The utility of ultrathin endoscopy with flexible spectral imaging color enhancement for early gastric cancer
概要
【背景】
近年、内視鏡治療技術の進歩に伴い多くの早期胃癌を内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)によって、胃とその機能を維持した状態で治療できるようになりました。そのため、内視鏡治療が可能な早期胃癌の診断が重要となっています。
細径内視鏡は日本で開発されて以来、主に胃癌のスクリーニング検査で使用されてきました。細径内視鏡を用いた経鼻内視鏡検査は咽頭違和感や咽頭反射の誘発を抑え、患者の苦痛を減弱するため忍容性が高くなります。また鎮静下の通常径内視鏡と比べて、鎮静剤を使用しないことによる偶発症リスクの低下や覚醒までに要する安静時間やバイタルサインの監視などの医療コスト削減が期待できます。一方で通常径内視鏡と比べて光量が少ない、視野角が狭い、画質が劣るなど早期胃癌の発見能低下が危惧されています。
内視鏡画像技術の進歩により、消化管腫瘍診断の向上を目的に色素散布や狭帯域光の照射、画像処理技術を用いて腫瘍と周囲粘膜とのコントラストを強調する画像強調法が開発され使用されるようになりました。画像強調法の一つである FICE(Flexible spectral Imaging Color Enhancement)は白色光で得られた画像を 7 つの波長ごとに分光し記録します。そしてあらかじめ設定された波長の光を組み合わせ、画像を再構築してリアルタイムに映し出します。デジタル再構築によって光量の不足を調整することが出来ます。
今回我々は、細径内視鏡の問題点である光量不足、視野の狭小化、画質の劣化を画像強調法で補う事が出来るのではないかと考え、画像強調法 FICE を併用した細径内視鏡と白色光通常径内視鏡の視認能を比較し細径内視鏡の有用性について検討しました。
【方法】
対象は 2013 年 3 月から 2014 年 7 月までに名古屋大学医学部附属病院で早期胃癌に対して ESD 治療を行った 77 例中、同意が得られた 36 例、36 病変としました。平均年齢は 69.9 歳で男性 26 人、女性 10 人でした。肉眼形は 0-Ⅱa 型 10 例、0-Ⅱa+Ⅱ c 型 4 例、0-Ⅱc 型 22 例でした。組織型は分化型 35 例、未分化型 1 例でした。深達度は粘膜内が 32 例、粘膜下層内が 4 例でした。
通常径内視鏡、FICE 併用細径内視鏡の順に同一病変を観察し、その視認性について通常径白色光、細径白色光、細径 FICE、FICE 併用細径白色光それぞれを日本消化器内視鏡学会専門医 2 名と非専門医 2 名の合計 4 名の内視鏡医で評価しました (Figure1)。
視認性の評価は 1 点(very poor 腫瘍を同定できない)、2 点(poor 腫瘍の同定は困難)、 3 点(average 腫瘍を同定することができる)、4 点(well 腫瘍とその辺縁の 50%程度を同定することができる)、5 点(very well 腫瘍とその辺縁を全周性に同定することができる)の 5 段階で評価しました。統計解析では 4-5 点を視認性良好、1-3 点を視認性不良に分けてメタ解析を行いました。
通常径内視鏡は EG590WR2( 先端径 10.8mm)(FUJIFILM) 、細径 内視 鏡は EG580NW(先端径 5.9mm)(FUJIFILM)を使用しました。FICE の設定は胃内観察に対する推奨設定である青 495nm、緑 495nm、赤 525nm を使用しました。
また病変の色調の評価として、色調の違いを客観的に評価する手法で印刷業界などの大量生産における品質保持など、多分野で使用されている色差(CIE1970Lab)を使用しました。CIE1970Lab は人間の色彩感覚に合わせた色空間モデルであり、赤、緑、黄、青と明度によって構成されています。その空間内に比較する異なった 2 色を配置し、その距離を色差として数値化します。
今回は評価する画像の癌部と非癌部からそれぞれ 2 点を無作為に選択し、癌部と非癌部の色差を測定し解析しました。
病理検体からは 10×10 倍で観察した癌部と非癌部の粘膜および粘膜下層内の血管密度を測定し、癌部と非癌部の血管密度の差を求め検討しました。
また病変を褪色調(9 例)、正色調(13 例)、発赤調(14 例)に分類して追加検討しました。
癌部と非癌部の色差と血管密度の差の統計解析は一元配置分散分析、Turkey’s 検定を使用しました(SAS version9.4、SPSS version23)。本研究は名古屋大学生命倫理委員会で承認された前向き試験です(名古屋大学生命倫理委員会承認 No.1020)。
【結果】
視認性の評価では FICE 併用細径白色光の視認性良好の割合(59.0%)は通常径白色光(36.8%)、細径白色光(20.1%)、細径 FICE(45.1%)より有意に高くなりました(p< 0.0001)(Figure2)。
色差は通常径白色光(20.38±7.69)、細径 FICE(21.92±11.68)間で有意差を認めませんでしたが、発赤調の病変では細径FICE(29.11±11.58)は通常径白色光(22.57±8.50)より有意に高くなりました(p=0.049)。
血管密度の差は発赤調病変(0.0899±0.1045)、正色調病変(0.0210±0.0328)、褪色調病変(0.0297±0.0483)で、発赤調病変は正色調病変よりも有意に高くなりました(p= 0.048)。
【考察】
経鼻内視鏡は鎮静下経口内視鏡と比べて検査後の患者の回復が早く、偶発症リスクが低く、医療コストが安価という報告が多数あります。しかし早期胃癌の視認性を通常径内視鏡と比較した報告は少数にとどまっており、その見解も一致していません。
本検討では特に発赤調病変において細径内視鏡の問題点を FICE が補うことが出来 る可能性が示唆されました。発赤調の早期胃癌では他の色調の早期胃癌に比べて血管がより増生し、血管密度が高くなり、周囲粘膜と早期胃癌の色差が高くなることで FICE 併用細径内視鏡での視認性が良好になると考えられました。
本検討では症例数が少ないため、色調別による視認性の評価を統計解析することが出来ませんでした。また単一施設での小規模試験であり、更なる追加検討が望まれます。
【結語】
早期胃癌の視認性は、FICE 併用細径内視鏡が通常径白色光内視鏡よりも良好であり、特に発赤調病変で有用であった。