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大学・研究所にある論文を検索できる 「CYP711Aを標的とするストリゴラクトン生合成阻害剤の創製研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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CYP711Aを標的とするストリゴラクトン生合成阻害剤の創製研究

川田 紘次郎 東京農業大学

2022.09.01

概要

Strigolactone(SL)はterpenoid系の植物ホルモンで植物の枝分かれ調節に関与する。一方,根から分泌されたSLは宿主植物と共生し栄養を与えるアーバスキュラー菌根菌の菌糸分岐誘導や,宿主植物に寄生し枯死させる根寄生性植物の発芽誘導を行うアレロケミカルでもある。SLを感知し発芽,寄生する根寄生性植物であるStrigaによる被害はアフリカを中心に甚大で,サバンナ地域のみで年間70億ドル以上の損失が発生している。SL生合成変異体はSL生産の抑制により根寄生性植物の発芽とそれに伴う寄生を抑制するため,根寄生性植物の防除法として有用である。一方,これまで報告されているSL生合成変異体はSLの植物ホルモン活性の抑制による枝分かれの増加とそれに伴う収量減が引き起こされるため防除には使用できなかった。近年,所属研究室ではSL生合成酵素であるCYP711Aの阻害剤としてTIS108を見出し,その機能を解析してきた。TIS108はイネにおいて主要なSLである4-deoxyorobanchol(4DO)の生産の阻害を介して根寄生性植物の寄生を抑制する一方,一般的なSL生合成変異体で観察される枝分かれの増加やそれに伴う収量減を引き起こさない特殊な形態を示した。同様の形態がTIS108のターゲットであるイネのCYP711A2(Os900)機能破壊株でも観察されたことから,CYP711Aは植物形態を変化させずに根寄生性植物を選択的に防除可能な薬剤の標的として有用であることが明らかとなった(Ito et al., 未発表)。
 そこで本研究ではCYP711Aに着目した根寄生性植物の防除法の開発を目指して複数の方法で新規CYP711A阻害剤の創製研究を行った。

第2章 複素環を有する新規SL生合成阻害剤リード化合物の探索
 CYP711AはシトクロムP450ファミリーの酵素(P450)であり,P450は活性中心にヘム鉄を有する。Triazole基やimidazole基といった含窒素複素環はヘム鉄に配位し酵素活性を阻害することから,これらの構造を有する多くのP450阻害剤が見出されている。そこで市販のP450阻害剤からSL生産を抑制する化合物の取得を試みた。27種類のP450阻害剤をイネに添加し根滲出液中と根中の4DOをLC-MS/MSで定量したところ,抗真菌薬のtriflumizoleを10µMで処理すると4DO生産を顕著に阻害することを見出した。またイネのCYP711Aの一つであるOs900を酵母で発現させ,carlactone(CL)を基質として酵素活性を確認したところ,triflumizoleを添加することで,反応生産物であるcarlactonoic acid量が有意に減少した。さらに10µMでtriflumizoleを処理したイネの根滲出物をStrigaに与えると発芽が抑制された。これらの結果から,triflumizoleはOs900を標的とするSL生合成阻害剤であると考えられた。一方,triflumizoleは他のP450の阻害に由来すると予想されるイネの矮化を引き起こしたためtriflumizoleをリード化合物とした構造展開が必要である。

第3章 基質アナログ型新規SL生合成阻害剤の探索
 Triflumizoleはimidazole基を有することからCYP711A以外のP450を阻害し矮化などの副作用を示す。一方,P450の基質アナログの一部はその特異的な阻害剤として働くことが報告されている。そこで,CYP711A特異的な阻害剤を見出すため,CYP711Aの基質であるCLに着目し,含窒素複素環を持たない11種類のCL誘導体を合成した。CLは非常に弱いものの根寄生性植物の発芽誘導活性を有するため,その活性に必須で全てのSLに共通して存在するbutenolide骨格やenol-ether構造を除くことで根寄生性植物発芽誘導活性のないCL誘導体を得た。得られたCL誘導体を用いてOs900阻害活性試験を行なったところ,enol-ether結合をether結合に変換したものや,butenolide骨格を別の構造に変換した7種類のCL誘導体が100μMでOs900を阻害することが判明した。さらに,阻害が見られたCL誘導体のうち5種類を選び100μMでイネに処理したところ,4種類のCL誘導体で根滲出液中の4DO量が有意に減少した。この結果からCL誘導体はOs900を阻害し4DO生産を抑制することが示唆された。

