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大学・研究所にある論文を検索できる 「中心性漿液性脈絡網膜症に対する低照射エネルギー光線力学療法の治療効果に関連する遺伝因子」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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中心性漿液性脈絡網膜症に対する低照射エネルギー光線力学療法の治療効果に関連する遺伝因子

Hayashida, Mayuka 神戸大学

2021.03.25

概要

中心性漿液性脈絡網膜症は、中心窩を含む網膜下液により網膜剥離をきたす疾患である。3 か月以内に網膜下液が自然に消失する症例が多いが、3 か月以上網膜下液が残存している慢性中心性漿液性脈絡網膜症の症例は治療を検討する必要がある。

慢性中心性漿液性脈絡網膜症の患者に対し、低照射エネルギー光線力学療法が有効であることが報告されている。しかし、中には初回の低照射エネルギー光線力学療法施行後に網膜下液の残存または再発を認める症例がある。治療後の網膜下液の残存や再発に関連する因子として、不良な治療前最高矯正視力、高齢、男性などの臨床学的因子が特定されているが、遺伝学的因子の報告はない。

そのため、われわれは、過去に慢性中心性漿液性脈絡網膜症との関連が報告されている age- related maculopathy susceptibility protein 2 (ARMS2) A69S(rs10490924)と complement factor H(CFH) I62V(rs800292)について、慢性中心性漿液性脈絡網膜症に対する低照射エネルギー光線力学療法施行後の治療成績との関連について調べた。

本研究は、低照射エネルギー光線力学療法施行後 12 か月以上経過を追えた慢性中心性漿液性脈絡網膜症の患者87 人87 眼を後ろ向きに検討した。低照射エネルギー光線力学療法の初回治療後、網膜下液が 2 か月以内に消失し、その後再発しなかった症例を治療効果良好群、治療後網膜下液が 2 か月より長期に残存または一度消失するも再発を認めた症例を治療効果不良群と定義した。 ARMS2 A69S(rs10490924)、CFH I62V(rs800292)についてジェノタイピングを施行した。

患者は、治療効果良好群 53 例、治療効果不良群 34 例に分けられた。患者背景は、平均年齢、 性別、喫煙歴の有無、罹病期間、低照射エネルギー光線力学療法におけるレーザー照射径、網膜色素上皮異常の有無、治療前の中心窩網膜厚、治療前の中心窩脈絡膜厚において、両群間に有意差を認めなかったが、インドシアニングリーン蛍光眼底造影検査における脈絡膜血管透過性亢進所見のみ両群間で有意差を認めた(p=0.011)。治療前の最高矯正視力は治療効果良好群(0.13±0.27)では治療効果不良群(0.21±0.28)と比較し良好であったが、有意差を認めなかった(p=0.069)。また、2 群間において、CFH I62V(rs800292)におけるマイナーアレル(A アレル)頻度を比較したところ、有意差を認めなかった(p=0.56)。しかし、ARMS2 A69S(rs10490924)におけるマイナーアレル(T アレル)頻度は、治療効果良好群では 0.24 で、治療効果不良群の 0.41 と比較し有意に低い結果であった(p=0.021)。さらに、治療効果良好症例の割合は、少なくとも 1 つのマイナーアレルを持つ症例(GT 型または TT 型)は 50.0%であったが、マイナーアレルを持たない症例(GG 型)は 70.2%であり、統計学的有意差を認めた(p<0.05)。GG 型の症例は GT 型もしくは TT 型の症例に比べて、治療前の最高矯正視力は有意差を認めなかった(p=0.15)が、低照射エネルギー光線力学療法施行 12 か月後の最高矯正視力は、統計学的に有意に良好であった(p<0.01)。次に、われわれは、ARMS2 A69S(rs10490924)の T アレルとインドシアニングリーン蛍光眼底造影検査での脈絡膜血管透過性亢進の程度の関連について検討したところ、統計学的有意差は認めなかった(p=0.378)。ロジスティック回帰分析では、インドシアニングリーン蛍光眼底造影検査における脈絡膜血管透過性亢進所見が弱いもの(p=0.012)、ARMS2 A69S(rs10490924)における T アレル(p=0.039)が、低照射エネルギー光線力学療法の治療効果不良と有意な関連を認めたが、治療前の最高矯正視力は有意な関連を認めなかった(p=0.298)。

