慢性うっ血は肝類洞内皮細胞の毛細血管化を介して肝線維化/肝がん進展を促進する (第137回成医会総会一般演題)
概要
【目的】
Budd-Chiari 症候群や右心不全を基盤とする慢性うっ血肝は,進行性肝線維化/ 発癌の原因となるが,その進展機序は不明であり,治療法も確立していない.本研究では,国立国際医療研究センター肝炎免疫研究センターで樹立したうっ血肝モデルマウスを用いて,肝線維化/ 肝癌進展機序を明らかにし,治療標的を同定する事を目的とした.
【方法】
部分下大静脈結紮(pIVCL)によりうっ血性肝線維化モデルを,ジエチルニトロサミン併用によりうっ血性肝癌モデルを作成し,術後6週または19週で線維化/ 腫瘍増生を評価した.pIVCL 前後での門脈圧/ 下大静脈圧を同時測定した.PCR-array 法を用いた肝組織での網羅的線維化/ 肝癌関連遺伝子解析を施行し,うっ血性肝線維化/ 肝癌特異的な因子を探索した.肝類洞内皮細胞(LSEC)の関与を検討するため,形態変化を電子顕微鏡で評価した.肝線維化と腫瘍増生に関与する脂質メディエーターであるShingosine-1-phosphate(S1P)に着目し,肝内S1P を質量分析で評価した.S1P 受容体サブタイプ( S1PR1/2/3)特異的阻害剤及び抗生剤を用いて,S1P/ 腸内細菌のうっ血性肝線維化/ 肝癌への関与を評価した.
【結果】
pIVCL 直後より門脈圧/ 下大静脈圧の上昇を認め,その後肝線維化/ 発癌が生じた.PCR-array 解析にて,うっ血肝特異的にendothelin-1(ET-1)とangiopoietin-2(ANGP-2)の発現亢進を認めた.capillarized LSEC(c-LSEC)を示唆する微細形態変化とマーカー(ET-1/CD31)発現上昇を認めた.うっ血肝では肝内S1P が増加し,S1P 合成酵素の発現上昇を主にc-LSEC で認めた.S1PR2阻害剤投与で肝線維化が,S1PR1阻害剤投与で肝癌促進が抑制された.抗生剤投与によりpIVCL に伴う門脈血中リポ多糖(LPS)上昇が抑制され,さらにc-LSEC 誘導,線維化,腫瘍増生が抑制された.うっ血肝患者でも血清ET-1/ANGP-2上昇と肝組織でのc-LSEC 誘導が認められた.
【結論】
うっ血肝の病態において,門脈圧上昇/ 腸管透過性亢進に伴う門脈血中LPS 上昇がLSEC capillarizaiton 誘導に寄与し,capillarizedLSEC 由来のS1P がうっ血性肝線維化/ 肝癌を誘導する事を明らかにした.うっ血性肝線維化/ 肝癌における新たな治療戦略に繋がる可能性が示唆された.