Prognostic Impact of Sarcopenia in Patients With Biliary Tract Cancer Undergoing Chemotherapy
概要
1 背景・⽬的
胆道癌はその発⽣部位によって肝内胆管癌,肝⾨部領域胆管癌,遠位胆管癌,胆嚢癌,⼗⼆指腸乳頭部癌の5つに分類されている.そのうち,⼗⼆指腸乳頭部癌を除く4つの胆道癌は,5年⽣存率がいずれも40%未満と,他の癌腫に⽐較し予後が⾮常に悪い癌であることが知られている.胆道癌に対する治療は,原則,外科的切除になる.しかし,外科的治療が困難となる場合,化学療法が唯⼀残された治療法となる(⽇本肝胆膵外科学会.,2019).胆道癌において, Eastern Cooperative Oncology Group performance status(ECOGPS)が3以上の患者には,化学療法の効果より副作⽤が勝るとされ,化学療法は推奨されない.⼀般的に,ECOGPS2以下の患者に対して化学療法は実施されるが, ECOGPS2の患者に対する化学療法は,ECOGPS0-1の胆道癌患者に⽐較し,きわめて成績が悪いことが指摘されている(Ishiietal.,2004).⼀⽅でECOGPS以外に,化学療法の治療効果や予後に影響を及ぼす因⼦についてはほとんど報告されていないのが現状である.
近年,サルコペニアが,様々ながん種の予後や治療効果に影響することが指摘されている.特に術後合併症や術後再発の可能性など,外科的治療法とサルコペニアに関する報告は以前より多かった(Okumuraetal.,2016)が,最近では,化学療法とサルコペニアの関連性についても報告されるようになってきた(Kuritaetal.,2019).しかし,胆道癌においては,サルコペニアが化学療法の効果や予後に与える影響について,ほぼ議論されたことはなく明らかになっていない.そこで,我々はサルコペニア,およびその他の臨床的な背景因⼦について,胆道癌に対する化学療法においてどのような影響を与えるか,検討することを⽬的とした.
2 ⽅法
2012年11⽉から2019年2⽉の期間に,横浜栄共済病院および横浜市⽴⼤学附属病院の2関連施設において,ステージⅢ・Ⅳの胆道癌(肝⾨部領域胆管癌,遠位胆管癌,胆嚢癌)と診断され,化学療法を受けた62⼈の患者のうち,除外基準により除外された12⼈を除く,50⼈の胆道癌患者のデータを,レトロスペクティブに解析した.サルコペニアの有無に加えて,年齢や性別,併存疾患,腫瘍マーカーを含めた採⾎検査項⽬,腫瘍の部位や転移の有無など,臨床的な背景因⼦についてそれぞれ全⽣存期間および治療成功期間に与える影響を,カプランマイヤー曲線を作成し,単変量解析および多変量解析によって分析した.サルコペニアについては,⽇本肝臓学会の定義に従い,化学療法実施1カ⽉前までに撮影された腹部CT検査の画像を⽤い,第3腰椎下端レベルの⼤腰筋⾯積を測定し算出された腸腰筋指数により評価した.本研究は,横浜栄共済病院の研究倫理委員会(20181217-4)および横浜市⽴⼤学附属病院の倫理委員会(B201000005)の承認を得て実施された.
3 結果
対象患者の年齢中央値は75.0歳,性別は30⼈(60%)が男性であった.発⽣部位については,胆管癌(肝⾨部領域胆管癌+遠位胆管癌)が31⼈(62%),胆嚢癌が19⼈(38%)となった.⽇本肝臓学会が定めるサルコペニアの基準を満たした患者は28⼈(56%)であった.全⽣存期間に与える影響を単変量および多変量解析により分析した結果,サルコペニア群は⾮サルコペニア群に⽐較し,全⽣存期間は有意に短く(中央値:10.6ヵ⽉vs.16.6ヵ⽉,ハザード⽐=2.19,p値=0.018),腫瘍マーカーであるCA19-9とともに有意な差を認めた.また,治療成功期間についても同様に解析を⾏い,サルコペニア群では⾮サルコペニア群に⽐較して,治療成功期間も有意に短い(治療成功期間中央値:5.3ヵ⽉vs.13.1ヵ⽉,ハザード⽐=2.50,p値=0.019)結果となった.以上よりサルコペニアは,全⽣存期間と治療成功期間の両⽅に影響を与える,独⽴した因⼦である可能性が⽰唆された.
4 考察
今回,サルコペニアが胆道癌に対する化学療法の有効性と予後に影響を与えている可能性が⽰唆された.近年,⾻格筋は炎症反応などの免疫反応に関わる内分泌器官として注⽬されており,種々の免疫反応に関与しているとされる(Lutzetal.,2012).サルコペニアを有する患者はサルコペニアを有さない患者に⽐較し,免疫能が低下している可能性があり,その結果,化学療法の効果や予後に対して負の影響を与えている可能性が考えられた(Karstoftetal.,2016).
胆道癌と診断された後でも,サルコペニアに対して栄養療法や運動療法が適切に介⼊されることで,予後の厳しい胆道癌においても,化学療法の効果や予後の改善に寄与する可能性が⽰唆された.