本研究では、低照射エネルギー光線力学療法の治療効果が不良な慢性中心性漿液性脈絡網膜症症例と ARMS2 A69S(rs10490924)のマイナーアレル(T アレル)に有意な関連を示した。遺伝子検査は、慢性中心性漿液性脈絡網膜症症例に対する低照射エネルギー光線力学療法の治療効果を予測する上で有用である可能性がある。

Rijssen らは、白色人種の慢性中心性漿液性脈絡網膜症の患者に対し、低照射エネルギー光線力学療法を施行し、治療効果が不良であった症例は全体の 43.5%であると報告している。本研究では、治療効果不良群は全体の 39.1%と、既報と同様の結果であった。

Haga らは、低照射エネルギー光線力学療法を施行後、3 年以上の経過を追えた 79 人の慢性中心性漿液性脈絡網膜症患者において、網膜下液の残存や再発に関連する因子として、不良な治療前の最高矯正視力、高齢を報告した。Rijssen らは、それらに加え男性の割合が高いことを報告した。本研究では、平均年齢や性別は 2 群間で有意差を認めなかった。治療前の最高矯正視力は、治療効果良好群で良い傾向であった(p=0.069)が、多変量解析では治療前の最高矯正視力は低照射エネルギー光線力学療法の治療効果と統計学的に有意な関連を認めなかった(p=0.298)。年齢や性別が治療成績に関連するかどうかについては、さらに症例を増やした検討が必要であると考えられる。

本研究では、ARMS2 A69S(rs10490924)の T アレルは、慢性中心性漿液性脈絡網膜症患者における低照射エネルギー光線力学療法の治療効果不良と有意に関連していた。Inoue らは、慢性中心性漿液性脈絡網膜症において、インドシアニングリーン蛍光眼底造影検査で脈絡膜血管透過性亢進所見が弱いほど、治療後に再発しやすいことを報告している。本研究でも同様に、ロジスティック回帰分析において、脈絡膜血管透過性亢進所見が弱い症例は、低照射エネルギー光線力学療法の治療効果不良に有意に関連していた(p=0.012)。しかし、脈絡膜血管透過性亢進所見の程度と ARMS2 A69S(rs10490924)の T アレルの間に有意な関連を認めなかった(p=0.378)。 Yonezawa らは、滲出型加齢黄斑変性において、ARMS2 A69S(rs10490924)のメジャーアレル(G アレル)頻度が高いほど有意に脈絡膜血管透過性亢進所見を認めることを報告している。この結果の相違は、疾患の違いによるものである可能性が考えられる。

慢性中心性漿液性脈絡網膜症における低照射エネルギー光線力学療法の治療効果に、ARMS2 A69S(rs10490924)の T アレルが関連するメカニズムに関して、現時点では不明である。ARMS2 A69S(rs10490924)の T アレルは、滲出型加齢黄斑変性のリスク因子であることが報告されている。また、ARMS2 A69S(rs10490924)の T アレルは、滲出型加齢黄斑変性に対する光線力学療法施行後の視力不良や再発に関連することが報告されている。Sakurada らは、滲出型加齢黄斑変性において、ARMS2 A69S(rs10490924)の T アレルが大きい病巣と関連することを報告しており、このような違いが治療成績に関連している可能性が考えられる。したがって、ARMS2 A69S(rs10490924)における T アレルは、慢性中心性漿液性脈絡網膜症においても、脈絡膜血管透過性亢進所見以外の因子により、低照射エネルギー光線力学療法の治療効果が減弱している可能性が考えられる。

本研究は、短い観察期間で、サンプルサイズが小さく、後ろ向き研究であるため、観察期間や症例数を増やしたさらなる検討が必要である。

インドシアニングリーン蛍光眼底造影検査における脈絡膜血管透過性亢進所見の程度と ARMS2 A69S(rs10490924)は慢性中心性漿液性脈絡網膜症患者における低照射エネルギー光線力学療法の治療効果の予測因子となりうる。

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