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書き出し

接ぎ木の成立と穂木と台木の相互作用の機構解明

川口, 航平 名古屋大学

2023.06.02

概要



報告番号





論文題目
















接ぎ木の成立および穂木と台木の相互作用の機構解明

川口 航平

論 文 内 容 の 要 旨
接ぎ木は,異なる 2 種類以上の植物の組織を接着して,新しいキメラ植
物を形成する農業技術であり,国内外を問わず,多くの作物の栽培に用いら
れている.しかしながら,台木が穂木の形質を変化させる現象や接ぎ木の成
立メカニズムに関しては未解明な点が多い.そこで,本研究では,穂木と台
木の相互作用の機構解明のために,様々な台木を用いたトマトとナスの接ぎ
木植物の道管液を主体とする溢泌液中の無機イオンと植物ホルモンの網羅解
析を実施した.また,接ぎ木の成立メカニズムの機構解明のために,接ぎ木
接着部のマルチオミクス解析に取り組み,接ぎ木接着部に蓄積した物質の接
ぎ木における機能解析を試みた.
第二章では,様々なトマトを台木として用いたトマトの接ぎ木植物と,様々なト
マトまたはナスを台木として用いたナスの接ぎ木植物の無機イオン濃度および植物ホ
ル モ ン の 網 羅 解 析 を 実 施 し ,台 木 か ら 穂 木 に 輸 送 さ れ る 物 質 を 理 解 す る こ と を 試 み た .
その結果,溢泌液中の無機イオンと植物ホルモンの濃度は,台木の種類によって大き
く 異 な る こ と が 明 ら か と な っ た . ま た , ‘ Micro-Tom’ を 台 木 と し た ト マ ト の 接 ぎ 木
植物では,果実サイズと収量が減少し,果実糖度が増加 するが,セルフ接ぎ木植物と
比 較 し て ,こ の 接 ぎ 木 植 物 の 溢 泌 液 中 の ア ブ シ ジ ン 酸( ABA)お よ び ジ ャ ス モ ン 酸( JA)
濃 度 は 高 か っ た . そ の た め , 接 ぎ 木 植 物 の 溢 泌 液 中 の ABA と JA 濃 度 の 測 定 に よ り ,
接ぎ木植物の果実の糖度や収量などを予測できる可能性が示唆された .他の無機イオ
ンや植物ホルモンについても,溢泌液中の濃度と穂木の形質に相関関係がある といっ
た知見から,これらの接ぎ木植物の溢泌液中に含まれる物質の情報は,ストレス耐性
の導入,果実品質の向上,草勢の制御など ,特定の目的に応じた接ぎ木植物の組み合
わせを推定できる可能性がある.さらに,溢泌液中の無機イオン濃度やサイトカイニ
ン( CK)の 分 子 種 は ,穂 木 に よ っ て 制 御 さ れ て い る こ と も 示 さ れ ,地 上 部 の 特 性 に 合

