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大学・研究所にある論文を検索できる 「極性崩壊細胞の排除を担うFGF21を介した細胞競合の分子機構の解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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極性崩壊細胞の排除を担うFGF21を介した細胞競合の分子機構の解析

小川, 基行 東京大学 DOI:10.15083/0002007109

2023.03.24

概要





















小川

基行

上皮組織は常に外界環境に曝されており、外部からの様々な物理化学的ストレスを受けている。
こうしたストレスによって遺伝子変異が生じると、変異細胞は増殖能や浸潤能を獲得して腫瘍を形
成する可能性がある。そのため上皮組織は、組織の恒常性を維持するためこうした形質転換細胞を
早期に発見・排除することが極めて重要である。
近年、上皮組織の恒常性を維持する機構の一つとして細胞競合という現象が発見された。細胞競
合とは、異なる性質を持った同種の細胞が生存を争う現象である。例えば、細胞極性を制御するが
ん抑制遺伝子 Scribble を欠損したショウジョウバエ翅成虫原基は過剰に増殖して腫瘍を形成する
が、こうした Scribble 欠損細胞を正常組織中にモザイク状に誘導すると、細胞競合により細胞死を
介して排除される。この現象は哺乳類培養細胞の Madin-Darby canine kidney (MDCK) 細胞にお
いても観察されている。この細胞競合では、Scribble 欠損細胞が正常細胞に囲まれると、Scribble
欠損細胞が周囲の正常細胞から物理的に圧迫されることで排除されることが示されている。
Scribble 欠損細胞のような極性崩壊細胞の排除機構は、発がん初期過程における重要ながん抑制機
構の一つであると考えられる。そのためこの分子機構を解明することは、基礎生物学の発展に貢献
するとともに、新規がん治療戦略の構築につながる。しかし、正常細胞による Scribble 欠損細胞の
特異的認識機構、およびその詳細な排除機構は未解明であった。
以上の背景に基づき本研究は、Scribble 欠損細胞が細胞競合により排除される詳細な分子機構の
解明を目的として実施された。申請者は、MDCK 細胞の Scribble 欠損による細胞競合モデルを用
いて、細胞競合の分子機構を解析した。以下に本研究によって得られた主要な知見をまとめる。
1.

Scribble 欠損細胞から線維芽細胞増殖因子 FGF21 が分泌される

2.

Scribble 欠損細胞から分泌された FGF21 は正常細胞の FGFR1 を介して細胞競合を誘導する

3.

FGF21 は正常細胞を誘引して、Scribble 欠損細胞が物理的に圧迫されて排除されるのを促進
する

4.

Scribble 欠損細胞において活性化する ASK1-p38 経路が FGF21 を発現誘導する

5.

ASK1 は細胞競合に必要である
Scribble 欠損細胞から分泌された FGF21 が細胞競合を誘導することが明らかとなった。また、

正常細胞の FGF 受容体 FGFR1 がこの細胞競合に必要であったことから、正常細胞が FGF21 を
認識することで細胞競合が誘導されることが示唆された。FGF21 は正常細胞の運動能を亢進し、

Scribble 欠損細胞へ誘引することが示された。また、Scribble 欠損細胞が正常細胞に物理的に圧迫
されて排除されるのを FGF21 が促進することを明らかにした。さらに、Scribble の欠損により活
性化する ASK1-p38 経路が FGF21 の発現誘導を担うことが示された。ASK1 は p38 と同様に、細
胞競合に必要であることも明らかにしている。以上の結果から、Scribble 欠損細胞から ASK1-p38
経路を介して分泌される FGF21 が周囲の正常細胞を誘引することで、Scribble 欠損細胞が正常細
胞に物理的に圧迫されて排除されるというモデルが提示された。
本研究により、哺乳類において正常細胞ががんの元となる Scribble 欠損細胞を特異的に認識し
て排除する分子機構が詳細に明らかとなった。従来 FGF21 は個体の代謝を活性化する因子として
主に解析されてきたが、細胞間コミュニケーションを担うという新たな生理学的意義を提示した。
また、液性因子を介した新たな細胞競合誘導機構を提示している。今後、本研究が見出した細胞競
合誘導機構を標的として新たながん治療戦略が構築されることが期待される。
よって本論文は博士(薬科学)の学位請求論文として合格と認められる。

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