第4章 TIS108をリード化合物とした新規SL生合成阻害剤の開発
 第2,第3章ではTIS108と構造が異なるtriflumizoleやCL誘導体をCYP711A阻害剤として見出すことができた。しかし,どちらの化合物もTIS108よりSL生合成阻害活性が低く,根寄生性植物防除剤として利用することは困難である。そこで,本章では現在報告されているSL生合成阻害剤の中で最も高活性なSL生合成阻害剤のTIS108をリード化合物とし,TIS108誘導体の合成を行なった。これまでの知見でTIS108の炭素鎖部位の炭素数が5,6と増加するにつれ阻害活性が低下することが判明している。この結果はTIS108の炭素鎖長が最適である可能性も考えられるが,TIS108,炭素数5のTIS108誘導体,そして炭素数6のTIS108誘導体は他の農薬に比べて生物への浸透性の指標であるlogP値がそれぞれ3.58,3.99,4.41と比較的高いことに着目した。そこでlogP値の低下した化合物を含むTIS108誘導体を12種類合成した。阻害活性評価をしたところ炭素数5のTIS108誘導体の炭素鎖を一つ酸素に置換したKK5はlogP値が2.5と低下し,さらにTIS108よりも強力に4DOの生産を抑制することを見出した。次にKK5の濃度を振り根滲出液および根の4DO量を定量したところ,根滲出液と根で化合物濃度依存的に4DO量が低下した。また,TIS108処理時とKK5処理時の4DO量からKK5はTIS108より数分の1程度の濃度でSL生合成を阻害することが予想された。次にKK5処理したイネの根滲出物をStrigaに与え発芽率を算出したところ,未処理に比べStrigaの発芽が有意に減少した。さらに,KK5の植物形態への影響を知るため10μMのKK5をイネに処理し続け,2週間生育させた際の背丈と第二分けつを測定した。SL生合成変異体では矮化と第二分けつの伸長が観察された一方,KK5処理したイネでは未処理のwildtypeと同じ植物形態を示した。これらの結果からKK5は最も強力であったTIS108を凌ぐ4DO生合成阻害活性を有する機能選択的SL生合成阻害剤であることが明らかになった。

第5章 超高活性なSL生合成阻害剤の開発
 現在農薬として利用されている化合物の有効量は10-100g/ha程度のものが多い。さらにアフリカで利用することを考えるとより低濃度での活性が必須である。ポットでのStriga防除試験におけるTIS108の有効量1-5kg/haから予想するとTIS108より数倍阻害活性が強いKK5も農薬として実用化するにはSL生合成阻害活性が不十分で,TIS108より数十から百倍程度の阻害活性の向上が求められる。第5章ではTIS108の百倍強いSL生合成阻害活性を示すSL生合成阻害剤の創製を目指し,KK5構造の最適化を試みた。KK5のtriazoleの位置の最適化や,置換基導入を行い9種類の化合物を得た。これら化合物に対しOs900阻害活性試験およびイネの4DO根分泌量の測定を行なったところ,Os900阻害試験では4種類の化合物で阻害が見られ,3種類の化合物が4DO生産を抑制した。次に両実験で最も強い阻害活性を示した化合物をIKK5と名付けTIS108,KK5と阻害活性を比較したところ,IKK5のOs900に対する阻害活性は少なくともTIS108やKK5より10倍程度強く,イネに処理した際も最も低濃度で4DO量を低下させた。しかし,10μMのIKK5をイネに与え続けた場合,著しく矮化したためIKK5はCYP711A以外のP450を阻害している可能性が考えられた。
 医薬品合成において,化合物にcarbonyl基を導入すると特異性が向上する知見がある。
 この知見をもとにIKK5にcarbonyl基を導入したKeIKK5の合成を行い,イネに処理したところIKK5と同程度の4DO生合成阻害活性を示した。次に植物形態への影響を知るため10μMのIKK5,KeIKK5をイネに処理し長期生育させた。化合物処理後6週目ではIKK5,KeIKK5は共に未処理に比べ矮化が確認されたが,8週目でKeIKK5は未処理のイネと同程度の背丈であった。またIKK5のみOs900の阻害では生じない枝分かれの増加が見られたが,KeIKK5は未処理と同程度であった。今後ポットでのStriga防除試験を行う必要があるが,TIS108と比較するとKeIKK5は数十から百分の一程度の濃度でOs900の活性を阻害することから10-500g/haの低容量でStriga防除が可能なSL生合成阻害活性を有していることが期待された。

結論
 本研究において複数のアプローチからCYP711Aを標的とする化合物の探索を行い,triflumizole,CL誘導体やKeIKK5を得た。特にKeIKK5は植物形態へは高濃度でもほとんど影響を与えないものの,Os900阻害活性はTIS108やKK5よりも10倍以上低濃度でも観察されることから10-100g/ha程度の濃度で防除効果が発揮すると予想される高活性な阻害剤である。TIS108はイネの他にアフリカの主要穀物であるソルガムや,地中海沿岸地域で根寄生性植物Orobancheに寄生され被害を受けているトマトなどでも同様の作用を有することが見出されており,KeIKK5も同様に様々な植物において高いSL生合成阻害活性を示すと予想される。今後,他作物種への影響や,化合物の土壌中,植物体内での安定性,実際の防除効果を確認する必要はあるものの,今回見出したKeIKK5はCYP711Aをターゲットとした根寄生性植物防除剤の有力な候補化合物の一つであろう。

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