わ せ て , 根 で の 無 機 イ オ ン の 取 り 込 み や CK の 生 合 成 お よ び 輸 送 が 行 わ れ る 現 象 と ,
それを引き起こす穂木から台木に流れるシグナルの存在が示唆された.
第 三 章 で は , タ バ コ 属 植 物 の Nicotiana benthamiana を 材 料 と し て , 穂 木 と 台 木 の
切断部にそれぞれ蓄積する植物ホルモンの網羅解析を実施し,接ぎ木接着部に蓄積す
る植物ホルモンが,穂木と台木のどちらに由来し,どのように機能するかを理解する
ことを試みた.その結果,接ぎ木植物の穂木と台木の切断部に,様々な植物ホルモン
が,様々なタイミングで蓄積することが示され,それらがクロストークしながら,細
胞分裂や細胞肥大,カルス形成,維管束形成を制御し,接ぎ木の成立に関与している
可 能 性 が 示 唆 さ れ た . ま た , N. benthamiana が 広 範 の 植 物 種 と 接 ぎ 木 を 成 立 さ せ る 特
性 を 利 用 し , 同 科 接 ぎ 木 植 物 ( Nb/Sl: N. benthamiana と ト マ ト の 接 ぎ 木 植 物 ) と 異 科
接 ぎ 木 植 物 ( Nb/At: N. benthamiana と シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ の 接 ぎ 木 植 物 ) の 接 ぎ 木 接 着 部
の植物ホルモンの網羅的な解析を行うことで,同科接ぎ木と異科接ぎ木の接ぎ木成立
過 程 の 共 通 点 と 相 違 点 を 理 解 す る こ と を 試 み た .そ の 結 果 ,Nb/Sl と Nb/At の 接 ぎ 木 接
着部で,多くの植物ホルモンの蓄積パターンは類似していたが,蓄積濃度 は異なるこ
と が 明 ら か に な っ た .ま た ,N6-( Δ 2-isopentenyl)-adenine( iP)型 お よ び trans-zeatin
( tZ) 型 CK の 蓄 積 パ タ ー ン は , 同 科 接 ぎ 木 植 物 と 異 科 接 ぎ 木 植 物 の 接 ぎ 木 接 着 部 に
おいて,大きく異なることが見出され,この蓄積パターンの違いが同科接ぎ木と異科
接ぎ木の成立の違いを示している可能性が ある.以上の情報は,接ぎ木の成立に関与
する植物ホルモンの役割の解明や同科接ぎ木と異科接ぎ木のメカニズムの違い,タバ
コ属植物が広範の植物種と接ぎ木を成立させる現象の解明に重要な知見 であることが
考えられる.
第四章では,トマトを材料として,接ぎ木接着部に蓄積する無機イオンの 網羅解
析 を 実 施 し ,接 ぎ 木 の 成 立 に 関 与 す る 無 機 イ オ ン の 探 索 を 試 み た .そ の 結 果 ,B,Fe,
P,Ca,Cu,Mn が ,接 ぎ 木 の 成 立 過 程 の 接 ぎ 木 接 着 部 で 高 蓄 積 す る こ と が 示 さ れ た .
B,Ca は 細 胞 壁 の 架 橋 に 関 与 し ,Fe,P,Cu,Mn は 様 々 な 酵 素 の 補 因 子 と し て 機 能 す
るため,これらの無機イオンが接ぎ木の接着部において,細胞壁の架橋や代謝物の生
合成を制御することで,接ぎ木の成立に関与する可能性が示唆された.また,接ぎ木
成立過程の接ぎ木接着部への蓄積が最も顕著で,先行研究から創傷部の細胞間結合に
関 与 す る こ と が 報 告 さ れ て い る Mn に 着 目 し ,Mn 欠 乏 条 件 で 栽 培 し た ト マ ト を 接 ぎ 木
試 験 す る こ と で , Mn が 接 ぎ 木 の 成 立 に 関 与 す る か を 調 査 し た . そ の 結 果 , 接 ぎ 木 後
に Mn を 欠 乏 さ せ て 栽 培 し た 場 合 , 接 ぎ 木 の 成 功 率 が 著 し く 減 少 し た こ と か ら , 接 ぎ
木 後 に 台 木 の 根 か ら 接 ぎ 木 接 着 部 に 輸 送 さ れ る Mn が 接 ぎ 木 の 成 立 に 関 与 す る こ と が
示 さ れ た . さ ら に , 接 ぎ 木 接 着 部 へ の Mn の 蓄 積 に は , 根 の Mn 輸 送 体 が 関 与 す る と
予 想 し ,根 に お い て Mn 輸 送 体 遺 伝 子 の 発 現 解 析 を 実 施 し た .そ の 結 果 ,Metal tolerance
protein( MTP),Zinc regulated transporter/Iron-regulated transporter-related protein( ZIP),
Natural resistance-associated macrophage protein( NRAMP) フ ァ ミ リ ー の 一 部 の 遺 伝 子
の発現が接ぎ木の成立過程で上昇していた.これらの結果から,接ぎ木の成立には,
接 ぎ 木 後 に こ れ ら の Mn 輸 送 体 が Mn を 接 ぎ 木 接 着 部 に 輸 送 す る こ と が 必 要 で あ る 可

