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大学・研究所にある論文を検索できる 「ガレクチン3結合タンパク質はアミロイド前駆体タンパク質のベータセクレターゼ活性を制御しベータアミロイド産生を抑制する」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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ガレクチン3結合タンパク質はアミロイド前駆体タンパク質のベータセクレターゼ活性を制御しベータアミロイド産生を抑制する

Seki, Tsuneyoshi 神戸大学

2020.03.25

概要

<序論>
アルツハイマー病(AD)は認知症を伴う進⾏性の神経変性疾患であり、認知症で最も割合が多い。
AD ではアミロイド斑および神経原線維変化が特徴である。アミロイド斑は、約 40 個のアミノ酸からなるアミロイド β ペプチド(Aβ)が蓄積し形成される。Aβ は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)から β-セクレターゼと γ-セクレターゼにより逐次切断され⽣成される。 β-サイトアミロイド前駆体タンパク質切断酵素 1(BACE1)は、β-セクレターゼとして、APP の Aβ 領域の N 末端側を切断(β 切断)して、可溶性形態の APP(sAPPβ)と APP-C 末端フラグメント(APP-βCTF)を⽣成する。プレセニリンなどの複合体で構成されるγ-セクレターゼは、APP-βCTF の Aβ 領域の C 末端側を切断(γ 切断)し、Aβ を細胞外に分泌する。従って、APP プロセシングの制御は、AD 治療の標的となるが、有効な治療法は現在確⽴されていない。

⼈⼯多能性幹(iPS)細胞は、in vitro でさまざまな細胞に分化し、細胞環境を再現することが知られている。我々は以前に、Aβ の産⽣や Aβ42/ 40 の⽐率が iPS 細胞の神経分化中に変化することを明らかにした。これらは、APP の β や γ 切断を調節するいくつかの因⼦が存在する可能性を⽰唆しており、本研究では、AD の治療標的となりうる因⼦の検索を⾏った。

<⽅法・結果>
Aβ の分泌を iPS 細胞の分化 38、45、および 52 ⽇に測定すると、45 ⽇と 52 ⽇の Aβ の分泌は、 38 ⽇に⽐べて増加していた。Aβ42/ 40 の⽐率は、38 ⽇と⽐較して 45 ⽇⽬と 52 ⽇⽬に劇的に減少していた。神経系細胞への分化中の遺伝⼦発現の変化は、APP の処理に影響を与える可能性があると考えた。これらを検証するために、3系統のヒト iPS 細胞、201B7、253G4、AD4F-1 のそれぞれから分化させた 3 つの独⽴した神経系細胞を使⽤してマイクロアレイ解析を⾏った(合計 9 つの細胞株)。 3 つの分化時点(38、45、および 52 ⽇⽬)で全 RNA を調製し、Affymetrix Gene Chip Human Exon 1.0 ST アレイを使⽤し解析した。次に、分化中にこれら 3 つのグループ間で共通の発現変化を⽰す遺伝⼦を調べた。特に、Aβ 産⽣や Aβ42/ 40 の⽐率の急激な変化の前後で発現する遺伝⼦に焦点を当てた。解析には Partek Genomics Suite ソフトウェアを使⽤した。統計的に有意(p <0.05)に、少なくとも 1.3 倍の発現変化を⽰す遺伝⼦候補を 316 個検出した。これらの候補遺伝⼦の中で、GPI アンカーで修飾されたタンパク質のイノシトールリン酸結合を切断する、グリコホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼ D1 をコードする GPLD1 に注⽬した。GPLD1 は GPI アンカー切断酵素であり、GPI アンカー型タンパク質は脂質ラフトに蓄積していることが知られている。ラフトは、APPの処理と Aβ が⽣成される膜ミクロドメインであり、ラフトでの Aβ 産⽣と AD の病因との関係が⽰唆されている。我々は、GPLD1 が GPI アンカータンパク質の細胞内輸送や脂質ラフトへの局在化を調節し、これらの変化が APP プロセシングに影響するか、GPLD1 がGPI アンカータンパク質を切断し、結果として⽣じる産物が Aβ 産⽣を調節すると仮定した。

次に、我々は GPLD1 の過剰発現またはノックダウンによる、スウェーデン変異を持つ APP を強制発現するヒト神経膠腫 H4 細胞(H4-APPsw)の Aβ 産⽣変化を調べた。しかし、過剰発現またはノックダウン後、Aβ の産⽣に有意な変化は観察されなかった。我々は、Aβ 産⽣に対して関与するであろうGPLD1 が誘導するいくつかの因⼦が H4 細胞で⼗分に発現されないと考えた。そこで、GPLD1をHEK293 細胞に強制発現し、培地を回収し、これらの培地を H4-APPsw 細胞に添加して、Aβ 産⽣の変化を調べた。驚くべきことに、H4-APPsw 細胞の培地を HEK293 培地に置き換えることにより、Aβ の産⽣は著しく減少した。

