野生型心筋型トロポニンTの過剰発現は変異型トロポニンTによって発症する拡張型心筋症の発症を遅延させる (第137回成医会総会一般演題)
概要
【目的】
拡張型心筋症(DCM)は心室全体の収縮不全と拡大を特徴とする心筋疾患である.DCM 患者は心不全や突然死を誘発し,予後不良の疾患であるものの根本的な治療法はまだない.我々は心筋トロポニンT(TNNT2)のアミノ酸変異(ΔK210)を持つマウス(TNNT2ΔK210/ΔK210)はヒト若年性DCM と同様の表現型を示すことを報告した.先行研究において変異TNNT2を筋原線維に過剰発現するとDCM 病態や肥大型心筋症(HCM)病態を示したことから,変異したTNNT2が正常TNNT2遺伝子に置き換わることを示唆する.したがって,我々は正常TNNT2の過剰発現はTNNT2ΔK210/ΔK210マウスの変異TNNT2に置き換わり,DCM 病態を改善すると仮定した.そこで,本研究の目的は正常TNNT2の過剰発現により変異TNNT2を置換し,正常な心機能を回復させることである.
【方法・結果】
まず,ヒトTNNT2過剰発現マウス(hTNNT2 Tg: Tg)におけるヒト正常TNNT2の発現量が野生型マウスTNNT2発現量と同程度であることをタンパク質レベルで確認した.また,Tg マウスの心筋重量と心エコーによる心機能も野生型マウスと同程度であった.次にTg マウスとTNNT2ΔK210/ΔK210マウスを交配させ,Tg/TNNT2ΔK210/ΔK210マウスを作出した.Tg/TNNT2ΔK210/ΔK210マウスの寿命(平均101日:n=24)はTNNT2ΔK210/ΔK210マウス(平均63日:n=77)より長く,7週齢のTg/TNNT2ΔK210/ΔK210マウスのANP発現レベルはTNNT2ΔK210/ΔK210マウスと比較して減少した.また,心エコーを用いて左室駆出率を調べたところTg/TNNT2ΔK210/ΔK210マウス(36.6%:n=4)はTNNT2ΔK210/ΔK210マウス(26.3%: n=4)と比較してわずかに改善された.
【結論】
TNNT2変異により発症するDCM 病態は正常TNNT2遺伝子の過剰発現によってわずかに改善された.また,他のTNNT2変異によりDCM またはHCM を引き起こすことが知られている.したがって,この正常TNNT2遺伝子導入は,全てのTNNT2変異によって惹起される心筋症の治療を一般化できる可能性を示唆している.