東南極リュツォ・ホルム岩体に産する高度変成岩類の岩石学的精密解析
概要
高度変成岩類は下部地殻を構成する主要な岩石であり、その形成過程(高度変成作用)を総合
的に検討することは地殻進化プロセスの解明につながる。そこで本研究では、高度変成岩類の研究
において未だ詳細な解析が行われていない、あるいはより精密な解析が必要なトピックである、①
変成ピーク圧力条件、②変成作用および交代作用の年代、③変成作用における金属鉱物および流体
の挙動、の 3 点に着目し、それぞれについて分析手法の検討も含めた解析を行った。研究対象地域
である東南極リュツォ・ホルム岩体は、約 5.5 億年前のゴンドワナ大陸形成時、衝突帯の中心部に
位置していたと考えられており、角閃岩相からグラニュライト相の岩石が連続して分布している
(例えば Hiroi et al., 1991)。
まず、変成作用のピーク圧力条件を推定するために、ラマン分光計を用いた地質圧力計の適用
を試みた。本研究では、最も一般的な手法であるざくろ石中の石英を用いた圧力計(QuiG 圧力計;
例えば Spear et al., 2014)に着目した。本手法を日立地域の西堂平変成岩の泥質片岩に適用したとこ
ろ、残留圧力は-0.104–0.215 GPa となり、最高圧力は 600–650 °C で 9.33–10.14 kbar となった。これ
は従来の地質温度圧力計を用いた結果(630–650 °C で 4.5–6.9 kbar)よりも高圧であり、アルミノ珪
酸塩鉱物の産出状況と調和的であることから、ピーク圧力条件を推定することができたといえる。
一方でリュツォ・ホルム岩体最高温度部のスカレビークスハルセンおよびルンドボークスヘッタ地
域に産する岩石に本手法を適用したところ、残留圧力は-0.45 GPa 程度の低い値となった。これは粒
界拡散により、捕獲後に包有物の形状が変化したためであると考えられ(Cesare et al., 2021)、本手
法をグラニュライト相の変成岩には適用できないことがわかった。一方で、低変成度の地域である
岩体東部のかすみ岩に産するざくろ石を含む花崗岩質片麻岩に適用したところ、残留圧力は-0.253–
-0.184 GPa となり、750 °C で 7.59–8.07 kbar となった。この温度圧力条件は α 石英の安定領域であ
り、石英が包有物形状の改変を受けずに、ざくろ石に捕獲された時の圧力を保持していると考えら
れる。一方で得られた圧力条件は、かすみ岩より東に位置するあけぼの岩から報告されている圧力
条件よりも低いため、より低圧の変成作用が約 550 Ma に生じた可能性と、約 940 Ma のピークから
後退変成作用時に変成岩の原岩である花崗岩質岩が貫入した可能性がある。 ...