ
リン膜と胚表皮組織の機械的な接触が失われることが、 EGFR機能欠損変異体における細胞の a
p
i
c
a
l
e
x
t
r
u
s
i
o
nや組織崩壊を促している可能性を示唆している。
以上のことから、胚表皮組織で生じる形態形成で EGFR依存的な ERK活性化は、形態形成によって
ビテリン膜と胚表皮組織の機械的な接触が失われた上皮組織の安定性を高めることに関与している可能
性が考えられる。本研究では、解剖によって、ビテリン膜との機械的な接触を失った胚表皮組織ではアポ
トーシスを誘導するカスパーゼを活性化した細胞が増加したことを観察した。このことは、ビテリン膜
が細胞外マトリックスとして存在することが胚表皮組織に生存シグナルを提供している可能性が考えら
れる。また胚組織片は湾曲した形を示すことから、ビテリン膜の存在は胚表皮組織の形状を保つことに
も寄与している可能性が考えられる。
胚表皮組織で生じる ERKの活性化はミオシンを制御し、形態形成や創傷治癒において組織に内向きの
力を発揮させる。この ERKの活性化による細胞の収縮力制御は、形態形成、細胞脱落、創傷治癒など上
皮組織で生じる多くの現象で共通して生じる。 EGFRの下流で生じる ERKの活性化がミオシンを制御
することで、胚表皮組織に生じる不安定性を緩衝していると考察された。一方で、 EGFRシグナルが存
在しない胚表皮組織では、上皮組織の不安定性に対する抵抗性が失われて、アポトーシスの増加、形態形
成、創傷といった状況下で組織の完全性を維持出来ない。これらの結果から、 EGFRシグナルは発生過
程で生じる様々な機械的ストレスや異常から、上皮組織の安定性を維持する必須因子であると考えられ


以上のように、本研究は、ショウジョウバエの上皮形成における上皮成長因子受容体の役割について、
その変異体の表現型解析と胚操作によって細胞生物学的に研究したものであり、上皮組織の完全性維持
の機構に関して重要な知見を得たものとして価値ある集積であると認める。よって、学位申請者の吉田
健太郎は、博士(理学)の学位を得る資格があると認める。

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