能性が示唆された.
第五章では,様々な草本植物の創傷茎および接ぎ木接着部にフェノールアミド
( PA) が 蓄 積 す る 知 見 を 基 に , ト マ ト に お い て , 接 ぎ 木 の 成 立 に お け る PA の 機 能 の
解 明 を 試 み た .ま ず ,ナ ス 科 植 物 で あ る Niconiana atteneuta,Niconiana tabacum,ジ ャ
ガ イ モ の 既 知 の PA 生 合 成 の マ ス タ ー レ ギ ュ レ ー タ ー か ら , ト マ ト に お け る オ ル ソ ロ
グ と し て SlMYB14 を 同 定 し た . SlMYB14 の 機 能 を 解 析 す る た め に , RNAi に よ る
SlMYB14 の 発 現 抑 制 体 ( SlMYB14 発 現 抑 制 体 ) を 作 出 し た . SlMYB14 の 発 現 抑 制 が 顕
著 に 見 ら れ た SlMYB14 発 現 抑 制 体 に お い て は ,花 や 果 実 の 形 態 異 常 が 認 め ら れ た .PA
の 蓄 積 と 稔 性 に は 相 関 が あ る と い っ た 知 見 か ら も , SlMYB14 は PA 生 合 成 を 介 し て ,
正 常 な 花 器 官 の 形 成 に 働 く こ と が 示 唆 さ れ た .SlMYB14 発 現 抑 制 体 の 創 傷 茎 で は ,Wild
type( WT) と 比 較 し て , PA の 基 質 と な る フ ェ ニ ル プ ロ パ ノ イ ド ( PP) 生 合 成 関 連 遺
伝 子 の 発 現 が 低 く ,多 く の PP お よ び PA の 蓄 積 量 が 有 意 に 減 少 し て い た .こ れ ら の 結
果 は , SlMYB14 が PP お よ び PA 生 合 成 の マ ス タ ー レ ギ ュ レ ー タ ー と し て 機 能 す る こ
と を 示 し て い る . 接 ぎ 木 に お け る PA の 機 能 を 解 明 す る た め に , SlMYB14 発 現 抑 制 体
を 接 ぎ 木 し と こ ろ ,接 ぎ 木 接 着 部 の PP お よ び PA の 蓄 積 量 の 減 少 が 確 認 さ れ ,接 ぎ 木
接着力と接ぎ木成功率の低下が確認された.接ぎ木接着部の形態観察と穂木の成長か
ら,接ぎ木接着力と接ぎ木成功率の低下は,接ぎ木接 着部の組織癒合と維管束形成の
抑 制 に よ る こ と が 示 唆 さ れ た . ま た , 接 ぎ 木 接 着 部 の RNA-seq 解 析 を 行 い , WT と 比
較 し て SlMYB14 発 現 抑 制 体 で 発 現 が 有 意 に 減 少 し た Differentially expressed genes
( DEG) に つ い て , GO enrichment 解 析 を 行 っ た 結 果 , 「 extracellular region」 , 「 cell
wall」 , 「 peroxidase activity」 , 「 lignin biosynthetic process」 な ど の GO タ ー ム が 有
意 に エ ン リ ッ チ さ れ た . こ れ ら の GO タ ー ム の 遺 伝 子 を 確 認 し た と こ ろ , PP お よ び
PA を 基 質 と し て ,リ グ ニ ン お よ び ス ベ リ ン の 生 合 成 に 関 わ る ペ ル オ キ シ ダ ー ゼ を コ ー
ド す る 遺 伝 子 が 含 ま れ て お り , WT と 比 較 し て , SlMYB14 発 現 抑 制 体 の 接 ぎ 木 接 着 部
では,これらの遺伝子の発現が減少していることが示された.リグニンやスベリンは
PP お よ び PA か ら 生 合 成 さ れ ,二 次 細 胞 壁 の 形 成 や 強 化 を 介 し て ,創 傷 部 の 組 織 癒 合
や 維 管 束 形 成 に 関 与 す る . そ の た め , SlMYB14 が PP お よ び PA 生 合 成 を 介 し て , リ
グニンやスベリンの生合成を促進することで,二次細胞壁の形成や強化を促進し,接
ぎ木接着部の組織癒合や維管束形成を介して,接ぎ木の成立に関与する可能性が示唆
された.
本研究において,接ぎ木接着部には,様々な植物ホルモン・無機イオン・二次代
謝物が蓄積することが明らかとなり,その一部が実施に接ぎ木の成立に関与すること
が示唆された.これらの接ぎ木の成立に関与する物質の分子メカニズムを基にした技
術開発により,接ぎ木の成立を促進する接ぎ木促進剤の開発が期待される.

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