GPLD1 発現 HEK293 細胞培地中に Aβ 産⽣を抑制する因⼦が存在すると考え、培地中の Aβ 産⽣抑制因⼦を特定するために、限外濾過遠⼼フィルターを使⽤した。濃縮画分で、Aβ 産⽣が減少した。次に、膜結合タンパク質や分泌タンパク質の細胞外ドメインは糖鎖で修飾されることが多いため、レクチン親和性ビーズが Aβ 産⽣抑制因⼦を捕捉できると考えた。濃縮画分を、レクチン結合ビーズを使⽤して、Aβ 抑制因⼦を捕捉できるかを調べた。Aβ 抑制活性は WFL ビーズのフロースルー画分でのみ検出されず、この WFL ビーズからの溶出画分では Aβ 産⽣の抑制を認めた。さらに、その溶出液をイオン交換カラムに供し、NaCl ステップワイズ濃度勾配により溶出回収した。0.5M NaCl 溶出画分でAβ 産⽣抑制を認めた。銀染⾊により、0.5M NaCl 溶出画分で分⼦量 90 kDa 付近に特異的なバンドが検出された。質量分析により、このバンドは galectin 3 binding protein (GAL3BP)と同定された。

H4-APPsw 細胞に GAL3BP を強制発現させると、Aβ 産⽣が約 30%抑制された。さらに、組換え GAL3BP をH4-APPsw 細胞培養培地に添加すると、Aβ 産⽣が約30%減少した。また、市販のGAL3BPタンパク質(マウス⾻髄腫細胞株から精製)でも、Aβ 産⽣が約 20%減少した。従って GAL3BP が Aβ 産⽣を 20-30%抑制していることが⽰唆された。

GAL3BP による Aβ 産⽣の抑制機序として、BACE1 の発現や活性変化の可能性を考えた。市販の GAL3BP タンパク質の添加の有無で、H4-APPsw 細胞の培地中の sAPPβ の量を調べた。ウエスタンブロット法および ELISA では、sAPPβ の分泌は GAL3BP の存在下で減少し、さらに細胞内 βCTF も減少した。⼀⽅ BACE1 の発現量⾃体は、GAL3BP の添加によって変化しなかった。BACE1 活性を阻害することで、GAL3BP は Aβ 産⽣経路に影響していることが考えられた。

GAL3BP が BACE1 の基質(APP)に結合し、BACE1 によるプロセシングを保護する可能性を考えた。基質として免疫沈降にて調製した APP タンパク質を使⽤して、in vitro BACE1 アッセイを実施した。BACE1 の存在下で全⻑ APP タンパク質は分解され減少したが、市販の GAL3BP タンパク質を添加すると、全⻑ APP タンパク質の減少を抑制した。また、GAL3BP の存在下では APP-βCTF の産⽣も抑制された。更に、GAL3BP と APP の直接結合が検出されたため、GAL3BP が BACE1 による APPプロセシングを⽴体障害的に抑制し、Aβ 産⽣を抑制していると考えられた。

最後に、細胞外に添加された GAL3BP の細胞内への取り込みを調べた。組換え GAL3BP を添加したH4-APPsw 細胞について免疫蛍光染⾊を⾏うと、GAL3BP の細胞内での免疫蛍光染⾊シグナルが検出された。これらの細胞内 GAL3BP シグナルは、初期エンドソームのマーカーである初期エンドソーム抗原 1(EEA1)のシグナルと共局在した。エンドサイトーシス阻害剤であるニスタチンで細胞処理すると、GAL3BP の細胞内シグナルは⼤幅に減少した。さらに、近接ライゲーションアッセイ(PLA)により、APP と添加された組換え GAL3BP が互いに近接して局在していることも⽰した。

<考察>
GAL3BP は元々、ガレクチン3として知られるヒトマクロファージ関連レクチンへの結合タンパク質として同定された。興味深いことに、ガレクチン3の発現は AD 患者の⾎清で上昇することが報告されており、AD 病理とガレクチン 3-GAL3BP 結合との関連性が⽰唆される。ガレクチン3は細胞表⾯タンパク質の保持とエンドサイトーシスを制御するため、ガレクチン3の異常な発現および調節がAD 病態と関連している可能性があり、GAL3BP は直接相互作⽤を通じてガレクチン3のそのような病原性効果を抑制する可能性が考えられる。

我々は GAL3BP が Aβ 産⽣を約 30%阻害することを⽰したが、30%の阻害が治療効果につながるかどうかは問題である。BACE1 には APP 以外のいくつかの内因性基質があり、BACE1 活性が失われたマウスは異常な⾏動や軸索破壊を⽰すため、BACE1 活性の部分的な抑制が AD の⻑期治療薬に望ましいと考えられる。実際、APP のA673T 変異は、BACE1 活性と Aβ の産⽣を最⼤ 40%抑制し、AD発症を予防することが知られている。

AD 治療の主な障害は、介⼊のタイミングである。治療は通常、認知障害を⽰してから開始されるが、この時点で Aβ はすでに蓄積されており、病理学的カスケードが既に始まっている。GAL3BP は、ヒト⾎清に⽣理学的に存在しており、早期から介⼊が可能であると考えている。また、AD 患者の⾎清や CSF での GAL3BP 量に相関関係が確⽴された場合、GAL3BP は AD の治療だけでなく、バイオマーカーとしての可能性も考えられる。

<結語>
今回、我々は β-セクレターゼ活性を調節する内因性因⼦の存在を⾒出し、GAL3BP が AD の疾患修飾薬の標的となり得ることを⽰した。また、ヒト iPS 細胞のトランスクリプトーム解析と AD モデル細胞を使⽤した⽣化学的、機能的アッセイを組み合わせたシステムが、AD の疾患修飾薬の新しい標的分⼦の検出と同定に役⽴つ可能性があることを⽰した。

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